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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの想い・それぞれの願い

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176/324

それぞれの道 ②

------墨南病院 一号病棟502号室----------


映見はアンナの強烈なぶちかましで土俵下まで叩き落され軽い脳震盪を起こし救急搬送され即検査。結論は、現時点では異常はなくも一応今晩は入院し経過が良好であれば退院ということになった。


 時刻は午後9時。病室には葉月監督が一人丸椅子に座りながら今日の取り組みの動画をヘッドホンをかけながら見ていた。本来なら女子相撲部監督である倉橋がと云うところだが高校性の石川さくらもいたので二人は先に帰京してもらった。検査後は病室で倉橋と瀬島の二人と雑談したのち二人は会場のほうに戻ってしまい映見自身は緊張の糸が切れたのか爆睡してしまっていたのだ。倉橋とさくらを東京駅まで送り葉月だけは映見の病室に戻ってきていたのだ。


「椎名監督・・・」


「あっ、ごめん起こしちゃった」


「いいえ、倉橋監督とさくらは?」


「八時の「のぞみ」で帰ったわ。倉橋さん本当はあなたと一緒にここに泊まりたかったみたいだけどさくらもいるし、それとここへ戻るとき玄関であなたの彼氏に声をかけられてね、話した?」


「和樹来ていたんだ・・・私、全然気づかなかった」


「そっか、あなたがあんまりいい寝顔だったんで起こせなかったか?」


「和樹、何か云ってました?」


「あなたを選手としてしてではなく力士として見たって、感動したけどちょっと嫉妬もしたって」


「嫉妬?」


「自分も相撲をしていたのに途中で投げてしまった。映見はどんなに苦しかろうと辞めずにましてやこんな世界大会に出場して世界のトップと取り合っていることに素直に称賛できない自分が腹立たしいって・・・・」


「何云ってんだがまったくもう・・・」


「電話でもしたら、私部屋出るから」


「明日にします。ちょっと言葉まとまらないし・・・」


「そう」


 そんなどうでもいい話ができるのは映見が大した怪我もしていないからなのだが・・・。


「監督、ちょっと聞いていいですか」


「何?改まった云い方して・・・」


 映見は一呼吸置き。


「もう、相撲界を去ることを本当に決心されたんですか?」


「えっ・・・、あぁ最初はねそんな大げさではなくちょっと相撲以外の世界も見てみたい程度だったのよ、でもこの前、倉橋監督と日帰りの墓参りに北海道に本当に久しぶりに生まれ故郷に行ってね。私の過去のこと知ってる?」


「多少は・・・・」


「もう身内は誰もいないのだから女子大相撲に自分を賭けてきたんだから引退後は後進の指導なり今度は各地域の部屋が東京に集中し部屋数も増えて力士の募集枠も増える。将来は部屋を持ってとか云うのが常道なんだろうけど何かそのことに自分の思描いてたものと何かずれているの、理事長にね引退したら相撲界から離れたいって云ったら「元絶対横綱から相撲を取って残るものがあるのかしら」って云われてね・・・確かに相撲がなかったら今の私はなかったそれは事実だし、それを考えれば女子相撲界のために尽力するのは当たり前なんだけど」


「葉月さんがそうお決めになったのなら私が何か云う立場でもないんですが、私には何か無理矢理に相撲から決別しようとしているようで・・・そんなに明確な区切りをつける必要があるのかと?」と云った瞬間、映見はそう云ったことに何か罪悪感めいたことをつい口に出してしまったと・・・。


 葉月は窓から夜景を見る。すぐそばをシルバーの車体にイエローラインの総武各停が走る。


「自分に対してのけじめなのよ。騎手を目指していた自分が体格的問題で無理だと思ったとき相撲に出会った。でもそれは単に学生スポーツとしてであって本音は馬の仕事がしたかったの、それは競走馬のビジネスとしての仕事を、でもそれも実家の牧場の経営危機そして破産、そして・・・現実の厳しさを見せつけられた。本当にその気があるのなら女子相撲なんか行かず牧場でも何でも馬関係の仕事はあったのよ。でもそれを選ばなかった。椎名牧場の娘さんって云われるのが嫌だったということがどこかにあったのよ。くだらないプライドが」


「葉月さん・・・」


「椎名牧場を引き継いでくれた牧場へ行って久しぶりに牧場の空気を肌で感じてね、日高から逃げったかったから女子相撲界に行ったのよ意識になくても、でもいつのまにか女子大相撲で生きていくことにプライドを持つようになって・・・人生なんかわからないものよね。でも、力士を引退してから頭の中に椎名牧場のことが走馬灯のように浮かぶことが多くなってね。妙に感情が揺さぶられて現役時代はそんなこと想うこともしなかったのに・・・」


「心は相撲ではなかった?」


「絶対横綱の称号までファンやアマチュア選手の憧れとか目標とか云われている私がなんか女子相撲を愚弄する云い方して幻滅したでしょ」と葉月は映見の顔を見ながら・・・。


「私も含めてアマチュアの女子相撲選手は葉月山は憧れであり目標であり・・・そして相撲をやっている女子達に相撲をしていることえの気恥ずかしさを払しょくしてくれた。でもそんな葉月山さんの裏には色々な葛藤があったんだって最近知って・・・」


「引退して、相撲を見る視線も変わって力士ではなく一人の相撲ファンとしてプロ・アマチュア問わず試合を見たり選手や力士達の接触してみんな女子相撲にプライドを持ってやっていることに改めて感じたわ。映見の云うとおりなら少しは女子相撲のためにはなったのかなぁって・・・これから女子相撲はさらに世界的になっていくわ。


 私が女子相撲界から去ったところでその流れは変わらない。これからは桃の山を筆頭とした新しい世代の時代、そこに力士として重鎮の百合の花がいるから日本の女子相撲はある意味盤石だと思っている。もちろんアマチュアも含めてね、そこから女子大相撲に行くのもよしアマチュアとして生涯現役でもまたよし、そんなところかな・・・。映見もまだまだ大学生として相撲をやってくれれば嬉しいし私もあなたの相撲楽しみにしてるから」


「今日の相撲でプロの厳しさを痛感しました。正直云うとアンナさんは手加減してくると想っていたんです。世界最強の力士であるアンナさんがガチな相撲でくることはないだろうと、でも甘かった。あそこまでのぶちかましは経験したことがなかったし、でもこの大会はプロアマ混合での国別対抗の大会であるのだからあたりまえだったんですよね、女子大相撲はそんな厳しい世界だって・・・」


「アンナさんはあなたとの真っ向勝負をしたくなかったとも云えるんじゃないかしら?勝負に徹したかかったら・・・ただあの相撲はアンナさん自身も迷いがあったのだと思う。でも女子大相撲の世界も変わらないわよ。映見は医師の国家資格を目指しているわけだし相撲は大学で終わりなんだからまぁ一つの経験として、幸いたいしたことがなくてよかったけど」


「私・・・」


 映見は、葉月を真正面に見据え


「国家資格を取得出来たら一旦医師への道は休止して女子大相撲に行きたいんです。今日の大会を経験してその想いはつよくなりました。うまくいって制限ギリギリの25歳で入門できれば・・・」


「やめときな映見」


「えっ・・・私は本気で」


 映見の熱い思いは嘘ではないことは彼女の眼を見ればわかる。でも・・・


「二十五歳で入門して何年相撲ができる?女子力士のピークはせいぜい三十手前まで、そこまでに幕内に上がるのは至難の業だと思う。今のあなたなら女子大相撲に入っても幕内力士と大差ないと思う、でもね三年後四年後にどうなの?もちろん大学時代の成績次第では幕下上位からスタートはできるかもしれないけど・・・・」


「だとしても、ここまで相撲をしてきたのだからどうしても女子相撲の最高峰で相撲をしたい!もちろんこの先の私の相撲がどうなるかはわかりませんがそれでもあの世界に行ってみたい相撲をしてきた女性として、たとえ一年で廃業するようなことになっても私は後悔はしない。憧れであり目標であった葉月山さんがいた世界に行ってみたいんです」


 この大会が終わったら自分の答えが見えてくる。そんなつもりで臨んだこの大会、最後はぶちかまされ土俵下に叩き落され病院送りになるとは考えもしていなかった。病室で一人で考えていたことは少し先の自分の事。目標はあくまでも医師の国家資格を取り医師になること。それは子供の頃からの目標である一方。女子相撲力士で挑戦してみたい想いが中学生ぐらいから心の片隅に・・・。そしてそこには葉月山と云う偉大な力士がいたのだ。そしてその答えは見つかったのか?


「西経出身の力士はみんなみんなそれなりのスキルを持っていて何も女子大相撲の世界に飛び込むことはないのにって・・・伊吹桜に昼間云ったのよ、さっさと引退して女子相撲界の裏方の仕事をしろって、確かに伊吹桜はけして恵まれた体格ではないけどここまでやってきた春場所の成績次第では大関昇進もあるでしょうでもね私は彼女はビジネスと云う場面で力が発揮できると想っているのよ。それを云ったら激高されてね」と葉月は笑いながら


「伊吹桜関は倉橋監督に似ているところはあります。監督も本当は相撲以外の場所でもっと活躍できるのに、でもそれは周りが云っている話で御本人は逆に相撲以外は考えられないみたいな、ただ監督はそのことに少し後悔はあるみたいですが」と映見


「最近ね女性力士として相撲をとっていたのは夢だったのかと思う時があるのよ、桃の山のお母さんである当時の妙義山にスカウトされてまだまだ日本では認知度も低かった世界はすでに盛り上がっていたのに、でも私はこれからどうなるのかわからない世界へそれしか選ぶことしかできなかったから、消去方での選択しかなかったのよ。でも、それは私の想像も及ばないほど日本でも認知され世界はもっと、でもね引退して、ふと自分を振り返った時私が競走馬と共に生きてきた想いが日に日に強くなってね・・・あっゴメンね何云っているの私、自分の中に入り込んじゃって」


「だったら、私もその夢の時間が短くてもいいから過ごしてみたい相撲をやってきた集大成として、それじゃだめですか?」それは映見の本心。そこに脚色は一切ない、本当の自分の気持ち。


「そうね、アマチュアとして世界の強豪と戦ってきたあなたからしたら当然よね。でもそれは夢の時間、それが終われば現実に戻る。あなたは医師を目指しているのだからまずはそれ、そのうえで女子大相撲の世界に行くのなら私も力にはなれないけど応援するわ。多分、倉橋さんも私と同じく・・・」


 葉月は柔らかい表情でベットに腰かけている映見を見る。


「どうかしましたか?」


「私が少女の時求めていたのはあなたみたいな生き方だったのよ。自分のしたい勉学に励み相撲に熱中して・・・でも厳しい現実には逆らえなかった。映見!本気でそう思っているのならやってみなさいよ!結果はどうあれ自分に納得しきれるのならやった後悔よりもやらなかった後悔のほうが多分一生尾を引く。遅まきながら私がやれなかった馬の仕事をやってみようとそれと女としての生き方も、少し寄り道はしてしまったけど・・・」


「葉月さん・・・・」


「馬と共に成長して本気で騎手を目指していたあの少女の頃に・・・タイムスリップしたかのように」


 葉月の瞳から一滴の涙が頬を伝わる。それは悲しみなのか嬉しさなのか?。


「夢は正夢になって葉月さんの第二章が始まる。頑張ってください、私の夢は三年後どうなっているかわかりませんが・・・」


「映見・・・」


 葉月はおもわず映見を抱きしめてしまった。そこに意味などないただ映見を抱きしめるだけでそしてそこから感じるものが葉月の胸を熱くさせる。それは映見も同じ・・・。年は違えどそこには相通ずるものが双方ともに言葉にできないものがあるのだ。





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