最終決戦 ! 日本vsロシア 深緋色の決意 ⑨
「ノコッタノコッタノコーッタ!! ノコッタノコッタノコーッタ!!」
「くぅぅぅっ!!」
「んん~~~っ!!
永遠に終わらないのでは?そう思わせるほどの二人の取り組みはもうじき十分を迎える。二人の足元は砂まみれ、汗の上に砂をまいたようになっていて張り付いていてまるでモルタルを吹いたような足元。けして長くない女子大相撲の歴史においても過去五分を超えるような大相撲はあったことあったが流石に水入りを挟んでさらに五分を超えるような相撲はない。
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ…」
「はぁ、はぁ、くぅ、はぁ…」
両者の息遣いと云うよりももう酸欠しそうな魚のように口さえをも閉じられないほどに・・・。
審判団がざわついている。今の現状においてはこのままの続行は二人の生命にもかかわるような状態にもなりかねない。荒れ狂うようなお互いの息遣いではあるがそれでも時折、両者無呼吸状態になることがある。呼吸をするだけで隙が生まれる。そこを狙われると云う意識がこの状況下でも両者の頭にあるのだ。
-------放送席----------
「まもなく十分を超える大相撲になっていますが、再度の水入りになるのか?さきほど遠藤さんから指摘がありましたが確かに再度水入りを挟んでしまったらもう真面な相撲はもうできないとのことですが確かにいま土俵上に立っている事さえ奇跡なのかもしれませんが」
「この取り組みが女子大相撲なら不成立にすると云うこともあるでしょうがこの大会の目的がこれからの世界の女子相撲の主導権争いを画策するという裏の一面があるとしたら果たして両国が痛み分けで納得するとは到底思えません。なんとしても白黒つけるとしたら本当にどちらかが倒れるまでやるしか方法はありません」
解説の遠藤美香は、関係者席に座って観戦している紗理奈を見る。腕組みをして厳しい表情で土俵の戦いを見ている姿勢は微動だにしない。
(あんただったらどうする?ここで水入りにしたらもう二人とも真面な相撲はできない。引き分けにして両国優勝でまとめるかい?わたしだったらそんなの絶対認めないけどねぇ。あんただってそんなのは一番嫌いだろうが!)
「あぁー審判団から再度手が上がり水入りの指示が入りました。先ほどと同じく行司が中断を両者に告げその体勢を保持したまま足の位置に砂を盛りマーキングし組み方などをよく観察した上で、やっと両者を引き離そうとしますが組んだまま外す事さえもできないほどに意識も朦朧としている状態のようです」
再度行司は両陣営から二人を補助するようにと指示を出すとロシアは若手筆頭の横綱コヴァルベラとアマチュア無差別クラスのロシア女王ダヴィ・アンナ、日本はさくらと十和桜が桃の山の組んでいる手を外しにかかるが手どころか指さえも自身で動かせない。やっと外すことに成功したが・・・・。
「アンナさん!」
「桃の山さん!」
二人とも両膝から崩れ落ちとても自力では歩けないほどに、館内は二人の大相撲に拍手喝采と称賛の言葉が飛び交うが二人にとってそして日本とロシアにとってこの取り組みをどうするのか現状の二人の状態ではとても休憩を挟んだとして再開するべきなのか?
二人とも結局はチームメートの肩を借りる形でやっと土俵からは降りたが・・・。
「えっー再度水入りとなりましたがこの後の取り組みに関して協議を致します。暫くお持ちください。なお、両国の監督・コーチ及び審判団は東の花道奥の第一会議室に集合してください」
----------放送席--------------
「館内放送にあったように、この後の取り組みをどうするかを協議するようです。状況次第では再開せずと云うこともあると云う事でしょうか?解説は元横綱三神櫻の(遠藤美香)さんです。さすがにここまでの大相撲になるとは考えてはいませんでしたがこのまま再開せずに両国の優勝と云う形で終わらせると云うことあると云う事でしょうか?」
「私は、先ほども云いましたがこの大会においての経緯を考えれば白黒を付けずして終わらせると云うのは、私は良いことだと思っていません。云い方は悪いかもしれませんがこの大会はロシア側からの提案ましてやプロ・アマ混合と云うかなり特殊な大会であり開催に当たってはそもそも日本側は難色を示していた聞きます。白黒つけずに両者優勝でこの大会を収めることをロシア側から提案してくればそれはそれですが・・・」
-------関係者席---------
本来なら理事長である山下紗理奈は土俵に近い関係者席ではなく三階の役員席から見るのが普通だが観客として見るにはここしかなかった。そのかいあって娘、桃の山の相撲はまじかで見れたそれも大相撲の・・・。しかし、それは度を超えた大相撲。水入りを挟んでなお十分近くの大相撲のうえの再度の水入りは、妙義山としての時代も経験がない。
「理事長、すいません」と声を掛けてきた秘書の女性
「なんだ」
「第一会議室の方へロシア相撲協会会長も協議に加わりますので理事長も・・・」
「この大会の実行にトップが口を出すのか?協議は審判団の仕事だろう?」
「ロシアが何かしらの提案をしたいらしいのです。それは両者引き分けと云う選択ではなく」
「それは水入り後、再度再開して決着をつけるだろうそれ以外の選択はないと思うが」
「二人の代理を立てて再開すればいいじゃないかと云っているそうです」
「代理?」
----------第一会議室-------
「二人ともこれだけ疲弊して再開したところで相撲ができるとは思えない。そこでロシア側から二人の代理と云う提案で控えの選手を出すと云う提案があるのですが日本側は如何でしょうか?」と審判団の一人から提案されたが。
「控えって!日本は桃の山を除いたら高校生のさくらしかいないんですよ!」と声を上げるコーチの璃子。
「しかし、アンナも桃の山も今の状態では相撲にならないのは目に見えています。変則的ですがここは代理を立てて再開すると云う事が適切だと思いますが、それに二勝二敗で並んだ場合はオーダー順ではなく選手及び力士を選び直すことができる規定があります。その意味では二人を除外したうえで選び直すことはおかしいことではないはずです」
「しかし!」
「日本側は石川さんしかいないと云うのは事実ですがそれは、日本側の事情であってその事に対して何かしらの考慮すべき事にならないと思いますが?いつまでも時間を延ばすわけにもいきませんので、この場に日本とロシアの協会トップも方もいらっしゃるのでよろしいでしょうか?」と両監督そしてトップに視線を送る
「ロシアとしてはそれで構いません」ロシア代表監督とロシア相撲協会会長のベレゾスカ イヴァンナは首を縦に振った。
「日本側は?」
(代理を立てての仕切り直し、そんな決着のつけかたか考えたな・・・)紗理奈は葉月を見る。
(代理?日本にはもうさくらしかいない、でもこんな重大な局面を高校生のさくらに担わせるわけには!)葉月の胸の内は桃の山で決着をつけると云う決心で送り出したが二回の水入りは想像もしていなかった。少なくとも今の現状で桃の山を再度土俵に立たせるのは無理かもしれない・・・でも
「日本側はどうしますか?」と審判団側から急かされる。
葉月は、そのことになかなか返答ができないでいた。無効試合にして両国優勝を提案するのも案なのだがロシア側から代理を立ててと云ってきた以上そんな提案に乗ることはまずない。ロシアはアンナ以外にもプロ・アマの横綱が控えに入る以上、よっぼどの奇策でもない以上さくらに勝ち目はない。それに奇策何って何回も決まるものではない。その時・・・。
「構わないよ。ロシア側の提案通りで」と紗理奈が発言したのだ。
葉月と璃子は驚いた表情で紗理奈を見る。紗理奈の表情は普段と変わらずいつもの多少厳しい表情で・・・。
「わかりました。それでは二十分後再開いたします。代理選手の事前通告は結構ですので、それでは今から二十分後の三時に入場してください。宜しいですね、ではよろしくお願いします」と審判団からの決定事項として言い渡されると関係者一同は部屋から退出していく。残ったのは日本側の三人。
「理事長!なぜ同意したんですか!」と真っ先に璃子が声を上げた。その表情は怒り狂うように・・・。
「ロシア側から代理を立ててと云ってきた以上白黒つけるってことだろう?そこで日本が引き分けにしましょうと云えるか?」と紗理奈
「しかし!」と凛子
「この大事な局面で日本の指揮官が即答できない時点で勝負は決まったようなものだよ。ロシアのペースに飲まれたと云えばそれまでだが覚悟ができていないうえにここまで来て日本代表の選手達を信じていないんだよこいつは・・・お前が即断して覚悟を決められなかったらどうするんだ!お前が即断できなかったら私が決めてやるよ!・・・・桃の山を出せ!」
「・・・・・」葉月は一瞬、耳を疑ったと同時に心の片隅にその想いも・・・・。
「理事長!この場に及んで桃の山って、あれだけ疲弊してしまっている桃の山を使えるわけが・・・・」と凛子
「葉月山だったらどんなに疲弊しようが真面な相撲がとれなくても土俵に立つだろうね?それは女子大相撲の横綱として、絶対横綱の矜持として勝てる見込みがなくても土俵に立つだろうね葉月山ならば・・・、そのような気概がない横綱なら消えていなくなればいい。この大事な場面で高校生のさくらを出すなんってありえない!横綱は常に引退と隣り合わせなんだよ。たとえボロボロであろうと横綱に逃げは許されないんだよ!」紗理奈はそれだけ云うと会議室から出っていた。
「葉月、理事長はちょっと感情的になり過ぎてる、らしくないと云うか・・・」
「妙義山だったらどんなにボロボロでも勝てる見込みが一%もなくても土俵に立つでしょうね?」
「葉月・・・、でもここで桃の山を潰すわけにわいかない。たとえ、桃の山をださなくとも世間は納得する。この大会は女子大相撲の本割とは違うんだ、今の状態で真面な相撲なんかできない!下手をすれば怪我どころか精神的に尾を引くかもしれないそんなことぐらいわかるだろう?ここは、石川さくらしかいないんだよ!高校生であっても彼女は代表メンバーなんだ。真面な状態なのは彼女しかいない、それが最良の選択なんだよ、葉月!」
「深緋色の締め込み・・・」
「えっ?」
葉月はポツリと・・・・。
「凛子さんあの色の締め込みって桃の山の覚悟って事ですよね?」
「葉月・・・・」
「理事長の覚悟そして娘への想い・・・」
「葉月・・・・」
(そうですよね、妙義山ならどんなにボロボロでも土俵に立つでしょうね?そして今あなたの娘さんが・・・、勝負に私情は禁物!そんな事はあなたご自身が一番分かっているのに「親子鷹」私にはわかりませんが・・・桃の山の覚悟した重み・・・桃の山の覚悟を理解せず・・・私も覚悟を決めた!桃の山で負けたらそれは私の責任!今の桃の山なら!いや桃の山しかいない!)




