学生力士とは・・・②
大学のジャージに着替え会場の会議室でインタビューを受ける日本代表選手達。今回の試合での優勝者が各階級の代表になる。
各階級の選手達がインタビューを終え最後に女子無差別級の映見が受ける。
「稲倉選手、代表決定おめでとうございます。今日の試合はかなり激しい試合となってしまいしたが如何だったでしょうか」
「ありがとうございます。私個人としてはほっとしていると同時にアマチュア相撲としての在りかたが問われるような状況は如何なものか」
「と申しますと・・・・」
映見は一呼吸入れた後
「今日の取り組みは神崎先輩には失礼ですがやり過ぎたと思います。それ以上に問題なのは私が張り手を浴び続けているのにもかかわらず止めなかった審判及び関係各位の方々の見識を疑います」
「それは、張り手が問題だと?」
「神崎さんが張り差しできたことには何も問題はありませんしそのことをどうのこうのとは云う気はありません。そのあと再度張り手の連続をしてきたことにそこまでするのかと思った同時にもし私が張り手の応酬で対抗していたら審判は止めたのだろうか?。私が張り手を食らっている時に試合途中であれ止めるべきだったと・・・想っています」
記者会見の場でアマチュアの大学選手が試合自体の運営及び協会の在りかたに苦言を呈すような異例な展開になってきた。映見はさらに続ける。
「私も海外での試合も多々ありますが海外であれば間違いなく審判はいったん試合を止めると思います。お互い理性を失なってしまった状態で続行させることはありえない。それは相撲ではなく単なる喧嘩です」
「女子大相撲でもたまにありますがそれも問題かと・・・」
「女子大相撲はプロです。プロでやられている力士の方々にアマチュアである私が云う資格はありません。私は大学生力士としてアマチュアでやっている者からすると勝つことを主としてなら何をやってもいいとは思っていません」
「勝つことは目的ではないと?」
「女子大相撲が創設されて女性力士として卒業後も力士としてやることもできることになったことは
本当にうれしいことですし女子大相撲を目指すと云うことがモチベーションにもなるわけですから
それに異を唱えることはありません。ただ最近のアマチュア女子相撲をやっている身からするととにかくプロ入りすることにおいて勝ちを優先するあまり危ないことをしても構わない見たいな空気が大学どころか高校や中学性まで・・・・」
映見はさらに続ける。
「本当は指導者の方々や関係者の方々に今の状況を是正してもらいたいと思っていますが・・・・」
会見を仕切っている協会関係者の男性が
「だいぶ時間も経ってしまっていますのでこの辺で終わりと」と云いかけたとき一人の女性記者が
「それは神崎さん一個人へとではなく女子相撲界全体に対しての批判と云うようにとってよいでしょうか」
「・・・・・」映見はその問いには答えなかった。
「ではこの辺で代表選手決定の記者会見発表は終わりとさせていただきます」
西経は今回のアマチュア世界大会には映見ともう一人3年の副将の吉瀬瞳が軽量級で出ることが決定している。
二人は会場を出て大学のミニバンでいったん大学まで戻っていく。試合がおこなわれた静岡から約二時間。車内には運転手と監督・マネージャと映見と瞳の5人。
名古屋までの約二時間の道中一言も喋らなかった。なんとなく重い車内の雰囲気の原因を作っているのは自分であることはわかっている。ただあの場の雰囲気と決勝戦の余韻があの会見になってしまった。後悔はしていないと自分に言い聞かせていた。
西経大学で解散し映見は一人構内を歩き正門へその時後ろから瞳の声が・・・。
「映見。ちょっと待って・・・」と小走りで映見の正面の前に立つ。
「瞳先輩何か・・・・」
「映見。ちよっと話がしたいから」
「・・・・・・」
映見と瞳は大学の裏手にある山小屋チック喫茶店「炮烙」へ入ると映見はウィンナー珈琲を瞳はホットチョコレートを頼むと映見の方から話を切り出した。
「先輩として話があるって顔ですね」
「そんな圧かけてるみたいな云い方はどうかな」と苦笑いを浮かべた。
「映見のあの会見個人としては間違っていると思わないし私も同意するでも」
「場所をわきまえろと・・・・」
「映見・・・・」
二人の前に置かれたカップからはほろ苦い香りの中にも穏やかさと甘くも独特なちよっこの香りが入り混じる。
「瞳先輩、大相撲には行かれないんですよね?」
「私は軽量級だしとても大相撲ではやっていけない実業団としてはやっていけるかもしれないけど今は・・・個人的には競技以外で相撲に係わりたいとは考えてる」
瞳はホットチョコを啜りながら
「神崎さんはプロ希望なのは公言しているしメディアでも世界大会に優勝してプロ入りしたいと云っていたしだからどうしても勝ちたかった・・・・でもそれだけじゃないと私は想ってるんです」
「・・・・・」
「勝つことへの強要と云うか・・・」
「強要?」
「プロならば禁止事項以外何をやっても構わないしそれがプロだと思います。アマチュアに張り手が禁止になっているわけではないので張り差しぐらいは構わないと思う。でもあの張り手の連打をしなきゃならないほど神崎さんは追い詰められていたってことだと」
映見は砂糖を入れかき混ぜずクリームをよけながら啜っていく。
「私はあの時の表情に悲痛感以外何も感じなかった。そんな取り組みが大学はおろか高校・中学でも間々あってそんな状況を見ていないフリをする相撲関係者はどうかしてると・・・・」
「プロを目指す者なら必死なる。学生時代の成績次第では幕下どころか十両スタートができる。だから必死になる。それは学校にとっても大きな意味を持つ」と瞳
「自分のこともそうだけどそれと同じくらい相撲部の一員として勝たなければならないそれは指導者も同じ。だから行き過ぎた指導がたびたび起こる」
「それはうちの監督のことを云ってるわけ?」
映見は瞳の問いには答えずコーヒーを啜る。いい具合に溶けたクリームがコーヒーの表面を覆っていく。
「映見、とりあえずその話は置いといて世界選手権のことだけを考えよう」とホットチョコを一気飲みする。
「映見がいまやるべきことは世界選手権で優勝することそれしかない。多分ネット上では映見の発言の記事は上がっていると思う。当然この話は相撲部のなかで問題提起されると思う」
「・・・・・・」
「とにかく今日のことは今日で納めて。部内での対立や監督との対立になることだけは避けてこれは先輩としてとしてあなたに忠告する。私には部をまとめる義務があるのよ」と今まで温和に話していた瞳が一気に変わった。
「先輩変わりましたね・・・・」
「どういう意味」
「チーム内の対立を私をスケープゴートにしてまとめればいいんじゃないですか・・・所詮私は女子大相撲なんかに行くつもりはさらさらないんですから私は失うものなんかない。大相撲志望の部員達は監督に絶対服従。損得勘定考えたら監督に不満を持っていたとしても意見を聞いてもらうことさえもしないことが得策。そこまでしてプロに行きたい神経が私にはわからない。先輩は私の意見には同意すると云いながら今は控えろ。おかしくないですか?それって・・・・」瞳は一瞬目をつむり天井に顔向け再度映見の顔見ると
「映見!そんなことが云えるのはあなたが大学相撲界では無双状態だから云えることあなたが平凡な選手だったらぜったいそんなことは云わないし云えない。それがあなたにはわかっていない」
「・・・・」
「女子大相撲を目指している選手達はみんな真剣なのよ!私だって映見ぐらいの体格だったらやってみたい選手としてでも、大相撲にはアマチュアみたいに階級制ではない無差別一本」
「先輩・・・・」
「選手が関係者にものを云うのには強くならなければならない勝つしかない。女子学生アマチュアで者云えるのは映見しかいないだからもう少し慎重に発言してほしいの」
「先輩・・・・」
「来年主将が卒業すれば私が主将になる。だからそれまではおとなしくしていて変な波風は立てないで」
瞳は席を立ち明細書を手に取ると・・・・
「今日は先輩としてではなくきあなたのファンの吉瀬瞳としておごらして私はあなたの小細工一切なしの相撲大好きよ。でもそれだけでは勝てなくなる日がくる。それだけは頭に入れといて」と云うと瞳は支払いを終え店の外に出る。
映見は席に座ったまま・・・。
ネット上では今日の映見の発言が女子相撲ファンの間には概ね好意的には受け止められているが相撲関係者・選手にはけして好意的には見られてはいなかった。そのことが映見どころか西経相撲部を苦しめることになるかもしれないことを・・・。




