表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女力士への道  作者: hidekazu
女子プロアマ混合団体世界大会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/324

崩れる精神的支柱 ①

 明かりもついてない三階席に十和桜は一人これから行われる準決勝、日本vsブラジル戦が始まるのは待っていた。本来なら桃の山の付き人としての立場でこの会場で来ているのなら控え部屋で桃の山の身の回りのことをするのが筋なのだがやはりとてもいられないしこの大事な大会において自分が同じ部屋にいることは士気にも影響する。


「横綱桃の山として私はあなたを守る。だからあなたはそれに応える義務があるのここで逃げたら十和田富士関の顔を汚すことになる。それは私も同じ。もう私達に逃げ道はないの前に進むしか」


 館内の雰囲気は今か今かとこれから始まる準決勝戦へボルテージが上がる。


「私達には逃げ道はない・・・か」と十和桜は独り言を云いながら重苦しく息を吐く。


 今度の番付編成会議で処分が下される。本音を云えば除名処分か永久追放の方がきれいさっぱり相撲から縁を切れると思う反面、そのことは母である十和田富士に泥を投げつけるようなもの「十和田富士の娘は・・・」とそのことを母は一生後ろ指をさされるだろう・・・そのことは十和桜にはもっと心の痛いことなのだ。


「一時の気の迷い」桃の山に負けたくない!妙義山憎し!自分勝手な都合のいい解釈で無意識のうちに母が潰されたと云う想いがあった。母はけして現役当時の事はあまり喋らなかったし私が入門する時もけして喜んではくれなかった。むしろ苦々しく想っていたのかもしれない、こんな状況になってしまうことを予見していたのかのように。


「脇に座っていいか?」と十和桜の後ろから少し重い女性の声が後ろを振り向くとそこには黒の ベルベット ツイードのジャケットを着た女性が腕組みをしながら十和桜を見下ろしている。


「理・・理事長・・・」


 十和桜はとても理事長の視線に目を合わすことができないぐらいいやここから逃げたいぐらいに、でも金縛りのように指一本も動かせない。


 山下紗理奈は十和桜から一つ席を空け座る、十和桜は直立不動のまま声も出せない。


「いつまで立っているんだ。下から見えるから早く座れ」

「はっはい」


 十和桜は一礼すると席に座るがもう頭の中は真っ白。


「桃の山と一緒に来たそうだな」

「はっはい」


(もうとても耐えられない!相撲界から消えろとスパッと云ってくれれば・・・)


「十和田富士関は元気か?」

「えっ・・・」

「十和田富士関とは引退後ほとんど連絡も取ってないんでね」

「私も入門後はほとんど・・・」

「なんで?」


十和桜は一瞬、間を空けてしまった。


「母、私の女子大相撲入門はあまり快くは想っていなかったようです。私もなかなか母に連絡を取るのも気が引けると云うか・・・」


 それを聞いて紗理奈はため息をつく。


「私の事嫌いか?」


「えっ」


「十和田富士の力士としての寿命を縮めたのは私だからな」


「私そんな風には・・・」


「私がお前の立場ならその娘が女子大相撲力士なら何かしらの敵意を持つだろうよ。敵討ちじゃないけど相撲で勝てなきゃつまらないことも」


「娘さんである桃の山関に私は・・・」もうとても一緒にいることに耐えられないとても


「お前はこれからどうするんだ?お前のやったことは日本の女子相撲界とはこんな陰湿なことをして相手を貶めてそんな事までして勝ち星を手に入れるのかと・・・日本どころか世界中の笑いもんだよ」


「・・・くうっ くっくっ ううっ うっうっ」十和桜はもう死にたいぐらいに


 紗理奈は震える十和桜を見る。巨漢の十和桜の背中は丸まり俯き顔を両手で被せ泣き声だけが


「お前はなんで桃の山と一緒にこの会場に来た?」


「・・・・・」


「桃の山がお前に何を云ったが知らんがあいつは勝負師には向いていない。相手に対して優しすぎる自分には厳しいくせに自分の事より相手の事・・・私とは正反対でね」


「・・・・・」


「十和桜、お前がどうなろうと私の知っちゃことじゃない。ただ十和田富士さんが悲しむようなことはしたくないんだ。連絡をせずとも現役時代切磋琢磨し頂点を目指していた同志として・・・こんなバカ娘のために」


「ううっ うっうっ」


「お前は相撲をやる気があるのかないのかどっちなんだ?」 


「・・・・」


「この大会が終わったら番付編成会議がある当然そこでお前の処分の話が出る。協会として不問にするわけにはいかない。桃の山のみならず女子相撲界に対してのお前の発言も看過できない。協会の中にはお前を追放すべきだと云う意見が多いが個人的にはそんな裁定は出したくないが会議で決まればそれに異を唱えることはしない。だからお前の真意を聞いているんだそれでどっちなんだ!」


十和桜は俯いていた顔を上げ涙を手のひらで拭うと紗理奈を真正面に見据え


「力士として小結までになれた。そして母と同じ番付関脇までは何とか行きたい、母に認めてもらいたい。だから相撲はなんとか・・・続けたいです。たとえ幕下に陥落しても・・・」


もうその目には涙はなかった。


「わかった。ただ協会は私の独裁で動いているわけじゃないからなそれだけは覚悟しとけ・・・ところでお前は何でここに来た」

 

「桃の山関の付き人として・・・」


「付き人?」


「桃の山関は私に力士は辞めさせないと」


「・・・・」


「理事長を前に娘さんのお名前を挙げるのはどうかと思いますが桃の山関がファンや力士のみんなからら愛されている訳が少しわかりました。私など到底足元に及びません相撲も人としても」


「十和桜。お前が入門した時に間違いなく桃の山の強敵になるだろうと私と十和田富士のように・・・これを機会に真の意味での桃の山のライバルになれ!私が十和田富士に大怪我を負わしたのにも係わらず私がこのことで委縮してしまうと思って色々私に気を使ってくれたんだ。正直云うと相撲をとることに躊躇気味だった。それを気にして私に以前にも増して話すことも増えた最後は関脇で引退してしまったが私を陰ながら支えてくれた。お前の相撲はまだまだ十和田富士の足元に及ばない、もっと真剣に稽古して母を超えて認めてもらえ!そして桃の山にも・・・」


「理事長・・・」


「そもそも付き人がこんなところで相撲観戦なんかしている身分か!。早く控え部屋に戻れこのバカ娘が!早く戻れ!」


「はっはい」と慌てて席を立ち控え部屋に戻ろうとする。


「十和桜」


「はい」


「桃の山のよきライバルそして良き友人としてお互い切磋琢磨して高め合え私を陰ながら支えあってくれたようにお前はあの十和田富士の娘だ桃の山が妙義山としての私の娘であるようにそこには番付は関係ない。私にとって十和田富士がいなかったら今はなかったんだそれは十和桜も桃の山も同じだわかったらささっといけこのバカ娘が・・・」


「理事長・・・」十和桜は再度頭を下げると客席から足早に出ていった。


(気が強いくせして意外と小心者なのはあなた譲りですかね?あなたの娘が入門してきた時はある種の恐怖めいたことも感じましたが・・・十和桜がもし再度女子大相撲に戻れるのならいい力士になりますよ。桃の山にとってはもっとも厳しい相手に、でもそれを楽しみにしている自分がいるもちろんあなたも)


 紗理奈は目を瞑りながら自分が現役当時張り合った十和田富士との取り組みを想いだす。幕下では全く歯が立たなかったでも幕内昇進がかかったあの一番は妙義山にとって渾身の相撲だった。しかしその代償は十和田富士の大怪我、その後はもうあの圧倒的な強さは永遠に戻らず・・・そのことは妙義山にとっても暗い影を落としていた。そんな私に十和田富士は色々気を使ってくれプライベートで食事や温泉旅行に誘ってくれたり、本当は私がするべき事だったのかもしれないが・・・。十和田富士にこれからの自分の生き方の相談を持ち掛けられた時は紗理奈にとってはきつかったがそれ以上に十和田富士は苦しかったのだと・・・。あれから時が過ぎて今度は娘同士が、お互い女の子ができても間違っても女子大相撲力士にはさせないと云ったのに、紗理奈は一人苦笑いしながら。


 紗理奈は目を開け天井から吊るしてある巨大モニターを見る。そこには大将【桃の山】の文字が紗理奈の顔が険しくなる。中堅【百合の花】の文字。


(連戦の百合の花を勝負の鍵になる中堅に持ってくるのかい葉月!百合の花の腰や足首の状態考えたら次のロシア戦じゃ使えないだろうがこんなところで消耗させてどうする気だ!中堅に桃の山で仕留めるのが常套だろうが?)


紗理奈からすれば次のロシア戦を考えれば百合の花を大将にして休ませここを勝ってロシア戦にプロ二人のアマチュア一人と云う本来の体制で戦うのが当然。それなのに連戦の百合の花を中堅に持っていき桃の山を大将にする意味がわからない。このブラジル戦で百合の花を消耗させればとてもロシア戦では戦えない、なのに葉月は中堅と云う勝負のポイントになる場所に持ってきたことにどこか苛立ちを感じていた。


 取り組みの力士及び選手はお互いフタを空けて見なければわからないが開けて見ればブラジルは先鋒にブラジルの横綱を持ってきた。日本はアマチュア石川さくら、とても勝負にはならないはことは目に見える。ブラジルからすれば桃の山がいないと云う前提に立てばアマチュア二人を横綱で一気に撃破して百合の花と勝負して負けたとしても連戦を強いられる百合の花の消耗を考えれば楽勝と想っていたはずだが桃の山の参戦は意外ではあるが中堅に百合の花はブラジルの横綱からすればアマチュアでウォーミングアップしての横綱対決は望むところ何のかもしれない。


(桃の山の精神状態が戻っているとはいえ若干不安なところがないわけじゃない。正直、中堅で相撲を取らせて試合勘をと想ったが逆に横綱相手ならおもいっきりいけただろうに・・・今の百合の花で勝ちてるのか?)


娘である桃の山に下手をしたら三人相手にしなければと云う不安が頭を過る


(葉月、どうしてこの布陣で行くんだ!百合の花は万全な状態ではないのは稽古を見たらわかる。お前はそれを知ったうえで・・・・まさかお前!)


大阪でのトーナメントでの倉橋真奈美に自分が云ったことが頭を過る


>「だったらあなたから椎名に進言して正選手にしなさいよ稲倉を・・・あなただってそう思ってるんじゃないの?。この大会、勝利の鍵は稲倉映見だって・・・」


(ロシア戦のために温存するにしてもだとしたら桃の山を中堅にして勝負をつけて大将で百合の花を休ませるお前は百合の花を潰す気か!葉月!)



 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ