それぞれの道 ⑥
名古屋マリオットアソシアホテル、メインバー「エストマーレ」時刻は午後9時00分。英国調に統一されたインテリアは豪華客船をイメージしているとか・・・。
「何か納得いかないと云うか、そもそもなんで俺は招待されたんだが」と濱田光はネイビーブルーのアルマーニのシングルブレストジャケットを着こなし「イチローズモルト」をダブルで、
「みんなができたらまた来てもらえないかなぁって云うもんだから・・・でも楽しそうでしたけど?それにだいぶはしゃいでましたよね?」と吉瀬瞳は少しクラシカルな印象のホワイトのボリュームスリーブブラウスを着こなし「ストロベリージンフィズ」を、
瞳から部員みんなで大学で観戦するんでもしよろしければと誘いを受けたのだが最初はやんわり断っていたのだ。当然、話は真奈美との事を聞きたがってくることは容易に想像できる。真奈美が北海道に元葉月山と行った時は、昨日の今日というのもあったのだが自分もちょっとやりすぎた感があったし・・・そんな想いから真奈美の代理を引き受けたが・・・。
「どうして西経女子相撲部の部員達は俺を呼びたがる、どうせ真奈美がらみだろう?」
「みんな再婚相手のお父さんの事が興味津々だし、監督にとってどうなのかと・・・もうちょっと話をしを聞いてって、私はねちょっとプライベートなことに突っ込みすぎだからって云ったんだけど・・・なんか・・・」
「まぁーいいよ、ここで断ったら裏でなに云われるかわからないし、でもなんか試されてると云うか小姑がいっぱいいるみたいで」
「小姑って・・・」
「「小姑一人は鬼千匹に向かう」って感じだよななんか?」
「そんな風にならないように私が絞めるから・・・」
でどうなったかと云えば、大会が終わるまでは大会に集中するも大会終了後は映見のことがあったが異常なしと分かれば、当然、監督との再婚の話となりそれが男女関係とは?の話になりいつのまにか恋愛相談を受け最後はなぜか女子相撲部員との相撲対決!?。光も部員達も大はしゃぎだったのだが瞳は至って不機嫌と云うよりも実の父の人格に疑問符が・・・。
「最後の相撲対決はやり過ぎだと想いましたよさすがに、部員達もどうかしてるけどお父さんもどうかしてますよ!なんか錦のキャバクラ見たいだなぁーってどう云うことなんですか!」
「瞳、そんなのジョークに決まってるだろう。みんなだって無茶苦茶楽しそうだったしまぁー俺も楽しかったけど・・・」
「だいたい」
「瞳は真奈美そっくりだなぁー本当に・・・真奈美だってもう少し生きることに遊びがあればここまで相撲に人生を賭けるようにことはしなかったと想う。一途なんだよ真奈美は・・・」
「女子相撲・・・なんかって意味ですか?」
「高校の時から知ってるからね。必然と云えば必然だけど真奈美は相撲が本当に好きなんだよ、俺と結婚してから相撲の話も一切しなくなかった。俺は別にそのことを気に留めることこともなく。真奈美が監督の話をした時にやってもいいよと云ったとしても多分、遅かれ早かれ別れていてたと想う。意外とすんなり別れられたのは自分の中にそうなるかもしれないって予感はしていたんだ、女子大相撲も発足間際だったし・・・・」
「でも、真奈美さんはお父さんのところに戻りたいって・・・・」
「真奈美は型にはめてきっちりするタイプなんだ瞳だって相撲部で接しているんだからわかるだろうけど曖昧模糊は許さない。それは西経の強さであり弱点なんだけどその弱点は部員が監督をよく理解してるから弱点にならない。俺を呼びたがるのは部員達にとって息抜きだと想うよ、部員たちのはしゃぎように困惑したけど偶には羽目を外したい時もある。それにはいじり倒せるキャラが必要なんだよ。それが俺ってことなんだよ多分・・・」
「ずいぶん都合のいい解釈ですね?」
「今度、ちょっとみんなで小旅行とか行こうか、ここまで親しくなったんだしまぁーいいんじゃないのできれば真奈美は抜きで」と光は苦笑しながら
「日間賀島なんかベストだと想いますけど・・・」と瞳
「・・・・瞳それは・・・」光の顔が一瞬引きつる。
「お父さんモテますから・・・でもお父さんに相応しいのは真奈美さんしかいないと想いますけど」
瞳はチラッと腕時計を見る。時刻は9時30分を若干回っている。
「そろそろ帰ります」
「なんで、ちょっと顔だけ会わせればいいじゃないか、映見の事もあるし?」
「明日、大学で会いますから。それに二人の邪魔はしたくないんで」
「そうか・・・海外に行くって話は瞳からするか?真奈美はお前と一緒に住みたいみたいなことを云っているけど?」
「そうですか・・・でも一緒に住んだらあまえてしまいますから、西経女子相撲部主将として最後のシーズンは自分の集大成として、その経験を糧にアジアでの女子相撲普及の仕事に邁進します。そのうえで、もし日本に戻ってきたら西経で監督をしてみたいんです偉大な真奈美さんの後継として・・・」
「そうか寂しがるだろうけどなぁ、でも最後のシーズン真剣に楽しめ!そして次の道へ邁進すればいい真奈美にとってお前は頼れる部員であると同時に歳の差があるライバルだから・・・」
「親子関係じゃなかったら濱田光を獲りに行ったと想います。倉橋真奈美とバッチバチでそこに朋美さんの三つ巴の戦いに・・・」と瞳は笑みを浮かべながら
「瞳、その性格直せよでもそれじゃないと真奈美とはやっていけないか」
「ある意味、真奈美さんの調教師だと自負してますので」
「牧場に居るときは大人しいのにいざ競馬場に行ってパッドグで気合入り過ぎて本馬場のコースでは騎手がよっぼど上手く手綱と鞭を捌かないとまっすぐも走らない見たいな、まぁ俺はそこをうまくできるってことだよ」
「お言葉を返すようですが離婚してますけど?」
「・・・・・・」
--------メインバー「エストマーレ」午後10時10分---------------
光はレディーバーン8年をストレートで一口。かなり個性的なウイスキーではある。
「遅くなってゴメン。さくらと話してたら遅く何っちゃって」とブルックス ブラザーズのグレーのシングルジャケットで真奈美は現れた。
「悪かったな、疲れてるところ」
「まぁせっかくのお誘いだしロケーションも駅の上だし」
「なんか飲むか?」
「そうねぇ・・・」と真奈美はカウンター越しに奥においてある瓶を見ていると、真奈美の隣からスタッフが声をかけてきた
「倉橋様でよろしいでしょうか?」
「えぇ・・」
「吉瀬様からメッセージと「シャンパンカクテル」を」
「瞳?」
渡された二つ折りのメッセージカード
>(日本の優勝おめでとうございます。映見にとっては厳しい相撲になったけどさすがは西経の女王です。お祝いのカクテルを添えて・・・・。それと隣の人なんですか今日は相当羽目をはずしてましたんできつく絞めといてください。ではいい夜を)
「瞳さんと飲んでいたの?」
「あぁ・・・実は大学で相撲部のみんなとパブリックビューイングと云うか」
「大学?あなた何、うちの相撲部のみんなと見ていたの大会を?」
「あぁ、瞳に誘われてと云うかねぇ・・・なんかねそんな流れで・・・」
「あなたいつから西経女子相撲部の関係者になった?」
「えっ、いやいや瞳に誘われただけだから」
「ふぅーん、楽しかったですかうちの部員達に囲まれてさぞかし!」
「いゃーまぁー楽しかったことは楽しかったよ。(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪ってなんか怒ってる?」
「なにか怒られるようなことでもしたのかしら?」
「・・・・・」
とかなんとかどうでもいいやりとりをしながら、ゆっくりと時間は流れる。
「瞳さんの事なんだけど」
「瞳?」
「卒業後の事何か聞いてる?」
「なんで?」
「インターンシップにも参加してないみたいだし企業によってはもうとっくに昨年の秋には説明会だって始まっているのに」
「相撲部の監督はそこまで気にするのか?」
「そんなわけじゃないけど・・・」
「瞳は海外に行くらしい」
「海外?」
「青年海外協力隊に参加して女子相撲の普及促進を通してその国に貢献したいらしい」
「そんな話初めて聞いたわ」
真奈美には意外だった。昨年、ひょんなことで自宅に泊めた時はそんな話はしていなかった。ましてや起業したいとか云っていたのに・・・。
「瞳が相撲にそこまで拘っているとは思わなかったけどね、ところで真奈美はどうするんだよ」
「どうするって?」
「相撲部の監督だよ」
「どっかで頃合いをつけてやってくれる人がいればやってもらいたいけど、なかなかいなくて・・・」
「瞳にやってもらえよ」
「瞳に?」
「一生監督でもいいとは想うけど、瞳みたいな若い世代にチェンジするのも重要だと想うけど、それはもちろん本人の意向もあるけど」
「瞳、何か云っていたの?」
「いや」
真奈美は一拍おいて
「昨年ね、瞳を家に泊めたことがあったのよ、あなたが瞳と食事して私達のことで意見されてあなたが大人げない対応をした日」
「・・・・」
「あの日の夜、何気に「相撲部の監督やってくれるって云ったら考えてくれる」ってあの時は映見の事とかで色々あって自分に弱気になっていたのよそれとあなたの声を久しぶりに聞いて・・・」
「真奈美・・・」
「あの時、瞳を惑わすようなことを云ったのは悪かったなぁと想ったんだけど実ははるか前からそんなこと考えていたのね、全然そんな素振りすら見せていなかったから・・・」
「瞳にとって真奈美は尊敬に値する女性なんだよ。色々な意味で」
「尊敬?よく云うわよ。瞳は私より頭も行動力もあるしちょっととっつきにくいともあるけどみんなから信頼されてる。悔しいけど」
「ライバルだって云っていたぞ」
「ライバル?・・・そうかもね二回りぐらい離れているけど私も無意識に意識しているのよね。もし彼女がやる気があるのならいい監督になると想う。でも何も女子相撲ではなくてもいいと想うけど・・・」
「(* ̄- ̄)ふ~んらしくないなー」
「えっ?」
「何か女子相撲なんか見たいな云い方だけど?」
「本当ね、あなたと別れた原因は女子相撲だったのに・・・」
「でも、今や女子相撲は世界的なプロスポーツになっているんだから大したもんだよ。その中でも今度の大会では日本女子ここにありって感じで・・・」
「世代交代の時期なのよ。葉月山から桃の花に世代交代を印象付けたように、その意味では私も・・・」
真奈美の前に置かれたシャンパンカクテルのグラスに泡が数粒残るものの角砂糖はすでに溶けて消えてしまっていた。光はそのグラスをそして真奈美を見ながら、
「映画カサブランカのセリフにあるじゃないか「君の瞳に乾杯」って・・・そういえば真奈美ってイングリッド・バーグマンにそっくりだよな」
「イングリッド・バーグマンか、別離って映画あったじゃない」
「バイオリニストと大学生のピアニストの話か不倫だけど・・・」
「あの演奏シーンってレスリー・ハワードもイングリッド・バーグマンも実際に演奏していたのよね、特にイングリッド・バーグマンの演奏の熱さと云うか」
「真奈美はイングリッド・バーグマンのような生き方もできたはずだけどな。努力家でありながらそれを他人に見せず、いつも自然体で優雅に知的にでもビジネスでは徹底的な現実主義者。でもバーグマンのような熱い愛への情熱を持とうとはしなかった。いくらでもお前なら情熱的な愛を持てただろういくらでも・・・」
「私はあなたが想っているほど強くないから、本当は自分が傷つくのがやだったのバーグマンは女優だから演技をすることで強く見せていたのだと想う。私にはそんな演技できないし・・・たまたまそこに女子相撲があったそして監督という生き方に人生を賭けた、と云うかそこしか情熱をかけれなかったから・・・またあなたと会うとは想わなかったし映見と出会わなければ・・・」
「再会することがなければ・・・」
「そのほうが・・・・どうなんだろうなぁ・・・って話は違うけど」
「なに?」
「うちの部員と今日はそんなに楽しかったのよね、私もいたかったなーそんなに楽しかったの?」
「いやなんか色々接待されちゃってさぁそれで最後は相撲対決とかする羽目になちゃって」
「相撲?」
「三人選抜して俺に勝ち越したら食事奢るって話になっていい勝負したんだけどなんか集中できなくてさぁ若い女性のフェロモンにやられてしまったと云うか」
「(* ̄- ̄)ふ~ん、うちの部員はみんな知的なうえに若いから・・・年増の女と違って」
「いいよな・・・」
「そうねぇー若いっていいわよねぇ!あなたこれから西経女子相撲部出入り禁止ね!何考えているのよ全く!私のいないスキを狙って全く」
「いやいや、それは瞳に誘われてだから俺が一緒に見ようなんって一言も云っていないし」
「でも、楽しかったならいいわ。彼女達もあなたと知り合えて色々教えられることもあるでしょうから・・・」
「あれ?なんか妙に物分かりいいような・・・」
「私が物分かりいい女に見えますか?」
「えぇぇぇぇなんて云えばいいのかね?」と苦笑いする光
「まぁ偶には部のほうに来てあげて、その代わり事前に私に許可を得ること、わかりましたか」
「わかりました・・・」
結婚した当時は、こんな冗談めいたことも話す時間がなかったし話せなかった。何か光に気ばっかり使っていたようで、光を包み込んであげられるだけの包容力もなかった。フリはできても・・・。バーグマンのような演技はできないから・・・。
「ねぇ、あなただけ良い思いしてるのはしゃくだから今日はここのホテルに泊まっていかない?祝勝祝いで」と真奈美は多少意地悪く
「お嬢様、そこはちゃんとコンシェルジュフロアのいいところを押さえてありますので」
「手慣れてるのね」
「お褒めの言葉として・・・「Here’s looking at you, kid.」」とグラスを手に・・・。そして真奈美も・・・。




