横綱四天王 ①
「すいませんでした百合の花さん・・・」
映見はポーランドの控え部屋を出で暫く廊下を歩くと足を止め百合の花の前に立ち頭を下げた。
「映見、もういいよわかってくれれば別に相手に謝罪する必要はないかもしれないけど私的にはね」
「私、ここまで勝ちに拘っていたなんって自分でも正直驚いていて今まで勝ち負け何って二の次だったのに・・・」
「アマチュアにプロ並みの要求をしなきゃいけなくなったのは桃の山がいないことが原因なんだから先鋒がアマチュアだったら必然的に二人目はプロ力士。プロ・アマ混合は見てる側には面白いかもしれないがそもそも日本人同士ならまだしも外国人相手何って無理があるんだよこの大会は・・・プロもアマもいらん緊張しいている。プロはアマには絶対負けたくないと思いつつも本気で潰すわけにはいかない。逆にアマはプロ相手だから多少強引でも許されるって」
「私、別にそんなつもりは・・・・」
「映見がそう思っていなくてもプロ相手なら無意識にそうなる。ましてや映見は私を気遣ってるんだろう否定するだろうけど・・・正直云うととても相撲ができる状態じゃないんだ肉体的にも精神的にもでも映見やさくらの相撲に対する一途な姿勢を見た時に二人を失望させることはできないってね、少なくとも各試合二人の対戦は想定して色々と考えていたけど想像以上に二人がやってくれるから・・・ただ無理な事はしないでくれってそれだけは想っていたんだ。だから映見の相撲につい・・・」
「百合の花関・・・私」
映見にとって葉月山の宿敵であった百合の花はどちらかと云えばヒール的存在であってそれは桃の山に対しても葉月山と同じヒールとしてのイメージを勝手に描いていた。でも合同稽古なりで話をしていくうち百合の花の心の懐の深さというかけして自分からはやってはこないけどこっちから飛び込んでいくと必ず答えてくれるそんな力士なのだ。
「監督が決める事だけど次のブラジル戦は外してもらってロシア戦に備えろ。桃の山が会場に来たみたいだし」
「桃の山さんが」
「ブラジル・ロシアと続く重量級艦隊を撃破することを考えたら映見は温存したい」
「でもさくらだって」
「さくらは気持ちで相撲をするタイプ。桃の山が来れば今以上にやってくれるだろう連戦は厳しいかもしれないけど桃の山と一緒にやれるとなれば自分以上の力を発揮すると想う」
「百合の花さんだって連戦しているし腰だって・・・」
「映見、私はプロなんだよ自分が今どんな状態でどう相撲をすればいいのか自分で判断する。プロとしては悔しいけど四人の中で一番心身とも充実しているのは映見だ。
多分決勝まで行ったら日本の勝利の鍵を握るのは映見だ。それはロシアも映見を狙ってくるだろう桃の山は精神的に潰せたと想っているからなだからこそブラジル戦で映見の相撲は見せたくないんだがさっきのMACIOS MAGDALENA戦で見せた相撲はロシアにとっては映見の相撲がけして四つだけではないと云う情報を与えてしまったのとMACIOS MAGDALENAさんが云っていたように相撲においての心理戦をしかけてくるのはまず間違いない。映見が負けるとしたらたぶんそこだ」
「心理戦・・・」
百合の花と映見は歩きながら次からの試合展開を話しながら日本の控え部屋に入る。
(桃の山・・・)と百合の花
(十和桜?なんで?)と映見
控え部屋には桃の山とちよっと離れた壁際に十和桜が百合の花と映見の視線を逸らすように俯きながら桃の山の隣にはピッタリとさくらが・・・・。二人のコーチ陣は監督の葉月と何かしらの話をしている。
「遅くなりました。百合の花関」と桃の山は頭を下げた。その後ろで十和桜も・・・。
百合の花は小上がりに置いてある明け荷に書いてある四股名に目が行った。
(妙義山・・・・覚悟ってことか)
妙義山の四股名は女子大相撲にとって伝説である四股名でありその娘が今、横綱として活躍している。そしてやっと伝説の四股名を継承する覚悟ができた。明け荷に書いてある四股名はそういう意味だと・・・その一方で。
(なんで十和桜がいるのよ!桃の山は何考えているのよ!)
映見はこの会場に十和桜を連れてきたことに物凄い違和感を感じていた。
「百合の花関・映見さん自分として相撲をできる万全の体勢を作ってきたので参戦させてほしい。今度の事は私の心の弱さが露呈してまったことがすべてとても横綱どころか女子大相撲力士としての資質にも係わる問題。でも今日から自分をすべて刷新するつもりで相撲に精進します。ですからこのチームに参加させてください」と桃の山は二人を前に深々と頭を下げた。少し離れた場所にいる十和桜も同じく。
百合の花は桃の山の視線と合わせるように凝視するも何も答えない。
「よく平気でさらっと云いますねそんなこと」と映見は本音を臆することなく桃の山に云いのけた。
桃の山は映見の物言いに・・・・。
「今度の大会で日本チームが優勝できなかったら引退するわ。これははったりでもなんでもなく葉月監督とも約束したのそれが私の責任の取りかたよ、私もあとからごちゃごちゃするのもやだしね、それでもチームの一員としては認められないと云うのなら私はここで帰って引退届を協会に提出して相撲人生は終わりそれだけの事よ」
桃の山は映見の顔をまっすぐ1mmも視線をずらさずに・・・
「いいんですかそんな事をみんなのいる前で・・・今更なしは通用しませんよ」
「映見さんと私は生きている世界が違うのよ。横綱桃の山、初代絶対横綱妙義山の娘として発言しているのよ!桃の山も死ねば妙義山と云う四股名も死ぬ。その覚悟を持って私は今度の大会に臨み望んでいく結果が得られなかったらそこで私の相撲人生は死ぬ・・・・。アマチュア横綱如きにそこまで云われる筋合いはないのよ」
それは桃の山が初めて見せたプロ力士として覚悟を決めた顔、今まで誰一人見たことのない。
映見はその桃の山の態度に表面上は動じていないように見せてはいたが内心は「バクバク」と云うか心臓が破裂しそうなぐらいに動揺していた。自分の発言もそうだがそれ以上に横綱桃の山と云う力士としての覚悟に・・・「アマチュア横綱如きに」と云う言葉に馬鹿にされたと云うよりもプロとしての世界にお前が入ってくる余地なんかないんだよと・・・・。
その様子は見ている葉月、真奈美、璃子にも色々な想いが交錯する。女子大相撲出身の二人からすれば桃の山の豹変ぶりは女子大相撲と云う世界で戦う力士として当然でありそれぐらいの気概がなければならないそれは遅すぎるぐらいに・・・。
アマチュア選手として学生時代活躍してきた真奈美からすれば映見のここのところの勝負に対する拘りは悪いことではないと想っている。相撲という対人競技をやっているのだからそこには勝ち負けの答えしかない。ただ今の映見の云い方はアマとしての領域を超えているもしプロとしての女子大相撲力士ならあの云い方もあるかも知れないが映見はアマチュアでありプロ力士ましてや横綱にたいして云う言葉かと・・・。
そんな思いが交錯するなかで桃の山に側にいたさくらが
「映見さん。桃の山関に謝ってくださいさっきの言葉は少し度が過ぎてます謝ってください!」
「・・・・」映見はさくらに云い返す言葉が見つからなかった。さくらが桃の山を慕っているのは合同稽古以降わかってはいたがさくらの言葉には軽く衝撃を受けたと云うか自分自身が自覚していることをあっさり云われてしまったことに・・・。
「私も桃の山関には云いたいこともあります。でも今はそんな事云っている場合ではないし云う必要もない。そもそもチームとして戦っていてやっとベストメンバーで戦えるのになんでそこでいざこざを起こさなきゃいけないんですか!私は二人の女子大相撲の横綱と私の目標である映見さんと一緒にこの大会で戦えることにどれだけ楽しみにしていたか、私のここまでの相撲は多少ふがいないし足を引っ張っていることは事実です。だから偉そうなことは云えない・・・でも・・・四人で日本女子相撲だから四人でワンチームだから・・・だから」
さくらは口を万一文字にして必死に何かを堪えている。映見に別に敵意をむけているわけではなく。
「さくら・・・桃の山さんすいません。口が過ぎました」
「気にしないで映見さん。大阪のトーナメントの時あなたの一声がなければ私は気づけなかったことが多々あった。私が勝負師として女子大相撲のそれも横綱として勝負しているのにも係わらず実は精神的にはアマチュアの足元にも及ばないほどに貧弱な力士だったてことをね。そのことは薄々感じていたけどあれよあれよと横綱になってしまった。でも心理的駆け引きのようなことをされるとからっきしダメでね。本人がいる前で云うのも何だけど十和桜は一番苦手なのよ」と云いながら桃の山は十和桜に視線を向ける。
十和桜は俯いたまま桃の山には視線を合わせず。
「でもそれも相撲をする前の前哨戦見たいなものでそこで出鼻を挫かれたらそこから盛り返してイーブンに持っていくだけで消耗してしまう。精神的にいつしかそのことが苦手意識を持ってしまったらそこから抜け出せないものね。私にはそれに対しての反発心が欠けていたのよ勝負師としてあるまじきことよね」
桃の山は天井を見上げながら
「今の日本チームの一人でも私が参加することに異議があるのなら私はここから消えるわ。私が入って輪を乱すことはあってはならないししたくないから」と天井を見上げていた桃の山は映見に視線を合わす。
(この大会に映見がいれば私の出番は必要ないかもね?あなたも叩かれてきた方だけど見事に自分で建て直してきた。悔しいけど今の私にはできないかもねその気持ちの強さ・・・悔しいけど)
桃の山は映見に敵意の視線を向けるわけでもなく只々映見と云うアマチュア横綱に視線を送る。その視線に意味はないのかもしれないが・・・・。




