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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの想い・それぞれの願い

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189/325

郡上の夏 ③

 まずは、一般団体トーナメント戦から始まる。高校から実業団・クラブ組織までが無差別に戦う。一回戦、西経女子の相手は鳥取城南倶楽部、女子大相撲にも力士を多数送り込んでいる鳥取城南高校卒業生がメインの強豪チーム。今回西経は予備登録なしの三人で出場することになった。通常なら主力三人と予備登録二人の計五人の登録が団体戦ではできるのだがあえて三人しか登録しなかったのだ。


 個人戦でも何階級かクラスがあるのにも関わらず、無差別の稲倉映見と中量級の吉瀬瞳の二人だけ、今回は混合世界大会の影響でリーグ戦の間隔が詰まっていることを加味して主力は欠場させた・・・と云うのは表向きで本音は、吉瀬瞳が稲倉映見と瞳の高校時代のライバルであった海藤瑞希の三人で夏の郡上で相撲がしたいと云う我を通したのだ。


初戦の相手としてはいきなりの曲者と云えなくもない鳥取城南倶楽部、入門した女子大相撲力士達もよく稽古に駆け付け女子大相撲とのパイプも太い。


 西経の先鋒、海藤瑞希の緊張はピークに達していることは事実だが後には瞳と映見がいることを考えれば少しは楽な気持ちでと云うのもあるのだが・・・・。二勝した方が勝ちの試合を考えれば西経は瞳と映見で二勝と云うのが計算だが・・・・。


「瑞希、私と映見がいるからなんって考えないでよ、私は高校時代あなたと組んで戦った団体戦のイメージであなたを見ているから、高校時代はライバルで口もろくに聞かなかったけど私は団体戦においてはベストパートナーだと想っていたからあなたはどう想っていたかは知らないけど・・・ただ間違いなく云えることは大学での私達はベストパートナーであることは自信を持って云える立場は違えど・・・そして今は選手として・・・まずは初戦、頼んだわよ瑞希!」と土俵下で瞳は瑞希に・・・。


「瞳・・・ずるいよあんたは・・・」


「何が?」


瑞希は大きく深く深呼吸すると自分で顔を叩き気合を入れる。それは高校時代、選手として活躍していた瑞希の癖だった。


「こんな機会を作ってくれたあなたに死んでもありがとう何って云いたくはないんだけど・・・・ありがとう瑞希」と多少目が潤む瑞希


「本当に感謝するのは監督によ、瑞希に選手としてやれる機会を作ってくたのは監督だから、それと、今泣くところじゃないから」


「泣いてないわ馬鹿、私が泣くわけないだろうが!」と云うと土俵に上がっていった。


(瑞希、高校時代もう少し私から積極的に話しかけるべきだったのに・・・大学生、最初で最後の瑞希との団体戦・・・選手でなかったとはいえ無様な負けは許さないよ瑞希!)


 久しぶりの土俵に上がる瑞希、改めて深く深呼吸すると二回・三回とゆっくり四股を踏んでいく。


(鳥取城南倶楽部か、いきなり手ごわいしよりよって田口美香か・・・)と想わず心の中で舌打ちをしてしまった。


 田口美香は高校卒業後、女子大相撲に入門予定だったが怪我のため入門は一旦取り消してアルバイトをしながら倶楽部で調整をして秋場所に入門する予定なのだ。実力的には全国で常に上位に位置していた選手。体格的にはどちらかと云うと小兵であるがスピードを信条とした選手である。


 審判が両者を仕切り線の前に立たせる。


「手をついて、はっけよい」


 両力士、正面から真っ向勝負に打って出る瑞希、右前まわしが早い

美香も右の下手をとっていく。


「のこったのこった」


瑞希積極的に前に出ていく右前まわし、取って前に出るが、美香も下手を引いている


「のぉこった、のこった、のこった」


瑞希が強引に寄っていくが美香はなんとか土俵際で残した。


(なんとか速攻は決まったけど・・・なんとかして右の上手が欲しい)と瑞希は右を探る



美香は前まわしを狙っているだが・・・・


「はっけよい」


 ここで動きが止まる。瑞希の息が上がってくる。それに対して美香はまだ余裕がある。瑞希も四年になり瞳がレギュラー選手張りの稽古をさせてきた。部員の中にはなんで瑞希に?おかしくないかと云う者もいたがそこは珍しく瞳が頭を下げてまでも納得してもらったのだ。


(瑞樹にはマネージャとして女子相撲を終わらせてあげたくないの高校時代あなたがいたから私が相撲に熱中にできたのは瑞希がいたから、瑞希!あなたは私が認めたライバルなんだ!相手が女子大相撲入門候補ならなおさら負けられないでしょ、瑞希!)




美香は必死に上手を探るが、瑞希がうまく阻止する。


「はっけよい、よいはっけよい」



瑞希再度寄る、そして


(よっし 右上手が取れたわ、これで万全の体勢よ!)と瑞希は絶対の自信そして確信へ


瑞希は一気に上手投げの勝負に出た。


「瑞希先輩!そこから一気に、休んじゃダメ!」と映見。


 隣にいた瞳は一瞬映見を見る。


(映見・・・)


 調子を崩していた映見はリーグ戦で全く声を出さなかった。自分が調子が悪くとも部員の応援には声を出すのは当たり前なのに・・・そのことで映見と揉めてしまったことがあったのだ。他の部員は映見の態度を容認するような態度だったが瞳には許せなかったのだ!でも・・・・


「瑞希先輩、諦めたら三人で出た意味がなくなってしまいます!」


(映見・・・)取組中でもはっきり彼女の声は聞こえた、どんなに集中しても仲間の声は・・・


瑞希は十分な形に相手の田口美香は苦しい状態に、顔を真っ赤に必死にこらえ防戦一方。


「のこぉった、のこった、のこった」


 瑞希は左上手投げを仕掛けるが美香も右下手で防戦。土俵際まで追い詰めながら決められない瑞希、さすがに付け焼刃の稽古では女子大相撲候補生にはかなわないか・・・


「はっけよい、よいはっけよい」


 会場がヒートアップする。特に鳥取城南倶楽部の応援団は美香のまさかの劣勢に悲鳴に近い声援が・・・。


「のこぉった、のこった、のこった」


(ここで諦めたらふたりに会わす顔がない)


 瑞希は渾身の力を振り絞り再度寄る。ここで美香が右下手を繰り出すが体勢的に苦しいかうまくいかない。



「のこぉった、のこった、のこった」


 瑞希は前褌を取ることに成功一気にひきつける


「瑞希、そこから一気に引き付けて!」冷静な瞳が熱くなる


 瑞希は一気に引き付けて寄りきりで決着。瑞希が勝ったのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」と瑞希はおもわず声を上げてしまった。



 あからさまに感情を出してしまった瑞希に審判から注意が出されてしまったがそれぐらいに嬉しかった。それは西経の二人も同じ。瞳に関しては早々と涙目になっていた勿論うれし涙なのだが・・・。


 土俵ではお互い礼をして瑞希が下りてくると真っ先に瞳が抱きついてきた。


「ちょっと瞳・・・あんた泣いてるの?」


「だって・・・」


「いゃーまあーね、相手は鳥取南条で将来の女子大相撲候補の田口美香だったから相当手強かったけどなんとかね立ち合いさえ負けなければね・・・」


 瞳は瑞希から離れ瑞希の顔を見ながら


「さすが私が高校時代ライバルと認めた選手だよ。あの頃と全然変わっていない!でも・・・」


「でも・・・なに?」


「100%勝つとは想っていなかったら余計に自分に腹が立った。なんでマネージャにしてしまったかなってなんであの時に強引にでも選手に・・・」


「瞳、あの時はもうやらないって決めていたんだからあれでよかったんだよ、それに自分にとってはスポーツ心理学を学ぶうえで色々勉強になったし、監督に拾ってもらってなければもう相撲とは縁も切れていただろうし」と云うと関係者エリアにいる倉橋監督に頭を下げる。倉橋の表情は満面の笑みで・・・。


「とりあえず、なんとか勝ったんで荷が下りたわ」と瑞希は安どの表情を浮かべたが・・・


「瑞希!」


「なに?でかい声で」


「まだ一勝しただけだから、荷が下りた?そんな気持ちでこれから相撲ができるの?そんな緩い気持ちでだいたい・・・」


「はいはいわかりました。はぁー」と瑞希はおもわずため息も出てしまう。


「瑞希さんって凄かったんですね」と映見はニヤニヤしながらさらっと、


「映見、凄かったって過去形じゃないの凄いんですねだろうが!まだまだ進行形なんだよ私の相撲は、ところで次はあんただけど大丈夫なのかしら?ここで負けたらボロカスに云ってやるから、あぁぁ楽しみだなぁー」


「いゃあー、瑞希先輩の運の強さに恐れ入りました。女子大相撲で期待されている田口さんを撃破してしまう恐ろしい強運の持ち主でこれで田口さん終わったら・・・瑞希先輩のおかげで・・・」


「ちょっと何その云い方!私は偶々勝ってしまっただけでそれで田口さんの人生を左右するような事云わないでよ、偶々なんだから・・・」


「偶々だったんですね?」と映見はニヤニヤしながら


「はぁ~、偶々じゃないわ実力だよ、うるさいんだよ映見は、早く土俵に上がりなよ全く!」


「じゃ、行ってきます。強運の女神の瑞希様」と云うと映見は土俵に上がる。


 瑞希は映見の後姿を見ながら


(映見、大分元気になったね、本来のあなたは冗談を云いながらもみんなの事を想ってる。私はあなたに何か劣等感を感じていたのはなんだったんだろうね・・・本当にお互いの事って別れ際にならないとわからないのよね、うちの部がなんで強いのか少しわかったような気がする気づくのが遅いけどね)


「瑞希」と後ろから両肩にてをかける瞳


「びっくりした!」と瑞希はおどけて見せた。


「大袈裟な・・・・さすがだねと云うかまるで稽古以外で練習でもしてたような動きだったけど」と瞳


「映見にね、動作的なことは少し教わっていたのよ、もちろん主体に瞳が相撲場で稽古をつけてくれたことがあっての事なんだけど」


「いつから?」


「一か月前からかな、昼間、雑務とかあって部の相撲場に行ったら映見が一人で四股踏んだり鉄砲してて、リーグ戦で不甲斐無い試合が続いて相当責任感じていたんじゃないの?それがきっかけで何回か手合わせしてもらったのよ、さすがに本気でってことはなかったけど映見なりに苦しかったんだなぁーって、でも何か妙義山の遠征に同行して色々な事を感じたり教わったりしたのかもしれないけど、少なくとも私の知っている映見より明るくなったよね、元々そんな子なんだろうけど何回か手合わせしていくうちにちょっとね・・・」


「知らなかった・・・」


「映見は、天才タイプかなと想っていたけど陰で努力してたんだね・・・マネージャーとしては失格だよ、スポーツ心理学を専攻している者からしたらもっと失格だよ。でも最後の最後で物凄い勉強させてもらったし稲倉映見の人間性って云うか少し垣間見れたって云うか・・・てもなんか一勝できたら私いけるんじゃねって感じだよ、どうよ?」


「瑞希には悪いんだけど、最初から瑞希は戦力として考えていないから安心してだから思い切って相撲して」と笑みを浮かべる瞳


「(*´Д`)あんたさぁー、そんな性格だから男が逃げちゃうのよ、本当にわかってないよね自分の事が」とか云いながら首を絞める真似をする瑞希


「何回も云うけど逃げられたんじゃなくて私が捨てたのそこのところは強く云っとくから」


「でました。相変わらず負けず嫌いがますます拍車がかかって瞳、あんた相当やばいわよ女性として」


「瑞希もね、相当にやばいわよ」


「負けず嫌いが!」


「あんたもね!」


とか何とか云いながらも西経は順調に決勝まで行ったものの最後は西経の対抗と想われていた実業団チーム・精工技研に一勝二敗で敗れてしまったものの三人にとっては十分納得の結果だった。ちなみに明星高校は組み合わせに恵まれず一回戦敗退の結果になってしまったが、午後は個人戦が始まる、うまくいけば稲倉映見と石川さくらの対戦が見られるのだが・・・。



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