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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの頂へそして扉の向こうの世界へ

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最終決戦 ! 日本vsロシア  深緋色の決意 ②

 葉月は桃の山の後ろに立ち肩に手を掛ける。


「葉月さん」桃の山は一瞬ハッとした表情で葉月は見る。


「あっ、ゴメンねなんか私が気合入っちゃって」と葉月は試合が始まって初めて見せる笑み


「なんか嬉しいんですか?そんな表情して?」闘志をむき出しにしていた桃の山は少し緩やかに


「あっっなんだろうね・・・なんか今の私、凄くリラックスしてると云うかこれから大勝負に臨むあなたに失礼だけどさっきまでの緊張感が抜けたと云うかいい意味で」


「気合が入っているとか云っていながらなんか楽しんでいるって感じですけど?」


「気合が入るほど楽しいと云うか真剣に取り組んでいるのに真剣過ぎて自分で笑っちゃうとか?」


「云っている意味がよくわかりませんがそれって相当緊張しているんじゃないですか?云っときますけど勝負するのは私ですから」


「そうね、相撲取るのはあなただから・・・妙義山」葉月は少しいじるように


「春場所からは改名します。心機一転、妙義山の名前の重さに耐えられるかわかりませんが」


「その前にこの勝負に勝たないとダメなんだけど」


「もちろんです!勝てればこの日は私にとって忘れられない日になる。負ければ・・・」


「アンナさんは正攻法で来るわ。あの人は多分この大会で相撲からは引退すると思う、今の自分の相撲に納得していないでしょうし・・・」


 葉月は向かいのロシアチームを見る。アンナは目を瞑り精神集中をしているかのように微動だにせず腕を組み。葉月山として土俵から去った時にはすでにアンナはロシア国籍に、彼女がウクライナの時代は顕著にではないが連絡ぐらいは取っていたし相互に遠征し親善試合や合同合宿も行っていて二人にとっては楽しみな時だった。でもアンナがロシアに行ってからは連絡も取ることもなくましてや葉月自身が引退したことで力士として会うチャンスは皆無となった。それでも今の時代はネットでロシアの情報はおろかアンナの情報も得ることはできる。


 ロシアのSNSであるVKontakteのアンナ宛てに何度かDMを送ったこともあったが返信されることはなかった。


(私的にはアンナさんがいまだに現役でやられていることに尊敬の念に堪えませんが映見への相撲は私は万死に値すると、大袈裟でもなくアマチュアの大学生相手にあれですか!あなたならがっぷり四つに組んでも勝てる相手なのに・・・桃の山にもぶちかまし?


 あなたより先に引退してしまったのは自分の心の弱さだったかもしれません。もしこの大会がもう少し早く決まっていたのならこの大会を最後にそれはあなたとの最後の取り組みで幕引きもあったかもしれません。それでも日本の女子相撲はロシア勢には後れを取っているかも知れませんが後継は育っています。日本の精神的支柱である百合の花を筆頭にアマチュアも稲倉や石川の相撲を見ればレベルの高さがわかるはず。そしてこれからあなたと取り組む桃の山。世界クラスで相撲を取るには若干心許ないところもありましたが今の彼女は違う。だからこそあなたには王道の相撲で勝負してもらいたい。結果はどうであれ・・・あなたには最後はやりきって引退してもらいたいのです)


 そんな気持ちでアンナを見つめていた時、ふとアンナの目が開く、視線は葉月に何か云っているように・・・。


(葉月山引退のニュースを聞いた時、何か終わったような気がした。まだまだやれるだろうにと想ったのと裏腹にきれいな散り際だなぁーって・・・。大学時代に京都の「東林院」というお寺に行った時、通常は非公開の庭園を「沙羅の花を愛でる会」として公開されていてたんだ。「夏椿」とも呼ばれているそうだ。観光で来られていた日本人の方に英語で話しかけられて色々話をした時に教えてもらったことがあった。


 平家物語の有名な一節に「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」 と云うのがあって、栄華を極めた者も、いつかは必ずその勢いを弱めると・・・。


 朝咲いて夕方には散りゆく・・・・、その花が散るときは花ごと落ちてちるそうだ。


 葉月山の散り際はそんな感じだったなぁ・・・それに引き換え私は散ることを恐れてここまできてしまった負けることを恐れて・・・・。


 映見さんには申し訳ないことをしてしまった。でもこれも勝負なんだ・・・負けは死ぬことに等しいんだ今の私には、でももうそれも終わりにしたい。これからどうなるかは全く分からない情勢如何ではクリミアだけで終わらないかもしれない。


 ロシアの相撲協会の連中は桃の山を精神的に追い詰めてあわよくば日本の女子相撲全体も・・・でも失敗したようだな。桃の山の気迫あふれた顔を見て想ったのと同時に高校生の時の葉月にそっくりだよ。良い後継者を育てな葉月)


 アンナは桃の山と葉月しかいない日本側を見ながら隣のロシアの若き横綱横綱コヴァルベラに声を掛ける。


「コヴァルベラ」


「あっ・・はい」とコヴァルベラは不意に声をかけられ少し慌てたが


「コヴァルベラは突き押しも大事だが四つ相撲もしっかりできるようにした方がいい。相撲の王道は四つでがっちり組むこと。状況に左右されるのが突き押し相撲だ。その逆が相撲の流れの中で逆転の機会が多く残されていて、成績が安定しやすいのが四つ相撲。怪我も相対的に少ないしもし力士を長くする気があるのなら四つ相撲をしっかり覚えろ」


「でも私はずっと突き押し主体のスピード相撲でそれで勝ってきましたしそれは今でも・・・多少好不調と云うかはまらなかった時はあれですが」


「コヴァルベラはこれからのロシア女子相撲を引っ張っていく立場になるんだ。どんな状況でも自分の相撲がとれるようにしないとダメだ。それは勝ちに拘るとかとはまた違う勝つためなら多少強引なことも致し方ないとかは想わない方がいい。さっきの私の日本のアマチュアに対する相撲なんか最たるものだ!」


「アンナさん・・・」


「勝つことだけに固執したらそれは自分を滅ぼす、精神的にな無情なただ勝つためにだけに邁進する力士に、そんな力士は誰からも愛されない。世界ツアーも始まる、そこには国がどうのとかは関係ないんだ!みんなが私に気を使っているのは感じているしそれは私も同じく。


 私がロシア代表になったのは運命だったと悟って受け入れてきた。コヴァルベラを筆頭にこれからを背負う選手・力士は世界の女子相撲ファンに愛される人物になってほしい。ロシアと云うレッテルはこれからますます悪い意味で重しになる、だからと云って卑屈になることはない自分達がそれなりの振る舞いをすればいいんだ期待してるぞ」


 アンナは軽くコヴァルベラの両肩をたたく。それを聞いていたアマチュア無差別クラスのロシア女王ダヴィ・オルガやアマチュア無差別クラス世界女王経験者のオルガ・ヤナ・コザノワの二人はどこか神妙な表情で土俵を見ていた。


 アンナは後ろを振り向くと監督・コーチの首脳陣がアンナを厳しい表情で睨みつける。アンナは後ろにいるであろう首脳陣に意図的に聞こえるように云ったのだから当然そうなる。


(政治とスポーツは別。でもこの国はそこをいいことに国威発揚に利用する。世界の人達はわかっているその事をだからこそ力士や選手は常識的な振る舞いであり勝負をしなきゃいけないんだ。勝利至上主義。勝つことを当たり前としてもそこには勝ち方があるんだ。ロシアの次世代にはそこを肝に銘じて戦ってほしい・・・頼んだよ)


 アンナは立ち上がり頬を両手で叩き気合を入れ土俵に上がる。館内の一部からアンナに対してブーイングや野次が飛ぶ。土俵から葉月を厳しい目で見る。


(相撲人生最後の土俵は日本の若手横綱桃の山か、あなたでないことは寂しいが大将として出してきた以上厳しい相撲をさせてもらうよ。がっぷり四つの王道の相撲で)


 同じく土俵に上がる桃の山もアンナを厳しい目つきでガンを飛ばす。


(世界最強力士であるアンナさんにはまだ私は足りないかもしれません。でも私はこの一番に懸けているんです。日本チームのためそして・・・葉月さんに・・・)


館内が一気に盛り上がる。ほとんどの声援が桃の山だが関係者席の中にアンナに無声の声援を送る一団がいた。それは元母国ウクライナの一団。そしてその中にウクライナ代表監督スヴィタラナ・トロシウクはアンナと顔が合った。


 スヴィタラナはアンナとは常にライバルであったが早期に怪我で引退してしまったがお互い良き理解者としてウクライナ女子を強豪国として支えてきた。そんな二人も今はある意味の敵国同士の関係になってしまったがそれは国のごく一部の連中の話なのだが・・・。


(アンナ!本当にあなたと話したい!この大会でならと想ったけど無理そうね・・・。ウクライナの若い力士やアマチュア選手はあなたに裏切り者なんって云う者もいるけど私はそんなこと想っていない!いやみんなは想っていないわ本音では・・・あなたが決めたわけではないけど、でもこの取り組みだけはあなたが常々云っていた王道の相撲を見せて!あなたに乱暴な相撲は似合わない!アンナ!)



--------三階席-------------


 誰もいない照明すらついていない席に桃の山の母である理事長の山下紗理奈が一人座っていた。本来なら関係者席から観覧しているのだが横綱桃の山の取り組みは誰にも邪魔をされず見たかったのだ。


 自分の娘が女子大相撲の横綱としてこの大一番に挑む。母親としては誇らしいところなのだがこの大会女子大相撲の本割とは全く違う。ロシアから仕掛けられたある意味の戦争、紗理奈自身はあまり気乗りはしていなかったが協会関係者は女子大相撲の権威を見せるべきだと云う意見が大勢を占めた状況で理事長として異を唱えるわけもいかなかった。


 自分の娘を横綱にするために周りが理事長に忖度した。紗理奈自身は番付編成会議には一切口は挟まない。 基本、横綱および大関の推挙は、理事会の賛成を経て満場一致でなければならない規定があるが桃の山の推挙に関しては最初、紗理奈は賛成しなかったのだ。葉月山が現役引退を示唆しこのままでは百合の花の一人横綱。ましてや桃の山は優勝をしていないのにも係わらず理事会の面々は桃の山を推したのだ。桃の山の成績は確かに大関昇進後は常に十三勝以上を上げておりある意味横綱に推挙されるべき力士だったのだが・・・。


--------理事会---------------


「優勝もしたこともない者が横綱なんってありえない」理事長である紗理奈は不満をあらわにした。


「葉月山が引退した以上百合の花の一人横綱とはいかないんです。それに大関昇進以降常に十三勝以上上げていることを考えれば別におかしいことではないと」


「好成績であっても優勝がないのでは駄目だ!」


「葉月山・百合の花という横綱を相手に考えれば桃の山の年齢や相撲経験を考えれば比類なき力士だと」


 紗理奈は憮然とした表情で周りの役員達を見回す。


「私の娘だからか?・・・私の娘だからか!横綱にしようと云うのは私への忖度か!」


 


 観客から桃の山への大声援。横綱昇進後二場所連続の優勝は文句なしの横綱相撲でありそのことは女子大相撲人気に拍車をかけた。相撲が強くて美人でそれでいながらけして高飛車な態度はとらない。そしてどこか危うさと云うか弱い部分を出してしまう。そこが桃の山に好感を持つ人が多いのだ。


 (その締め込みしてくれたんだな・・・・その意味は素直に受け取って良いのか?だったら頼んだぞ、桃の山改め妙義山!)紗理奈の目が潤む。館内の歓声が反響しながら下から上にそして紗理奈の体を震わせる。












 



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