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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの想い・それぞれの願い

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花の命は短くも ②

 女子相撲大学の公式試合は年間五戦。第一戦は稲倉映見が欠場したものの西経女子は優勝となり幸先いいスタートになった。そして第二戦は映見が出場し結果は連勝。映見は五人制の副将で出たものの立ち合いで後手を踏みあっけなく押し出された。相手は強豪の関東の女王である青葉大学の二年生、熊崎正美。高校時代から注目されていた選手でありこの対決は注目されていたのだが、精彩を全く欠いた映見の相撲はファンのみならず仲間達も表に出さずも落胆してしまったのは事実。



------西経女子相撲部・相撲場------------


部全体の雰囲気としては、二勝先行したことでとりあえずは悪くないのだが映見の不調はどこか部として影を落としていることは事実。その原因があの大会での出来事であることも部員全員が想っていること。


 真奈美は小上がりのへりに腰かけいつものように稽古の様子を見る。視線はどうしても映見に集中してしまう。申し合いにおいても相手の速い立ち合いからどうしても遅れてしまう。たとえうまく組めたとして得意の四つ相撲さえ苦戦する始末。とてもレギュラーで大会に臨ませるという気にはなれないのは事実。実戦を積んだところで立ち合いの恐怖心など治るわけがない。すべての歯車が狂っているようにしか見えないのだ。


 昔の真奈美ならドヤしているところだが、今はその気になれない、あの大会での映見は今までの相撲の中で一番素晴らしい気迫のこもった姿だった。アマチュア選手ではなく力士、女子大相撲力士!だったから、それは稲倉映見が女子大相撲力士になったらこうなると妄想するほどに・・・。


 西経からは今年は江頭が入門、現役では幕内上位では伊吹桜が大関昇進を確実なものとした。ただ他の大学からすると入門者数は少ない。大学で燃え尽きてしまう選手がほとんどと云うか、真奈美自身が女子大相撲そのものに入門することに他人のことながらどこか躊躇してしまうと云うか、自分が行かなかったことを正当化したいみたいな気持ちがあるのだ。もちろん、プロへの希望をもっているものに行くななど云うことは絶対云わないし、江頭のように最初からプロ志望ならそれなりの用意はする。それじゃー映見はどうなのか?


今までプロ力士になりたいことをに匂わせるようなことも云ったことがなかったのに・・・。


(お前の力士姿を見たい反面、医師として生きていくのなら寄り道はせず医師としてのキャリアを積んでいくことが真っ当な生き方、でも・・・私事で云えば悔いはある。紗理奈さんが自分の想いのままに苦しくとも女子大相撲の土台を築いてくれた。あの時私をあれほど誘ってくれたのにも関わらず私は心のどこかに馬鹿にしていた・・・その雰囲気を映見にも感じていたのに・・・あの子は)


 そんな不甲斐無い映見の相撲についに口より先に手が出そうになったがその時脇に置いてあったスマホがバイブレーションする。真奈美はちらっと画面を見る。


(紗理奈さん?)


稽古中は絶対取らないのだが・・・・。


「もしもし」


「あっ、私だけどまだ稽古中だったか?」


「いえ、もう終わるところです。どうしたんですか紗理奈さんからこんな時間に?」


「うん、ちょっと相談と云うよりも、ちょっと提案と云うか・・・」


「提案?・・・わかりました。もうじき稽古終わるので、30分後Teamsで」


「わかった。それじゃ」


-----30分後------


相撲場にはもう真奈美しかいない。明かりは点いているのは座敷だけ、真奈美は正座椅子に座りながらパソコンに向かっている。


「すいません遅くなりまして」と真奈美は座りながら頭を下げる


「いや、稽古の時間知っていながら電話した私が悪かったよ。でも西経は調子いいと云うかさすがだな、本当は大会に見に行ってもいいんだが・・・」


「できれば来ていただきたいのもあるのですが・・・で提案と云うのは?」


「あぁ、稲倉のことなんだが」


「映見の事ですか?」


「だいぶ調子が悪いと云うか何か迷っているというか」


「・・・・」


「意外って顔だな」と紗理奈


「いゃ、理事長から映見の事を云われるとは想っていなかったので」


「紗理奈と理事長の使い分けって真奈美の弱点だな」


「えっ、あぁぁ・・・」


「別に意味はないから、それで提案なんだが」


「あっはい」


「今度の郡上八幡は稲倉は出すのかい?高大校以来の石川さくらとの対戦はファンは楽しみにしているけど?」


「今の状態では正直云ってあの時の高大校より深刻と云うより相撲自体になにか歯車がかみ合っていないと云うか、先の大会での後遺症が・・・」


「脳震盪の後遺症でもあるのか?」


「そうではないんですか、何か立ち合いからしてちょっと恐怖感のようなものがあるのかと・・・」


「ぶちかまされたこと・・・確かにそれもあると想うが・・・何か迷っているんじゃないのか彼女?」


「・・・・」


「真奈美は稲倉の先の事どう想う?」


「先の事、ですか?」と真奈美は何を聞いているのかと云う表情をするが・・・。

(紗理奈さんの聞こうとしていることぐらいわかりますよ。大相撲への話ですよね?)


「百合の花は稲倉に女子大相撲に来てほしいそうだ。そしてできれば、引退後自分のもとで指導したいと云ってきた。そんなこと私に云ったところで私にどうしろと云うのか知らんが」


「百合の花関が・・・」


「妙義山も責任は感じているようでね、そもそも私のバカ娘があんなことぐらいで自分の心が揺さぶれているようじゃ話にならないんだが・・・真奈美に云われたとおりの結果になった」


「でも最後はきっちりとあれだけの死闘のうえに優勝した。無礼を承知で云えば桃の山は映見より劣ると想っていたのに、でもあの相撲を見た時に如何に自分が甘いのかと、どんだけ自分は傲っていたのかと・・・」


「いや、稲倉は素晴らしいと思ったよ、さすがは真奈美が最高傑作だと云うほどに取り組むごとに鋭くなって、アンナと云う現役最強力士相手じゃいくら映見でも真っ当な勝負は無理だ。桃の山があの死闘に勝ったのは初めて見せた勝負師としての魂たるものがやっと目覚めた。そして仲間の稲倉がやられたこと、そんなところだよ」


「鬼の妙義山の娘さんはやっぱり同じ血が流れていると、まざまざと見せつけられた取り組みだったと後日、動画を見ながら・・・」


「まぁ、そんな話をしていると時間ばっかりが過ぎてしまうから要件だけ、来月、東南アジア・プロ女子相撲大会があるんだがそこに妙義山が参戦することなっているんだがそれに映見を同行させたらどうかと思って」


「映見を?」


「ヨーロッパの遠征は優勝はできなかったがそれでも表彰台は外さなかったことは娘ながら高く評価しているんだが、そのあとのブラジル遠征では優勝できたがさすがに一人で遠征するのは精神的にはきつかったようなんだ。本人には云っていないがどうだろうか稲倉も少し気分転換の意味で、妙義山なら映見の悩みもうまく解決とはいかなくとも何か糸口は見つけてくれるんじゃないかと想ってね。大きなお世話かもしれないがな、医学生だから勉強の時間だって足りないかもしれないが一週間ぐらいどうだろうか?」


「紗理奈さん・・・」


「ただ、郡上八幡の大会には中三日ぐらいしかなくなってしまうが、もし映見を出すつもりがないのなら、もちろん費用その他は協会で出す。云っとくが別に女子大相撲に入門させるためとかそんなのは一切なしだ当たり前だけど・・・」


「どうして、映見を?」


「百合の花や妙義山が映見を認めているってことだよ。もし、映見がこのまま終わってしまったらそれは大会に抜擢した協会の責任だ。潰したようなもんだからな」


「それは映見の問題ですから」


「それと葉月がね・・・」


「椎名さんが何か?」


「葉月が理想としての相撲の生き方は稲倉だったのよ、そのうえでの女子大相撲に行くか行かないかだったのよ」


「大学に行っていたら絶対横綱にはなれなかったと想いますよ。自分の理想のようには生きられないだからこそその屈辱を力に変えて相撲に懸けた。それが絶対横綱・葉月山!紗理奈さんには感謝しているはずだし彼女の後は、百合の花や妙義山が受け継いでいる。それは映見を含めてアマチュアの選手達だって」


「理想の生き方か・・・真奈美はいつまで監督やっているつもりだ?」


「えっ?」


「再婚するんだって、それも別れた旦那と」


「・・・・」


「無駄な時間を過ごしたな」と紗理奈は少し意地悪く、


「紗理奈さんは理想的な生き方ですよね。女子大相撲の基礎を作り横綱から今は協会の理事であり娘さんは母の四股名を継ぎ二代目妙義山としてまだ始まったばかり。とても私には・・・」


「真奈美だって西経の女子相撲部を創設当時から常にトップクラスに君臨してきた。そして相撲界には力士だけではなく裏方の人材をお前はその気はなかったかもしれないが日本の女子大相撲にとっては、西経出身の人材がなかったらここまでの発展はなかった。私は協会において人材を育てると云うことは怠ってきたから」


「そんなことは、遠藤さんなんか無二の相棒じゃないですか!」


「遠藤はおせっかい婆だよ。それに芸術肌だからやりにくくてしょうがない全く」


「そんな事云って」と真奈美


「別に遠藤は私が育てたわけじゃないから、ただ奴がいなかったらとっくにトップから降ろされてると云うか自滅していたよ」


「私は、遠藤さんとは殆ど面識がないですけど」


「意外だな?」


「けっこう西経にはと云うか私にはあまりい印象はないんじゃないかって?」


「美香だって横綱まで行った名力士だし私だって優勝を争った仲だ。ただ美香は西経の選手達が力士として入門する者が少ないことには不満と云うか残念だと想っているんだ。ただ【文武両道】の精神だけは評価しているけどな、物書きであり、相撲解説者、ワイドショーのコメンテーターと多彩なんだよ、とても元力士とは想えないが、そうだ今度会わせるよ、意外と意気投合するかもしれないし」


「ぜひお願いします。遠藤さんは力士としてもそうですがちょっと魅惑なところがありますし」


「魅惑?そんな事云っていると幻滅するぞ・・・まぁいいわ、もし行けるのなら・・・妙義山が稲倉の事何気に気にしてるみたいだから」


「わかりました」


「それじゃ」


 紗理奈の方からログアウトすると真奈美もPCの電源を落とす。


(映見の力士姿・・・見たいに決まってるじゃない!私は大相撲に行く勇気がなかった。離婚してまで相撲部の監督になったのは力士になれなかった自分自身へのリベンジ。無駄に時間も労力も使って・・・)


 座敷から明かりの落とされている土俵を見る。ここから女子大相撲に行ったもの学生で相撲を辞め社会人として活躍している者、もちろん結婚して母となった者、砂にまみれながらも相撲に熱中して青春を謳歌して巣立っていったOG達の顔が浮かぶ。


(私もそろそろ・・・・)


 






 





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