横綱四天王 ⑤
やっと四人が揃った日本代表チーム。ここまで紆余曲折あったけど日本の女子ジュニア横綱と女子アマチュア横綱、そして女子大相撲の二大横綱が世界と戦う大会は女子大相撲ファンはもとより相撲をしている日本の女子達には夢のような大会なのだ。
苦しい場面もあったがなんとか準決勝までは来た。そして桃の山も参戦し盤石の態勢で臨む日本チーム。決勝で当たるであろうロシアは大将を残してオランダを下し決勝進出を決めた。
日本の控室ではモニターでその様子を見ていた。四人は当然の結果であるが順当に勝ち上がったロシアチームの強さを改めておもいしった形となった。
「それじゃ改めて」と葉月は四人の前にそして葉月の両隣に真奈美と璃子が立つ。
葉月は四人の代表選手・力士を見回す。この大会はロシアからの提案だったことに葉月はあまり良いこととは想っていなかった。女子相撲が世界的に認知されプロ・アマ問わず普及発展することに異を唱える世界の選手・力士・関係者はいないのだが特定の国がルールや運営などを決めようとしていることに違和感を感じていることは事実。相撲人口が多く強い力士が多くいる国が主導権を握るのはある意味当然だがそんなロシアにとっては日本は目の上のたん瘤でありここで打撃を与えて潰し女子相撲王国はロシアであると云う事を世界に知らしめたいと云うのがこの大会の意図。
椎名葉月の本音としてはプロとアマが同じ土俵で戦うなどあってはいけないと思う。やるならプロ同士・アマチュア同士が常識であり体格・技量の差からしたら怪我を負わせてしまう懸念が両方にあるのにも係わらず、でもそんなことは云っても始まらない。でもアマチュア力士でプロを目指しているのならリスクは承知で取り組ませるのありかも知れないが・・・。
「ブラジルはみんな120㎏オーバーの重量級だけどみんなの技量からしたら慌てる必要はないからただ真っ向勝負て゛いけるほど甘くはない。それは頭に入れておいて、それとさくら」
「あっはい」
「ブラジルの先鋒がいきなりプロ横綱のTandara Alves Caixetaは意外だったけどここは考えを変えて稽古をつけてもらうと思ってやって見なさい。正直さくらの勝てる相手ではないわ、でも負けることを前提に取り組むなんって云うのも相手に失礼だしあなただって嫌に決まっている。あなたの好きなようにやってもいいけどあなたの形である四つでは歯が立たないそれはあなただってわかると思う。シチュエーションにおいて臨機応変に対応できるか?Caixetaのレベルが100だったらさくらせいぜい30ぐらいがいいところよそのうえであなたなり考えなさい。アドバイスはしないわかった」
「あっ・・・はい」さくらは何かしらのアドバイスをくれるものかと想ったのだが・・・。
「横綱二人には特に云う事はないわ。何回か対戦しているし今更横綱二人にアドバイスする必要もないしそれと映見」
「はっはい」
「ちょっと話があるからここにいて」
「それじゃいってらっしやい」と三人の背中を一人ずつ叩いて部屋から出していく。
「真奈美さん凛子さんお願います」
「わかりました」と二人も部屋を出る。
部屋には葉月と映見の二人だけ、部屋のモニターにはブラジルと日本のここまでの戦いのリプレーが流されている。
二人は立ったまま目と目を合わせる。別に対立しているわけでもなくそれはお互い何かしら思うところもあるのだがそのなにかがはっきりしない。暫くの沈黙が続いた後葉月が口を開いた。
「さっきの物言いは女子大相撲横綱のようだったわね」と葉月は別に苦言を云うつもりでもなく
「横綱である桃の山さんにあんなこと云うなんって私の驕りでしたたまたまプロ相手に勝ったぐらいで」と映見は少し俯き気味に
「昼休憩の間観客席を遠目から眺めていてね、そうしたら意外とあなたに関心があるようで二代目葉月山とか云う人が何人かいてね私的には喜ぶべきか悲しむべきか」と苦笑いしながら
「部屋を出た後に三階席で時間潰していて」
「三階席にいたの」
「十和桜関が食事を持ってきていただいて一緒に、その時に観客席の声が色々聞こえてきてさすがに二代目葉月山はって」
「十和桜といたの映見」
「次世代を背負うべき力士を殺すわけにはいかないって十和桜関におしゃったんですね」
「云ったわ。自分で蒔いた種とはいえこれで潰してしまうには惜しいし桃の山が許したのならそれでいいとただ協会がどう決定するかはわからないけど私も云うべきことは云うつもりただ去っていく人間の言葉にどれだけの重みがあるのかは疑問だけど」
「女子大相撲に人生をかけたことに悔いがあるんですか?」
「ずいぶんストレートな云い方ね」
「すいませんこんな云い方しかできなくて・・・ただ、あれだけの功績を残しているのになぜ協会に残らず相撲以外の人生を選ぶのか葉月さんなら女子相撲全体国内外問わず影響力を持っていながら」
「私は相撲は仕事として割り切ってがむしゃらにやってきた。高校生の時は相撲が面白かったけしてあなたのように常に優勝している力士ではなかったけど表彰台だけは外さなかった。たから悔しいとか絶対優勝してとかの意識はなかったの私の行っていた高校は進学校で寮もあってね私は寮生活をして高校生活をおくり勉学に励み相撲に邁進した。大学も西経を目指していたの政策学部を目指していてね自慢じゃないけど模試でも合格圏内に入っていてでもそれは表向きで本音は西経女子相撲部で倉橋監督の下で学生力士としてやりきって卒業したかった。でも色々事情があって女子大相撲の世界に行くことに」
「西経に?」
「西経出身のあなたにどこか嫉妬しているのよ私は、それと同時に何か自分が実現できなかった過去を見ているようで」
葉月はなんでこんなことを映見に云っているのか自分でもわからなかった。自分ができなかったことを映見に託しているわけでもなくましてや嫉妬している何って云ったところで映見にどうしろと云うのか?他校であれば相撲で特待生制度を使って学費免除もと云う話もなかったわけではなかった。でも葉月は倉橋真奈美の下で相撲をしたいと云う拘りがそのチャンスを自ら潰してしまった。
倉橋自身も相撲を通して推薦・特待生制度には異論があったしそもそも椎名葉月には注目していなかった。そんななか桃の山の母である横綱妙義山は葉月の潜在能力に注目していたしそれに輪をかけたように椎名牧場の経営悪化は葉月を女子相撲界に入門させるのは絶好の好機だったのだ。それは葉月にとってもその選択しか残されていなかったのだ。
「もし、あなたが少しでも女子大相撲に来る気があるのなら行くべきよ!その前提条件は医師の国家資格を取得後の話。女子相撲の命は花ように短いしいつ刈られるかもわからないそんな世界よ。だから第二の人生の入り口は事前に作っておかないと、倉橋さんはちゃんとそこを見据えて選手達を指導している。そこが私が倉橋監督を尊敬するところなの、伊吹桜もそうであるようにそれでも自分の道は自分で切り開くその環境を作ってくれているのが倉橋真奈美。それを理解できるものだけが西経女子相撲部で相撲ができる」
「葉月さん・・・」
「倉橋監督があなたをアマチュア女子相撲最高傑作と自画自賛することにいつのまにか嫉妬していたのは自分も同じくらいのことはできていたって・・・まぁそんなことは私の心の中で勝手に自画自賛しているだけなんだけどね」と照れ笑いをしてしまう葉月。
「私、ここまで相撲をやってきて葉月監督と同じで学生で相撲をやり切って終わりと・・・でもこの大会の代表にイレギュラーながら選ばれて女子大相撲の力士達のみなさんとまして二人の横綱に稽古をつけてもらって心の奥で無意識のうちにくすぶっていた女子大相撲の想いが・・・・」
相撲クラブに入門した当時は女子大相撲の存在すら知らなかったのにいつしか嵌ってしまいここまできた。自分が世界の舞台でアマチュアとはいえ世界の強豪たちと互角に渡り合う何って想像すらできなかったしましてや女子大相撲の力士と世界の強豪国と勝負する何ってことは夢にも出てこなかった。
「私・・・」
「稲倉映見。もしあなたが女子大相撲に入門したのなら私の四股名【葉月山】を継いでもらいたい。【葉月山】を受け継ぐものは私が納得できる女性でしか継がせない!桃の山が妙義山を継ぐように葉月山の四股名は私が認めた者しか継がせない。それに見合う者がいなければ【葉月山】は消滅させる私が相撲界からさるように・・・・私はあなたに最高の舞台を用意する。そこであなたにその気概があるのかそして【葉月山】を継ぐ資格があるのかどうか見定める。絶対横綱【葉月山】として」
「・・・・・」映見はその言葉に応える言葉がみつからない。あまりにもあまりにも・・・。




