孤高の力士から一輪の百合のように ③
葉月は力士を引退しファンサービスのような催しやテレビの解説やネットの配信サイトの出演など葉月は積極的と云うかこれも女子相撲界から去ると云う一つのケジメとして依頼があればできるだけ受けてきた。けしてそのようなことは得意ではないがそれも女子相撲及び女子大相撲のためならばと、そのような時に何気に云われることは百合の花のことなのだ。
「百合の花って何かねぇ」
「もうちょっとあいそうがあっても・・・」
「百合の花って四股名だけど華がないと云うかなんかぶっきらぼうと云うか」
「孤高の力士でも気取ってるんじゃないの?そのくせ桃の山に二場所連続優勝さらわれているくせに」
「美人なんだけどなぁ・・・・」
場所中やファンの集い・月一の地方への巡業周りでも何気に聞こえてくる百合の花の評判、葉月自身だってけしてあいそうが特別いいわけではないしどちらかと云うと相撲だけに邁進していたタイプだがら偉そうに百合の花に云える立場ではないが・・・。
「百合の花、少し変わったわよね?」
「何がですか?」
「うぅんなんか最近、ファンの集いのトークショーとかj前だったら出なかったくせにどうしたのかなぁーって?」
「上がうるさくて・・・私は葉月さんや桃の山見たいにあいそうよくないし不器用だから・・・本音は出たくないんですけどこれも相撲の一環だと思って仕方なくやってますよ、でも私がいるとなんかテンションさがってるんじゃないかと想う時もありますが」
つい鼻で笑ってしまう葉月。
「さっきあなたが桃の山に云ったじゃない早く土俵に戻れって、あれを背骨を通して聞いた時私の云いたかったこと代わりに云ってくれた同時に百合の花はちゃんと精神的支柱になってくれているんだって私が口出さなくても」
「別に私は・・・」
葉月山引退後の日本は「おそるるにたらず」それが今大会の世界の共通認識。でもそれを覆すように日本は快進撃を続け決勝まできた。桃の山が途中まで不参加と云うことはあったにせよここまでやってきた。個々の能力が高くなければここまでたどり着けないがそれ以上にチームで戦うと云う士気が高くなければ能力も発揮できない。そのなかにおいて葉月は百合の花にその意識を持ってほしかった。
孤高の力士だとか二場所桃の山に惜敗で優勝をさらわれるだとか、引き立て役にうってつけだとか、それは葉月山現役当時から百合の花は脇役でありヒール役なのだ。桃の花がスポットライトを浴びる華麗な桃の花ならば百合の花は山の中にひっそりと咲いている一輪のテッポウ百合のように・・・。
「今の日本チームにあなたがいることがどれだけチームの士気に影響するか特にアマチュアの二人にはあなたの存在意義を言葉には表現できなくても感じているはず。ちょっと一言声をかけるだけでそれだけでかけられた方は勇気づけられるし気持ち的にも余裕が持てる。
別にあいそうよくしろとかおべんちゃら云えとかじゃないのよ厳しいことを云って嫌われても必要であればそれは云うべき事この大会が決まってからあなたはそのような事をやってくれている。さくらなんか合同稽古の時なんかあなたに嫌われていると想ったらしいけど大会始まってからあなたの意図を理解したみたいで相撲が取り組みごとに良くなっているわ。あなたは意識していないかもしれないけどチームの柱としてやってくれた。だから、ありがとうね百合の花ってことよ」と葉月は少し緩やかな表情をすると軽く頭を下げた。
「ちょっと待ってください!なんで私が葉月さんに頭を下げられなきゃいけないんです!おかしいですよ!」
「百合の花!私の後頼むわよ!この大会であなたは私の意図をを誰よりも汲んでくれた。だから私はあなたに何も指示めいたことは云う必要がなかった。だから私にとって私の後継、絶対横綱はあなたなのよ!瀬島先生の云うこと聞いてちゃんと完治させなさい。そして土俵で大輪の百合の花をまだまだ咲かせなさいよここで終わるようなあんたじゃないでしょ!」
「葉月さん・・・」
「もう控え部屋に戻るわ。決勝での出場の順番もあるし・・・ロシア相手じゃごまかしや幸運なんかありえない本当の真っ向勝負プラス心理戦。立ち合いの前に笑みを浮かべたりするだけで、相手の集中力を削ぐそれだけで勝負が決まったりする。心理戦において明確な答え何んかないけどそれを露骨に表したのは桃の山だからね」
「桃の山は当然大将ですよね?」
「あなたが使えない以上それは動かせない。もしあなたが完調なら桃の山が来ても外すことも視野にはあったけど・・・ここまでのアマチュア二人の調子からすればそんなに悲観はしていないけど桃の山それももつれた時の使い方なのよ」
「もつれた時?」
「二勝二敗になった時三勝目の取り組みは順番どおりではなく出したい選手を出せる。その時にどうするか?」
「その時は桃の山を使わないかもってことですか?まさか映見!?」
「アマチュアにそんな重責を負わせるのは女子大相撲の恥だし横綱桃の山のプライドひいては女子大相撲の権威は崩壊する、でもねぇ勝負に徹するのならそこまで考えているしそれができるのは私にしかできないから代表監督のとち狂った采配、その時もし負けてしまったら責任は私が全部被る。ロシア戦はそれほどまでに厳しいのよ!」
「葉月さん!」
女子相撲の覇権が取れるか取れないかの大一番にアマチュアを使うなどと云う無謀を考える国などあるわけがない。そんな重責を負わせて負ければその代表監督はバッシングを受けるのは必至、でもそんなことは葉月にとっては覚悟ができていることそれよりも一番にショックを受けるのは稲倉映見本人であることそれは精神的に計り知れない、いや相撲をやめてしまうほどのショックを・・・下手をすれば・・・。
「稲倉映見に相撲の厳しさ、いや女子大相撲の厳しさを、もちろん桃の山の状態がよければそんな無謀なことはしないけどね」
力士同士だからわかる相手の状態、体調・心理、葉月も百合の花も桃の山は危ういとそれに対しての映見は今の桃の山より上それは相撲の技術が問うのとかの問題ではなく相撲に立ち向かう気持ち相手に立ち向かう闘志ははるかに上だと云う事は二人とも同じ想いなのだ。
「それじゃ戻るわ。悪かったわねお邪魔虫で」
「はぁー」
「瀬島さんなんかいいじゃないちょっとソップ型の力士みたいで」
「学生時代レスリングをしていてアジア代表選手にもなっていたそうです。ても怪我で引退してしまったそうで・・・」
「ふ~ん」
「それで整形外科をしてらっしゃるのかと選手として怪我をして引退してしまった悔しさを知ってらっしゃるから私の力士としての怪我の苦悩もわかったうえで治療をしてくれるのじゃないかと」
「ふ~ん・・・なんか感情がこもっていて」と少し茶化すような葉月
「感情?・・・葉月さん!馬鹿にしてますよね今の私の話、別に私は瀬島さんがどうのとかそんな感情は!」
「百合の花、声がでかい」と多少からかい気味に云うと扉の前に立ち背を向けたまま
「百合の花、あなたは日本の女子相撲の精神的支柱なのそれは肝に銘じて頼んだわよ」
「葉月山さん・・・」
「葉月山じゃないからまったく・・・」と云うと葉月は扉を開け何も云わず外へ・・・・
葉月山が力士を引退しそれを待ってましたかのように桃の山が横綱に昇進してきた。妙義山・葉月山と続き一気に第三世代に変わったと云うのが女子大相撲ファンの認識、そのなかに百合の花は入っていない。百合の花は常に引き立て役であってスター力士ではないと云うのが普通の女子相撲ファンの認識なのだ。そんな百合の花にしつこいぐらい声をかけてきてくれるのが椎名葉月だった。
現役時代は話すことはおろか目すら合わせないこともあった。それほどまでにバチバチで逆にそのことがファンをより熱くする。女子相撲をやっているアマチュア達も目標とする力士は葉月山であり桃の山で百合の花ではないのだ。百合の花自身はそのことについては別にどうこう思うところもなかったし気にもしてはいなかった。ただ絶対横綱葉月山を倒す!ただそれだけ・・・。
そんな百合の花も葉月山が力士を引退すれば自ずと日本女子相撲の女王として世界とも相撲を取らなければならないもちろん女子大相撲も、でも何か燃えない、葉月山と云う偉大なる力士の引退がこうまで自分の相撲魂の火を消えないまでもいつ消えてもおかしいぐらいに・・・。
そんな百合の花に椎名葉月は何か寂しさと云うか同時に潰してはならないとそれは元ライバルと云うよりも戦友として世界の相撲力士と戦って勝ってきたいや勝たせてもらった、それが百合の花、絶対横綱葉月山を奮い立たせてくれた唯一無二の相棒なのだ。
(やっぱり寂しいです。葉月山が相撲界から完全にいなくなることが・・・私は葉月山さんみたいに相撲を志す女子達の目標になる資格はあるのでしょうか?)
一人ベットの上に座り過去の対戦を思い浮かべる。自然と表情が歪んでしまう、悔しさとそんな自分に腹が立つ。そんな自分に・・・。




