崩れる精神的支柱 ⑤
「さぁー準決勝のブラジル戦いきなり先鋒はプロ力士横綱であるTandara Alves Caixetaと云うある種の奇襲戦法と云うか日本チームの先鋒高校生横綱である石川さくらにとってはあまりにも厚い壁ですが遠藤さん如何でしょうか?」
「そうですね。ブラジルにとってはある意味常套手段なのかもしれません。 Caixetaは調子がいいようですし気分屋のところもありますが得意の突き押し相撲も決まっていますからここで一気にカタをつける意味では先手必勝と云うところでしょうが・・・」
「石川さくらの勝ち目は?」
「石川がどのようなイメージでこの取り組みにのぞむのか正直分からない所がありますが得意の四つ相撲では厳しいような気がします。ここはどれだけ相手の突き押しを凌げるかでしょうが凌げたとしても次の展開をどうするのか?」
「そうすると中堅の百合の花勝負と云うことになりますか?」
「百合の花はCaixetaとは相性が良いとは想いますがここまで百合の花も調子が良いとは云え一人大相撲力士としてプレッシャーがかかった取り組みが多かったのでそのあたり体力的・精神的に若干不安なところもないわけではありませんがまずは石川がCaixetaに勝てないとしてもどれだけ消耗して百合の花に渡せるかがポイントになると想います」
「わかりました。さぁー両者土俵に上がります。一気に歓声があがり否応なく館内が盛り上がります」
(ここは絶対に勝たなきゃいけないのに先鋒は石川か・・・まだ勝ちは稲倉の方が拾える確率は高いだろう?桃の山が参戦したからって・・・何をやっているんだコーチ陣は!捨てる試合にしても高校生が相手にできる相手じゃない!Caixetaが先鋒に来るかもしれないぐらい頭になかったのか!下手すりゃ二人抜きで桃の山だってあり得るんだぞ!)
遠藤にしてもこの順番に納得がいかないと云うよりここは素直に稲倉で勝負してと云うのが遠藤の想いだったが今更どうしようもない。
両者土俵に上がり四股を踏みだす。Caixetaは余裕なのかゆっくりと四股を踏んでいく中に何か余裕と云う表情でさくらを見つめる。対して石川さくらも緊張はしているだろうがけしてガチガチと云う感じもしない。さくらもCaixetaを見ながら四股を踏んでいく。観客の盛り上がりの中に石川さくらに対し心無い声も聞こえてくる。
「なんで石川なんだよ高校生じゃ勝負にならないだろう?」
「とりあえず二人横綱いるし負けを織り込んでと云う事でしょ?」
「高大校で稲倉を倒せたのは相手の調子が悪かったからの勝利でしょ?ここまでの稲倉の相撲も見れば一目瞭然でしょ」
一部の声としても土俵下の三人にも聞こえてくる。両横綱はプロとしてやっているのだから別に何を云われようがそんなことを気にしては力士としてやっていられない。たいして稲倉映見は昔の自分ならそれだけで怒り動揺して苛ついていたはずだが・・・・。
(さくら落ち着いて・・・それより高校生の選手に云う話なの!何も分からないくせして!)
映見はかつて自分に云われていた外野の言葉が自分の事のように腹が立っていた。アマチュア力士とは云え注目を浴び、ましてやプロアマ混合と云う特殊な形式からすればファンからすればそこにプロアマの垣根はないにしても・・・。
行司が二人を仕切り線の前に立たせる。
「見合って・・・はっけよい!!」
に
お互い仕切り線の前に両拳を持っていき立ち合いの体制に・・・・しかし・・・。
館内がどよめくと云うかそれは意外性を持ってのどよめき・・・・。石川さくらが立ち合いを嫌ったのださくらはすぐに手で謝る仕草を見せ、「ごめんなさい・本当にごめんなさい」と何度もCaixeta関に頭を下げ謝罪を繰り返したのだ。
館内からは・・・
「さくら、謝りすぎだろう」とか「さくらちゃん次はちゃんと合わせなよ」とか色々の声が飛んでいくと同じくあっちこっちから笑い声が湧いてきたのだ。一瞬イラッときたCaixeta関もさすがのさくらの謝罪攻勢に苦笑いして手でオーケー・オーケーと・・・。
土俵下の日本チーム三人も何か緊張の糸が解けたようについ失笑してしまった。
「さくらちゃんは真面目にやっているんだろうけど」と百合の花
「さくらちゃんらしいと云うか・・・」と桃の山
(さくら、この超緊張感のなかそんな立ち合いって・・・館内の雰囲気がなんかほっこりしちゃってるし・・・もうさくらわざとやっているんじゃないよねあんた)と映見は声には出さないが
両者とも一度仕切り線から離れ再度仕切り線の前に向かう両者
(立ち合いは正直迷いがあった。Caixeta関には申し訳なかったけどどうしても突き押されてからの自分の展開が描けなくて)とさくらは突き押しを凌いでとみんなが云う事にどこか自信が持てないでいた。
(高校生のくせして立ち合いを嫌うか?ずいぶん生意気な・・・)Caixetaは何かさくらに舐められたような気分になっているのだ。
一回り以上ある体重と上背は世界ジュニアでもなかなか対戦することもない。
(映見さんの時の高大校の相撲見たいにいや違う相撲スタイルが違うし体格が違うえぇぇぇっ動き回るしか方法はないの????えぇぇぇぇ・・・あっ!)
(どうせ突き押しで来ると想ってるんだろうし私のスタミナを消耗させてと云うのが作戦だろうが捕まえてしまえばチョロいもんだよ高校生相手に別段考えることもないわ。だったらあなたの得意の四つで勝負してあげるよお嬢ちゃん)と少し歯を見せてさくらを睨みつける。
行司が二人を仕切り線の前に立たせる。
「見合って・・・はっけよい!!」
今度は両者とも両手で付き立ち合い成立しCaixetaは一気にさくらを捕まえに行き四つの体制で勝負しようとしたところをさくらは立ち合い素早く左に回り込むとすぐに左下手と右の前みつを奪取Caixetaが上から抱え込むようにしてきたところを、鮮やかな下手捻りで転がしてしまったのだ。
館内は何がどうなったのか一瞬静寂に包まれた後一気に歓声に変わる。
土俵上ではCaixetaが膝まついたまま呆然としているまるで自分がなんで土俵上に膝まついているのかが理解できていない様子。たいして、さくらも一瞬頭の中が真っ白になったものの自分の直感があまりにズバッと嵌ったことに僅かに笑みがこぼれた。
「すごいさくらちゃんとんでもない大金星よ!」と桃の山
「そんな技何時練習したんだよ合同稽古の時そんなの見せたか!?」と百合の花
「さくらいつのまに・・・・でもどっかでその技私にやられたような・・・あっ!」と映見は何かに気づいたような
土俵下から少し離れた場所にいる日本の監督・コーチ陣も驚きを隠せない。
「さくらあんな相撲ができるなんってスピードもあるとは想ったけど下手捻りなんって」と璃子
「直感で迷いなくいったような感じたけどうまく嵌ったわね」と葉月
(まったく・・・さくらそんな技をやる素振りなんか微塵も見せなかったくせしてまったく、その技、瞳の得意技よね大柄な力士と対戦する時のここ一番の必殺技。いつそんなの教えてもらったのよ決まったからいいもののまったく想像を絶することするんだから)と真奈美
さくらは一旦土俵から下り水を一杯口に含む。
「さくらちゃん凄すぎるよ!」と桃の山は満面の笑みで
「さくら!覚醒したなこりゃ」と百合の花も満面の笑み
「なんか美味しいとこ持っていくと云うか・・・あの技って瞳の得意技だよね?」と映見は何かご不満なようで?
「さすが映見さん!バレてたかそうなんですよ迷っていたら瞳さんが降臨して来して来て・・・」
「降臨って・・・別に主将は相撲の女神でもないだろが」
「まぁ―何と云うか自分でもびっくりして頭の中が真っ白でよく覚えていないんだけどなんか勝っちゃいました。てへっ」とさくらは笑いながら
「てへっ・・・何が(∀`*ゞ)テヘッよ本当にさぁさくらいっちょ前に立ち合いを嫌う何って私だってやったことないのにまったくもう・・・あんたわざとやったでしょ?」
「あぁーどうしてもなんか呼吸が合わなくて・・・Caixeta関にはちょっと悪いことをしてしまったかなーって」とさくらはブラジル側を見るとCaixeta多少涙目と云うか落胆した表情が如実に出てしまっているのだ。よりによって高校生に負けたことはプロ力士としてあるまじきと云っても言い過ぎではないぐらいに・・・。すでに土俵にはブラジル側の中堅若き横綱Mariana Andrade Costaが土俵に上がっている
「石川早く土俵に」
「あっ・・・はい」と云うと急いで土俵に上がるとお互い四股を踏んでいく。
さくらが土俵に再度上がると館内は大歓声。ちょっと幼く見えるさくらがやった大金星との落差がまた女子相撲ファンを魅了する。それは新たなニューヒロインの誕生。稲倉映見のある種の女子アマチュア横綱の威風堂々感とは対照的なちょっと危くもなぜかほっこりしてしまう高校生横綱の石川さくら。
それは二人の女子大相撲横綱、百合の花と桃の山のように・・・・。




