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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの頂へそして扉の向こうの世界へ

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決戦 ! 日本vsロシア ⑩

 アレクサンドロワ アンナ。ロシアにおける絶対横綱、ここ最近の成績は物議はあるが無敵状態。元はウクライナ代表であったがロシアのクリミア侵攻は彼女の相撲を一変させた。理想は日本の『葉月山』と云うのが常であった。王道の相撲に拘り世界大会などでは葉月山や百合の花と好勝負を繰り広げていた。それがクリミア出身の彼女はいつのまにやらロシア代表になり勝つことが宿命づけられる。


 ロシアの相撲雑誌のインタビューで彼女は


  私はクリミアで生まれ育ちましたが国民投票では、私はクリミアのロシア連邦への加盟に投票しました。私は政治に関心が深いわけではないので、必要以上に掘り下げないようにしています。「ゼレンスキー大統領をどう想いますか?」と尋ねる記者には、私はウクライナとはまったく関係がないので、スポーツは政治から切り離されるべきです。昔、オリンピックが開催されると戦争が休戦になりました。しかし残念ながら、ロシア以外の世界ではスポーツと戦争の両方が絡み合っています。しかし、今ではクリミアはロシア連邦の一員です。私は世界チャンピオンであり、ヨーロッパチャンピオンであり、ロシア連邦の絶対横綱なのです。


 日本で行われる今度の大会はロシア連邦が女子相撲の盟主であることを知らしめるのには絶好の大会です。日本が盟主のような振る舞いをしているのは理解できませんし今度の大会で日本にそのことを理解させる。葉月山が引退して日本の女子相撲レベルは格段に落ちた。日本の女子相撲が崩壊するところを楽しんで見てもらいたいです。


 椎名葉月(元葉月山)にとってはアンナを尊敬する力士の一人。大学卒業後はプロ力士に転向し結婚、二人の息子さんの母であると同時に相撲クラブを創設し後進の指導にもあたっている。葉月より二つ歳上の姉さん力士。社交的で博学でそして誰とでも分け隔てなくやさしく相撲も強い・・・。そんなアンナはロシア代表になって変わってしまった。歳による衰えがあるのは確かだが勝つことに執着し乱暴な相撲が顕著になっていた。相手力士を怪我で再起不能にしてしまったことも・・・そこまでして勝ちに拘る。拘らなければいけない。


 土俵上のアンナを見る葉月にとっては心の中に寂しさと同時に彼女の本心を知りたいと・・・。


(ロシアのアスリートが国内政治に声を上げられないのはわかるから私はアンナさんに声はかけないしかけられても迷惑でしょうから・・・。ただ、あなたの相撲人生をもうこれ以上汚すことは・・・でもこれも勝負だと云うのならしかたない。だったらあなたを倒してアンナさんの相撲人生を終わらせる。もうあなたに醜い相撲をさせないために)


 試合開始前の監督会議の終了後ウクライナ代表監督スヴィタラナ・トロシウクと歩きながら云われた言葉が耳に残る。


(この大会であなたとアンナが土俵で相撲ができていたなら・・・私達はアンナに裏切られたとか想っていないわ!アンナには家族がいる。彼女だけクリミアから連れ出すわけにはいかないから・・・アンナもピークを過ぎてそろそろ限界。だったら最後はあなたと相撲をとらしてあげたかった。もうあんな横暴な相撲のアンナは見たくないから) 


アンナも土俵上から葉月を見下ろす。自分より歳下ではあるがライバルでありながらも尊敬してやまない気持ちは同じ。でも・・・・


(本当だったらあなたと色々話をしたいところだけど・・・私に声を掛けないのはあなた流の気づかいってところかな?今の私はロシア代表だからね。私的にはロシア代表として葉月山とは相撲はしたくなかったからこれでよかたんだ。ただここからの相撲は容赦はしない。アマチュアの力士でも潰すつもりで若い芽は今のうちに摘んでおく。


 今の私にとっての相撲は家族とともに生きていく糧なんだよそれを失うわけにはいかない。この大会でロシアが優勝するのは至上命令なんだ!葉月山が引退した時に本音を云えばホッとしたんだ。ロシア代表として葉月山を潰す局面が来なかったことは救われたのかもしれない・・・。『王道の相撲』今の私には・・・)


 アンナの心とは裏腹に葉月を睨みつけ薄笑いを浮かべる。そして映見にも・・・・。




 行司が二人を仕切り線の前に立たせる。


「見合って・・・はっけよい!!」互い仕切り線の前に腰を下ろし両拳を持っていき立ち合いの体制に・・・・しかし、横綱のアンナが立ち合いを嫌って立ち上がる。館内からは一斉に大ブーインの完全アウェー状態。


 アンナは反転してロシアチームの面々を見る。そこには監督・コーチ陣の厳しい視線が否応なく向けられている。大きく手の広げ深呼吸し息を入れる。アマチュア・プロを含めると世界女王になったのは数知れずそのほとんどはウクライナ時代の話。ロシア代表になってからのアンナはどちらかと云うとロシアの精神的支柱を担っている。


 若い選手達にとってアンナの存在は絶対ではあるが逆にクリミア出身の彼女にはどこか気を使ってしまっていることも事実。アンナにはそのことが心に痛いほど感じている。だからこそ勝たなければ勝たしてあげなければ・・・。


 映見も反転して日本チームのさくらと桃の山を見る。そして、その後ろに監督・コーチ陣が見守る。


「映見!アンナの強引な突き出しに気おつけて!今の彼女はまともじゃないわ!」とコーチであり相撲部の監督の倉橋真奈美は強い口調で映見に飛ばす。その隣で口を真一文字に俯きながら厳しい表情の葉月。


(葉月監督・・・)


 映見は葉月監督の何か集中していない表情に違和感を感じた。今まで常に土俵に立つ相手力士を見据えそれは指揮官として相手チームに威圧感を与えるように、でも今の監督は・・・・。



「アンナ!負けは絶対許されない!とにかく勝つことだけに集中するんだ!」ロシア監督が荒い口調でアンナに声を飛ばす。そんな監督の言葉に選手・力士達はアンナに声援を送る表面上は、でもその奥に見え隠れする本音は自分達も一つの政治の道具であると云うこと。アンナが選手・力士達と接するほどにプライベートではアンナ自身に気を使っているような表情を見せてしまうのだ。


(ここはどんなに乱暴な相撲をしても勝たしてもらう。この国はソ連の時代と本質は変わらないだからこそ勝たなければならない、国のためではなく相撲を愛するメンバーのために・・・。批判は全部私が受ければいい。そして私が引退すればそれでいいんだ。葉月ともう一度がっぷり四つの相撲をできなかったのは心残りだが葉月が引退してしまったのだから私も頃合いと云う事か?一番私が輝いていた時に葉月山に出会えたのは私の相撲人生にとって忘れられない!)


 アンナは頬をあもいっきり両手で叩き気合を入れる。


「はぁっ!」っと映見は自分でも驚くほど気合が入っていた。


「映見さん!」と声を張り上げるさくら。桃の山はじっと二人を口を真一文字に瞬きもせずアンナを凝視する。


(真奈美さんの云うようにここ最近のアンナは乱暴な相撲が多すぎるまるで殺すこともい問わないような、でも相手はアマチュアの大学生、そんなことまでするのだろうか?)そんなことを考えている桃の山の後ろでささやくような声で・・・。


「アンナさん・・・」と監督の声が?


(葉月さん・・・)その葉月の声はか細く悲痛な叫びのように聞こえたのだ。


 桃の山は後ろを振り向こうと思ったがその事に躊躇したと云うか振り向いて見てはいけないのではないかと、一度だけ葉月山引退直前に尊敬する力士は誰かと聞いた時に桃の山にとっては意外な人物を上げたのだ。



「葉月さんの尊敬する力士って誰ですか?」と桃の山


「そうねぇー、そこは妙義山と云うところだろうけどね、まぁそれはもちろんだけど私にとっては同世代のアレクサンドロワ アンナさんかしら」と葉月


「ロシアのですか?私はあまりいい印象が・・・特にぶちかましは」


「最近の相撲はあまり良い印象ないわいよね、特にぶちかましのような相撲は、昔はぶちかましは禁止されていたけどロシアの強いルール変更で外されたそれでもそうは使わないのにアンナさん本当は」


「あれだけアマチュア・プロでヨーロッパ・世界と何度も優勝しているのにちょっとと多いような気がします。実際、再起不能になってしまった力士だって・・・」


「・・・・勝負だから・・・」と桃の山には葉月の言葉が何か寂しげに聞こえたような


 アマチュア時代から相撲で勝負をしてきた葉月とアンナ。それはライバルでありお互いが尊敬しあうかけがえのない親友だった。しかし、ロシア代表になってからの彼女は変わってしまった。『王道の相撲』がっちり組んでお互いのすべてをぶつける取り組みはファン以上に当人同士が勝負でもあるにかかわらずそれは至福の時だった。でも今のアンナにそれは許されない!勝つことがすべて!そこに相撲内容など関係ないのだ。


(アンナさん。桃の山ならいざ知らず間違ってもアマチュアの映見にぶちかましのような相撲はしないでそこはプロ力士としてのプライドとして私の尊敬するアンナさんだからこそ・・・私が葉月山として相撲をしていた頃のあなたに・・・)葉月の心の叫び心の・・・



「見合って・・・はっけよい!!」


 二人とも腰を下げ臨戦態勢


 二人とも両手を着き立ち合い成立。


 アンナは立ち合い鋭く映見におもいっきり額から真正面に胸元にぶつけていくと同時に『ゴン』と云う重く鈍い音が響く。


(うっ・・・)一瞬映見の意識が飛ぶ。


「映見!!!」真奈美の悲鳴のような声。


 なんとか土俵際でとどまった映見だったがアンナはもう我を忘れたかごとく今度は、そこから10発以上胸元から顔への突っ張りを連発。


(うっ・・・うっ)映見はなんとか徳俵に片足を乗せながら踏ん張る。


「しぶといね!さっさと土俵下に落ちろ!」アンナにはもう横綱と云うプライドなど関係がなかった。ただただ勝つ!ただそれのみ


(うっ・・・勝てなくても・・・桃の山さんのために・・・少しでも・・・)


 映見の意識はもう完全に飛んでいる。それでも土俵を割ることを体が拒む。


「映見!!!引いて!!!もういいから引いて!!!」真奈美はもう我も忘れ映見に叫ぶが・・・・。


(引くわけにはいかないんだ!私はチームのためにそして・・・)


「映見さんもう引いてください!映見さん!!!」さくらが必死に云ってもそれでも引くことを拒む映見。


(私はこんな相撲は嫌いだけどこれは団体の勝負何だ!さくら!あんただって引かなかったじゃないかそれと同じだよ!)


映見は夢遊病者のようになりながらも自分から「四つよつみ」の体勢に持っていこうと・・・。


(しつこいうえに舐めた真似を!だったらこのまま土俵下に叩き落としてやる)


 アンナは意図的にがっぷり四つに組ませる。映見が望んだ体制のところでもうそこからはどうすることもできない。ただ組んでいるだけの人形のように・・・。


(これで終わりだ!!!)


アンナはそこから強烈な右上手投げて土俵の下へ投げ飛ばした。まるで格闘技用のダミー人形を投げ飛ばすかのように・・・。


「映見!!!!!!!!!!!!」


土俵を割ったがそれでもなんとかぎりぎ踏みとどまってはいたが直後に足をもつらせ土俵下に転落してしまった。


 館内が一瞬鎮まると間髪入れず館内は悲鳴にも似た女性達の叫び。


「映見!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 







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