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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの想い・それぞれの願い

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花の命は短くも ①

ジュニア女子相撲世界選手権大会。日本はエース石川さくらが女子プロアマ混合団体世界大会後、中二週間をおいての参戦は正直に疲れを引きづったままで挑むことになったが、結果的には団体は連覇できたものの、個人戦はさくら本人からの申し出によって出場辞退と云うことになってしまった。たしかに疲れがあったことは事実だが本人は個人戦より団体戦を重視すると云う選択を自らしたのだ。


 当然、監督・コーチ陣は説得はしたもののさくらは団体戦一本に絞りたいと譲らなかったのだ。個人戦では、メンバーの応援にまわり誰よりも励ましやアドバイスを送り団体戦では大将として役割を果たし見事に連覇に導いた。次は高校女子相撲選手権・夏の郡上八幡・インターハイと続き、明星は史上初の団体三冠制覇を狙う。


女子大相撲春場所。先の大会での死闘は多くの女子大相撲ファンを興奮・感動させた東の正横綱桃の山改めて妙義山に改名。横綱百合の花の欠場は残念だが春場所において二代目妙義山はファンの期待を裏切らず全勝優勝。さすがに後半は危ない場面もあったがそれでも横綱に恥じない完璧相撲。どこか危ういところも持ち合わせていた桃の山時代とは違い母である初代妙義山を彷彿とさせる雰囲気は勝負師妙義山に相応しい。


 大会終了後、妙義山はヨーロッパ・アジア・南米のプロの大会にスポット参戦と云う形で回ることを表明。二年後から始まる世界ツアーの意味合いも兼てと本人からすれば武者修行としての意味合いもあるのだ。混合団体世界大会以後休みなくの妙義山に対して日本の協会関係者からは怪我や精神的な疲れなど危惧する意見も多々聞こえるが妙義山はそれらの声を一蹴するかのように参戦を表明したのだ。


 女子大学もシーズンがスタートし、当然注目は稲倉映見ではあるのだが倉橋は映見少し休ませる決断をして初戦は稲倉抜きで臨み、多少追い込まれる場面もあったが主将吉瀬瞳を中心にまずは団体戦優勝の幸先いいスタートとなった。


稲倉の初戦回避は表向きは混合団体世界大会の疲れがあるからと云うことにはしてあるが、軽い脳震盪は検査的には異常は見られないし経過を追っても特に何がと云うわけではないのだが部の稽古での動きがいまいち良くないのだ。しばらくは様子を見ながらぶつかり稽古などはさせずにと云うのは予定通りなのだが・・・。


稽古が終わり、真奈美はいつものような座敷に上がりノートパソコンでの雑作業。女子大相撲の人気の定着と共に西経大学への相撲での推薦希望も比例して昨年の倍とまではいかないが付属子高校は別として他校からは相撲での推薦希望を出されるのだがその最終判定は倉橋が合否の最終判定をする。【文武両道】を貫く倉橋にとって未だにそこは譲れないし最終面接は倉橋がするのだ。


 大学内では女子大相撲の定着と西経から女子大相撲で見たいな空気が年ごとに高まっている。多少学力は低くても有力選手を入れるべきだと云う声はある。大学・高校においても女子相撲部、特に大学の女子相撲部は倉橋と云う一つのブランドであり大学にとってのブランドイメージの一つなのだ。


「監督、上がってよろしいでしょうか?」主将の瞳が着替えを終え私服で相撲場に


「あぁ・・・」と真奈美はキーボードを叩きながら・・・。


 瞳は座卓越しに真奈美と対面する形で座る。


「今年の新入部者もみんな相撲の実力が高いですね、高校時代の成績からすれば当然ですが・・・」


「付属以外の新入部員はみんな公立なんだよ。推薦のハードルは相当高かったはずだが大したもんだな、感心したのはみんな私を最大のハードルだって認識しているってところかな」と真奈美は苦笑いをしながら・・・。


「噂ではだいぶ落としたとか?」


「落としたと云うか落とした方がその子のためになるからその方がいいと想っただけ、ただ一人公立から一般入試で合格してきて入部している者がいるんだ。私が落とした子なんだけど・・・」


「えっ」


「実力で合格してきた以上、入部させないわけはいかないからね・・・」


「えっ、誰ですか?・・・あっすいませんそんなこと聞く必要ないですよね、すいません」


瞳は余計なことを聞いてしまったと、そんなことは全く知る必要ない話だ。


「一般入試で入ってきてまでもうちの相撲部に入りたいとか想うかね?他校だったら高校時代の相撲の成績しだいで学力の方はいくらでも優遇してくれる上に入ってからだって相撲だけに集中できる環境を作ってくれる。ましてや女子大相撲を目指しているのなら何もうちである必要はないのに・・・」


「相撲と同じくらい勉強ができなければ部員としていられない、それはある意味相撲以上に厳しいですが、でもOGの人達はみんなそのことに感謝している。もちろん私もその一人ですが」


「でも、瞳が海外に行ってしまうのは正直寂しいんだよ本音は・・・・。でもお前が決めたことだからね、私がとやかく云う筋合いでもないし・・・」


「監督のことを知らなければ西経に来ることはなかった、もちろん父の事も・・・・。今思うと何をむきになって監督に近づこうとしたのか、監督を知ってじつの父を知れたわけですが、本当は監督の生き方に共鳴したから、多分相撲のためだけなら西経には来ていません」


「うちの部の主将になる奴はみんな統率力があるんだ瞳は云うに及ばず。前主将の江頭も後輩の部員達からは嫌われていたかもしれないがそのことがお前のやりたかった部の改革をやりやすくできたと、真紀はお前のことを高く評価していたし、西経では映見とはうまくやってはいけなかったかもしれないけどな・・・相撲の実力では数段落ちる。プロに入って幕内に上がれる確率は低いかもしれない、でも真紀は最初からプロに行きたいって云っていたから私もそれなりの指導はしてきたつもりだ。


 真紀にとってはプロで活躍するのはなかなか厳しいかもしれないが私の知らないプロの経験は彼女のこれからの財産になるはずだ。大会の合同稽古で久々に真紀の相撲姿を見たがなかなか様になっていたしそれ以上に相撲がうまくなっていた。プロの場所はやっぱり違うよ確かに、稽古では大学時代は劣勢だった映見に勝ち越していたし、本割の春場所は一敗してしまったけどまだまだこれからだ」


「真紀先輩は私の事をけして好いてはいなかったかもしれませんがけして邪魔はしなかったし個々に厳しくあたることができない私に代わって自ら嫌われ役のようなこともしてくれた、あまり腹を割って話すことができなかったのは今考えると悔いが残ります」


 瞳にとっては、縦割りの旧態依然とした西経女子相撲部の空気感の最後の生き残りと想ってはいたが江頭が主将になった時から少しずつ変わっていった。文武両道ができていれば後は部員達に任せると云うかどこか武闘派に近い雰囲気があり、リンチまがいの稽古は多々あった。ただそれは部の秩序維持には必要最小限に必要だったし映見はその格好の標的。学生横綱も取り世界選手権の常連である映見は中高であるアマチュア力士には目標である反面、なにかトップである意識があまりなく女子大相撲は見るべきものであって自分は力士としての関心がないようなことを意図的ではないにせよ口に出してしまったり、そのくせそのことで自分から潰れたり・・・。


「瞳はちゃんと自分の事を自己分析できるのね、私なんか感情で動いてしまって」


「でも、これまでの実績は感情だけで動いていたら・・・」


「西経女子相撲部に来る子達は最初から気構えが違うのよ、私は方向性をアドバイスするだけ私からあーしろこうしろは云わないからそれでもここまでまがりなりにも西経が女子相撲で女王でいられるのは個々の高い志があってこそ私なんか付け合わせだから」


「だとしても、みんな倉橋真奈美に指導を被りたく西経を、もちろん私も・・・」


「瞳なら、どこに行っても何の仕事でもやっていけるだろうから心配はしてはいないけど女子相撲って、青年海外協力隊にそんなのあるの?」


「女子大相撲協会や文科省も関連しているんです。相撲の指導だげではなく学校教育における運営とか経営全般も関わるような事らしいのです。新卒の私が何ができるのかわかりませんが・・・ましてや教員資格もありませんしそれにかかわる勉強をしてきたことはありませんし」


「教育における運営とか経営は別もんだから、そこは瞳の分野だろうそこに高校・大学と主将と云う仕事をしてきたわけだから二面的にものを見れるんだ。私もまかり間違って客員教授などと云うものをやるはめになったが、それはそれで人にものを教えるということの新たな発見も見出すこともできた。何事もやってみたいなとわからない」


「そうですね、大学を卒業したら姓を濱田にします。新たな自分の出発として、日本での就職も考えましたが、父に監督が寂しがるなぁって云われたときちょっと私も一抹の寂しさはあるんですがそこは」


「いいよそんなこと、私達もいい歳だし若い頃のような生活は望んでいない。友達同士と云うか恋人同士と云うかそんな感じでやっていくから、ひとつ気になると云えば光に西経女子相撲部の監督を奪われるんじゃないかと、私以上に親密みたいで」と真奈美は笑みを浮かべながら・・・。


「確かに、相撲クラブで指導しているわけですから個々の長所・短所を素早く見抜きアドバイスをするのは監督にひけをとりませんし、論理的思考と云うか常にシンプルに理解させると云うかそこ凄いなぁーって、そんな父とビジネスを監督としてきたわけだからさぞかし大変だったろうと」と瞳も笑みを浮かべながら


「わかってくれる?」


「よーく、わかります」


 二人は、顔を見合わせながら納得でと云う顔を・・・。


「で、私になんか話があるんじゃないの?」


「あっそうでした。映見なんですけどちょっと大会以後なんか気持ちが不安定と云うかあまり稽古にも集中できていないようで、脳震盪起こした後遺症とかじゃ?」


「帰ってきて再度検査して異常は見られない。もちろん検査だけですべてがわかるわけではないから何とも云えないけど、多分プロの洗礼をまともに浴びた事だと想う。あのアンナのぶちかましからの相撲は本当のガチ相撲だった。女子大相撲力士だってあんなの受けたら・・・」


「プロの洗礼・・・」


「それでよかったのかもしれない、あの大会での映見は素晴らしかった。気迫に満ちた女子大相撲力士にもひけをとらないほどに、でもアンナは世界最強の本物の力士だからね、正直あれはないだろうとは思ったが国の威信がかかった大会においてはプロ・アマ関係はなかったいくらうわべのルールを作っても、あの大会は確かに成功したかもしれない。あえて言えば日本が勝ったことでもうあんな大会はしないだろう。それと映見が相撲から引退するきっかけにできるすなわちプロには行かないと云う一つの理由には都合がいいから・・・」


「監督・・・・」


 それは真奈美の本心ではないけどもプロでやっていくにはやっぱり生半可ではないし心の中で馬鹿にしていた桃の山の相撲は真奈美の相撲と云うものに対する浅はかさをまざまざと見せつけられた。勝手に映見を相撲選手としては最高傑作などとよく口に出して云えたもんだと・・・。


(結局私は映見に自分の叶わなかったを描いていたのか?映見は相撲が好きなだけでよかったのに私は・・・)










 


 

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