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女力士への道  作者: hidekazu
女子プロアマ混合団体世界大会

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145/324

崩れる精神的支柱 ④

 東の花道の奥で日本の監督・コーチ陣が話をしているが雰囲気はけして温和ではない。


「ブラジル相手ならアマチュア二人と桃の山で十分でしょなんで百合の花を使うんです。桃の山がここから参戦するのだからここは百合の花は一旦休ませてロシア戦に備えるのが常道じゃ?それじゃなかったら中堅に桃の山で勝負を決めると違うのですか?」と璃子は監督である葉月にどうしても一言。


「桃の山はまだこの大会の空気感になじんでませんし今の桃の山を信じて切れてないんで」と葉月は淡々と・・・。


「信じ切れてない?」


「いきなり「ぽっ」と来て勝てるとは想ってないので肩慣らしと云えば先鋒に持ってきてアマチュアと対決させてと云う手もありましたが結果的には相手が先鋒にいきなりプロの横綱を出してきた。百合の花との対戦を嫌ったのとアマチュア二人を撃破してあわよくば三人抜きで勝負を決めるできなくとも二人抜ければ百合の花は三連勝しなきゃ準決勝敗退。その意味では中堅の百合の花で二人抜いた状態で桃の山が私の理想なんです」


「じゃなんで・・・真奈美さんには失礼だが石川さくら何です?勝ち目があるのは稲倉映見でしょ?それを」


「さくらには真奈美さんからアドバイスしてもらっているのでそうですよね?」


「アドバイスって・・・相手はプロの横綱だし女子大相撲の力士だってあの強烈な突き押しで苦戦させられているのに・・・」


「倉橋さんなりにアドバイスをしてくれたんですよね?」


「とりあえず三十秒だけ我慢してとにかく動けと突かれようがなんとか我慢できればその後はさくらのの得意の四つ相撲で勝負ができると」


 凛子は多少呆れたような顔で


「四つ相撲ってCaixetaだって四つに組んでも強いそれを・・・」


「私の知っているCaixetaからすると連戦でましてやチェコ戦では二人抜きで二人目では突きの威力が落ちているように感じましたから受けきれれば、勝機があると・・・ただ一人目で珍しく自ら四つに組んだのは意外でしたが・・・」


「多分、それは百合の花を想定してのことでしょうし一つのかく乱先鋒かもしれませんけど」と葉月


「それでも・・・」と璃子


「さくらは相撲の選手としてはスタミナもある方です高大校での試合でも連戦に継ぐ連戦最後はうちの映見との死闘を考えればうまくCaixetを動かして息を上がらせれば勝ち味は十分にあります勝てなかったとしても消耗させた状態で百合の花さんに渡せればそれでいいと想っています」


 真奈美にはそれなりの根拠があった。それにさくらにとっての桃の山の存在は精神的に大きいのだ。


「真奈美さんだったら稲倉を使いたいところじゃないかと思いますが?」と璃子は多少皮肉も込めて


「映見は正直云うと私からすればまだ稽古不足の感は否めませんしちょっと強引な相撲をするところが見受けられるので・・・」


「ロシア戦に備えると?」


「アマチュアの正選手はさくらなんで、映見はもう補欠としての仕事は十分にしたと思っていますし桃の山さんが参戦したのですから正メンバーで行くのが筋ですしもう映見の役目は終わったと思っています」


「まぁさくらさんの相撲次第ですがCaixetとどう対戦するのかそれからですからね?」


「さくらならやってくれると思いますしここからだと何を話しているのか聞こえませんが多分両横綱や映見からも色々助言をしてもらっているような感じもしますし気持ちで相撲をするタイプのさくらからすれば本当に心強いと思います」


「さくらさんにとっても映見さんにとっても女子大相撲の両横綱から助言をして貰えれば自信にも繋がりますしこの大会はけして無謀な大会でもないのかもしれない」と葉月


「助言ねぇー、私なんか見てるとなんかくだらない話でもしてるんじゃないかと想いますがねぇ。なんか笑ってるところ見てると緊張感足らないと云うか・・・・」と璃子


「それも大事だと思いますよ」と葉月は土俵下四人の後ろ姿を見ながら・・・


----------------土俵下-------------------------

「そんでさくら、ディズニー行くとして何東京に泊まる気でいるの?」と映見


「最終の新幹線で帰れれば・・・もしダメなら」


「さくら、うちの監督一人で名古屋に帰らせる気?もう新幹線のチケットは取ってあるのよ確か七時頃の新幹線だと想ったけど」


「一人って・・・映見さんまさか!」


「私は・・・和樹と・・・」


「ずるいです自分だけ!」


「あのねぇ・・・あんた高校生なんでしょ何考えてんのよ!まったく。一応私は両親公認だから和樹とは、それでさくらはどうなのかしら?」と得意げの映見


「・・・・・」


「はい、さくらは素直に岐阜にお帰り!」


「監督にお願いして・・・なんとか・・・」とふてくされた様な表情のさくら


「さくらも往生際悪いねぇーダメに決まってんだろうこのバカちんが」と映見はさくらの頭を叩く。


「何で叩くんですか!」


「さくら、もしよかったら私のマンションに二人で泊ってもいいわよもちろん二人のご両親の許可が取れれば」と桃の山


「本当ですか!?」


「その前提条件として日本チームが優勝することとあなたが良い相撲をとることまずわブラジルの横綱・Caixeta関を倒す事・・・相当厳しいわよ」と桃の山はさらっと


「さすが桃の山さん日本チームは優勝するとしてさくらがブラジルの横綱を倒すのは・・・」と映見


「了解しました!俄然やる気が出てきました!ここは石川さくら高校横綱として負けられません!見ていてください。高校生絶対横綱として渾身の相撲を・・・」


「高校生絶対横綱?何云っているのさくら?まったく・・・」と映見のあきれた表示。


 自分の頬を両手でおもいっきり叩き気合を入れるさくら。少なくとも今大会初めて見せる気合の入ったと云うかちょっと気合が入り過ぎるくらいに・・・・。


「さくらぁーちょっと気合が入り過ぎていると違いますか」と映見


「石川さくら相撲人生をかけて・・・・そうだWデート中止にしますやっぱり圭太と二人で行って・・・「きゃっ」・・・もう・・・」とさくら


「とにかくさくらはCaixeta関と好勝負をする事。それはこれからのさくらの相撲に間違いなくとてつもない経験をさせてくれるはずだから、それと倉橋さんの三十秒の話は同感だがそのあとCaixeta関は四つで来る可能性があるさくらの動きが良ければなおさらだ。さくらはそのあとの展開とか頭にあるか?」


「うまく土俵を回って引き落としとか・・・・」


「なるほどねそれだけ動ける自信があると云う事だったら一分近く我慢するんだそうすれば否応なく四つを要求してくる。そのあとはさくらのやりたいようにできるはずだから多分その時はCaixeta関は疲弊しているし苛ついているはずだから」


「わかりました」とさくらはあらためて気合を入れなおす。


「さくら、高大校のあの私との激闘を征したんだから相手が横綱だろうが自信を持って戦いな」


「はい、映見さんとのあの相撲は私にとっての財産なんです。あの相撲は・・・」


 土俵上にいる行司が両選手を上がるように指示をする。


 準決勝ブラジル戦。先鋒にいきなりの奇襲攻撃でプロの横綱を出して来たことは日本チームには意外であったが逆の側面から云えば世界大会などで一線級の活躍をしているのはCaixeta関だけだからとも云えなくはない。けして他の力士が弱いわけではないがそれでもCaixeta関はブラジルにおける絶対横綱である。先手必勝であわよくば三人抜きができればと云うのがブラジルの目算だったが桃の山の参戦は誤算であることは間違いない。


 凛子が云うようにアマチュア二人でも勝つことはできるかもしれないけど葉月にすればどうしても桃の山には一株の不安が過ぎるのだ。いくら十和桜と和解したとはいえだからと云ってけして絶好調にはならないのだ。桃の山は気持ちで相撲をするタイプそれは石川さくらも同じだがさくらは間違いなく上昇のカーブを描いている。


 勝負であるのなら稲倉映見を出すのが常套手段だが葉月は映見をロシア戦に取っておきたい最終兵器であり今の葉月にとっては桃の山と同じかそれ以上に総合力では勝っているそんな選手を準決勝で使う事ははなから考えていない。


 そしてもう一人、横綱百合の花の中堅での起用も葉月は桃の山が会場に来た時にそうすることにしたのだ。仕上がっている百合の花を大将にし試合勘のつかめていない桃の山を中堅もしくは先鋒にとも考えたが、もう一つは百合の花の状態。対戦したことがある葉月山だからわかる百合の花の状態はけしていいとは云えないどころか限界に近いと考えていた。とてもロシア戦には使えないし使う気は桃の山が来たことでなくなったのだ。百合の花が相撲ができる状態でありながらロシア戦に起用しないと云うことは横綱としてのプライドがある彼女にとっては屈辱だろうし彼女の横綱の格を傷つけることにもなる。


(百合の花、あんたには悪いがここで潰れてもらう。あんたのことだから決勝に参戦させないって云ったら激昂するのは火を見るより明らかだからね。あんたはここまでよくやってくれた。世間が何を云おうと私にとっては最高のライバルであったと同時に最高の相棒・・・私の後を継いでいるのは百合の花なんだよ誰が何と云おうとあんたは違うかもしれないが)


 代表監督にありながら自国の力士を潰すことも厭わないそれは勝つために・・・。


土俵にはブラジルの横綱Tandara Alves Caixetaはまずは肩慣らしと云った感じでゆっくり四股を踏む。対して石川さくらは闘志あふれんばかしの表情でそれは決して気負い過ぎているわけではなく適度に気合が入りどこか自信満々と云う表情でそこには微塵の不安すら感じない程に・・・。


(石川さくら、私があなたを正選手にしたのはあなたの潜在能力を咲かすため映見はここで開花するだろうけどあなたはやっとつぼみが付いたぐらいよここで厳しい相撲をさせるべきではないのかも知れないけどあなたは今稲倉映見と云う最高のアマチュア力士と共に戦っている。その姿を見てあなたも彼女のように花を咲かせないそれにはまだまだだけどね、とにかくできるだけ長くCaixeta関を動かせばあなたに十分に勝ち目はある)



 この戦いの指揮官として葉月なりの考えを持ってこの大会に挑んでいる。もちろん両コーチからの意見も加味するが最後は自分が決める。百合の花を中堅に使う事には璃子から異を問われ真奈美からもけして賛成はしてくれていなかったが・・・でも百合の花は私の意図を汲んでいてくれているはず・・・。


(あなたにはまだまだ女子大相撲界を引っ張って貰わないとね。あんたは責任感が強すぎるから・・・)


 



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