決戦 ! 日本vsロシア ①
日本選手控室。百合の花を欠いた日本チームに悲壮感がないと云えば嘘になるが・・・。それでも決勝まで来た以上泣き言も云っていられない。対しロシアチームは補欠を入れて四人のフルメンバーで戦うことができる上にロシアはプロの二大横綱をここまで交互に使い分け体力を温存することに成功している。
〈ロシアチームメンバー〉
ロシアの絶対横綱アレクサンドロワ アンナ
若手筆頭の横綱コヴァルベラ
アマチュア無差別クラスのロシア女王ダヴィ・オルガ
同じくアマチュア無差別クラス世界女王経験者のオルガ・ヤナ・コザノワ
ロシアチームのここまでの対戦は恵まれた面はあったにせよ二大横綱はまだ一人ずつしか対戦していないそれもウォーミングアップでもしているかのような楽勝相撲。アマチュア選手も交互に使いながら余裕の相撲。日本チームは桃の山を欠いていたことでアマチュア二人はフル参戦し百合の花も同じくフル参戦することになり結果的には怪我で決勝は出場できなくなることに・・・。そして百合の花と入れ替わるように桃の山が準決勝から参戦することになったのだが・・・。
「桃の山、百合の花が出れない以上あんたに負けは許されない。ましてや」
「わかっています。百合の花関に無理をさせたのは私ですから・・・」
女子大相撲技術指導部 部長 長谷川璃子(元大関 藤の花)と桃の山との会話には何か信頼と云うよりは不信感の方が滲み出てしまう。十和桜が原因なのだがそれ以前にどこか精神的に弱い一面を持ち合わせている桃の山。桃の山の指導にも関与していた璃子からしたら本音は腹が立って仕方がなかった。
「ブラジル戦の動きが少し硬かったのはしかたがないが」
「決勝前に一番取れて緊張もほぐれましたから大丈夫です」と桃の山は云うが・・・。
アマチュア二人は倉橋真奈美と作戦と云うか雑談?
「さくらも映見もよくここまでやってくれた文句のつけようがないわ」と真奈美。それはお世辞でもなんでもなんでもなく本音。桃の山がいないと云う緊急事態においても二人は落ち着いて相撲をとり勝ち進んできた。特に映見の活躍には真奈美の想像以上のものがあったしそのことが高校生であるさくらの安心感に繋がっていた同時にの普段以上の力を発揮しているのだ。
「決勝は今までの相手とは全く違うけどさくらと映見ならいい相撲ができる!勝負に拘るなとか云うべきだけどここまできたら勝ちに行くしかないから・・・特にさくら、この大会何番か相撲をしただけでものすごく成長と云うか覚醒したわ。自信をもって決勝に望んで」
「はい!」とさくらはどこか緊張感と云うよりも嬉しい?
「なんか嬉しそうね?」
「えっあぁ・・・なんか緊張すると笑っちゃうと云うか・・・」
「そっか・・・それと映見」
「はい」と映見は少し緊張しているようで・・・・。
真奈美は映見の表情を見ながらここ直近のことが頭に浮かんでくる。もしかしたらこの場に立たせる前に潰していたかもしれないそれぐらいに危うかった。今まで選手の自主性に任せてきた真奈美にとって映見はどうしても自分の理想としている選手に育てたかったと云う想いが強いと同時にできなかったら潰せばいいと・・・自分の手の中で・・・。それはいつの間にか自分の生きがいであると同時に自分勝手な・・・映見からしたら実に迷惑な話ではあるが・・・。
「よくここまで我慢して頑張ったわと同時に私は自分の未熟さを思い知らされた。指導者として失格だって・・・」
「監督?」
映見は真奈美が突然こんなことをましてや大会がおこなわれている真っ最中に、少なくともそんな監督のこんな姿は見たこともなかったし自らを否定するような云い方をするなんって想像もしたことがなかった。
「映見、決勝の勝敗の鍵を握っているのは映見だから・・・プレッシャーかけるようで悪いけどそのつもりでやって、百合の花関の代わりのつもりで女子大相撲の横綱のつもりで頼んだわよ!」
「わかりました。百合の花関の代役として恥じない相撲をしますから!」
「さくらも同じくよ。私の愛弟子でもないけど島尾監督の下で指導を受けてきたことは色々あったけど間違えではなかったってことね、もちろんあなたの努力は当然なのは云うまでもないけど」
「私、島尾監督の下で指導を受けたことを誇りに思っています。それに倉橋監督と一緒にこの大会で相撲をできることも・・・」
「相撲も上手くなったけど口も上手くなったわね」と真奈美は少し意地悪く
「私はほんとうにそう思っているんです!」と語気を強めるさくら
「御免ゴメンそんなつもりじゃなくて・・・もうさくらは、名古屋帰って後日、食事でしましょう」
「それもいいんですけど・・・・」
「何?」
さくらは何か云いたそうなのだが実に云いにくそうな・・・・。
「何?云いたいことがあるのならいいわよ」
「東京泊まりとかありですか?」
「泊まり?」
隣の映見は両手を上げて呆れ顔
「泊まりって、一応大会終わってから色々会見とかパーティーもあるけどそれでも帰りの新幹線のチケットは取ってあるのよ」
「圭太と夜のディズニーに・・・・」
「圭太?あぁ・・さくらの彼氏、なに来てるの東京に?」
少々呆れてしまった真奈美ではあったが・・・・
「映見さんの彼氏も来てますから・・・」
「はぁー、映見も連れてきているの・・・大阪の時と良い別にとやかく云うつもりはないけど」
「和樹は東京の大学だから見に来てもおかしくないですけどさくらの彼氏はさくらと同じ岐阜なのに来ているって・・・」
「私だって来てくれ何って云ってませんしさっき気づいたんですから・・・でも嬉しいけど・・・って和樹さんと一緒な観戦してるじゃないですか映見さんこそ「絶対に応援に来て!」とか云ったんじゃないんですか?」
「私がそんな事云うわけないでしょ!何云ってるのよまったく」
「苛ついてる表情が・・・・わかりやす」
「・・・・・」映見は一瞬さくらを睨みつけるが
完全に呆れてしまった真奈美ではあったが・・・・。
「あのさーこの大会の意味わかってるよねあんた達、いい日本チームはアマチュア二人と横綱桃の山関で戦うのよその意味ではアマチュアの活躍で勝負が決まるのよわかってる?」
「さくらわかってる!」と映見は間髪入れず
「えっ・・・わかってますよ何を今更」と即答するさくら
二人はお互い顔を見合わせるもお互い吹いてしまった。
「さくら、ここまできたら勝たないとね。さくら相撲が一番ごとに良くなっている自信を持って私もあなたに負けない相撲するから・・・あなたにみっともない相撲は、あの出稽古のような時な相撲は見せたくないから」
「私も偉大な先輩の前で無様に相撲はしたくないんで・・・圭太の前でも私をここまで強くしてくれた稽古パートナだから・・・」
「絶対絡めるのね彼氏を・・・」
「愛してるんで・・・」
(なんのよこれって・・・あなた達の気持ちはわからないわまったく・・・・。でもここまで二人ともよくやってくれたし最後はなんとか良い形で終わらせてあげたい。ここまで勝ち上がってこれたのはアマチュア二人の活躍なくしてここまでこれなかった。そして百合の花関の横綱としての勝負強さはアマチュア二人のにとっては良い手本になったはず・・・でももう百合の花は土俵にはいない。映見!あんたに掛かっているんだからね!悪いけど桃の山じゃ役不足!だから映見あんたは女子大相撲の横綱のつもりで戦って!)
倉橋真奈美にとってはこの二人のアマチュア選手は女子大相撲にも負けないすぐれた選手、いや力士だと想ってあたってきた。自分の理想を具現化した選手である稲倉映見、そして西経女子相撲部で途中で相撲を辞めてしまったが教師をしながらも高校女子相撲部の指導者として活躍する島尾朋美の下で指導を受け高校女子横綱になった石川さくら。この二人を擁して世界と戦っていることに真奈美は誇りに思うと同時にだからこそ負けられないと・・・。
真奈美はチラッと桃の山と璃子を見る。先のブラジル戦では大将としてアマチュア相手に勝ちを取ったが動きに硬さが見られる以上に緊張していたのが目に見えるほどに・・・。調子の波が良い時は無敵に近いが少しでも調子を崩すと想像以上に脆い、海外での相撲や外国人力士との取り組みは桃の山にとっては苦手意識がある上に気持ちが優しすぎるのだ・・・。それは以前の映見のように勝負に拘るより自分の相撲に拘るように・・・。
真奈美の本音からしたら大将は映見で勝負を決めたい。アマチュアだろうが何だろうがそんなのは関係ない。代表に内定以降の稽古は映見に女子大相撲並みの稽古をしてきた勝負に拘る稽古を、そしてそれに映見は応えてくれた。ポーランド戦で相手選手を土俵下に叩きつけるように投げ飛ばしたことはやり過ぎだったかも知れないでも真奈美の本音は映見の隠れていた勝つことへの執念を初めて見た一戦でもあったのだ。
(あんたのあんな相撲は初めて見た。あんたも本当は勝負に拘らない何って嘘じゃないかあんな相撲はあんたが一番嫌っていたはずなのに・・・・。ロシアとの対戦は日本があっさり負けて決まるかはたまたもつれにもつれて・・・・その時は映見!おまえの相撲次第で勝負は決まる!勝負を決めるのは横綱桃の山じゃなくがアマチュア横綱の映見なんだよ!)
モニターに両国のオーダーが映し出される。日本はさくら・映見・桃の山と順当なオーダー、ロシアは両横綱を先鋒・大将にし中堅にアマチュアをある種の変則と云うか先鋒で確実に一勝を勝ち取る作戦と云う事か?
(日本の女子大相撲よりロシアの方がある意味では上かも知れないでも・・・・)
真奈美はさくら・映見の表情をまるで凝視するように・・・その間に言葉は必要ないほどに・・・。




