一回戦 ③
「稲倉が一気に2人抜き日本が一回戦王手をかけました。遠藤さん稲倉の相撲はどう見ましたか」
「一人目の相撲は変化したと云えばそのようにも見えますが最初から押しで来ると踏んでの相撲でしたね。そこをうまく上手投げで短時間でしとめる。連続して相撲を取ることを考えれば最良の策です。二人目は相手もウクライナの横綱ですし稲倉も同じ手は使えないと踏んだのでしょう。
SVITALANAの張り差しは稲倉が押し相撲で来ると想定しての手だったのでしょうがおもいっきり低く出てきた後は構えを崩さず我慢して攻め続けた大したもんです。ただSVITALANAの力も落ちていたのかもしれませんがそれでも相手は国内リーグの横綱まして相撲強国ウクライナですからねそれでもあそこまで完璧な相撲を取るとは・・・」
「三人抜きの期待もありましたが」
「やろうと思えばできたのでしょうがSVITALANAとの取り組みだけでも精一杯だったと思うしトーナメント戦が勝っていけば続くわけでそれを考えれば三人抜きなどましてやプロを相手にしなきゃならないのだからそれはスタンドプレーが過ぎるし稲倉がスタミナ切れを起こしたら後釜がいない現状ではねぇ」
「わかりました。さぁ日本は百合の花登場です。遠藤さんは百合の花には厳しい評価をされていますが?」
「別に厳しい評価をしているつもりもありませんがここのところ女子大相撲で優勝を逃しているのはやっぱり一言二言云いたいことはあります。百合の花も年齢的にはそろそろ厳しくなってきているでしょうし当然年相応に体に悪いところも出てくる。それを考えれば今の百合の花の成績は優勝こそできなくなったがまだまだやれることはあるはずです。この大会も桃の山がいない状況で女子大相撲の横綱としてどう戦うのかそれはこれからの横綱にとって一つの試金石になると思ってます」
「あっすいません。今ちよっと情報が入りまして桃の山が会場に入ったようですそれも十和桜関もいっしょにと云うことですが遠藤さん・・・」
「そうですか・・・」
「これで日本はフルメンバーで戦えることになると俄然勝ちに行ける体制になりますが」
「だといいですが」と遠藤美香は素っ気なく。
(話がついたのかそれも十和桜を従えて・・・まったく何考えているんだか妙義山の娘は・・・)
「さぁウクライナはTSARUK VIKTORIIAウクライナの絶対横綱と云ってもいい体格的には百合の花と同体格の力士ですが欧州リーグでもロシア力士の横綱にはここのところ負けなしのようですが?」
「VIKTORIIAの得意は四つと云わていますがスピード相撲にも対応するある意味でのオールラウンダーと云っていいでしょうしロシアの横綱達にここのところの負けなしと云うのも不気味ではありますがしいて言えばパワーでがっつり組まれた時にどうか・・・そこが百合の花の付け入る隙かと」
「わかりました。土俵上では百合の花がゆっくり四股を踏んでいます」
(百合の花、いい顔してるじゃない葉月があなたを高く評価しているのは技術もさることながら気持ちの強さ。最近はちょっとあれだけど・・・まだまだあんたにはやらなきゃいけないことはいっぱいあるんだよ女子相撲界にとって)美香は放送席から百合の花に無言のエールを送る
「さぁ両者仕切り線の前に」
見合って見合って……、はっけよい!
VIKTORIIAは右差し左前褌狙いで立つと百合の花は額で当たって左肩を出し両差しを狙っていく、 しかし踏み込みはVIKTORIIAの方が勝ち百合の花の左胸が空いてしまった。
(しまった!)と百合の花
VIKTORIIAはその瞬間を見逃さずスパッと右を差されてしまった。
「・・・・・・くっ!!」
「・・・・・・うあっ・・・」
VIKTORIIAが左で攻めながら腰高のままに出ていくと、 百合の花は右で掬って喰い止め一瞬右下手を取ろうとするが、VIKTORIIAが肩越しに左上手を狙うので百合の花は下手を取らず、右を返す形に。
「う~ん・・・う~ん・・・」
「くぅ・・・あっ・・・ん~ん~・・・」
葉月は戦況を見ながら一見落ち着いて堂々としているように見えるが心臓は破裂するほどに鼓動を打っている。
(VIKTORIIAは左上手を狙っているそこは絶対取らせないで取られたら終わるよ!)と葉月
気持ちは椎名葉月ではなく絶対横綱葉月山なのだ。
百合の花は左で強くおっつけ、 VIKTORIIAの左突き落としを許さず、左に廻って左前褌を探る。VIKTORIIAは左上手が欲しいので左で抱えて胸を合わせようとし、右差し手から起こそうとするが、 百合の花はまた左に体を倒して許さない。
(VIKTORIIAは絶対に左上手が欲しいんだ!百合の花さん!)と映見は心の中で叫ぶ
映見はさっきの対戦を思い起こしていた。結果的には押し出されて負けてしまったが序盤の展開では左上手を取られそうになったことが何回かあった。その時は何とか凌いだが・・・。
VIKTORIIAは再度肩越しに上手を狙うが百合の花は取らせまいと右腰を引いて是が非でも取らせないお互い激しい攻防。
「う~ん・・・う~ん・・・」
「くぅ・・・あっ・・・ん~ん~・・・」
「・・・・・・くっ!!」
「・・・・・・うあっ・・・」
両者激しい動きと息遣い。百合の花はVIKTORIIAの左上手狙いに防戦一方で次の攻めが見いだせない。
(くっなかなか隙をみせない。VIKTORIIAは間髪入れず左上手を狙ってくるどうすれば)と百合の花。
VIKTORIIAは再度肩越しに左上手を探るように狙ってきた。その時VIKTORIIAの動きが躊躇するように止まったのだ。
(今だ!)
百合の花は素早く左を巻き替え両差しになった。 VIKTORIIAは反り腰になり右で抱えて左を巻き替えんとしたが、百合の花が右肘を張ったので全く入らず、百合の花に両下手を取られて完全に腰が立ってしまった。
「いけー百合の花!!!」と館内から声援が飛び一気に歓声が湧きかえる。
「百合の花さん一気に行って!!!」とさくらが大声でおもわず。
百合の花が猛然煽っていくとVIKTORIIAが右に振ろうとするが百合の花はそこから寄って行くVIKTORIIAが左小手投げで振り百合の花の左を切ると、 百合の花はの右VIKTORIIA差し狙いより早く左前褌、次いで左で肩を押してVIKTORIIAを寄り切った。
館内が一気に大歓声に・・・・。
百合の花の表情にまったく余裕はなかった。強敵ウクライナましてや今欧州リーグで最強力士の呼び声高いTSARUK VIKTORIIAの対決はとても一回戦で当たるような相手ではなかった決勝でもおかしくない相手。
「勝者、百合の花」と行司
徳俵の前で礼をし土俵を下りると真っ先にさくらが抱き着いてきた。先鋒として迷いの相撲をしてしまったことで日本の出鼻を挫かれてしまったことの責任で本当に押しつぶされそうになっていたのだ。
「ちょっと何さくら・・・何泣いてるのあなた?」
「だって・・・もし負けたら・・・私が」
百合の花はちょっと呆れた表情をしながら軽くさくらの頭を叩くと顔を両手で押さえ自分の正面に向ける。
「一回戦でそんな表情してさくらは何回泣くつもりですか?まったく。涙は優勝するまで残しておきなこの馬鹿もんが」と云いながらも軽く抱きしめてあげる。震えていたさくらの体がだんだん落ち着いていくのが百合の花の体そして心に伝わってくる。
(どんなに強い選手・力士だって初戦は緊張するものよましてや高校生のさくらには荷が重すぎるわよね、でも初戦突破したんだから少なくとも強敵ウクライナを撃破できたことはみんなもそして私も・・・まだ始まったばかりなんだから)
「流石です横綱」と映見
「ちょっと危なかったけどなんとかねぇ、映見の相撲でも左を欲しがっていたのを見てよっぽど左に自信があるって想ったわ。私も自分なりにリサーチはしていたけどあれを見て確信に変わった。だから左は絶対取らせないと・・・」
「百合の花さん」
「映見、まだまだ余力がありそうな表情ねぇ二回戦は私休みたいので二人で仕留めてね」
「じゃさくら私達で仕留めちゃおうね」
「じゃーポーランド戦は先鋒映見さんでお願いします」
「なんで?」
「映見さんが三人抜きしてくれれば私も休めるんで・・・」
「横綱、聞きましたこのガキこんな事云ってますよ。さくら!さっきの泣きは演技したね、まったく幼い雰囲気出しておきながら(*´Д`)恐ろしい!」
「違います!なんでそんな云いかたするんですか!」
「映見、もうその辺にしてやれよまったく。二人は仲がいいんだなあ本当に・・・それはともかく先鋒はさくらで固定だ。さくらは日本のアマチュアのエースとして監督から正選手を命じられてるんだからもっとプライドをもて、稲倉はあくまでも・・・・なんだから」
「なんだから・・・・ってなんなんですか」と映見
「そう云う事だよ。なあ、さくら」と百合の花は笑みを浮かべ
「そう云う事ですよね、横綱」と相槌を打つさくら
「はぁそうですかそうでございますね・・・どうせ私は・・・・さくら今度負けたら・・・・あぁ」
「あぁ・・ってなんなんてすか!」
(いつものさくらに戻ったか・・・)と二人の様子を見る百合の花。
「百合の花」
「凛子さん」
「ちょっと・・・」と凛子は百合の花をさくらと映見から離れた場所へ呼び寄せた。
「とりあえずは大きな一つ目の壁を突き破ったって感じね」
「私的には苦戦しましたが」
「でもあの一瞬の隙を見逃さなかったのは流石だわ」
「さすがに欧州リーグでトップを走っている力士です。もし左を取られていたらもう勝てませんでした」
「初戦の相手としたらさすがの百合の花もきつかったか」と凛子
「ただこの勝ちは単に二回戦に進めるだけではなくチームの自信につながったし・・・それは自分自身の相撲にも少し自信が持てたかなって・・・」
「百合の花・・・」
「そう云えば監督は・・・」
「うん・・桃の山が来たわそれも十和桜も」
「えっ・・・」
「今、二人に会いに行っている」
「じゃー二回戦から・・・」
「それはどうかな」
「えっ・・・」
凛子の言葉に百合の花は意外だった。桃の山を真っ先に起用するべきと云うかと想ったのに・・・。それは女子大相撲のコーチとして当たり前だと思っていたが凛子はまるで使う気がない見たいに・・・。
一回戦、強敵ウクライナを三勝一敗で撃破、二回戦進出を決めた。




