崩れる精神的支柱 ③
和樹と圭太は東の中段マス席Bで観戦していた。圭太からの誘いで来たのだが・・・・。
「なんか正直行くつもりはなかったから」と和樹
「最初それ聞いて意外だと想いましたけど?」
「大阪の女子大相撲の時は映見を誘ったけど」
「付き合っているんですよね?」
「一応・・・」
「一応って?」
和樹は最近映見と久しく連絡すら取っていなかった。大阪での泊りのデート以降意図的に連絡をとっていなかった。大会が近いと云う事で試合に集中できるようにそれに映見の方からもLINEの一つも来ないと云うのも余計に連絡しずらかった。連絡が来ないのは映見が相撲に集中していると云う事だと・・・。
「今は大会に集中したいだろうし映見が久しぶりに相撲に真剣になっているんだから・・・今日の相撲見てなんか映見らしいと云うかまた一つレベルが上った感じでね・・・勝負師って言葉は映見には似合わないと想っていたけどあいつの相撲を見ているとなんか女子大相撲力士みたいで・・・」と和樹
「さくらもここまでちょっと苦戦してますけど高校生ながらすげぇーなってまぁ稽古相手は俺ですけど・・・」とちょっと得意げに云う圭太。
圭太は男子相撲部と云うよりも今はさくら専属の稽古相手どころか女子相撲部の一員のような感じになっていたのだ。さくら抜きの大会や練習試合でも上々の成績を上げられるようになったのは圭太の存在が大きいのだ。さくらの彼氏としても女子相撲部公認且つ朋美監督も公認しているとかしていないとか?
「圭太、毎日さくらさんの稽古相手してるとなんか恋愛関係とかどうなの?」
「どうなのって?正直毎日稽古相手をしているとなんか恋愛関係とかどっか行っちゃって単に選手同士って関係ですよ。でも登下校は最近一緒に・・・」
「圭太がさくらの心の拠り所ってところか?」
「和樹さんだって映見さんの・・・」
「どうかな?なんか映見の相撲見てるとちょっと前から逞しくなったと云うかちょっと危ういところもあったけど今は・・・観客から次の葉月山とか声が掛かっていたけどなんかそんな気がしてきた。それは嬉しいことだけどなんか自分とは差がついたなかなーって俺は途中で相撲を辞めてしまったし映見だって辞めてしまってもおかしくなかったのにちゃんと復活してこんな大舞台に立てるんだからその意味では俺の拠り所は映見なんだよ心の支えと云うか映見が頑張っている姿見てると、圭太に誘われなかったらテレビで観戦するつもりだったんだ何か不甲斐ない自分と比べる必要もないのに比べてしまって・・・映見は小学生の頃から自分にとって高根の花なのは実は今も変わらないんだなぁって」
「さくらが映見さんの事を目標にしているって常々云っているのはそう云うところなんですね。高大校で映見さんに勝った時は仲間と大喜びしていたとけど二人になった時、それよりも映見さんと試合をできたことにすごく喜んで勝ち負けなんかより映見さんが今できる全力の相撲をしてくれたことに本当に泣いて喜んでました。西経の出稽古では映見さん途中で監督に帰れって激怒されて、さくらは顔や態度には出さなかったけど相当ショックだったそうです。そんなことがあっての高大校だったからなおさらら映見さんの復活は嬉しかったと思いますし今もこうやって一緒の大会で戦えることはさくらにとっては本当に頼れる姉御なんですよ映見さんは」
小学生の頃から映見は皆から愛されていた男女も上下も関係なく。そして今は女子相撲ファンからも愛され中学・高校生選手にとって稲倉映見は女子選手達の憧れであり目標。そしてこの大会で映見は更なるレベルへ・・・女子大相撲という世界から招待状を送られているように・・・。名古屋から単身関東の相撲強豪高校へそして大学へ怪我もあったにせよ自分の気持ちに負けた。
「俺は少しでもさくらの力になれればそれでいいんです。最初はなんで女の相手をしなきゃともおもったし相撲部の仲間達には色々からかわれたけど、今はこれでよかったってあいつも調子悪かった時に俺に稽古を付き合っていることは屈辱?見たいなことを聞いてきて、さくらはさくらで俺に気を使っているのかなって?」
「圭太・・・」
「相撲ではさくらに相当見劣りしますよ俺は、でもさくらが俺を信頼してくれていると想っているし偶には喧嘩するけどできればさくらと一緒になりたいです。ずっと・・・・」
「愛してるんだなさくらの事」
あまりにも和樹にとって圭太のさくらへの気持ちの純粋さを素直には受け入れることができなかった。相撲クラブで一緒にやっていた時から映見は俺の精神的支柱だった。そのことに今になって劣等感を感じている自分に苦笑いをしながら
(映見、今更ながらだけど俺でいいのか?ここにいるファンの人達はお前の女子大相撲入りを期待しているように・・・二代目葉月山。映見は医者になる前にやることがいややらなきゃ絶対に後悔する。すげぇーな映見は・・・・。圭太のような純粋な気持ちそのことにいつのまにか・・・)
館内では両国選手及び力士達の紹介が始まる。
「和樹さんすいませんこれお願いします」とタオルのような物を渡された。
「これって?」
「応援タオルです」
「作ったの?」
「ちょっと高かったけど」と圭太は照れながら
圭太は「バッ」と広げる。さくらにわかるようにそのことに気づいたさくらは笑みで圭太に返す
「和樹さんも」
「あっあ・・・」と云うと和樹も「バッ」とおもいっきり広げる
さくらはそれを見ながら笑みと云うか(笑われてる?)そして映見は・・・(怒ってる?なんで?)
和樹は広げた応援タオルの文字を見る。
『稲倉映見 愛』と相撲字で赤くデカデカと・・・・
「おい!なんだよ!これ!」
「いいじゃないですか分かり易くて」
「あのなぁ!」と云いながら見ていないようなフリをして映見の方を見る。
稲倉映見はガチで怒っている表情を見せながらも何か口元が動いている
(何云っているんだよ?)
「愛してるって云ってますよ映見さん」と茶化す圭太
「お前なー・・・」
「映見さん嬉しそうじゃないですか怒っているフリをしてるけど・・・て云うかいつまで広げてるんです?」
「えっ?」と云うと慌ててたたむ和樹
「広げてればいいじゃないですかそんな慌ててたたまなくても」と圭太はクスクス笑いながら完全に和樹で遊んでるのだ
「えっあえ・・・なんなだよおまえはよ!」
「顔、真っ赤ですよ」
「・・・・」
-------------土俵下----------------------
「和樹は何考えてんのよ!あんなことする性格だったとは・・・なんか幻滅」
「『稲倉映見 愛』くぅぅぅぅ」さくらはもう声を押し殺すので精一杯。隣で思いっきり睨みつける映見。
「そんなガチ私睨みつけられても」と云いながらさくらはどうしても笑ってしまう
「さくら!そんなに楽しいですかあぁそうですか!まったく!。あんただって書かれてるじゃないのよ『さくらにぞっこん』だってあぁもう・・・ついていけないわまったく」
「さくらも圭太にぞっこんLOVEですよ、映見さんは?」
「はぁー何云ってんのさくらはだいたいこの大事な大会の真っ最中に何云ってんの頭大丈夫あなた?この大会がどれだけ重要で」
「動揺してる・・・・」
「はぁー動揺なんかしてないわ馬鹿じゃないの!」
そもそもさくらが気負い過ぎているからとちょっと試合には関係ない話で緊張をほぐしてやろうと想っていたのが何だか知らないがいつのまにやら自分がドツボに嵌り怒り心頭動揺しまくり心臓バクバクと・・・。
「百合の花さん。あの二人の右が映見さんの彼氏の和樹さんで左が私がぞっこんの圭太です」
「何余計な事云ってるのよ!百合の花関は関係ないでしょ!いい加減にしなさいよ!すいません百合の花関」
「確か・・・大阪のトーナメントの時来てたよな?」
「・・・・・」無言の映見
「来てましたよ。映見さんなんかなんかめっちゃ!オシャレして」
「・・・・・」無言の映見
「いいな二人ともなかなかないよな二人の彼氏が一緒になって相撲見に来ること何ってきいたことないし・・・」
「圭太と和樹さんはよく連絡取りあっている見たいだし・・・映見さん今度Wデートしましょうよ大会終わったらナイトディズニーとか行きません?」さくらはこれからブラジルの横綱と勝負することを忘れているかのような満面の笑みで・・・。
「さくらディズニーにもいいけど肝心なこと頭から飛んでない?」と桃の山
「肝心なこと?」
「かぁー!あんたこれからブラジルの横綱と戦うんだんよわかっている?」と映見
「あぁーそうでした。なんか圭太と夜のディズニーでデートして・・・・くぅぅぅぅ」とさくらのウェートは大会よりデート?
「こりゃさくら負け確定だな」と百合の花は苦笑いをしながら
「大丈夫です色々作戦は考えてますので」とさくらは自信ありげに
「かぁー!適当な事云って何って奴なのはさくらは!」
「倉橋コーチにアドバイスをもらいましたから」
「うちの監督に?」
映見は東の花道奥にいる真奈美を見るとプロ側のコーチ璃子・葉月監督とこちらを見ながら何か話している。一瞬真奈美と目が合ったがお互い表情を変えず。
(倉橋監督・・・・監督のために・・・・)
映見の顔が引き締まる。日本代表としてこの舞台に立ち私を我慢強くけして自分を捨てるようなことをしなかった倉橋監督と一緒に戦っている。今改めてこの大舞台にいることに気を引き締める映見、補欠ではあるけども・・・・。
(私だって負けられない。日本の女子相撲、そして監督のために・・・)




