最終決戦 ! 日本vsロシア 深緋色の決意 ⑫
----------放送席--------------
「さぁーいよいよ最終決戦であります。ロシアは現役最強力士でありアマ・プロ問わず優勝は数知れず特に絶対横綱・葉月山とは名勝負を繰り広げてきた絶対横綱アレクサンドロワ アンナ。
そして対する日本は、母は初代絶対横綱妙義山、父は大関鷹の里、まさしくサラブレット。天性の恵まれた才能と体格、容姿含めファンから愛される人気者ではあります横綱・桃の山であります。
二度の水入りを挟んでの三番目は両者の代理を立ててと云う話でしたがフタを開けて見れば再度この二人と云うことに相成りました。行司が仕切り線の前に立たせます」
--------土俵上-------------
桃の山が腰を下ろすとアンナもゆっくり腰を下ろす。
「見合って・・・はっけよい!!」二人とも両手を着き立ち合い成立
アンナは左で張って右を差そうとすると桃の山は頭を低くして右差し左おっつけ狙いの恰好、 アンナ左を伸ばして上手を掴もうとしたが届かない。
「ノコッタノコッタノコーッタ!! ノコッタノコッタノコーッタ!!」
「くぅぅぅっ!!」
「んん~~~っ!!
両者左からおっつける形、桃の山の右肘が上がったが、今度は 左で上手を狙うが、アンナ右腰を引いて嫌うと桃の山は左でおっつけてアンナの右を殺す。
「いやぁぁぁぁっ!!」
「くあぁぁぁっ!!」
アンナもしつこく左おっつけで肘を攻めると、 押し上げながら右をまた差そうとする。桃の山は左おっつけから外筈で強引に押し上げる。激しい押し合いからアンナ、 左に廻って網打ちのような突き落としで振り、右を差そうと半身になるが、頭をつけてついていった桃の山は左で肘を押さえ、 次いで左外筈の恰好でおっつけて許さない。
「ノコッタノコッタノコーッタ!! ノコッタノコッタノコーッタ!!」
「くぅぅぅっ!!」
「んん~~~っ!!
(あれだけ疲弊しきってしまったのに何故か力が漲ってくるまるで土俵から力を注ぎこまれているように・・・)
(不思議だこの感覚・・・。そう葉月山と対戦する時はいつもそうだった。二人とも汗がほとばしるほどの大相撲でもやっている最中に疲れを感じることはなかった。無限に終わりのない・・・そんな相撲だった。桃の山には葉月山と同じものを感じるんだ!)
「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」
「ふんっ!! くぅっ!! んっ!!」
「くっ!! あくっ!! うんっ!!」
桃の山はさらに左で横褌を取にいく。アンナは腕捻りを引くが、桃の山はさらに左を引きつけようとした。 アンナ左に変わって右で頭を押さえながら左小手投げ気味に引っ張ろうとすると、桃の山は左が切れたが右下手、アンナの左突き落としに左おっつけでついていき、 膝を取りながら雪崩れ込んで桃の山の寄り切りの体勢なのだがどうしてもその先の一歩が出ない。
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ…」
「はぁ、はぁ、くぅ、はぁ…」
桃の山はここから寄り切りで行けるはずだったがまたもや・・・・。
「…はっけよぉーい…」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
またもや土俵際での膠着状態。体勢的にはアンナが殆ど俵に足がかかるかからないかの状態で圧倒的に桃の山が有利なのだがあと一押しが繰り出せないのだ。
(なんで!あと一歩なのに!)
(さすが若いだけあって勢いはあるけど攻め疲れか、気持ちだけが先走っても息を入れられなければばてるだけだ。微妙にいなしていけば手をこまねていくそれだけでも精神的に負担は大きいしどうしても強引になって動いてくるがそれじゃ体力の回復にあてる時間なんかないよ)
「…はっけよぉーい…」
(もう本当にもたない!一気に勝負に行く!)
桃の山は強引に上手投げにいったが!アンナに上手くいなされて下手出し投げで逆襲!体制を崩された桃の山だが何とか堪える。しかし、ここからがっちり下手両まわしを取ると渾身の力で桃の山を吊り上げると一気に土俵中央まで押し戻した。
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ…」
「はぁ、はぁ、くぅ、はぁ…」
アンナの息が荒くなるがここさらに波状攻撃のがぶり寄りをしかけ一気に桃の山は土俵際に!
館内からは悲鳴にも似たような声が・・・。
「ノコッタノコッタノコーッタ!! ノコッタノコッタノコーッタ!!」
土俵際、絶体絶命の桃の山!アンナの腰は桃の山の腰は浮き上がる。それでも何とか堪える桃の山。
(もうだめ・・・)
(もらった!)
桃の山の体勢が崩されていく。桃の山の腰が砕けたような形になりアンナは自分の全体重を桃の山に乗せて潰しにかかる
「いやぁぁぁぁっ!!」
「くあぁぁぁっ!!」
しかし、桃の山は若干半身の状態、そこへ潰しにかかったアンナではあったが・・・。
(まずい!)
アンナの体がいなされる形で左肩から落ちていく。それでも桃の山は死にたいと云っていい状態。
(なに?なんかかかった!?)
桃の山は倒れる寸前に無意識と云うか偶然と云うか右足がアンナの左足にかかったのだ。
(何!?)
アンナは桃の山の予想だにしない動きに何もすることができない。すでに桃の山に全体重をかけて潰している最中に軸足の左を引っ掛けてきたのだ。アンナの左足は五本の指以外は浮いている状態、重心のすべてを五本の指にかかり勝つ前のめりの体の状態で足をかけられては対処のしょうがない。
ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」
「ふんっ!! くぅっ!! んっ!!」
「「いやぁぁぁぁっ!!」
「くあぁぁぁっ!!」
二人同時に土俵の外へ、行司は一瞬躊躇したが軍配はアレクサンドロワ アンナに館内は一瞬なんとも云えない。しかし、審判団から手が・・・・。
--------------放送席----------------
「審判団から手が上った物言いです。行司軍配はアレクサンドロワ アンナに上がりましたが物言いです」
「解説の遠藤さん如何ですか?」
「体勢的には桃の山はすでに浴びせ倒されている状態なのでアンナの勝ちかと想いましたがそこをうまくいなして桃の山の左足とアンナの左肘でしょうか同時に落ちたようにも見えましたが」
「遠藤さんがおっしゃる様に体勢的には桃の山不利とも想われますが・・・」
「さすがに同体とはならないと想いますが二人にとっての取り組みがここまで厳しいものかと・・・・」
「VTRが流されていますが、アンナが土俵際でさらにがぶり寄って桃の山が体勢が崩れた時桃の山の右足がアンナの左足の膝裏に当たってアンナの体勢が崩れ左肩から前のめりになった時に、桃の山は右腕で肩から首のあたりを叩き落としているようにも見えます。ただ、アンナが左肩から落ちた時点では桃の山の左足が俵に残っているように見えますが非常に微妙な感じです」
「私的には桃の山の足が俵に残っているように見えますが・・・・」
「なかなか審議に時間がかかっているようですが・・・」
「水入り二回挟んでさらに再度取り直しは・・・・」
------------土俵下 関係者席-------------
紗理奈は平静を装ってはいるがとてもじゃないが冷静に娘である桃の山の相撲なんか見れなかった。血沸き肉躍るではないが魂が熱くならない訳がない。今まで娘の相撲を目の前で見てなかったのは娘との確執とかそんな話ではない。確かに独断で女子大相撲に入門したことは許せなかった。それでもこの世界で実力でここまで上がってきたそれは素直に認めている親として・・・横綱昇進の件も結果論で云えば間違えではなかった。世界最強力士と云われているアンナとの死闘を見れば忖度横綱と云う言葉は一瞬で木っ端微塵で消えてなくなり二度と云う奴はいないだろう。じゃー何が桃の山の相撲を見ることを恐れていたのか?
それは、力士として切っては切れない怪我のこと、それは自分の怪我もそうだが相手に怪我をさせる事、そんなことは相撲をやっていれば当たり前の話だが・・・・。
十和桜の母である十和田富士との対戦で全治三か月の大怪我を負わしたことは相撲をやっていればそういうことは当たり前のことだし実際、土俵下で立ち上がれない十和田富士を見ながらしてやったりと云う顔をしたし「ざまーみろ」と想ったが、後に療養中の十和田富士から「私はこれから力士としてどう生きていけば」と相談を持ち掛けられたことは紗理奈にとってはなんとも云えない何かをえぐられるような・・・・それでも現役当時は食事に行ったり温泉にも行く仲ではあったが、それも十和田富士引退後はぱったりと連絡も取ることがなくなった。その後忘れかけた時にやってきたのが十和桜。紗理奈にとってはそれは十和田富士の代理としてやってきたようでそして新弟子検査で云われたあの一言。
「横綱になってリベンジしたいって・・・」
それは、現実になり桃の山にとって十和桜はもっとも難敵な力士に、それは相撲はおろか精神的な弱さと云うより優しさと云う弱さが馬脚を表すようになってしまった。そんなことがいつしか目の前で相撲を見ることに躊躇していたのだ。でもそれも過去の話なのか?アンナとの死闘は自分の知っている娘ではなかった。
(鬼の妙義山の娘・・・か)
土俵下で膝に手を着き顔に汗が噴き出て玉になっている。砂まみれの足元、そして燃えるような深緋色の締め込み。それは、若き妙義山を彷彿とさせる若き自分を見ているようで・・・。
そんなことを想うほどに桃の山は女子大相撲力士として、そしてそれは母である妙義山を越えたと云う事を自分自身が認める事。
(愛莉(桃の山)!素晴らしかったよ本当に・・・よくこの逆境を乗り越えたわね。今日いい稽古をしたからって明日強くなるわけじゃないでも、その稽古は2年先、3年先に必ず報われる自分を信じてやるしかない。大切なのは信念だよ」と千代の富士が云ってたけどあなたはもっと強くなるわ!本当によく頑張ったわ)
紗理奈にとってはもう勝ち負けはどうでもよかった。今は理事長ではなく母としてしか見れなかった。頬を流れる一滴の涙は何を意味するのか?厳しかった表情はいつの間にか緩んでいた。
(愛莉・・・・)
娘が自分を超えたとことを認めた瞬間だったのだ




