郡上の夏 ①
郡上は400年以上の歴史を持つ郡上八幡おどりが夏の風物詩として有名である。日本三大盆踊りのひとつである「郡上おどり」は、7月中旬から9月上旬にかけて、岐阜県の郡上八幡の町中を三十数日間かけて開催されます。そんな郡上八幡でおこなわれる全日本郡上女子相撲大会は、各地から有力選手・クラブが中学生から実業団まで揃う夏の名物なのだ。
団体戦の優勝候補はもちろん西経大学、そして対抗は実業団の精工技研と云うのが大方の見方、実業団も出場するこの大会はいくら西経でも楽な戦いはないし過去の大会においてもいつも優勝候補にあげられる西経だが決勝で実業団に屈する事も多々ある。そんな大会はある意味では日本一を決める夏の大会なのだ。
そんな大会の今年の注目は、女子プロアマ混合団体世界大会で活躍した二人が揃うことでうまくいけば二人の対戦が見られるかもと云う期待もこの大会が注目を集めているのだ。
西経は、主将・吉瀬瞳・稲倉映見に加え海藤瑞希も参加することなった。真奈美からすれば実力不足は否めなかったのだが・・・・。吉瀬が積極的に稽古をつけていたことは知っているし真奈美自身がマネージャの仕事は三年に任せて選手としてやってみろと云ったのだがそれでも公式戦に出すのには少し足りないことは主将には云ってあるのだが・・・。
一週間前にオーダー票を見せられた時、最後の欄に海藤の名前が書いてあったのだ。
「海藤を出すのはどうなんだ?郡上は全国大会なんだ練習試合じゃないんだぞ!」真奈美は強い口調で
「わかっています。ただ、瑞希とはどうしても出場したいんです」と瞳
「そんなおまえの願望みたいな通るわけないだろうが!海藤以外にも出場させるべき選手はいくらでもいる、そんなので部の秩序が保てるのか!」
「レギュラーメンバーには話をして納得してもらいました。もちろん勝負です!最初から捨てるようなことは毛頭ありませんし、クラス問わず戦う郡上を勝ってこそ真の女王だと想っています。だからこそマネージャーとして違う意味で戦ってくれた海藤を入れたいのです。監督もそのつもりで稽古をさせていたんじゃないんですか!」
「それには相応の実力があればの話だ。今の海藤にその実力があるとは思えないがね?」
「瑞希はチームにとって欠かせない参謀なんです。映見の事も瑞希がいなかったら私には解決できなかった。部員達と私の間に何か意思疎通がうまくできなかった時、実は私の知らないところで部員達の話を聞いてくれていてそれを持って私を説得していた。
今年のレギュラー陣はけして映見を除けばけして強くないです。でも映見の不調をよそに好成績を上げているのは、瑞希がチームの士気を上げていてくれていることが大きいしそのことを部員も認めている。監督はそのあたりも計算に入っていますよね?とぼけたふりしてますけど・・・」
「最後の年ぐらいは、マネージャーではなく選手としてやらせてあげようと想っただけだ、マネージャーとして裏方で頑張ってくれたお礼として、でもレギュラー入りするには自分で勝ち取らなきゃならない、いくら高校でライバルとして切磋琢磨していたとても三年も実戦離れてりゃ到底無理だ。でも、レギュラー陣が瑞希を郡上の試合に入れたいのならそれでいいよ、大学生活最初で最後の公式試合なるた゛ろうけど・・・瞳も瑞希にもやり切ったと云える試合をしなさい!それだけだ」
「ありがとうございます!」
---------郡上・相撲会場 選手控え用体育館----------------
西経の面々はいつになく和やかと云うか笑い声が絶えない。全国大会なのに緊張感が足りないとも云えるしリラックスとも云えるが・・・。
「瑞希、そんなに緊張しなくていいからもう・・・」と笑いながら瑞希の肩を揉む主将の瞳。
「えっ・・・うん・・・。郡上大会は全日本選手権と同格の大会だらそんなところに・・・」と瑞希は自信なさげな声
「とかしおらしいこと云っといて多分勝ちを狙ってますからね、ねぇ瑞希先輩?」と意地悪く云う映見は映見を浮かべながら・・・。
「えっ・・・うん・・・あっーうるさいんだよ映見。勝ちに行くに決まってるでしょ何云ってるんだよまったく。ここ最近の映見の相撲よりましな相撲してやるわ!いつでも臨戦態勢よ私は何云ってんの全く!」
「はぁー、今云ったこと撤回なしですからね、主将、初戦の先鋒は瑞希先輩を出すってことでよろしいですよね、瑞希先輩」と映見
「えっ・・・」
「動揺してる・・・・」と映見
「映見、あんたに云われなくても、初戦の鳥取城南倶楽部は瑞希を先鋒で登録してあるから」と瞳
「えっ?そんなの聞いてないよ!ちょっと瞳・・・」
「瑞希、あなたなら大丈夫よ、郡上まで来て試合に出さない選択なんかないからだったら早い方がいいでしょ、登録は三人しかしてないんだから何怖気づいてるのよ始まってもないのにいい加減にしないよあんた!」
(あんたって・・・なんでこう本番になると人間変わるかな・・・)と瑞希
「何・・・」
「はあぁぁぁ・・・がんはります」と瑞希
「頑張らなくてもいいから勝ちに行くことだけ考えて、西経の相撲魂にかけてもね!」
「・・・・・」(瞳・・・怖すぎるよ)
秋には全日本女子相撲選手権があるが多分、瞳が瑞希と一緒に試合に出場するのは多分これが最後。本当なら瑞希が出場するのには少し足りないことは事実だが今回だけは自分の我がままを通させてもらった。高校のライバルは大学ではマネージャーとして部を支えてくれたことに感謝はしているがやはりライバルとして選手として瑞希と関わりたかったが・・・。ところが四年になる直前に倉橋から瑞希を選手として稽古をつけてやれの一言、最初は意味が分からなかったが・・・。
大学リーグには出せない状態だったが稽古を繰り返すうちに瑞希の相撲勘のようなのもが蘇ってきていることが日増しに肌で感じ取れてきた。郡上はリーグ戦のポイントは絡まないが大会としては全国レベルに近い大会、瞳は瑞希を出場させるとしたら郡上しかないと逆算して稽古をしていたのだ。
「とにかく一回戦鳥取城南倶楽部の一戦は先方瑞希で行くから頼んだわよ!わかった!」
「わかったわよ覚悟を決めていくわ・・・」(歴代主将の統率力が西経の強さなんだけど・・・瞳ってそなんだっけ?) 高校時代から一緒に相撲でライバルとしてしのぎを削ってきた。大学では立場は違えど西経女子相撲部の一員として戦ってきたことには自負はある。そして、私にマネージャーではなく選手としてのチャンスをくれた監督に応えたい。マネージャーに誘ってくれなければもう土俵に立つこともなかった・・・・。瑞希はこの大学生として最初で最後の大会に女子相撲に選手としてマネージャとして関われたことに感謝して・・・。
そんななか映見はある方向を向いてニヤニヤしながら何かしら手招きをしている。
向こうからまるで手招きされたことを喜んでいるかのようにその太ってはいるが軽い足取りでやってきた女子選手と思しき。
「捕まえた!」と映見はいきなりあの相手の後ろに回り羽交い絞めに・・・。
「何するんですか!」
「この明星の子ネズミが・・・じゃないのなこの丸々太ったネズミが敵情視察とはいい度胸だね」
「なんなですかそれ!」
「主将、この明星のネズミはちょっと脅してやりましょうか?」
「ネズミと云うよりちょっとフレンチブルドッグって感じね」と笑みを浮かべる瞳
「フレンチブルドッグ?なんなんてすか瞳主将?」
「フレンチブルドッグは可愛い容姿のくせして、好奇心旺盛な甘えん坊なのなんかさくらに似てない?」
「・・・うーん」
「まぁーそんな話は置いといて、久しぶりねさくら、西経へ出稽古に来た以来だよね会うの」
「はい、あの時以来です」と云いながら映見をチラッと・・・。
「何?さくら何か云いたそうね!」と睨むような視線で映見は桜を見る。
「あぁぁ・・・ですよね」と誤魔化すさくら
「本当は、明星に出稽古に行きたいんだけどゴメンねさくら、島尾先生にも云われているんだけどなかな時間がとれなくて」
「いいですよ、主将も色々忙しいでしょうし、でも今日会えて本当によかったです。あぁ主将の隣の方は」とさくら
「彼女は海藤瑞希さんでマネージャーをしてもらっているんだけど今日の郡上大会は選手兼マネージャーで瑞希は高校時代のライバルだったの鎬を削った」
「初めましてって云ったほうが良いのかな出稽古の時はちょっと話すチャンスがなくて、瞳とはライバルだったんだけど公式戦では一回も勝ったことなくて、それで大学ではマネージャーに」
「そんな話はいいから瑞希、ところでさくら西経に推薦で来るんでしょ?」
「一応その線で島尾先生にはお願いして秋には内定をもらえるかと・・・・とりあえず成績含めた評価点はクリアーできたかなぁって、後は最終面接が・・・」
「あぁぁ・・面接ねぇー、うちの監督も同席するあれね・・・・」
「えっ監督も同席するんですか?」
「西経女子相撲部希望の受験生の最大のネックは倉橋監督だって知ってる?」と意地悪そうに云う映見
「えっあぁぁ、今年も何人か相撲部としての推薦は落とされたって云う・・・」
「えっ」と驚く瞳。(そんなことが広まってるの?噓でしょ?)
「さくら!やばいわね!」と映見
「・・・そんな」
「映見、いい加減な事云うもんじゃないわよ全く!さくら、確かに監督も相撲部の推薦者に何かしらの事は云うでしょうけどさくらに関しては問題はないと思うし心配することはないから、映見そんな脅し見たいな云い方すのはやめなさいよ全く」
「あぁぁ・・そうですよね、安心しましたと云うか映見さん!自分が調子落としているからって人は落とし込めるようなことはどうかと思いますが!性格悪」
「なっなに・・・マジ切れされた」
「あたりまえですよ。云っときますけど私が西経に行って相撲部に入ったら女子大学生横綱の称号を頂きますから覚悟しといてくださいよ!」とさくら憮然とした表情で・・・。
「うぉほほほほ笑わせてくれるは、さくら!」
緊張感がありそうな会話のようで全く緊張感がない郡上・相撲会場 選手控え用体育館だった




