崩れる精神的支柱 ②
「さぁいよいよ準決勝、日本の相手は重量級を揃えたブラジルとの対戦になります。解説は元横綱三神櫻の遠藤美香さんです。日本は桃の花を欠きながらもここまで勝ちあがり、準決勝いよいよ桃の花が参戦し本来のチーム編成にと云うところですが如何でしょうか?」
「二人の横綱が揃うだけでもチームの士気も上がるでしょうし特に石川さくらにとっては精神的にどこか窮屈と云うか相撲も本来の持ち味が出せなかったようですが桃の山と同じ土俵に立てると云うだけで石川さくら本来の相撲ができれば相手はブラジル女子大相撲の横綱ですがいい勝負は期待できると思います」
「高大校での試合も連戦の連続でしたが決勝での水入りを挟んだ相撲は高校生でありながらアマチュア女王の稲倉映見を破ったのは圧巻でしたしどちらかと云うとスロースターターの石川にとっては期待大ですね。ただ稲倉も調子がいいですから稲倉とも想いましたが?」
「ここまでの稲倉の相撲は高大校より遥かに動きも良く闘志みなぎる取り組みは力士と云っても良いぐらいですがここまでけして楽な戦いでもなかったでしょうし見た目以上に消耗しているでしょうから一服おいてロシア戦にと云うところでしょうか、それと桃の山ですがここに来た以上は万全の体制でと云う事でしょうから期待しています」
「百合の花に関しては如何でしょうか?横綱に関しては手厳しいようですが?」
「別に手厳しいわけではないですがここまでの百合の花は彼女らしい闘志あふれるなかにもベテランの技と経験が生きた取り組みが見られたのはまだまだ横綱として衰えていないどころかまだまだいけると云う印象です」
「ただ横綱も厳しい相手との連戦が続きましたし精神的にも体力的にもそれとここ最近は腰痛や足首の故障もありますし?」
「そこは彼女もプロですし横綱ですから自分の状態と相談しながらやっているでしょうがこの大会はある意味の女子相撲最高峰ですし団体戦とは云え個々の力士にとっては一発勝負に近いものがあります。そのなかにおいてプロ力士は百合の花一人で戦ってきたのですからプレッシャーはそれなりにあったと思いますそれは考えれば少し休ませて桃の山が中堅で勝負を決めると云うのが個人的には理想だと想いましたが・・・」
「なるほど、わかりました。間もなく両国選手が入場です」
(椎名、稲倉を休ませてロシア戦に備えるのは良いとしても百合の花は大将で楽させてロシア戦に備えると云うのがセオリーじゃないのか?百合の花の性格はお前が良く知っているだろう?彼女はどんな取り組みでも手は抜かない。
中堅なんかにして百合の花に勝負させる気か勝負させるのは桃の山だろうが!違うのか?百合の花の状態は悪いと云うほどではないとしてもそれなりの爆弾は抱えていることぐらいわかっているはずなのに気合の入った百合の花に手を抜く相撲なんかできないことはお前が一番分かっているのに何でこんなオーダー組んだ!)
-----------日本チーム控え部屋--------------
十和桜は控え部屋に戻って力士・選手達が土俵から戻ってきた時の準備をしていた。タオルやら飲み物やら細々したものを・・・・。モニターには両国の選手力士達の入場の模様が映し出されている。
(桃の山さん)
十和桜の目に映る桃の山は何か自信に満ちた引き締まった表情で入場してきた。今までの自分なら無の内で一言二言馬鹿にしたようなことを想っていた「親が初代絶対横綱で現理事長、親の威光あっての横綱だから・・・」。そんなことを想っているうちに自分は愚かな行動で自滅したのに桃の山や理事長に助けられようとしている。
「十和桜!」と伊吹桜
「はっはい」
「百合の花さんのアイシングの用意しといて」
「百合の花さんって腰を冷やすんですか?」
「痛い所だけ冷やして熱を持った血液はドロドロになるその熱をとることで流れが良くなるんだ」
「そうなんですか、さすが伊吹桜さん何でも知ってるんですね」
「と云いたいことだけどそれは稲倉からのアドバイスでね」
「映見さんの?」
「一応医大生だから映見は」
「そうでしたね」となぜか表情が緩む
稲倉映見もけして好きではなかった頭も良くて相撲も上手い。そんな映見に嫉妬していた桃の山と同じように・・・。自分を好きになれないことに対する八つ当たり、女子大相撲に入門したのは母が喜んでくれると想ったからでもそれは違っていた口には出さなかったが・・・。女子大相撲においての自分の立ち位置をいつのまにか見失ってしまっていた。
(もう一度振り出しに戻って相撲に邁進する。それしかもう私の生きていく道はないのだから!もしダメなら・・・)
「十和桜、もっと自分のこと信じて相撲をしていきな人の事にケチをつけるのは自分を信じていないから自分を信じて自分の相撲をしていけば自然と周りの事は気にならなくなるもんだよ。十和桜のスピードとパワーそして外国人にも見劣りしない体格まだまだ磨かれていない。桃の山ももっとうまくなると云うより精神的にひと回り逞しくなっていくぞだから十和桜も」
「伊吹桜さん・・・」
「微力だけど十和桜が女子相撲界に残れるように協会の方々や他の力士達に話してみるからあなたはあなたで今度の事を真摯に反省して次へ進め。ただし云っとくけど私は基本的に十和桜嫌いだから」
「えっ・・・」
「お前との取り組みの後はホント疲れるしパワーで押しまくられる身にもなって見ろこっちは体格全然違うんだから」
「手加減しろと・・・」
「ばーか、十和桜如きに負けるかよ!云っとくけど7回対戦して5回勝ってるんだからな」
「でも直近の二戦は負けてますよね?」
「・・・・てめえいらんことを」と云いながらも伊吹桜には笑みが
「しばらくは対戦すことはなさそうですからご安心を」と十和桜も笑みで返す。
「力士は個々それぞれの戦いだけどもう少し横のつながりがあっても良いと思う。勝負事ではあるけど・・・相撲は相撲、プライベートはプライベート、そうしないと何かギスギスしていけない。現役当時の葉月山さんと百合の花さんとの関係を見ていたから余計にね。これから力士同士の懇親会とか何か相撲の企画とか作って行ってもいいと想う。その中にアマチュアも入れてそのことで女子相撲の底辺拡大に繋がればそれも良しだと。
葉月山さんにそろそろ引退して裏の仕事をするべきだと云われて「カチッン」ときたけど私もそれは考えてはいるんだ。女子大相撲に来た時は後悔したこともあったけど今はやっぱり入門してよかったと、もし引退後女子大相撲の仕事か゛できるのならそこには私にしかできない事もあると思う。まだまだ発展途上の女子相撲に係われるなんって考えると間違いではなかったて・・・」
「私も今の自分がまるで違う自分見たいにこの疾風のような何日かの事が今は凄く穏やかに・・・」
十和桜の雑念は綺麗に吹き飛ばされたかのように、もう一度真っ新な気持ちで相撲も自分自身も
------------------土俵下--------------------
土俵下には日本の四人が座っている。やっとフルメンバーが揃った日本チームの士気は高い。さくら・桃の山・百合の花の正選手・力士にアマチュア予備の映見。さくらはどちらかと云うと試合を使ってできるタイプであることは高大校でもわかる。
百合の花は数々の激闘や修羅場を潜ってきた名力士であり玄人好みの横綱。桃の山は若くして横綱になるほどの相撲センスと陸上で鍛えた全身刃金のような体はまだまだ焼きと強い精神力は足りないか゛今度の事が桃の山を鍛えたことは間違いない。そんななかでも石川さくらのプレッシャーは半端ないものなってしまった。ブラジルの先鋒がいきなりプロ横綱のTandara Alves Caixetaというのは予想をしていなかったわけではないが・・・・。
ヨーロッパリーグにもスポットながら参戦もし昨年のプロ世界大会では堂々の三位入賞。ちなみに一位はロシアの絶対横綱アレクサンドロワ アンナ、二位は百合の花、桃の山も参戦したが途中足首の怪我で棄権になってしまった。
そんな強豪力士が先鋒できたのには桃の山が来ないと云う前提があった。アマチュア二人を撃破し百合の花をゆっくり仕留めると云うのがブラジルの作戦だったが中堅・百合の花はブラジルにとっても考えていなかった。桃の山なら話は違っていたかもしれない。
桃の山はどちらかと云うと外国人力士とは分が悪い。過去の国際大会からしても出場している大会が少ないとはいえ表彰台に上ったのはたったの僅か一回。葉月山が無敵ぶりを発揮し百合の花との同国対決も多かったことを考えると桃の山の評価は外国力士からすると格落ちなのだ。その意味では中堅・百合の花はやっかいではあるのだが。まずは高校生のさくらを軽く潰して百合の花に真っ向勝負と云うのが横綱・Caixetaの作戦。
(相手がブラジルの横綱だろうが私は負けないし負けられない!)
さくらは闘志を漲らせるがあまりにも気負い過ぎていた。桃の山が復帰したことは間違いなくさくらにとっては精神的にプラスなのだがそれ以上に勝つことに意識が行き過ぎているのだ。その様子を脇で見ている映見は気にはなっていた。
「さくら、圭太君とどうなってるの?」
「はぁ~なんで今そんな話するんですか?」
「どうなっているのかなぁって」
「映見さんふざけてます?」
「別にふざけてるつもりはないし至って普通の話だと思うけど・・・」
さくらは呆れかえった表情で場内を何気なく見回すと
(えっ!なんでいるの圭太!?一言も云っていなかったじゃん・・・もう云ってよ圭太・・・って隣にいるの和樹さん・・・えっ何で二人でいるの?)




