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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの頂へそして扉の向こうの世界へ

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最終決戦 ! 日本vsロシア  深緋色の決意 ⑥

 最終決戦の土俵に向かい歩いていく桃の山。前に伊吹桜・十和桜そして桃の山の脇には石川さくら。水入り後の再開はおそらく桃の山自身は考えてはいなかった。四つの王道相撲は桃の山の望んでいたところではあるが正直云って十分近くの大相撲のうえに水入りを挟んでの再開など少なくとも女子大相撲史においてはなかった。


(さすがに体力的にはきついけどそれでも気持ち的には充実している、自分がここまでやれるとは正直想ってはいなかった。息も戻ったしこれなら絶対負けない!)


桃の山が力士になってここまで自分を奮い立たせることはなかった。もちろん横綱になり二場所連続優勝をしている。しかしこの大会の意味合いは女子大相撲の優勝とは・・・・。控え部屋から歩き右へ曲がるとそこから長い通路が続くそしてその先に東の花道へと続いている。


 先頭に伊吹桜と十和桜が歩いていく、二人は何も言葉は交わさずそして後ろに桃の山とさくらが゛続く。


「桃の山さん、絶対に勝ってください!」と前を向き歩きながらさくらが口にする。


「えぇここまできた以上負けるわけにはいかないでもそれ以上に今の私は力士としてすべてのもの満たされている最高の状態なの、今までこんな状態で土俵に立ったことはなかった。だから自分も知らない最高の相撲が取れる気がするの、だから自ずと結果は付いてくる。それと、さくらの相撲本当に強かったしなにより観客の人達が沸いていたわ。力士はあぁ云う相撲をとらないと、でも本当はあなたのがっつり組んだ四つ相撲見たかったけどそれはまた別の機会に楽しみにしてる」


「今日は勝つことだけに拘ったから・・・相手がみんな強すぎたし・・・」


「そうねぇ、さくらにとっては荷が重すぎたわねぇまぁー半分以上は私の責任だしそれに映見さんにも・・・アマチュア二人には頭は上げられないわ」


「横綱、私そんな意味で」


「さくらや映見さんがここまで頑張ってくれたんだから絶対に負けるわけにはいかない。それに百合の花さんにも、改めて百合の花さんの色々に意味の強さを知った。横綱の品格と云うか責務と云うか」


東の正横綱として女子大相撲を引っ張っていく立場にある桃の山。しかし、それは西の横綱百合の花が居てこそ・・・。この大会を通じて葉月さんが百合の花を認めていることが理解できたと同時にまだまだ自分は横綱としては足りていない、勝ち負けだけじゃなく女子相撲全体において横綱がどうあるべきかを・・・。そんな事を想いながら歩いていた時、ピタッと十和桜の足が止まった。


(オルガ・・・)20m先にいる彼女が目に入り十和桜はその場から動けなかった。目線も合わせられないほどに動揺して・・・。


 ロシア人女子相撲ジャーナリスト ダヴィドコ オルガ。十和桜はオルガのSNS動画サイトで桃の山のあることないことそして日本の女子大相撲のあることないこと・・・桃の山を陥れて潰したいという想いの中で生まれた心の僅かな隙に上手く嵌められてしまった・・・ただ感情に任してただのストレスを爆発させるために・・・。自らその罠に嵌りこむように、それは自分の自業自得・・・・。


 十和桜は体を反転させて控え部屋に戻ろうとした時、その前には桃の花が・・・


「こごて戻っては駄目。戻ったらあなたはもう先には進めなくなる!今朝云ったでしょ!「十和桜関。力士の娘として生まれて三役・横綱になった力士は私達しかいないわ。これは逃れられない運命だと・・・あなたもわたしも逃げることは許されない。宿命なのよ私達の!」もう忘れた?」


「横綱・・・・」


「十和桜、横綱の云う通りだここで逃げたら一生悔いを残したまま生きることになる。少なくともここにいる三人は味方だから」と伊吹桜


「さぁ前を向いて土俵下へ」と桃の山は十和桜を反転させ背中を押す。十和桜はしっかりした足取りで前へ、オルガに近づき目と目が合う、オルガは何も云わず。そして桃の山が近づく、視線を合わさず通り過ぎようとした時、


「アンナはなんでぶちかましをして一気にあなたと勝負を決しなかったのかしら?」とオルガは流暢な日本語で桃の山の真横から、至って普通の口調で・・・。


 桃の山は応えずに通り過ぎようとしたが、アンナは続けて、


「元葉月山はこの大会を最後に女子大相撲の世界から身を引くとか・・・有終の美でも飾らせるつもりなのかしらアンナは?彼女はロシア人として相撲をすることに不満を持っている。自分が負けて責任を取る形で引退するって云う口実づくりなのかしら・・・よかったわね約束された優勝。


 あなたにとっては好都合でしょ?そちらさんの力士は覆面までして動画に出て本心で想っている事ぶちまけたのに、ここに来ること自体、普通は来ない。ましてや横綱の露払いでもしているかのような振る舞い、そしてそれを許す桃の山とか云う偽りの横綱」


「貴様!」伊吹桜は今にも手を出しそうに激昂している表情にアンナは笑みを浮かべる。


「伊吹桜関だって本当は想っているのと違いますか?優勝せずに横綱に昇進、その後二場所連続優勝したとはいえそれだって百合の花が手を抜いているかのように不甲斐ない相撲を、歴代の横綱でそんな人はいなかった。理事長の娘、初代絶対横綱妙義山の娘、その答えは神輿にのせられた横綱桃の山。違います?」


伊吹桜はもう我慢ならなかった、言葉より早く体が・・・しかしそれよりも早く桃の山が間に入る。


「どけ!桃の山!もう我慢ならねぇーてめぇーのせいで桃の山自身が十和桜が女子大相撲に係わるすべての人が桃の山に対して疑心暗鬼見たいになった。それを一番気にしているのは横綱桃の山なんだよ!」


「伊吹桜関・・・・」桃の山は伊吹桜に本心のど真ん中を突かれたのだ


「桃の山は、馬で云えば超優良血統、相撲をするために生まれてきたそしてその通りに異例のスピードで横綱になった。ただ桃の山には海外勢との相撲ではおもうような成績があげられないでいる。この大会はその試金石なんだよ!それをわかったうえであんな動画を流しやがった。そこに十和桜の心の隙をついて・・・それがロシアのやりかたか!」


「倉橋監督と似てるわねそう云うところ・・・別にあなたはこの大会の当事者じゃないでしょ?それに私はフリーの相撲ジャーナリストであってロシアナショナルチームの関係者じゃない、多少は自国のために記事を書くこともあるでしょうけど、でもあの動画で喋っていたのはそちらの方よ、私はあの動画の意味は大きいのよ!私は一切強要もしていないし機会を与えただけ!心の隙がどうのとかそもそも大なり小なり女子大相撲の力士・関係者・そしてファンはみんな想っていた。それを何!確信突かれて逆切れ?伊吹桜関ってもう少し頭が良いと想ったけどそうでもなかったわね。監督も監督ならOGもOGってところね」


 伊吹桜は桃の山を強引に排除してアンナに殴りかかろうとしたもうそこに理由はない。


「どけ!桃の山!もうぜってい許せねぇ!どけどくんだよ桃の山!」その時、強烈な張り手が伊吹桜の右頬にさく裂した。


「桃の山!何のつもりだ!」


「伊吹桜!礼儀を知らない力士だね!横綱の私に向かってため口かお前は関脇なんだよ格下なんだよ!」


その態度に伊吹桜も十和桜ももちろん石川さくらも・・・それは想像すらできなかった桃の山の豹変。桃の山自身が格下の力士でさえさん付けをしてしまうのが常だったのに今の桃の山は・・・。


「伊吹桜!それと十和桜もさくらもさっさと館内に入れ!早く行け!」と鬼のような桃の山。


 伊吹桜は一瞬桃の山を睨み返すような表情を見せたがそそくさと館内へそして後を追うように十和桜とさくらが二人は桃の山を見ずその場を通り過ぎる。その場面を陰に隠れ見ていた者が二人。椎名葉月と長谷川璃子。


「葉月監督ここは!」

「璃子さんここは桃の山に・・・」

「でも何かあったら!」

「桃の山は妙義山の娘です。ここは桃の山に」

「葉月さん・・・・」



 館内の歓声が微かに聞こえている。長い通路の中間で二人は睨みあったまま微動だにしない。もう何時間も睨みあっているのではと云う錯覚にとらわれるぐらいに、そんな中、口を開いたのは桃の山た゛った。


「あなたの云う通りでしょ私が横綱に昇進できたのは母の見えざる力が働いた。ただ母はそんなことをは絶対させないでしょ?娘だとしても娘だから尚更、私のことを妬ましく想っている力士は少なくないそれは肌感覚でわかる。そのことに私は後ろめたさを無意識に感じていたことに・・・。


「忖度横綱」そのことは半分は正しいのよ、だからこそもっと精進して結果を出さないといけないのに・・・国際大会で結果を出してきた葉月山さんや百合の花さんとはやっぱり違う!二場所連続優勝してもうそのことを払しょくできたと思っていた。でも・・・・私がアンナさんに負けて日本が優勝を逃したら力士を辞めて相撲界からも引退する!この大会はその覚悟で来たからもう私は退路を断ったの!」


「今云ったことSNSにあげるわよ。当然私と知って云ってるのだから動画で、当然OKよね?」アンナはに薄笑いを浮かべながら


「えぇ勿論よ。十和桜を使ってあんな配信するんだからそれぐらいは承知であなたの前で喋っているのだから、あなたの好きにすればいい!」桃の山はアンナに眼光鋭く。


「馬鹿な女ねえあなたって、今の一言であなた自身の相撲人生が終わる、それだけじゃなく日本の女子相撲そのものも潰れるかもしれないのし、あなた一人のために・・・」


「監督の有終の美を飾らすためにアンナさんが手を抜く?そんな発想をしてしまうあなたの国の思想がわからないわそもそもアンナさんはあなたの国の人ではないのだから、葉月山がアンナさんをもっとも尊敬している力士だと云っていたわ。映見にぶちかましをしたのは迷いがあってのことでしょそれともあなたの国の監督指示か?」


「今度は対戦相手国の批判それも政治を絡めて、そこまで云われたらノーカットで配信するわあなたとのやり取りを、あなたの独りよがりで日本の女子相撲が終わる歴史的場面が見れる何って、その前に動画を上げないとね始まる前に楽しみね」


 もう完全に退路を断ったどころか事によっては日本の女子相撲が・・・・。


 隠れて見ていた葉月と璃子。


「葉月さんもう・・・」と璃子


「桃の山の気持ちを全く理解していなかった」と葉月


 桃の山は精神的に脆いところがある。それは葉月がこの大会においてもっとも危惧していたことそのことが十和桜の行為で如実に出た。一時はこの大会は欠場も覚悟していたが本人はやってきた覚悟を決めて・・・。


「葉月さん本当にさっきの事を配信されたら取り返しが!」


「多分、妙義山さんだったら同じ事云うでしょうねぇ、やっぱり桃の山は妙義山の娘・・・」と葉月は何気に苦笑い


「葉月さん!笑っている場合ですか!」


「璃子さん!ここは桃の山を信じましょう日本女子大相撲・東の正横綱・桃の山を」


「葉月さん・・・」


 無責任な想いだが、葉月とってはもう勝負の行方はどうでもよくなった。桃の山が負けたら日本の女子相撲の権威は崩壊するかもしれない。桃の山が相撲を辞めれば終わりで済むはずはない、桃の山はそんなことは百も承知で意識的にアンナの前で・・・。


(私はあなたを精神的に脆弱な横綱だと決めつけていた!私を含めて力士・協会関係者みんながそんな横綱を無意識の中で作ってしまったと、でもそれはある意味違っていた?と云うかそれ以上にあなたはその事に苦悩して自分と戦っていた・・・それを私は・・・)


 桃の山が一人土俵に向かう後ろ姿を見る葉月。その背中は女性の優美さの中に一本、頑強でありながら柔軟な芯が入っているように・・・。


(頼んだわよ桃の山!!!)


遠くから館内の歓声が沸き上がる音が響いてくる。それは葉月でさえ今まで経験したことないような大歓声が・・・・。




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