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女力士への道  作者: hidekazu
女子プロアマ混合団体世界大会

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148/324

孤高の力士から一輪の百合のように ①

百合の花を背負った葉月は東花道から関係者通路を通り臨時に設けられている医務室に向かう。


「百合の花さん!映見さんから紹介された瀬島です」と大柄ないかにもスポーツをしていると云う感じの男性が出待ちのファンエリアから声をかけてきたのだ。


「葉月さんちよっと止まってください」

「えっあぁ」


 葉月は百合の花を背負ったままその男性の前へ


「初めまして瀬島隆一と云います。映見さんから症状を伺っていてすいませんどうしても気になって・・・」


「わざわざ・・・でも私、依頼とかしてませんよね?」


「すいませんなんか・・・どうしても気になってそれに・・・」


「それに?」


 瀬島は少し照れるような表情で・・・


「女子大相撲って見たことなかったんで」と頭を搔きながら


「そうですか・・・もしよければ見ていただけませんか?いいですよね監督?」


「稲倉が紹介してくれたと云う?」


「えぇ、実は今初めてお会いしたんですが・・・・」


「わかったわ映見の紹介なら・・・瀬島さんそれじゃ医務室の方でお願いします」


 葉月は近くにいた協会関係者にパスを用意してもらい一緒に医務室へ・・・。


「百合の花さん、腰ですか痛めたのは?」と瀬島

「実は左足首も・・・多分ねん挫だと・・・」

「わかりました。とりあえずアイシングと痛み止めを服用してもらって私の病院に」

「できれば大会が終わるまではここに居たいのですが・・・」と百合の花

「そうでしょうね、私も百合の花さんだったら多分同じ気持ちになると・・・」と瀬島


 瀬島は高校・大学とレスリングフリースタイル重量級で活躍していたのだが大学二年以降前十字靱帯損傷・外側半月板損傷と立て続けに怪我をそのことで引退をしてしまった。映見の父との出会いは名古屋に所要で出かけることがあり名古屋の事を検索した時にたまたま見つけた名古屋市主催の医療関係の公開講演会だった。医師を目指している自分にとって何か聞いて見たいと・・・。


 テーマは「町医者として患者の孤独とどう向き合ってきたのか」それは地域医療に従事している者の悩み・葛藤・そして患者の死について・・・。そのなかで映見の父である啓史は「安楽死の法制化」を強く提唱していたのだ。瀬島はその意見には賛同はできなかった。自らの命を絶つと云うことに・・・。講演終了後出待ちではないがそのことを直にぶつけたのだ。


 啓史は講演会場である市民ホールのロビーで瀬島の話を聞いてくれたのだ。若造が偉そうに能書きを垂れながら・・・。


「だから自分は先生の安楽死の法制化には異を唱えたい。医師の卵として」

「君の云っていることはよくわかったが僕はねぇ安楽死は生きることへのひとつの糧だと想っているんだよ」

「はぁー、なんで安楽死が生きる糧になるんですか?」瀬島は半ば馬鹿扱いのような表情で・・・


「いつでも楽に死ねると想えば生きていくことに前向きになれる君には理解できないかもしれないがたとえば余命宣告をされてあなたの命はあと一年ですと云われたら不思議なもんでその一年を必至に生きようとする。安楽死はそれと同じなんだよ死を受け入れることができれば生きることが楽になる。


 終わりが見えるから・・・終わりに向かって必死に生きるそして死ねればそれはそれで幸せじゃないだろうか?死を覚悟した時、逆に人は強くなれる、武士道に通じるものもあるんじゃないか?医者は病気を治すことが使命だけど直せないものだってあるんだよその時は患者に安楽死の選択もあってもいいんじゃないか?特に高齢者の患者さんは先が短いなのにその先が見えないんだよそんな中を生きていくそんな不安な生き方が幸せか!」


 そんなことがきっかけで東京の医大に通っていながらもメールや電話、偶には直接会うようになり瀬島にとっては啓史は頼れる年の離れた兄貴のように慕っていったのだ。


 瀬島は医大を卒業し総合病院勤務を経て整形外科の医院を開設したのだ。小さな医院ではあるが一般の方はおろかプロ・アマのスポーツ選手を通う医院なのだ。そんな中、啓史から百合の花関を見てくれと云われたのだ。娘さんが相撲をやっているのを知ったのはその時だった。女子相撲に関心がなかったのだから仕方がないが・・・。


百合の花をベットにうつ伏せ状態にして腰にアイシングをしながら左足首の様子も見ていく。


「ちゃんとアイシングの用意をしているんですね」と隆一


「映見に云われて・・・」と伊吹桜


「先生の娘さんが・・・」


 隆一は百合の花の腰に医療用のベルトを巻き足首はアイシングし痛み止めを服用させて安静にさせた。


「葉月さんも伊吹桜も十和桜も戻ってください。私は大丈夫ですから」と百合の花はうつ伏せの状態で首だけを三人にむけて


「でも・・・」と伊吹桜は隆一を見ながら


(えっ? 俺?)


「ここは瀬島先生がいるから心配しないで」と百合の花


「じゃー瀬島先生、百合の花をお願いします」と葉月は一礼して部屋をで同じく伊吹桜と十和桜も協会から委託された医師は相撲会場に行っており医務室には二人だけ・・・。


「先生、モニターつけていただけますか試合の様子見たいので」


「あっはい」と云うとデスクに置いてあるリモコンでスイッチを入れる。モニターには桃の山とブラジルのアマチュア選手であるPriscila Daroitとの対決が映し出されている。


「すいませんこんなことなってしまって本当だったら館内で見ているはずなのに・・・」


「いや気にしないでください。確かに女子相撲を見たことがなかったからもありますが稲倉先生がもし百合の花関から依頼があれば診察してほしいと云われてどうしても百合の花関を直に見て見たかったと云うのが本当の目的で・・・依頼もされてないんですが」と多少バツの悪そうな表情で


「大会が終わったら瀬島先生に相談しようかと想っていたんです。稲倉映見が私の体を心配してくれてのことですし春場所は休場して治療に専念することは私の中では決めていたので・・・」


「そうですか・・・私も学生時代レスリングをしていましてインターハイやアジア代表にも選ばれたこともあるんです。ただ大学時代は怪我に悩まされて休んでも治療に専念するべきだったんですが自分自身が精神論だとか根性論だとか云って体のケアと云うことをしなかった医大生のくせして・・・結果はとてもレスリングなんかできるどころか日常生活にも支障が出る始末で・・・」と隆一は自分自身に呆れた表情で


「でも今はケアをする側になっている。それは患者さんの気持ちもわかると云うことである意味患者さんにより寄り添うことができるってことでは?」と百合の花はうつ伏せのまま隆一を見ながら


「百合の花さんの云われていることは一見患者さんには云いように想いますがそこに心情的な物が入ってしまうと論理だてて理詰めでものを考えることができなくなるできたとしてもそのことを冷静に淡々と患者さんに説明できなくなることもあるんです。自分が怪我で苦しんでいた時の弱さをふと思い出したりして、患者の心はものすごく弱いもんですがそれに医師が流されるのが良いことなのかいまだに迷う事があります。恥ずかしながらそれでは患者さんには信頼されませんよね」


「瀬島さん。私の治療お願いできますか?」

「えっ、え勿論です。稲倉さんからの紹介ですしもちろん依頼されれば治療させてもらいます」

「それじゃお願いします。私も完治させて新たな百合の花として相撲を取りたいので」


「わかりました。私もアマチュアのスポーツ選手でしたが治療をなおざりにして自分の選手生命を潰してしまったわけだからその反省の意味をこめて百合の花さんには厳しいことを云うかも知れませんよ、大丈夫ですか?」


「瀬島さんにすべて委ねます横綱百合の花を・・・・」


「わかりました」と瀬島は横になった百合の花を見ながら、なにか穏やかな表情を見せる百合の花は何かホッとして安心したような・・・。


 モニター越しの桃の山の相撲はどこかぎこちなく見えるアマチュア相手に百合の花には苦戦しているようのだ・・・。ブラジルのアマチュア選手であるDaroitとは体格的にも160㎏ある巨漢力士まともな相撲では桃の山とて通用しない。


 

 Daroitは両手で喉を突くと桃の山は額で当たろうとしながら左で前褌を狙い右で宛がう。 Daroitは左で喉を押すと桃の山は右足を前に出して右でおっつけていく。


(桃の山、いまのあなたに一つの負けも許されないのよ)と百合の花


 土俵中央で互いに頭をつけ合って一呼吸、二呼吸と何か攻めあぐねているような桃の山は左に廻って一瞬互いに頭をつけ合ってまた一呼吸、二呼吸と


(桃の山相手を動かして消耗させるましてやあなたより一回りも大きいのよパワー勝負で何って相手がアマチュアとは云え・・・何をてこずっているの!)


桃の山は左に廻って一瞬Daroitの右を手繰るや左上手を取って出し投げ気味に廻り、Daroitが堪えんとするとそこを逃さず桃の山は右前褌を取って低く寄り進み、寄り切ったのだ。


「少し、時間がかかったような印象だけど桃の山関に焦りはなかったように見えましたけど」と隆一は百合の花の方を見ながら


「私には桃の山が慎重になり過ぎているように見えて・・・相手は体格的には破格でも技術的には」


「アマチュアみたいなことを云うんですね?」


「アマチュア?」


「女子大相撲力士は勝ってなんぼましてや横綱なら勝って当たり前、ましてや曰くめいたレッテルまで貼られて・・・それでも土俵に立つ力士の気持ちになれば慎重になるのは当然なのに・・・」


「あんなことぐらいで動揺しているようじゃ力士としてはやっていけないましてや今や相手は世界の力士達とも戦わなくてはいけないそれほどまでに女子大相撲は厳しい世界なんです。男の大相撲より遥かに・・・」百合の花の表情が一瞬険しくなる。


「百合の花さん・・・」


 隆一にしてみれば女子大相撲は男子の大相撲の亜流ぐらいの認識でしかなかったが百合の花の女性力士としての意識の高さに少々驚かされたのと女子大相撲をどこかで馬鹿にしていた自分の愚かさに・・・。

 


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