最終決戦 ! 日本vsロシア 深緋色の決意 ⑧
行司は二人を組ませ水入り直前の状態に組ませる。行司・審判団が足元の位置から組て・体勢すべてを時間をかけてチェックしていく。
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「水入り後の再開になりますが遠藤さんはこの展開はどちらに有利だと思われますか?」
「三十分の休憩と云うのはちょっと異例ではありますが体力の回復においては両者に利があるとして、心理面でこの時間でお互い何を考えていたのかが気になります。組んだ体勢からの展開が正直見えないと云うかもう一度水入りなどと云う事態もあるのかなと?」
「お互い仕掛けるに仕掛けらないと?」
「私的には稲倉がやられた様にぶちかまして一気呵成にアンナは勝負をかけるのかと想いましたが意外にも四つ相撲を選択したと云うのは何かの意図があってなのか?たいして桃の山もまるでアンナがぶちかましてこないと最初から決めつけていたような形をとったのも私的には意外なのです」
「本来アンナは葉月山とはライバル関係でイメージ的には常に四つ相撲の力勝負と云いましょうか王道の相撲と云うイメージがありますが?」
「確かにそう思われている方も多いと思いますがそこは歳には勝てないと云うかここ最近の相撲は多少荒っぽい相撲をとらないと勝てなくなっていると云う事だと思います。ですから尚更若い桃の山相手に四つ相撲でと云うのは私には疑問符が付くところなんです。体力の回復度合いでも若い桃の山の方が有利でしょうし」
「そうすると桃の山の方が有利と?」
「ただ、アンナには豊富な経験と相撲の技術があります、そこを桃の山が攻略できるかだと思います」
「わかりました。さぁ体勢が整ったようです」
土俵上では水入り前の体勢で両者がっちり廻しを組みなおし臨戦態勢に、館内が静寂に包まれる。
「いいか!いいか!」と行司が両者の締め込みに結び目に手を振れる。
「はっけよい!!」と云った瞬間、行司が両者の結び目を「パッン」と叩いて再開、一気に館内は歓声に変わる。
「いやぁぁぁぁっ!!」
「くあぁぁぁっ!!」
一分ほどの膠着状態の後先に動いたのは意外にもアンナは桃の山を吊ってきたのだ。
「ノコッタノコッタノコーッタ!! ノコッタノコッタノコーッタ!!」
「くぅぅぅっ!!」
「んん~~~っ!!
桃の山は必死に両足をしっかりと踏ん張り、腰を落とし突き出すようにして完全にアンナの吊りを防ぐ。アンナも両足をしっかりに踏ん張り、渾身の力を振りしぼり桃の山は吊に掛かるが桃の山は動じない。
「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」
「ふんっ!! くぅっ!! んっ!!」
「くっ!! あくっ!! うんっ!!」
アンナはここぞとばかり渾身の力技で再度吊り上げてきた。踏ん張っていた桃の山ではあるがついに腰が浮かされそうになってしまった。
「くくっ…うおおおおおっ!!!」
「はぁ、はぁ、ああああっ!!!」
館内の声援が悲鳴に変わる。
桃の山は必死に足をばたつかせる。その動きにここから一気に吊りだすのかと想われたがアンナは桃の山の吊りをあきらめ下ろしてしまい再度四つの体勢に、ここまで優勢に進めていたアンナだったが顔全体に一気に玉のような汗がそして荒い息遣いがアンナの消耗度合いを如実に表し始めた。
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ…」
「はぁ、はぁ、くぅ、はぁ…」
アンナは連続の吊りで勝負を決めることができなかったことが余計にスタミナと精神力を消耗させてしまった。
「…はっけよぉーい…」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
またもや土俵際での膠着状態。体勢的には桃の山が殆ど俵に足がかかるかからないかの状態で圧倒的にアンナが有利なのだがあと一押しが繰り出せないのだ。
そして土俵上で交錯する想い
(さすがアンナさん!葉月さんはが尊敬している力士だと云っていてる意味が分かりました。私に勝てる方法ならいくらでもあるのに、それでもあえて四つ相撲を選ぶ意味って)
(桃の山の気迫が水入り前より強くなっている!以前のあなたならこんな相撲ならコロッと負けていたのに・・・意外だわ苦しくなるほどにあなたは闘志を漲らせてくる。
葉月山がそうだったねぇ追い込まれるほどに、私はそのことに苦しかったけど嬉しく楽しかった。それがいつのまにか勝つことだけに執念を燃やしているうちに何かを忘れてしまったような気がして・・・でも桃の山はそんな忘れていた力士としての勝負以外の感動を今、私は心底楽しんでいる。そのことが嬉しくて本当に)
「…はっけよぉーい…」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、はぁっ…」
「はぁ、はぁ、くぅ、はぁ…」
「…はっけよぉーい…」
お互い首から上はまるで水を被ったような状態に、黒の相撲用レオタードは汗を吸収しけれないのか照らされたスポットライトによって異様にてかっている。
そんな事を考えていた一瞬の隙に桃の山が押し込んできた。
「くくっ…うおおおおおっ!!!」
「はぁ、はぁ、ああああっ!!!」
「くっ!!」
アンナの足が砂の上を「ざぁーざざ」と音を上げながら滑るように土俵中央まで押し戻される。桃の山は更に押し込もうとするがどうしてもその一押しができない
「はぁ、はぁ、ああああっ!!!くっ!!」桃の山にとってこれほどの大相撲の経験はない。
アンナは体位を少しずつ手く入れ替えながら桃の山の押しの力を分散させている。
お互いもう意識も虚ろになりかけてある種のハイの状態と云ってもいいほどに・・・。
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「攻め疲れたのか「桃の山」の表情がかなり険しい息も荒く、かなり苦しそうだ。対するアンナもここまでの大相撲にはなっていますが桃の山の押しを体位を僅かに変えながら上手くいなしているあたりは経験の成せる技か!しかし、ここは両横綱相手の出方を再度伺っているのか、動きません。両横綱の動きが止まってしまいました。遠藤さんここまでの攻防は如何ですか?」
「正直云うと私は桃の山がここまでやるとは思っていませんでした。アンナの力が落ちたとはいえそこは百戦錬磨、あの葉月山を始めとしての強豪力士と戦ってきた力士ですからその意味では桃の山とは経験値が違う、ましてやこれだけの大相撲になればいくら桃の山が体力的に若いからとは云え経験不足からの隙と云うのがどうしても生まれるものですが、それを凌駕する気迫と闘志と云いましょうかちょっと驚きと云うか感動しています。
ここ直近、桃の山に精神的と云うかおそらく以前の桃の山ならあっけなく崩れるようなことも今の相撲を見ているとそれさえもばねにして戦う力に変えている。勝負の最中にこんなことを云うのは非常識ですがどっちに転んだとしても桃の山を称賛しますし桃の山と云う力士のこれからをファンは期待せずにはいられないと」
「確かに桃の山への誹謗中傷の件もありましたが少なくともこの両者の相撲を見ているとそんな出来事もなかったのようなってところですね」
「妙義山の娘は母親と同じ偉大な力士になりもう超えてます!」
「わかりました!さぁ取り組みに集中しましょう!さぁ依然として力が拮抗している両者ですから、迂闊にむやみに仕掛けられないと云うところでしょうか?」
「我慢比べと云ったところと同時に両者どれだけ体力が残っているのかまたそれをこの拮抗している状態で回復させることがカギですが多分苦しいのはアンナでしょ?吊りの連続からの攻防を考えれば桃の山以上に消耗しているはずだしここはどうしても息を入れたいはずそこを桃の山がつけるか何ですか?」
「ヨイ、ハッケヨーイ!ハッケヨーイ!ヨイ、ハッケヨーイ!」
行司が急かすがなかなか両力士次の一手が出せないでいる。
(これ以上時間はかけられないけど願わくばこのままの状態で再度水入りもなくはないか・・・桃の山とてさっきの強引な押しで体力を消耗しているはずもう一押しする余力がなかったんだからね)
(あそこまで押し込んだのに、くぅっ・・・。正直云って再度水入りなんかになったらもうちょっと無理、なんとかこの一番で決めなきゃ!)
「ヨイ、ハッケヨーイ!ハッケヨーイ!ヨイ、ハッケヨーイ!」
ここで動いたのはアンナだ!
「アンナ、ここで強引に右上手投げ撃ってきた。桃の山必死に耐える」
「くくっ…うおおおおおっ!!!」
「はぁ、はぁ、ああああっ!!!」
「くっ!!」
右上手投げで勝負に出たアンナではあったが桃の山はそこを今度は下手出し投げで逆襲に出た。アンナの体勢が崩れた隙に両差しからアンナのお株を奪うような吊りの体勢に、体格的にはアンナの方が一回り大きく。いくら桃の山がハイの状態でも如何せん無理がある。
「くくっ…うおおおおおっ!!!」
渾身の力でアンナを吊り上げるが、アンナが桃の山の右足を自身の右足を絡めていくと桃の山の体勢が崩れアンナが桃の山に覆いかぶさるような格好になると桃の山は後退気味に下がり土俵中央に戻される格好になってしまった。
あと一歩のところまで追い詰めた桃の山への大声援はまたもよ落胆の溜息と変わる。
「桃の山あと一歩のところでアンナに足を絡ませられて体を被せられるような格好で後ずさらしの格好で土俵中央まで戻されてしまった。館内は落胆の溜息。またもや時間は五分を超える大相撲。二度目の水入りはあるのか?」
「それはないわ!」
「えっ、と云いますと?」
「両力士とももう体力は残っていないと考えれば再度水入りで休憩を挟んだとしてももう真面な相撲どころか立つ事さえもできない。だとしたらもうどちらかが倒れるまでやるしかない。ここで水入りなんかしたらもうこの一番は不成立になってしまうわ!」
---------関係者席-------------
桃の山の母である山下紗理奈は娘の死闘ととも云える取り組みを厳しい表情で見ている。紗理奈の周りには協会関係者や各国の協会関係者もいるが誰一人声を掛ける者はいない。掛けられないほどの威圧感を放っているような・・・。
本来ならば実の娘が横綱として現役最強力士と云われているアンナを相手に互角の相撲をしていることに興奮しない親はいないはず、たとえ女子大相撲協会の理事長でもあっても・・・それでも紗理奈は館内の異常ともいえる興奮状態の空気感、それは関係者席とて同じ。ロシアの関係者などは興奮状態にアンナに檄を飛ばしている。そのなかでも紗理奈は動かざる大仏のように腕を組み取り組みを見ている。心の中は・・・。
すでに時間は十分に近づこうとしている。審判団席がざわつく、行司もこの展開において再度の水入りをどうするのか?
土俵中央では真面や桃の山とアンナが組み合ったままの膠着状態。その状況に館内の観客は声が出ないほどに集中してしまっていることによって興奮状態であるのにも拘らず異様な静けさ。嵐の前の静けさなのかそれとも再度の水入りなのか?




