崩れる精神的支柱 ⑥
二人目、ブラジルの若き横綱 Costaとの一戦は大熱戦の四つ相撲対決に最後はプロ力士に力負けと云う形になってしまったが世界大会でも表彰台に上がったことがあるブラジルの絶対横綱Caixetaを倒せたことは日本にとって大きなアドバンテージ以上にチームの士気が上がったのは間違いない。
ブラジルチームは出鼻を挫かれた形にはなったがイーブンに戻してのプロ同士の横綱対決となる。
さくらが土俵から下りてくるその顔には大粒の汗を浮かべ大分疲弊している様子だがそれでも充実しプロ相手にやり切ったと云う表情を浮かべる。
「さくらちゃんお疲れ」と桃の山がタオルで顔を拭いてあげる。
「桃の山さんもうちょっと優しく・・・」
「あっ御免・・・つい力が入ってしまって」と笑う桃の山
さくらの脇を百合の花が土俵に向かっていくとさくらの肩に右手をのせる。
「さくら、いい相撲だった。自分の直感に迷いなくいくところはさくらのいいところだ自分を信じて」と今までさくらに見せたことのない笑顔で
「はっはい!」
さくらにとって百合の花関はどちらかと云うとちよっと近づきがたいと云うかけして手放しでは褒めてはくれないが良い悪いをはっきり云ってくれる。そこには褒めるとか怒るとかの感情は希薄だけどでも初めて何か少し認めてくれたのかなーっと・・・。
さくらは映見の隣に座り「ふっー」と息を吐く。その様子を見る映見。
「映見さん何か云いたそうですね?」
「私、大仕事しました見たいな?」
「まぁ何と云いましょうかちょっとここまで不甲斐なかったので・・・とりあえずアマチュアの正選手として・・・はい」
「・・・・」映見は何か引っかかってるようで
「なんか云いたいそうですね?」
「正選手として・・・どうせ私は補欠ですんで・・・」
「ふっん・・・」
「今、鼻で笑ったな」
「笑ってませんよ、もう・・・」
「さくら、こう云う大一番とかなんか決めるよね普段はぼけーっとしてるくせに・・・高大校の時もなんなんだろうね」
「私、ここぞと云う時の大一番では負けないんで」
「そのかわり負けるわけないような相手にコロッと負けたりねぇ・・・さっきの相撲も勝てたんじゃありませなんか?女子高校生絶対横綱の石川さくらさん・・・絶対横綱の!」
「ちょっと圭太とのデートのことがふと頭を過って・・・」
「はぁー、あんた相撲している時にそんな事考えての・・・このバカちんが」と頭を叩く。
「だって・・・とりあえずクリアーしましたからねぇ」
「クリアー?」
「桃の山さんのマンションに泊めてもらう条件一のブラジルの横綱を倒すですよ、あと日本チームが優勝することです。まぁディズニーがダメでも桃の山さんのマンションに泊まれるなら良しとします」
「桃の山さんなんか妄想癖がひどい女がここにいますけど?」
「さくらとの約束は守るけどさくら明日学校はどうするの?圭太君だって?」
「そこはとりあえず置いといてと云う事で・・・」
「とりあえず置いといて・・・・ってそんなわけないだろうこの馬鹿チン」
-----------土俵上-----------------------
勝色の廻しを締めた横綱百合の花。ここまでの戦いは傍目には盤石な相撲にも見えるが本人からすれば何かしっくりこないなんとも集中力を欠き判断が遅れるようなそんな相撲しかできていないのだ。ファンも璃子・真奈美のコーチ陣もここまでの百合の花相撲は盤石に見えるようだが葉月監督にはごまかしは効かない私の気持ちをまるで見透かされているようで・・・。
「いつになく慎重に見えるけど・・・」と葉月
「大事な大会何で・・・」と百合の花
「腰の方気になる?それと左の足首?」
「なんで・・・」
「あなたと何回取り組みをしてると思ってるのあなたの状態ぐらい動きを見ればわかるよ」
「だいぶ前にちょっと軽い捻挫して・・・今は完治してますから」
「あなたは絶対表情に出さないから・・・」
百合の花はちらっと葉月監督を見る。腕組みをし土俵を見ている厳しい表情で・・・・。ブラジル戦の前に中堅で行く旨を伝えられた時なんとなく私の役目はここまでかと直感的に想った。だから今回は異は唱えなかったし自分の状態からもそれが妥当だとそして私の役目は確実に日本を決勝に進出させること身を粉にしてここで潰れてもそれもプロ力士としての仕事なら・・・・。
相手は桃の山と同世代で横綱Caixetaの後継である若き横綱Mariana Andrade Costa。体格的にも百合の花を一回り以上上回るであろう大型力士。百合の花にとっては初対戦である。
お互い仕切り線手前で四股を踏んでいく。Costaは高々と足を上げ四股を踏むこれ見よがしに館内がどっと沸く。それに対して動じることなく百合の花は淡々と踏んていく。
行司が両者を仕切り線の前に・・・・。
「見合って・・・はっけよい!!」
百合の花が出足鋭く張って右で前褌を狙っていくとCostaはかち上げ気味に百合の花の喉元を狙ってきたが今度は百合の花が左の横褌をとり右で強引に寄って行く。
「はあああ!!!!」「くうう!」
(ここで負けるわけにはいかないんだよ!日本の横綱として横綱百合の花として!)
Costaは押されながらも左でおっつけ右で上手をとる。
(百合の花関の状態はけしてよくないって監督も云ってましたからねここは時間をかけてもじわじわと行くのもありかな?それでも休まず動きまわしますけどね)
百合の花は左下手を深くして下がりながら頭をつけ土俵中央にCostaを持っていき右を切ろうとするがなかなか切れない。
「はあああ!!!!」「くうう!」
百合の花が左下手をさらに深くした時Costaは右小手投げを打ってきたのだ
「はあああ!!!!」「くうう!」
なんとか百合の花は凌げたがCostaはさらに右小手投げを打ってきたのだ。百合の花は凌いではいるがCostaは連続で手を打ってきて休ませない。それでも百合の花はなんとか耐え凌ぎなんとか右前褌をとったがCostaはその右を切っていく。そんな攻防が永遠と続く。
館内は二人の攻防に大声援を送り沸いている。同じく土俵下のさくら・映見そして桃の山もコーチ陣もそれでも葉月だけは腕を組み顔色一つ変えず戦況を見ている。
(百合の花、そんなに時間はかけられないわかければかけるほどあなたの方が劣勢になる。真っ向勝負は無理よ!)
一見、氷のような冷静な表情な葉月だが本当は煮えたぎるような感情はそんな表情なんか一瞬で蒸発させるほどに熱くなっているのだが・・・。
両者の攻防は引きつけ合いながら土俵中央へ、百合の花は最後の力を振り絞りCostaの上手を切ろうとするも全く切れないどころかとうとう百合の花が下がりはじめた。それは腰と足首に痛みが走った同時になんとか堪える百合の花だが顔はもう大汗が浮いてそれはまるで水でも浴びたようにそして苦痛の表情を如実に表してしまった。
(くぅぅぅぅ・・・もう駄目か・・・ここで負けるわけには!)と百合の花
ブラジル陣営は大興奮状態ここで百合の花を叩いて先に二勝をして王手を決めれば日本の残りは桃の山なのだが葉月にはどうしても桃の山に全幅の信頼をおけないのだ。Costaとは過去三戦ほど取り組みをしたが1勝2敗横綱になってからは対戦はないが・・・。
(百合の花が勝てば一つ抜けてアマチュア力士と勝負できる。でももし百合の花が負けたら・・・今の桃の山にそんな厳しい局面でいきなり勝てるの?「ブラジル相手ならアマチュア二人と桃の山で十分でしょ」と璃子さんは云ったがそんな甘いもんじゃない私は桃の山に百合の花ほどの信頼感はないのよ!ここで百合の花が決められなかったらCostaの流れになってしまう!)
百合の花が左をハズにして上手を切ろうとすると、Costaはあくまで離さず、百合の花左下手を再度引いて左に振る。 Costa正面に進むと、百合の花は下がりながらも左下手投げ気味に揺さぶり、次いで右上手投げを打ち、左でCostaの右を切りながら強引に投げ倒した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」と百合の花は両手に拳を作りながら声を張り上げた。館内が大歓声に変わる。ここまで感情をあらわにした百合の花を見た者は多分誰もいないそれほどまでに苦しかった取り組みを物語っていたのだ。しかし・・・。
「うっっっうぁぁぁ」と云うと百合の花ががくんと膝まづいてしまった。顔全体が水をかけらたように汗でてかりそれ以上に苦痛の表情を上げ声をあげてしまったのだ。
土俵に日本代表の三人が上がったと同時に代表監督の葉月が飛ぶように土俵に上がってきた。
「百合の花!」葉月は四つん這いになり百合の花に背中に乗るように云う
「大丈夫です。立てますから」と百合の花は痛みをこらえて・・・
「何偉そうな事云ってるのよ!誰でもいいから百合の花を背中にのせて私がおぶるから早く!」と葉月は声を荒げた。
さくらと映見が両脇に肩を入れ立たせながら背中に乗せると葉月はすっーと立ち上がり土俵をゆっくりゆっくりとそして土俵下に車椅子が用意されていたが葉月はそれを断りゆっくりと東花道を歩いていく。
「百合の花さん・・・」と桃の山が声をかける。
「土俵に戻れ!人の心配より相撲をとることだろうが早く戻れ!」葉月の背中におぶってもらっている百合の花は葉月の背中に顔を埋めながら・・・その声は葉月の背骨に伝導する。百合の花の気持ちは自分の気持ちと同じ、自分が云おうとしていたことを・・・。
ゆっくり花道を葉月の背中に乗りながら百合の花は椎名葉月いや葉月山の鼓動を感じながら葉月も百合の花の鼓動を感じながら・・・。




