若き獅子たちへ ⑤
「映見、無理はするな一人一勝すればいいんだ。このトーナメント戦は一日で決着をつけるハードな大会なんだましてや映見やさくらはアマチュアなんだから自分が与えられた仕事をすればいいんだ」と百合の花は若干苛ついていた。
「アマチュアだからなんですか・・・」と映見は何か食って掛かるように
「さっきの強引な相撲は何だと云ってるんだよ!」
二回戦のボーランドの大将MACIOS MAGDALENAと映見の相撲はある意味異様な雰囲気と云うか・・・。
映見は立ち合いボーランドの大将の胸をめがけて右からのかち上げを繰り出し、「バッン!」という大きな爆発したかのような音と共に土俵際まで吹っ飛ばす。強烈な先制攻撃に場内が騒然とする中、映見はもう一度かち上げを食らわせおもいっきり上体を起こすと、間髪入れずのMACIOS MAGDALENAの胸にもろ手突きをさく裂させて突き出し土俵下までたたき落としたのだ。勝利はしたが下手をしたらポーランドの大将は大怪我を負ってもおかしくない状況幸いすぐに立ち上がったが・・・・。
映見は鬼のような形相で土俵下のボーランドの大将を睨みつけたことが彼女の神経を逆なでさせ一触即発状態にMACIOS MAGDALENAも映見を睨みつける。アマチュアである映見にヨーロッパリーグで戦っているプロ力士であるMACIOS MAGDALENAが負けたこともそうだがあまりにも暴力的な映見の相撲に土俵下のポーランドの選手達も看過できない表情を・・・。
結果的には3—0で日本がアマチュア二人で勝ったのだが後味が悪い試合になってしまった。かちあげがプロ・アマとも禁止されていないにせよ映見の相撲はあまりにも闘志むき出しの暴力と間違われてもしょうがない相撲をしたのだ。
これには伏線があってその前にMACIOS MAGDALENAの手つき不十分で立ち合い不成立で行司が待ったをかけたのに係わらずおもいっきりのかち上げで映見を土俵際寸前まで追い込んできたのだ。気づかなかったと云えばそれまでだがそのあと何かしら謝罪の素振りでいいから見せてくれればよかったのだがそれどころかMACIOS MAGDALENAは映見に対して含み笑いのような表情をしたことに映見は「カチン!」ときたのだ。今までの映見ならやられたらやり返すなどとと云う発想にはならなかったはずそれは一番嫌っていたから・・・ただ今大会の映見はどこか露骨に闘志むき出しと云うところが散見できるところに百合の花は多少引っかかっていたのだ。
「勝負して勝ちに行かなきゃいけないんだから多少強引でも当たり前じゃないですか!」と映見
「なにー!・・・」と百合の花の表情が一気に厳しくなる。
「きれいごと云ったて負ければ・・・」
その言葉を聞いた瞬間百合の花は映見にのど輪を食らわせ一気に壁まで持っていき張り付かせた。
日本の支度部屋の今までリラックスしていた雰囲気が一気に変わる。
「やめてください!」とさくらが止めにはいろうとすると
「さくらは出てくるな!!」と百合の花
(百合の花さん・・・・)
百合の花の怒号を聞いて部屋の外にいた真奈美も璃子も慌てて部屋に入ってきた。
百合の花は映見を壁に張り付けたままに睨みつける
「百合の花!何してるの!」璃子は二人の間に入ろうとしたが真奈美が璃子の左手に手を掛けた
(真奈美さん?)
真奈美は首を横にふりながら・・・。
百合の花は映見に掛けていたのど輪を外すと大きく息を吐くと表情は一変した。
「あんな相撲はプロに任せろよ。いくら相手がプロ力士だとしてもアマチュアの力士がプロみたいなことはするなよ」
(百合の花さん・・・・)
「プロの相撲は反則ギリギリの勝負をする時もあるもちろん批判覚悟で・・・そんな相撲をアマチュア力士にさせるわけにはいかないんだよ。映見は私が認めたアマチュア力士なんだだからこそあんな相撲はするな!」
「百合の花さん・・・ごめんなさい」と映見は頭を下げた。
「ポーランドの支度部屋に行こう私も行くから仕掛けたのは向こうかもしれないけど映見の相撲はやり過ぎだ」
「・・・・」
百合の花は真奈美と璃子に声をかけた。
「すいません真奈美さん。どうしても映見の強引な相撲には納得がいかなくて・・・・」
「私も一緒に行きます。百合の花さん私もアマチュアのコーチですし・・・」と真奈美
「真奈美さんここは力士同士としてMACIOS MAGDALENAは国際大会でも何回か対戦していますし彼女は英語も喋れますし」と百合の花
「わかりました。百合の花関にお任せします」と真奈美は云いながら映見を見るとさすがに気落ちしているようだ
「映見、MACIOS MAGDALENAさんにちゃんと謝罪する。これは日本女子相撲としての礼節の問題だから」
「はい・・・」っと小さな声で・・・。
「じゃ凛子さん行ってきますのでこれは私の独断ですから協会は一切関係ないですから・・・」
「百合の花、そんなことなんで気にするんだい百合の花に任せるよ。映見、勝負に拘るのは当然だけどそれは女子大相撲力士の仕事だ。アマチュアは自分を追い込むような相撲はしなくていい。どうしてもそんな相撲をしたいのなら女子大相撲に入門するしかないけどね」と璃子は意味深な表情で・・・。
二人は真奈美と凛子に一礼して部屋を出てポーランドの支度部屋に歩いていく。
「凛子さんすいませんうちの映見が・・・」
「気にしないでください。映見さんもちょっと気合が入り過ぎたんでしょ」
「最近、ちょっと勝負に拘り過ぎるきらいがあって」
「勝負に拘り過ぎることがまずいですか?」
「あの取り組みはもう体制は決まっていたんですからあんなに激しく当たる必要もないしまして土俵下まで飛ばしたのはさすがにあれはやり過ぎです。指導者としてこんな大きな大会で」
「でも彼女も相撲大好き少女から勝負師の女性にって感じましたけど私は」
「そんな映見身を調子づかすようなこと云わないでください」
引退後スタッフとして凛子は力士達のサポートをするなかで葉月山が現役時代、ダブルスで組んでの国際大会で協会が指名した選手を拒否して百合の花を独断で指名して揉めたことがあった。二勝先取して勝ち抜く大会に出場し結果強豪国のプロ力士達を撃破し見事優勝したことがあった。ただその時の葉月山はけして調子は良くなく百合の花に助けられる場面が多々あった。準決勝のポーランド戦で先鋒の葉月山がまさかの負け百合の花が二勝先取しなければ敗退の場面で一勝して二人目の相手はMACIOS MAGDALENA、映見が土俵下まで落としたその人だったのだ。
百合の花は立ち合いもろ手突きでMACIOS MAGDALENAの上体を起こすと、そこから10発以上顔面への突っ張りをさく裂。たまらず引いたMACIOS MAGDALENAをそのまま土俵際まで追い込んだ後はたき込んで勝ったのだがMACIOS MAGDALENAはそのまま暫くうずくまってしまった。立ち上がる時も一瞬ふらついていたが・・・・。
葉月山と百合の花が控え部屋に帰ると突然葉月山が百合の花におもいっきり張り手を顔面にさく裂させたのだ。
「なんなんださっきの相撲は!」と葉月山
「何すんですか!いきなり!」
あわてて璃子が止めに入ろうとしたが
「凛子さんは入ってこないでください!お前のは相撲じゃないあんなのは暴力そのものなんだよ!」
「私が勝たなかったから終わってんだですよ!勝たなきゃ話にならないんですよ!自分の調子が悪いのを棚に上げて・・・葉月山・・・なにが・・・」
「云いたいことはあるんだったら云えよ葉月山がなんだよ」
「絶対横綱はそろそろ引き際なんじゃないんですか!この大会私がいなかったらここまで来れなかったんですよ・・・たく・・・」
「てめぇ・・・」
決勝戦のロシア戦は先鋒の葉月山が二連勝して日本は優勝したがその後の葉月山と百合の花の関係には壁のような物ができた同時に葉月山が下降曲線を描きはじめ百合の花は遅咲きの上昇曲線を描き始めた時期でもあった。
百合の花と映見はポーランドの控え部屋の入り口付近にいたスタッフに事情を説明すると部屋からMACIOS MAGDALENAが出てくると英語で中に入るようにと・・・・。
部屋の雰囲気が何か重く感じるのは敗北したのもそうだが・・・選手達が映見を睨みつける視線が鋭く刺さってくる。
「MACIOS MAGDALENさん申し訳ない。映見も悪気があってあんな強引な相撲をしたわけじゃないんだ」と百合の花は英語で喋りながら頭を下げた。
「MACIOS MAGDALENさん私つい熱くなってしまってごめんなさい」と映見も同じく
MACIOS MAGDALENはしばらく無言のまま二人を見る。その表情はどこか緩く見えるのは?
「なにかどこかで見た光景ねぇ百合の花関」とMACIOS MAGDALEN
「あっあぁぁぁ・・・・」と百合の花は実にバツの悪そうな
「映見さん私もちょっと熱くなってしまったわ。私が挑発したのが発端でもあるのだから気にしなくてもいいわ勝負だからねぇ、私達が得た情報とは違っていたわねあなたがあんな相撲をしてくるなんって油断していたわ」
「あの相撲は勝つ事しか考えていなくてほんとうに・・・怪我は」
「勝負だもの気にしないで怪我はしていないから気にしないで」
「よかった・・・」と映見は若干ホッとはしたが
「百合の花関、葉月山さんに似てきたわねぇ。引退してしまったことはちょっと寂しかったけど百合の花関がまるで継いでいるようで」
「私は葉月山さんの足元にも及びませんよ」と百合の花
そんな会話をしながら部屋の重い雰囲気は少し晴れたような・・・・。
「ブラジル戦の前にこんな話をするのもあれだけど決勝であたるであろうロシア戦は相撲もそうだけど心理戦の様相も強いは、映見さんそこは頭に入れておいた方がいいわ。ただ私との対戦であなたの弱点をロシアに見せてしまったと想った方がいいわただそれはあなたにとって悪い話ではない。そうでしょ百合の花」
「そうですね。本番で出るよりは」
「稲倉映見。あなたは強かったわ多少荒ぽかったけどね」と云うとMACIOS MAGDALENAは映見に握手を求め映見はそれに応える。
(MACIOS MAGDALENAさん・・・ありがとうございます)と映見は心の中で自分はまだまだ子供だと・・・。




