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女力士への道  作者: hidekazu
勝利の意味

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学生力士とは・・・①

 学生力士としてそれぞれ歩き出した映見とさくら。ジュニア世界大会で初めて団体戦で共に戦い優勝したあの日。さくらにとっては目標とする憧れの先輩。映見にとっては自分を目標としてくれた可愛い後輩。

 女子学生相撲においてこの二人の対決がいつやってくるのかが待ち遠しい方。全日本大会で当たるチャンスはもあったのだが残念ながら実現しなかった。


 中京圏高大親善試合。中京三県の高校・大学女子相撲部の団体戦の対決。女子相撲の強化育成の一環としておこなわれる試合であると同時に女子大相撲の親方衆や女子大学相撲部のスカウト人にとっては地方大会とはいえ注目されている大会である。その中でも稲倉映見と石川さくらは大学と高校の差はあれど実力は拮抗もしくは潜在能力では石川さくらの上なのではと云う評価がある。


昨年のアマチュア世界大会無差別級で出場した映見は残念ながらメダルなしの4位に終わった。ひざの故障もあり準決勝でブルカリアの力士に破れ三位決定戦でもロシアの巨漢力士に完全なる力負け。このことによってこの大会の創設期から続いた無差別級において連続メダルが途切れたのだ。


 新相撲として女子相撲がオリンピック競技として採用される動きが活発化すると世界的に人気となっていくと選手強化に乗り出していくことは至極当然の流れである。他国はそれに先んじてプロリーグなるものを創設。そのことは女子相撲の底辺を広げることと同時に力士として稼ぐことができれば女子相撲を続けていくというモチベーションにもなっていた。それに対して日本の場合は学生力士が主体でその後力士としてのやっていける環境は殆ど皆無と云ってよかった。そこで日本が主体になって女子相撲を世界的に発展させる意味で新たに新相撲としてオリンピック競技採用に尽力したのだが世界はその先を行っていたのだ。


 日本も遅まきながら女子大相撲なるものを創設。最初は色者扱いの目で見られていたが女子力士達だがそこに外国人力士が参戦することにより外国人力士に対抗するべく、日本人力士は廻しを取らせない技術や相手の力をいなす技術などの面での向上は外国人との体格差で勝負は決まらないと云うことを日本の女子相撲ファンに見せているのも女子大相撲の魅力である。


 当然、女子大相撲の人気はプロ力士を目指しているアマチュア力士特に学生力士達にとっては大きな目標である。中・高・大学などでの全国レベルの試合や国際試合などでの勝利は女子大相撲に入門するにあたり大きな意味を持ちそれは選手のみ何らず学校としても大きなアピールになる。選手強化のためのスカウト合戦・試合での勝利は今まで以上に重視されていく。


 その中で映見が大学二年の時出場したアマチュア世界大会無差別級代表選考会は一つの問題提起の試合となってしまった。


 決勝は東日本の女王である青葉大学三年神崎絵里。映見とは各大会で好勝負を演じているがなかなか優勝できず世界大会などの正選手として代表にはなったことがなく卒業後はプロ入りを希望している絵里にとっては是が非でも優勝しての世界大会へは悲願である。たいして映見は西日本の女王である西経の2年でありながら横綱として君臨し国内大会では無双の横綱である。


 決勝。神崎絵里は張り差しで張ってきたのだ。一瞬映見はひるんだがそこから立て直し左の強烈な突っ張りを繰り出した。絵里は右のおっつけで映見の突っ張りを殺しそそこから組むのかと思ったが突き放し二人の間が開き今度は突っ張りの応酬なのかと思ったが絵里は再度張ってきたのだそれも子供の喧嘩かというぐらいの連続で映見の顔が赤くはれ始めたように見えるほどにその上唇を切ったのか血まで・・・。


 会場が騒然となる中映見は張り手の応酬を選ばず受けきるだけ受け切った後、先に根を上げたのは絵里の方だった。映見はその動きを察知し腰を落とし、がっちりと組み止めると右四つの態勢に持ち込み得意の上手投げで決着がつき映見は代表選手に決定した。


  選手控室に戻り監督に会うとその言葉にある種の怒りに近いものを感じてしまった。


「いつまでそんな甘い相撲を取るつもりなんだ」と吐き捨てるように・・・

「どう云う意味でしょうか?」と云ったものの倉橋が云いたいことは察しがつく。

二人の間が空いた時点でなぜ突っ張りの応酬にもっていかなかったのだと相手が張ってきたらなぜ張り返さないのかと・・・。

「私はそういうのは嫌いなので・・・」映見の相撲には張り手などやらないしましてや張り手の応酬なんって論外なのだ。

「ずいぶんなきれいごとだねぇ・・・・あっそうか映見はそれでいいのか・・・」


 倉橋と映見の間にはれっきとした溝がある。西経女子相撲部の大半がプロ入門を希望としそれに邁進しているのに相撲部で横綱としてましてや世界でも戦っている映見が相撲は大学で終わりと云っていることなのだ。そのことは家族と監督しか云っていない。ただ映見には医学部に入っている時点でもうプロになるのは無理なのだ。そのことは倉橋自体は承知しているのにそれでも・・・。

 

 西経からは女子大相撲界に優秀な力士達を送り出してきた。その中においても映見は見劣りなんかせず各女子相撲部屋からもラブコールを大学入学当時からもひっきりなしだったが映見自身はプロ入りの問題は敢えて口にしなかった。そもそも西経に入学したのは医学部があることと好きな相撲ができる大学と考えたときに自宅から通えることもできる西経は理想な大学だったしその付属高校も相撲ができる環境だったので付属高校に入学したのは至極当然なのだ。


 倉橋のもとに各相撲部屋のスカウトや親方衆が来たとしても会おうともしない映見をたしなめたことがあった時映見はストレートに

「私は女子大相撲でやるつもりはありません。医者になるためと好きな相撲をするために西経を選んだだけです」と・・・。


 倉橋は時間がたってば気持ちが変わるだろうぐらいでいたのだがそれは逆だった。大学一年生ながら西経の横綱を張り各大会での快進撃は女子相撲界から喉から手が出る逸材でもあるのに係わらず本人の意思はより強固になっていくそれだけ映見の意志は高校時代から変わっていないのだ。


 表彰式が終わりインタビューに応じる映見。しかしそのインタビューが映見と監督の溝を決定的にしたと同時にアマチュア相撲界関係者に波紋を投げかけることになってしまった。


 




 


 


 



 

 


 

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