最終決戦 ! 日本vsロシア 深緋色の決意 ④
「百合の花関!」
「伊吹桜・十和桜・・・」
壁に寄りかかりながら土俵を見ている百合の花に声をかけてきた二人。
「控え部屋で見てたのですがどうしても目の前で見たくて・・・でもなんでここから中に入ればいいじゃないですか?関係者用のエリアなら椅子ですし?」と伊吹桜
「いや手負いの自分が館内で見ると変にプレッシャーかけてしまわなかと・・・」と百合の花
「変なところで気を使うんですよね横綱は、十和桜、横綱おぶって関係者席まで」
「いいよ私はここで」
「私の背中に」と十和桜が中腰になる。
「早くしてください横綱!始まっちゃいますよ!まったく」とせかす伊吹桜
十和桜の背中におぶさり館内に入っていく。観客の殆どは土俵に集中しているが東の花道両脇の観客達の一部は十和桜におぶされた百合の花に気づく。
「百合の花だ」
「歩けないのか?」
「百合の花!よく頑張ったぞ!」と声援が掛かるとあちらこちらから同様の声援がかかる。でもその中には・・・。
「百合の花をおんぶしているの十和桜だよ。よく館内に来れるような?」
「日本をある意味落とし込もうとしたくせに」
「追放だろう相撲協会から」
「十和田富士の娘だろうたしか、母親の敵討ちのつもりが自爆してやんの」
「神聖なこの場所に何であんな奴が入ってくるんだよ」
「来場所からはもういないわけで・・・・」
十和桜の足が止まる。自分のしでかしたことに改めて身に刃物で刺されていくようにそれは当然の事でありここには来てはいけなかった。十和桜の体が震える、それは背に乗っている百合の花に否応なく響いてくる。そしてすすり泣くような声も・・・。
「十和桜、これは自分でやったことだそれはお前が力士を続けていくのなら引退するまでこの重い事実を背負うのはしょうがない。でもそれはお前が真摯に相撲と向き合えていければその重石も少しずつ削られていく。
桃の山の母が妙義山であるように十和桜の母親は十和田富士であるように、多分桃の山は妙義山に改名する、十和桜、お前も本当に真摯に相撲に向き合う覚悟なら十和田富士に改名しろ!敵討ちとかそんなくだらないことではなくてライバルとしてそして名勝負と語り継がれるような二人の力士として」
「横綱・・・」
「桃の山の想いを無駄にするなよ・・・」
二人の会話を聞いていた伊吹桜も何気にもらい泣きをしてしまいそうになる。
若い頃の百合の花もけして褒められたような力士ではなかった。葉月山打倒に燃え上位力士にも無礼なこともした。相手の気持ちとかも推し量らないで平気で相手を傷つけてしまったこともしばしばあった。葉月山引退以降初めてそのことに気づかされた。
葉月山と死闘を繰り広げている時だったら十和桜にこんな言葉はかけないどころかストレス発散の意味でぶっ潰していたかもしれない。その自分が今、女子大相撲の横綱として女子相撲力士の重鎮のような立場になってしまった自分に・・・やるべきこと?それは次世代力士達の壁になりその壁を破られた時、横綱としての責任を全うできる。
>「二代目妙義山をとことん苦しめてくれそして真の横綱に・・・頼んだよ百合の花」
(理事長に云われた言葉重く受け止めます。私もまだまだ若い力士達に負けるわけにはいかない。今年は若い力士達の風が吹きまくるだろうな桃の山を筆頭に・・・自分はもしかしたら二場所休むかもしれないが気持ちだけでもその風に乗せてくれ、その風に乗れれば私もその先の土俵を見たいんだ
「さぁーいよいよ最終決戦。ロシアの絶対横綱アレクサンドロワ アンナ、そして日本は若き横綱 桃の山との対戦になります。解説は元横綱三神櫻(遠藤美香)さんです。さぁーいよいよですが」
「この勝負で決まるわけですが桃の山の決意と云うのかそのようなものを感じます」
「と云いますと?」
「あの深緋色の締め込みは母親である妙義山がしていた色と同じです。その娘の桃の山があの色の締め込みを締めると云うことの覚悟を感じます。この勝負に負けは許されないと云う覚悟を」
「そうですかあの締め込みの色は母親がしていた色と同じと・・・あぁ関係者席に現理事長である山下紗理奈さん元妙義山さんの姿が見られます。理事長ご自身が土俵近くで相撲を見られると云うのはあまり記憶にありませんが?」
「さすがに鬼の妙義山もこの取り組みだけはそばで見たかったのでしょう?娘の深緋色の締め込みに昔の自分を映し出しているのかも知れませんが・・・・」
(さすがにこの取り組みだけは目の前で見たいか・・・あんたの娘はもうとっくに超えているよ!あとは一つまみの自信とあんた並みの肝っ玉のエッセンスを加えれば凄い力士になる。妙義山第二章ってところか、紗理奈)
葉月の家にいる桃の山に渡してくれと渡された修理された明け荷、桃の山に渡す前に中身を見ようと想えば見れたが持った瞬間に締め込みが入っているなと直感はした。一度は拒否された四股名と締め込み、それを締める娘とその姿を若き頃の自分の姿として見る母親。
(紗理奈、二代目妙義山が絶対横綱としてファンはもちろん女性力士達に認められるのもすぐだよ、お前の苦しみは娘の苦しみ娘の喜びはお前の喜び・・・結果はどうであれ桃の山は生粋の女力士であり女子大相撲の横綱!それは揺るがない!新しい時代の幕開けに相応しいよこの舞台は!)
「前え」と行司が二人を仕切り線の前に立たせる。睨みあう二人、多少なりとも力は落ちたとはいえ現役最強力士には違いないロシアの絶対横綱アレクサンドロワ アンナ。
たいして横綱【桃の山】。母は初代絶対横綱妙義山、父は大関鷹の里、まさしくサラブレット。天性の恵まれた才能と体格。容姿含めファンから愛される人気者。この勝負に勝って絶対横綱妙義山・葉月山の真の後継者になれるのか?
二人は仕切り線の前に立ったまま睨み続ける。観客も睨みあいにヒートアップする。特に桃の山がここまで相手力士を厳しく睨みつけるのは初めてであろう・・・。
(妙義山さんの娘であり葉月山が送り出す日本の最強力士ってところか・・・でも私からすればまだまだひよっこ!この一番は自分の相撲の集大成で取り組む小細工一切なしの本気の相撲で)とアンナ
(この深緋色の締め込みを締めた以上負けは絶対許されない。それは私の覚悟!桃の山としての最後の大一番そして二代目妙義山の扉を開くため、そして、母である初代妙義山の名誉のため・・・負ければそれは相撲界からの死、そして妙義山の死・・・・だから絶対に負けられない!)と桃の山
桃の山が腰を下ろすがアンナはなかなか下ろさない。館内からアンナに罵声が飛ぶ
「何やってんだよ!」
「またぶちかましかよ!」
館内の異様な雰囲気はあきらかにおかしくなっていることは日本語がよくわからないアンナにも肌でわかる。それを察したかようやく腰を下ろす。
「見合って・・・はっけよい!!」二人とも両手を着き立ち合い成立
アンナが右で張りながら右で少し踏み込み強引な両差し狙い。
「むっ!」
「くっ!」
桃の山左右のおっつけから左突き落としで捻じり、逆に右喉輪で突き落とす体制に
「せいっ!」アンナの足が揃ってやや浮き足立つ。
「くぅっ!」
桃の山がで左おっつけから右喉輪と攻めて突っ張るとアンナ引いて下がり、桃の山の右を取って左に廻ったが、桃の山なお左で喉を突き上げて攻める。
アンナは桃の山の右突きを左でおっつけながら右でもおっつけ、左を割り込んで右上手を掴みにいく。
「えいっ!」
桃の山は構わず煽って上手を切り、左四つ両廻し。アンナは左下手を一度狙ったが右上手が深めながら取れたので左を返そうとした。桃の山はさらに両廻しを引きつけてがぶっていたが・・・。
「くぅっ!」
(重い・・・急に・・こっから一気に勝負を決めたいのに)
その隙にアンナは右を離して左掬い投げで体を入れ替えた。今度はアンナが両廻しを取りにきた。その一瞬を・・・
(今だ)
桃の山はここから一気に投げで決めるはずが全くもってアンナが動かない。
(そんな!)
巨大な大木を相手にしているように土俵にまるで根を生やしているように動かす事すらできない。
「…はっけよーい…」と行司が囃す
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」(まずいスタミナが・・・)
桃の山の額に玉のような汗が浮き出ている。
アンナは桃の山をを押し、かとおもえば押し返すばかりで、一向に技を仕掛けようとしない。
館内は静寂に包まれる。二人の攻防に観客は息すらも入れらぬかのように・・・。
「…はっけよーい…」再び行司さんが囃す。時間はもうじき三分になろうとしていた。
まるでろう人形のように二人は動かずもわずかにサガリだけが揺れるのみ。
土俵下のさくらも本当なら声をあげ声援したいところだがとてもそんなことを許す雰囲気ではない。
(桃の山さん・・・)さくらは両手を組む両指が砕けるのではないかぐらいにそして指と指の間に汗が・・・。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
桃の山の腹部そして肩が揺らぎだす。顔面はすでに水を被ったように、顔面にあたる照明の灯りが妙な輝きを放っているのだ。それは今まで見たことのない桃の山の必死な姿。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁはぁっはぁーーー」無意識に声に出てしまう桃の山。すでに意識が飛んでいるかのように・・・。
(がんばるねぇお嬢ちゃん。でもそろそろ限界のようだね。ここで決めることもできないことはないけど私はこの時間を楽しみたいんだ。もうこの一番が最後と決めたんだ!だったら本気の力勝負でどちらかがたてなくなるまで勝負してやるよ崩れ落ちるまで永遠に!)
アンナはこの一番に自分の相撲人生をすべて吐き出すつもりでいた。相手はあの初代絶対横綱・妙義山の娘であり若き次世代の日本女子大相撲の横綱。不足は全くない。ましてや土俵下ではかつてのライバル葉月山が監督として見ている。
(私のエンディングに最高に相応しい舞台を用意してくれたことに感謝するよ。この一番!勝ち負けなんか関係ないんだ!もう今の自分には関係ないんだ)
「…はっけよーい…」再び行司が囃す、すでに時間は三分はゆうに過ぎているが行司はこの一番を止めることに躊躇していた。
「ふぅ…ふぅ…くっ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
桃の山の荒い息遣いは変わらずだがそこにもう一つの荒い声が・・・・。




