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女力士への道  作者: hidekazu
女子プロアマ混合団体世界大会

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横綱四天王 ④

 軽い食事を終え控室で待つ三人の日本代表。映見と十和桜は控室を出ていったまままだ戻っていない。


「桃の山、気持ちの整理はついたんだな」と百合の花

「すいませんでした百合の花関。色々いらない心配かけてしまって」と桃の山


 二人の横綱が一緒に戦う大会は初めてなのだ。プロとして世界大会で取り組みをする時は絶対横綱葉月山とのコンビで戦ってきた。お互い切磋琢磨し世界のプロ力士達と戦ってきたのだ。葉月山が引退し世界大会において何人もの力士と共に戦ってきたが百合の花にはしっくりこなかったと云うか何か不完全燃焼と云うか・・・。今大会において百合の花と桃の山のコンビは新たな女子大相撲のツートップとして女子大相撲ファンならずとも期待しないわけにはいかない。


「百合の花さんからしたら私は・・・」

「自分からそんなこと云うなよ。私と桃の山は対等な横綱同士、ライバルであり日本代表として二人で戦う時はお互い頼れる同士として・・・」

「百合の花さん・・・」

「桃の山が横綱になってから初めてだからなチームとして世界と戦うのは」

「はいそうです。なかなか一緒になる機会がなくて私が怪我したり色々あって・・・それと」

「うっん?」

「私とでは百合の花さんの気持ちが」

「・・・・」


 百合の花の相撲が何か不甲斐なくなったとファンや関係者から漏れ聞こえてくる。葉月山との死闘、しかし海外での代表としての戦いでは葉月山とは揺るぎない戦友としてけして仲はよくなかった海外でもライバルはライバルその気持ちは百合の花の方が強かった。


 葉月山は常に戦う相手であり意識的に敵対行為意識を持つようにしていた。晩年、葉月山が積極的に話しかけてきてくれたりしてくれていたのに・・・、葉月山が引退してわかった自分のライバルとしての葉月山の偉大さが、相撲のみならず自分を奮い立たせてくれたあの気概と闘志はもう向かってくることはない。百合の花にとって高い次元で力士をやってこれたことに遅まきながら気づいたのだ。


 引退後もなかなかサシで会う事はなかったが代表選手と監督としての違う立場で話すチャンスはまさかの椎名葉月の自宅で一晩泊ると云う事に・・・・。成り行きで葉月の家を買う事になるとは思わなかったがそれ以上に初めて色々な話をできたことは百合の花にとって自分のなかにあった何か薄曇りの心中が晴れていくような気分になったのだ。そのなかで葉月はまるで百合の花の相撲に対するモヤモヤを晴らす人物の名前を挙げたのだ。


「あなたにとって今の桃の山じゃ火が付かないか?」と葉月は苦笑しながら


「桃の山は横綱です。ましてや二場所連続優勝をさらわれた実力の差です」と百合の花は率直に


「実力の差・・・そんな簡単な話じゃないよね?晩年の相撲は厳しかったけどあなたとの対戦は本当の意味で楽しかったやるかやられるか息を吐いただけでその瞬間にやられるかもしれないと云う緊張感での取り組み、相撲の力は全盛期より落ちたとはいえ百合の花には負けたくなかった。それにあなたは金剛力士のように鉄壁の攻撃と守りで・・・もう百合の花には勝てないって悔しかったけどね」


「三役に上がったころは全く相手にして貰えなかった。勝つには多少強引な相撲をしなきゃ勝てないって・・・それでも勝てなかった。でもダブルスの世界大会では私の方が心技体揃っていてあの時だけは葉月山さんの事を上から目線で」


「私が勝てなかったら終わっていたんですよと云われて私も「かっー」ときてね、でもあの頃から心技体すべて下降していった本当は引退するチャンスだったんだけど横綱としての責務もあったし珍しく弱気になってしまってでも百合の花に馬鹿にされてね。


「馬鹿にされたまま終われるかって」ってそこからもう一回自分を奮い立たせたと云うよりくれたかな・・・だから晩年のあなたとの取り組みは死闘と云う言葉が相応しいほどにバッチバチで・・・厳しかったけど本当に充実していた女子大相撲の力士になって本当によかったって初めて思えたのよ」


「葉月さんのおっしゃる通りに私も偉大な葉月山関と真っ向勝負ができていることに心の中では嬉しくて嬉しくてでも葉月山にはそんな表情は絶対見せるかと・・・葉月さんが私と色々相撲以外では気に留めてくれていたのは知っていましたがそれでも常に常在戦場だって」


「私的には寂しかったけどね。でもそれが横綱百合の花としての相撲道なら仕方ないかって本当はかまってほしかったけどね」


「すいませんでした」と百合の花は神妙な表情で頭を下げた。


「やだー私そんなつもりで云ったんじゃないからもうやめてよ(笑)まったく」


「私は葉月さんの気持ちを分かっていてたのに・・・」


 百合の花だって本当は・・・・。


「稲倉映見とは馬が合ってる見たいだしなんかね・・・」


「なんかって?」


「映見は百合の花は嫌いだったらしいのよ彼女は私の大ファンであったのになんか今じゃ逆転したと云うか私なんか近所にいる口うるさい小母さんって感じくらいに想われてるのよきっと」


「稲倉、ちょっと迷っているようですよ」


「何に?」


「女子大相撲に入門するべきかどうか」


「私が映見だったら迷うでしょうね。医師になることと女子大相撲力士になることの二つの選択があってどちらかを選べって云われたら」


「葉月さんだったら?」


「意外と相撲は選ばなかったと思う。学生で相撲は終わりと決めていたから大学に行ってもそれは変わらなかったと思う。大学進学を断念して女子大相撲に行ったのは家庭の事情とは云え行かない選択もあったのよ、でもあの時は生きていくためには女子大相撲が手っ取り早くみいりもよかった。相撲が好きだからより金のため・・・好きな相撲はいつのまにか単なる仕事になった女子大相撲力士にはなりたくてなったわけじゃなかったのよ。そんな事云うとなんか現役力士のあなた達に失礼極まりないけど・・・


 でも晩年はやっと昔みたいに女子大相撲が楽しくなったし高校生の頃のように相撲をすることにワクワクした。そこに百合の花がいたから・・・私からしたら百合の花はライバルであり戦友・・・映見は大学卒業して国家資格を取ってから女子大相撲に入門しても年齢から云えば彼女のピークは過ぎてしまっているかも知れないけど行かなかったら行かなかったでモヤモヤは生涯残るでしょうね。割り切れる強い気持ちがあるのなら女子大相撲になんって話あなたにしないでしょうけど」


「過去に叶わなかった事を稲倉映見に・・・・」


「そんな事でもないけどねでもなんか今の映見を見ていると私がもし大学に行っていたら彼女のように相撲をできたのかなって・・・ある種の嫉妬ね」


 葉月は若干照れ笑い



 控え部屋で百合の花は桃の山を見ながら葉月の自宅の事を想いだしていた。葉月に「あなたにとって今の桃の山じゃ火が付かないか?」と云われた時正直返答できなかった。桃の山には悪いけど・・・。


「どうかしました?」と桃の山


「もし自分が負けたら本当に引退する気なのか?」


「それは私か決めたことです覚悟を決めています。私が勝ち日本が優勝したらその時は「妙義山」を継がしてもらいます。初代絶対横綱妙義山を」と百合の花に鋭く威圧を感じるくらいの視線で


「・・・・」


 (やっぱりそう云う事かい。その覚悟を待っていたんだよ桃の山!本当の意味での勝負師としての力士になるのだったら妙義山の四股名を継ぐことは当然の事なんだよ。桃の山の皮を被った妙義山がお前が目指すべき力士像。少しは私の相撲魂を奮い立たせてくれるか桃の山!)


「百合の花さん」とさくらが声をかけてきた


「うっん」


「映見さん・・・」


「映見は大丈夫だから心配すんな。さくらの目標とする選手は映見なんだからもっと話したり稽古してもらう時間作ってもらってそして可愛がってもらえ映見は私が初めてライバルと想える選手なんだから厳しい態度をとることもある。多分そのことはわかってくれていると想っているから、それと映見はここまで結構キツイ取り組みが続いたからブラジル戦は休んでもらってロシア戦に集中してもらう。それは私の意見ではあるけど葉月監督の考えでもあるんだと思う。まぁ誰かさんがもう少し早く来てくれたら映見にキツイことも云うこともなかったけどね、ピーチ姫」と百合の花


「すいませんマリオさん」


「誰がスパーマリオだこのボケが!」


桃の山が笑って見せたやさしい笑顔で鬼の横綱「妙義山」からは鬼ではなく天使が生まれそのまま横綱になってしまったように・・・。


「さくら、おまえは頑張って西経に行って映見さんと一緒に相撲をとれ女子大相撲に来るのも一つの選択だけど目標とする選手の側で相撲ができるのならその選択は悪くない。伊吹桜も西経出身だけど力士とて相撲だけができればいいわけじゃない。色々な事を学んだうえで力士になるのは大事だと思う。力士生命の短い女子力士からしたら大学四年間は無駄だと云う人もいるが西経なら行っても良いじゃないんか「文武両道」の精神は理想だよ。どうだろう桃の山」


「百合の花さんからは意外と想ったけどさくら、私もそれは最良の選択のような気がする。西経出身力士の人達はみんな頭も相撲もできるし引退後も協会に残ってくれた人達は選手や協会のために裏方として力を発揮してくれている。今日の大会は映見さんにもさくらにも凄い財産になると想うわ。私もまだ結果は出ないけど間違いなく凄い財産になったわ生きていくことの難しさと厳しさを乗り越えるための勇気と決意、そして覚悟。


 私は決まっていた大学を蹴って女子大相撲の世界に入った。後悔はしていないただ力士として生きていく覚悟が私には足らなかったことを初めて自覚した。三時間後には私の運命が決まる。そのことに実はワクワクしているの不思議なんだけどと笑顔を見せる桃の山」


「百合の花さん・桃の山さん・・・」おもわず泣いてしまうさくら


「何で泣く?」と百合の花は少し笑いながら


「二人の横綱からそう云われるとは思わなかったのと大学に行けって私は大相撲に来いって云うのかと想ったから・・・でも大会終わってからもう一度自分自身に問うてみます素直な気持ちで・・・」


「そうだな。決めるのは自分自身なんだからところでさくらって西経行けるレベルなの?」


「・・・・」


「えっもしかして・・・・」


「百合の花さん!」


「・・・桃の山さんも・・・馬鹿にして」


「えっ!私も?」


そこへすーっと映見が入ってきた百合の花の表情が一瞬険しくなる。


「桃の山さん・・・私、口が過ぎました。女子大相撲の横綱に向かって・・・私」


「映見さん。その話は大会終わってからでいいんじゃないの?それで私をチームに入れてくれるの入れてくれないの?」


桃の山は淡々とした口調で・・・・。


「桃の山さん抜きに日本チームの優勝は考えられませんそれはさくらが西経に入れる確率ぐらい低いと・・・」と映見は云いながら思わず吹いてしまった。


「映見さんまで・・・・うっっっっっっ絶対合格してやりますよ。もし合格したら合格祝いしてくださいいよね。それと何かプレゼントしていくださいよ」


「百合の花さんが発端ですから当然」と桃の山


「桃の山さんもです」


「えっ!私、そもそもさくらに嫌われるような事云った?」


「云ってましたよ桃の山さんも」と映見


「なんで?なんで私が悪いことになってるのよ!」


「とにかく三人にお祝いしてもらいますから!いいですね!」




 遠くでその様子を見ている真奈美と璃子


「なんか楽しそうねあの四人」と璃子


「さすがに緊張感無さすぎるのは・・・」


「さくらは西経に行くらしいですよ真奈美さん」と璃子


「まぁどうでしょ?」


「さくらって勉強の方はどうなの」


「どうでしょうねぇ?朋美の話じゃ合格圏にはあと二歩ぐらい足らないらしいけど」と真奈美はついさくらの顔を見ながら・・・・


(なに?さくらその目は?)


さくらはむっちゃ真奈美を睨みつける


「今、私の事云ってましたよね?」とさくら


「えっ・・・云っていないわよ云っていない」


(何、その地獄耳はあぁびっくりした)


「倉橋監督・・・・色々聞きたいので今度西経に云っていいですか?」


「えっ・・・あぁいわよまた出稽古にね」


「それもそうですけど・・・あっちの方も・・・」


「うん・・・」


(あっちって何???・・・・あんたまさか私に忖度しろとか云ってるんじゃないわよね?)


 さくらは何か悲しい目で真奈美を見つめる


(あのねぇ・・・まったく幼いような素振り見せて・・・あぁ恐いまったく)





 




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