最終決戦 ! 日本vsロシア 深緋色の決意 ⑪
----------放送席------------
「二回の水入りと云う異例の展開になったうえに、二回目の再戦は両者の疲労を考慮して代理を立てると云う展開になりましたが遠藤さんはここまでの展開と展望はどう見ますか?」
「代理と云うのは団体戦だからこそできる形式ではありますがここまで来て代理を立てると云うのはちょっと見ている方からすると納得いかないし両者にとっても納得は行かないのではないでしょうか?有利不利の話で行けば日本は代理を立てるにしても選択は高校生の石川さくらです。
それは考えたら日本側にとってはあまりにも不利です。この大事な一番をアマチュアの高校生にさせると云うのは、ただ代理を立てることもできると云う考えで行けばここは再度桃の山が出るべきだと思いますが」
「代理を立てずに桃の山が再度と云う事ですが、ここまでの相撲を考えたらとても真面な相撲ができる状態ではないと思いますが?ましてやロシアはプロ・アマ両横綱が万全なのですから明らかに不利なのでは?」
「ここまでの戦いは両者称賛に値します。ですから本当は再度両者でやるのが筋ですがロシア側からの代理でと云う提案に明らかに不利です。そのうえで日本がこの提案に乗ったと云う事は私は桃の山を出すと云う意味だと思いますしどの道桃の山にとってもこの大一番を棄権させて高校生で勝負と云うのはあり得ないしやらすべきではありません。桃の山はこの一番に今までの相撲人生を賭けるべきです。それをしなければこの先はないと・・・・」
「わかりました。そろそろ両国の代理の選手及び力士が入場するものと想われますが画面の方は東の通路にカメラが切り替わりましたが、控え部屋から日本チームのメンバーが出てきましたが・・・あぁーどうやら桃の山が代理を立てずに土俵に上がるようです!先頭に伊吹桜・十和桜、そして後ろに石川さくらを引き連れ館内に入って来るようです。遠藤さんが云われていたように日本は桃の山で続行するようですが、あぁー館内は桃の山が映し出されたオーロラビジョンに歓声が上がっています。すいません話が途切れまして、遠藤さん桃の山で日本は勝負するようですが」
「意外と云うより私は当然だと思います。ここで桃の山が石川さくらに代理でと云うのはないと想っていましたので、間違いなく消耗はしているでしょうがここまでの桃の山の相撲は少なくとも今までのなかでは最高な物だと想いました。この一番の結果がどうなろうと私は桃の山は女子大相撲の誇りだと思っていますので今できる全力の相撲を期待します」
「わかりました。さて西側のロシアチームなのですがまだ控え部屋を出ていないようですが、時刻の方はまもなく三時になりますが選手の選定に迷っていると云う事なのかちょっと時間がかかっているようです。と云っている間に館内に桃の山が入場して来ました。割れんばかり大歓声です、やはり観客のみなさんは桃の山を期待していると云う事でしょう」
東の花道から土俵下へ通路脇の観客達は一斉に桃の山の方に顔を向け拍手なり声援なりそれは関係者席も同じそこには百合の花も顔向け無言ではあるが表情で声援を送ってくれているように、その中で通路脇から何席か間を置いた場所にただ一人土俵を注視している人物が・・・・。
(お母さん・・・)桃の山はその後ろ姿ですぐにわかった。何回かここ通っていたのにも係わらず全く気付かなかった。確かに観客を見る余裕もなかったほど緊張していたのだが・・・葉月監督に云われなかったら気づかなかった。
桃の山はチラッと横目で母である紗理奈の様子を見る。紗理奈は一切直接的に見ることはなくただ前に見える土俵をに見つけるように、意図的に直視することはしなかったがそれでも桃の山にとっては十分なのだ。
(ありがとうお母さん)
桃の山にとってはそれだけで力と勇気が湧いてくるのだ。ここで勝つことは自分のためでもあるが母のためでもある。世界最強クラスの外国人力士相手に勝つことが・・・。
そして間をおいて、葉月と璃子が館内に入る。
「いよいよですね。正直云うと桃の山の件もあってここまで来るのは無理かと想いましたが」と璃子
「日本としては決して万全な状態ではなかった。実際百合の花は故障、映見も、そして桃の山の精神的なハンデ・・・でもなんとか突破できた。そこには高校生のさくらの活躍は計り知れない、運が良かったって云ったらさくらに怒られますがそれでも実力がなければ運も向いてくれませんから」と葉月
「さくらは日本にとってはちょっと幼いマスコットと云うか・・・・」
「璃子さん彼女は皮を被っているだけで意外としたたかですよ、男何って「ころっ」と騙されそうな」と葉月は含み笑いを浮かべて
「そうかもしれませんね」と璃子も笑みを浮かべながらも・・・・。
「冗談はともかくロシアが入場して来るのが遅いですね?今更選定に迷う事なんか」
「こっちの出方を伺っているのかのようですが?ただこっちは高校生のさくらと消耗している桃の山なんですからロシア側からすればどっちに転んでも圧倒的に有利だと・・・」と璃子
「若手筆頭の横綱コヴァルベラ・アマチュア無差別クラスのロシア女王ダヴィ・オルガどちらが出てきても桃の山にとっては苦戦は必至でしょうましてや消耗しきっているのだから・・・・でも」
そんな話をしている時、オーロラビジョンに映し出された映像を見た観客達の一瞬のざわめきは大歓声にかわった。
オーロラビジョンに映し出された映像にはアンナが西の出入り口から入場してきたのだ。その後ろにはチームの面々も監督・コーチもいないたった一人での入場。多少の緊張感は隠せないがそれでも世界最強力士に相応しく威風堂々の入場。ただ一人での入場は違和感を感じずにはいられない。アンナは土俵下で軽く体を動かすと審判団の方に行き何やら英語で会話を交わしている。
「葉月、アンナって・・・」
「意外ではあるけど・・・」
(意外ではあるけれどアンナさんならこの選択なんでしょうね?でも控え選手はおろか監督・コーチ陣も入場しない何って?)
「チームのなかで何かあったな?」
「えっ」
「ロシア側から提案してきたこの大会でましてやこの大事な大一番でアンナ以外誰も入場しない何ってあるか、アンナにしたって桃の山に映見と同じようにぶちかましで勝負を決めれば間違いなく決まっていたのに敢えて四つ相撲を選択した・・・・。桃の山が葉月山に見えたよおまえも同じじゃないか?そこに勝負以外のものを求めていたように、アンナは勝負以外のものを求めていた桃の山に、アンナの本音からしたらお前との対戦を望んでいたけどそれを桃の山に・・・・」
「璃子さん・・・」
「チームとしてアンナを出す選択なんか普通はあるわけがない。ロシアは勝ちに来てるんだから消耗しているアンナなんか出すわけがない。だとしたらアンナ自身のスタンドプレー、これで負けたらアンナは引退だろうがそれより前に除名だろうな協会から・・・アンナ一人で入場と云うのがすべてを物語っている。彼女を何を想って土俵に立つのか・・・」
璃子は葉月にストレートな物言いで云ってきた。アンナはチームとしての意志を無視して桃の山との勝負をした。勝負はついていないとしてもそれはロシアチームとすれば全く意に反する取り組みだった。ウクライナ代表当時のアンナならばチームとしてはアンナの意志を尊重しただろうが今は違う。勝つことを最優先にそこに個々の意志は尊重されない。今のロシアチームにおいてアンナはチームの意志に背いた。そのことがロシア側にアンナ以外は誰もいないと云う光景になるのだった。
しかし、そんな事とはいざ知らず観客達は桃の山に負けないくらいに、ロシアの絶対横綱アレクサンドロワ アンナに声援を送る。日本人からしてみれば勝ちは桃の山に譲れないのだが、また桃の山との対戦を見れると云うワクワク感と代理を立てて改めて勝敗を決めると云うとにある種の失望感をもっていたのにフタを開ければアンナがもう一度土俵に上がり桃の山と再々ど対戦すると云う男子の大相撲でも例がないある種の死闘は勝敗云々を超越したものを観客達に感じさせているのだ。敵味方関係なく二人に声援を送りたくなる。
「この取り組みにつきましては、水入り前の状態ではなく新たな取り組みとしておこないます。なおこの一番におきましては再度水入りになった場合はその時点で引き分けと致します」と館内放送が審判団から流されると自然と拍手のような物が湧いてきた。ここまでくれば万が一水入りになったら引き分けで納得すると云う事だろう。
---------土俵下 (日本側)-----------
「横綱!」とさくらは桃の山を凝視して両手で手を握る。否応なく力が入る。
「さくら、気合入り過ぎだよ。相撲するのは私なんだから」
「あっぁぁすっすいませんなんか私がものすごく緊張しちゃって」と必死に笑おうとするのだが表情は極度に強張ってしまう
「私、今凄く嬉しいし俄然相撲をするのが楽しくて、物凄い重い緊張する取り組みだけどアンナさんとまた相撲がとれる。そんなことは絶対ないと想っていたのに、アンナさんの気持ちはわたしと一緒だと想う」
「いっしょ?」
「二回の水入りを挟んで私もアンナさんもヘトヘトのはずなのに何か漲るものがあるのそれはここまでやってこれた強い気持ち、そしてお互いを認めていると云うか私はアンナさんに少しは認めてくれたのかなってだから再度土俵に上がってくれているんだとだったらそれに私は応えなければそれはアンナさんに対してもあるけど自分自身のため・・・・」
「やっぱり桃の山さんは横綱ですね。私だったらそこまで考えないと・・・」
「さくら、私は女子大相撲に入門したことは間違えではなかったって胸を張れる。本当に」
「私も相撲をやってきたことに誇りを感じます。本当に」
--------土俵下 (ロシア側)----------
アンナは土俵の仕切り線を見ながら両手を上げると深く深呼吸をしてその仕切り線の遠くに見える。葉月を注視していた。
(私の最後は葉月山とやりたかったと云うのが本音だったけど桃の山との水入りを挟んでの相撲はあなたとの相撲をダブらせるもその域すらも超えている。日本の次世代を支えるであろう桃の山はもう私達の域を超えている。
もちろん経験不足は否めなくてもそれは相撲をするごとに詰めるもの・・・チームとしてこんな形で土俵に上がることに違う意味で後ろめたさは感じるがロシアの次世代の力士達に私の姿を見て感じて欲しいんだ。彼女達は土俵下で応援したかったようだが私の犠牲みたいなことになってほしくなかったので、これでいいんだ。葉月山!私の最後の渾身の相撲見てくれよ!)
土俵に行司が上がり、二人に土俵に上がるように指示をする。そして二人が土俵に上がると館内は一気に大歓声に・・・・。二人が四股を踏むたびに「ヨイショ!」と掛け声が飛ぶ。
(アンナさん感謝します本当に・・・今の自分にできる全力の相撲で)
(私の最後の相手が桃の山で本当に良かった。もう国の名誉のためなどどうでもいい!私のため私の相撲のフィナーレを飾る最後に相応しいすもうができれば!)




