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女力士への道  作者: hidekazu
勝利の意味

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学生力士とは・・・③

 西経大女子相撲部は部員数25名。今の主力は3年の軽量級の吉瀬瞳と重量・無差別級の2年の稲倉映見の二人が西経を引っ張っていると云ってもいい。

 映見と瞳は付属高校相撲部からの一つ違いの先輩・後輩。映見にとっては高校相撲部の時代から色々な面で支えてもらっているもっとも信頼がおける先輩なのだ。高校時代は相撲部の先輩からはある種の妬みによるいじめも受けたことがあったがその時に盾になって守ってくれたのは瞳だった。


瞳が高校3年に相撲部主将にになると部の雰囲気はガラッと変わった。先輩後輩の序列関係はしっかり持ちつつもお互い云いあえる環境づくりをすることによってお互いの意志の疎通を濃密にする。当然濃密になればなるほど些細なことでぶつかることも出てくるがそこはみんなで話し合い最終的には主将が決断と責任をとる。相撲において勝つことは重要であるがそれ以上に相撲部員同士を絆として結びたいそのことで自然と部が強くなると云う思想なのだ。瞳にすれば相撲だけに専念したいと云う思いもあったが一年・二年で見たり受けたりした上下関係と云う名のもとの上級生のリンチまがいの稽古は許せなかった。二年になり下級生に映見が入部した時は期待のホープなどと云われたのも束の間上級生の妬みの対象になった時どうしても我慢ならなかった。そのことで上級生とぶつかることもあり今度は瞳が標的に。


      (あの時に決心した。相撲で強くなることよりもまずやることがあると)


 大学進学後当然のごとく相撲部に入るがそこで見たものは高校の時見た画そのものがまた繰り返されているそれは当たり前で高校の先輩が上級生としているのだから・・・それどころか監督も容認しているような態度。西経大学女子相撲部は厳しいことは高校に入学した時から覚悟をしていた。相撲がやりたくて西経に入ったのだから何を今更と自分に言い聞かせたが・・・。


 女子大相撲が創設されるにあたり西経女子相撲部はプロ力士養成学校の様相を呈していた。今までの女子アマチュア相撲という超マイナーの競技ではなくなっていた。ましてや女子相撲は世界に後れを取っているという現実がさらに拍車をかけ大相撲の相撲部屋なのかぐらいな弱肉強食の世界へと変わってしまったのだ。


 女性力士である程度の生計がたてられることが日本における女子相撲の課題であった。その意味では女子大相撲の創設と世界各国のプロリーグとの連携やツアーシリーズの開催も近々開催されるなど男子の大相撲よりも国際的な競技になったことは喜ばしいことではあるのだがそれゆえアマチュアの学生力士であってもプロ並みの過酷さに耐える体力及び精神力を要求されるような競技になってしまった。


 有力な選手は大学相撲からの入門がほとんどなのは大学時代の成績次第でスタートの番付がまるっきり違うこと現状において不足している選手を考えれば即戦力の大卒者を取りたい女子大相撲側と女子相撲と云う新たなジャンルで大学の知名度アップを考える大学との利害が一致したと云えるだろう。


 その中において、映見も瞳もプロ志望ではないのにも係わらず常にトップの成績を保ちなおかつ相撲関係者に対して意見をするような行動は選手も含めて正直面白くない。


          代表選考会から一週間後、部内である出来事が・・・・・


「今日は監督と部長は用があって東京に行っているので不在です。それと吉瀬は中京三県女子相撲選手会の会合に出席してもらっているので不在です」と4年の主将である江頭が続ける。


    「世界大会も近いしどうでしょ横綱、“ぶつかり稽古”と云うのは」


 ぶつかり稽古とは、土俵の中で1人に集中してその力士を強くするために胸を出す稽古のことで一分もやるだけでどんなに強い力士だってへとへとになってしまうハードな稽古。でもこれからやるぶつかり稽古は全く違う意味の稽古だと・・・。


「可愛がってあげるって意味ですか主将。もうそんなことやめませんか」と映見は主将に懇願するが主将の無表情のまま

「吉瀬は口答えせず可愛がってもらっていたけどねぇー。二年で西経の横綱なんだから屁でもないでしょそんな事・・・・この前の代表選考は不満だらけだったみたいんだからストレス発散してあげるわよどうです横綱やりますかそれともやめときますか」と薄笑いを浮かべなら・・・。


「わかりました。ただ条件があります。通常の稽古をした後にそれと一年と二年生それと三年生は先に上がらせてください。その条件を呑んでくれるのなら主将をはじめとする4年の先輩方のみで可愛がっていただきたい」


 多分、吉瀬先輩がいたらこんなことは絶対させないだろう。本来なら中京三県女子相撲選手会の会合には主将と主務がいくべきところだが次の主将になるであろう吉瀬を出席させたいと云うのが表向きの話だが本心は・・・・。


   全体稽古を早めに切り上げると映見と四年生以外は相撲場から退室させる。


 四年生の4人が交互に映見相手にぶつかり稽古を始める。映見は真っ正直に向かい合い圧倒的なパワーを生かした寄りに豪快な投げ技それと学生離れした並外れた体力。1分・3分・5分と時間が経過するが終わる気配はない。映見の相手はみな重量・無差別級そのうちの2人は172cm・145㎏と175cm・135㎏の巨漢力士。対して映見170cm・100㎏。体重の差は女相撲でもやはり大きくて重い方が有利。一番二番の相撲ならいざしらず・・・もう10分以上経過しているが終わりはない。


 「う~ん・・・う~ん・・・」


「くぅ・・・あっ・・・ん~ん~・・・」


「・・・・・・くっ!!」


「・・・・・・うあっ・・・」


 今まで圧倒的な相撲で立ち向かっていた映見の体力が一気に消耗してしまったのだ。押し切られ投げられ映見の相撲用のレオタードは砂まみれそれでも4年生たちにやめる気配はない。


「横綱。まだ寝るには早いんじゃないですか」と云って無理やり立たせ組まさせるとまるで子供を投げ飛ばすように・・・・。


「西経には西経の伝統があるんだよ映見。プロを目指していないんだったら余計な事して貰っちゃ迷惑なんだよ」と膝まづいている映見の頭に足を乗せ砂に顔に砂が擦るように押さえつける

「くぅ・・・あっ・・・ん~ん~・・・」映見の顔に土俵の砂がべったりと・・・・

「もうやめとけ」と主将が云うと副将は足をどけ主将の脇へ・・・

「私はプロ入りするんだからよこんな時にお前の余計な発言や行動が関係各位にいらん印象を与えてもらっちゃ困るんだよ。お前の実力は認めるよだから大人しく相撲だけとってろ!」と云うと4年生は全員相撲場を出ていく。


  土俵の上には俯せの状態で立てないでいた。口に入ってた砂が口内に入ってざらつく。


 女子相撲が世界で広がり普及していった経緯は新たな一つのスポーツとして発展したのに対して日本はどうしても男子の大相撲を模範としてしまうのはある意味しかたがないことだがこんな事をやっていれば発展するわけもない。実際女子相撲部の大半の監督は男性である。元大相撲の力士だった者が多いことも理由だろうし男性監督やコーチが女性力士への対応の仕方を理解できているかとは到底思えない。

 その意味では西経の倉橋監督が女性であることは貴重な存在だが残念ながら男性監督以上に選手に厳しい教えとなってしまうのは仕方がないことなのだろけど・・・。


 もうどれだけ土俵の上で俯せの状態でいるのだろうか・・・・映見は立とうとした時両ひざと右足首に違和感を覚えた。

(やっちゃったか・・・・)

映見は這いずるように板壁まで行くと壁を支えにやっとこ立ち上がった。それだけでも精一杯なのだ。


 映見は自分の相撲そのものに精魂尽き果てた。プロの相撲部屋ならいざしらずアマチュアで好きだからやっているのにそれは相撲部にとっては異分子。それでもやめたいとは思ったことは今もない。


 そう云いながらも相撲は大学で辞めるという矛盾。女子相撲の発展のためにとか想いながら医師になることが一つの目標であり相撲をやっているのは趣味の領域。そのことが周りの人達からしたら面白くないのだろう・・・・でも本心では自分自身が一番イラついてるかもしれない。


 やっとの思いで着替えてバックの入っているスマホを取り出すと着信の知らせが・・・相手は吉瀬瞳。映見は電源を落とす。とても出るなり返信する気分にはならなかった。瞳にはこうなるかもしれないと予見していたのかもしれないそれは映見自身も・・・。


 




 



 




 

 

 

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