一回戦 ①
土俵上にはウクライナ大学生チャンピオンのKaryna Kolesnik大学二年と高校生横綱石川さくら二年生が四股を踏みなながらお互いを意識し合う。
ウクライナはロシアと並んでの女子相撲大国。ロシアともプロアマ含め対戦する機会は多いそれゆえに力量からすると日本より上と云う見方もできる。Karyna Kolesnikはヨーロッパ大会などでアマチュアとしては常に上位で戦い国際大会では稲倉映見とも決勝で戦ったことがありその時は稲倉に軍配が上がったがその意味でも石川さくらにとっては強敵なのだ。
土俵上仕切り線を挟み四股を踏む二人。
(まずは私が先手必勝で日本に勢いをつけなきゃ・・・負けは許されない。日本にとってそして自分に対してそして桃の山さんが来た時のために)
館内の日本への声援は否が応でも盛り上がる。ましてや高校生力士の石川さくらは稲倉映見にとって代わる女子アマチュア女王の呼び声も高い。
土俵下では稲倉映見と百合の花が座ってさくらを見る。
(さくら、気合入り過ぎてる。さくら力抜いて・・・)と映見
(だいぶ気負い過ぎてるなぁ・・・とにかくまずは一番じっくりとって勝負は意識しなくていいから)と百合の花
行司が両者を仕切り線の前に立たせる。両者睨み合っています。場内からは拍手が巻き起こる。そして、ついに時間となりました。
見合って見合って……、はっけよい!
立ち合い一気にKolesnikがフルパワーで下からさくらに突き押しで当たってい行くさくらは完全に立ち合いで遅れてしまった。さくらが冷静ならそこは上手くいなすこともできるのたが真面に入られて起こされてしまった。さくらはそんな体制から四つ相撲の体制にと想ってもまったくまわしを取らせてくれない。
「はっ・・・はっ・・・はぁ・・はぁ」とさくらは防戦一方で完全にKolesnikの動きに乗せられてしまって動かされてしまっている。いったん間合いをとって体制を立て直すべきなのだがさくらはおっつけてしのぎ強引に自分の得意の体勢に持っていこうとする。そしてさくらが右上手を欲しがって踏み込んだ瞬間をKolesnikは狙ってスパッと内掛けをくらわされて万事休す。館内が一気に落胆の声に・・・。
(あっ・・・ごめんなさい・・・)さくらの頭の中にはその事しかなかった。
土俵下のウクライナのプロ力士達は満面の笑み。もちろん土俵上のKolesniも満面の笑み。
さくらはしばらく立ち上がることはできなかったが行司に促され仕切り線を間に挟み互いに礼をし土俵下に下りていく。土俵下の映見と百合の花につい「ごめんなさい・・・」と今の素の気持ちを口に出してしまった。それは二人が一番嫌う言葉・・・。
稲倉映見はさくらの顔を一切見ない・・・・。
(映見さん相当に怒ってる・・・)
さくらは映見の隣に座ると同時に映見は立ち上がり土俵下へ行き体を動かす・・・
「さくら、脇に座れ」と百合の花は普通に声をかけ脇に座らせた。
「映見さん・・・相当に・・・」
「さくらは映見が何に怒っているのかわからないのか?」
「えっ・・・」
「さくらが謝ったことに怒っているんだそれは私も同じだ」
「・・・・」
「さくらは団体戦で自分が負けたらその都度謝罪するのか?」
「いつもは・・・そんなに・・・」
「じゃーなんで土俵から下りて「ごめんなさい」って云った」
「それはこの大会が日本の女子相撲にとって大きな意味を持つから・・・それと」
「それと?」
「桃の山関が来るまでは負けられないって・・・」
「さくら・・・」
桃の山がさくらを一番かわいがっていた云うか馬が合っていた。桃の山はけして自分から積極的に何かをと云うタイプではないがさくらが積極的に桃の山にアドバイスを貰い稽古も・・・。それに引っ張られるように桃の山もさくらには自分から動いていたのだ。
さくらにとっては憧れの女子大相撲の力士と大会に出ることもさることながら横綱に稽古をつけてもらうと云う通常は望んでも無理な事をさせてもらえていることは映見も同じだがアマチュア選手にとっては何事にも代えがたい事。
「さくらが想っていることは映見も私も同じだ。でも今は試合だけに集中しろ!。さくらには厳しいことを云うがまだまだシニア相手に戦える力はないし映見とは雲泥の差がある。
それでも葉月さんがさくらを抜擢したのはさくらの覚醒にかけたからこの大会はアマチュア力士にとっては想像以上なプレッシャーがかかるましてや今の日本の状況からしたらアマチュア力士にプロと同じことを要求しているに等しい高校生のさくらにとってはとてつもないことでも極限状態だからこそ覚醒できるんだ」
「百合の花関・・・」
「さくらはまだ引き出しが少ない。だからまずは自分の相撲スタイルだけで勝負しろ!勝った負けたは気にするな。さくらの後には映見や私がいるんだ!だからさくらは自分の相撲に徹しろ!それと映見の相撲をじっくり観察しろ。稲倉がなぜアマチュアの女王なのかこの極限の大会でこそ稲倉映見の凄さがわかるはずだ。さくらは稲倉映見と桃の山と云う偉大な力士に認められている女子高校横綱何だもっと胸を張って堂々としろ!」
「百合の花関・・・」さくらは真一文字に唇を嚙むようにそれは自分の悔しい気持ちに怒るように
「桃の山は必ず来る。ただ中途半端な気持ちでは来てほしくないんだ桃の山が来るときは万全な状態でそれは日本女子大相撲横綱として世界を相手に戦うそれは最低条件だ。ここで逃げたら桃の山は終わる。だからこそさくらは自分の相撲をきっちり取る結果は自ずとついてくる。迷うなさくら!」と百合の花は小声ではあるがしっかりとさくらの目を見ながら。
「わかりました」
さくらは土俵を見据え一人頷く、ここの段階でまだ相撲に迷っていた自分に今更ながら気づいた。
迷ったら原点に返り自分の相撲で勝負する。迷っているのにあてもなく進んでいけば迷宮に嵌る。嵌る前に戻ることそしてふと立ち止まりあらためて前に進む。そんなことも想いつかないまま土俵に上がってしまった。
「稲倉と稽古をして感じたのは引き出しの多さだどんな状況にも対応できる。さくらとは経験値が違う。世界でもシニアとやりあっているんださくらが映見の域まで行くのにはもう少し時間がかかるこればかりはしょうがない。
でもこの大会はある意味女子相撲の大会レベルで云えば最高峰と云ってもいいしこれからもこんな大会があるとは限らない。だからこそアマチュアにとってはかけがえのない経験になるんだ。それを迷ってしまったら本当にもったいない。この大会での高校生はさくらとロシアの選手の二人だけだ。多分ロシアの高校生も期待されての抜擢だろう。だからこそさくらをこの大舞台で対戦させてやりたいんだ」
「百合の花さん・・・わかりました。もう迷いません!」
「さくらは桃の山と同じく気持ちで相撲をするタイプなんだからな・・・さくらの相撲に稲倉のような臨機応変に対応できる相撲ができたらもっと相撲が面白くなる。さくらが尊敬している稲倉映見の足元にはまだまだ届いていないけどなぁ」
百合の花にとって二人のアマチュア力士はあくまでもアマチュアであって女子大相撲からしたらレベルが違うと想っている。それは当たり前の事ではあるがそれよりも相撲に対する志が高いのだプロと同じくらいにだからこそこの二人にはこの大会で色々なことを吸収して学んでほしいと・・・。プロに来る来ないは関係なく。
出鼻を挫かれた日本の二番手は女子アマチュア界の女王稲倉映見。高大校と云うローカル大会で石川さくらに敗れて二番手評価と云うのが女子相撲ファンからの評価だがプロ力士達からは評価が高い。特に直前での合同稽古では巨漢十和桜を完璧なまでに叩き潰したことは相撲以前に気持ちの強さの面で高評価を得ていた。そして四つ相撲中心のイメージをあざ笑うかのような多彩な技、押しても組んでもどちらにも対応できる柔軟さは今まで見せていなかった。それゆえに女子大相撲関係者からはまたぞろプロ入り待望論も・・・。
土俵上にはさくらに勝ったKolesnikがそのまま残り稲倉が上ってくるのは待っている。
映見とKolesnikの戦いは過去一回だけだがワールドゲームの女子相撲無差別級で高校二年の時対戦し上手投げで映見の勝利。それから四年の歳月が流れるがお互い世界大会に出場して相撲は見ているのでそのあたりの事はよくわかっている。
「映見さん力水です」とさっきまであれだけしょ気ていたさくらだったのにその表情はなにか吹っ切れたいう感じで
「ありがとうさくら。さくら、まだまだ始まったばかりだからねこれから長いよ。四人で日本なんだから桃の山関はさくらを裏切ることはしないだからさくらもみんなを裏切るような相撲はしないでさくらの正攻法でとりなよね。私の相撲ちゃんと見てなよさくら」
「はい」
土俵から少し離れたところで椎名・倉橋・長谷川は戦況を見ている。出鼻を挫かれてしまったがけして悲壮感はない。特に倉橋は笑みさえも浮かべて。
「何か稲倉にアドバイスとかは?」と長谷川凛子
「アドバイスと云うわけではないですがとりあえずアマチュアの対戦相手の資料は渡してあるので後は彼女がどう自分でいかすかです」
「余裕ですか?」
「稲倉は感性に技術を加え理論建てて相撲ができる選手です。西経女子相撲部歴代の最高傑作だと想っていますしそれをちゃんと自覚し始めた。だから私から特に云う事はないんです」
「最高傑作・・・・」凛子は真奈美の顔を見ながらつぶやくようにそして真奈美の表情は西経の指揮官と云うよりもまるで母のように・・・。




