表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女力士への道  作者: hidekazu
力士の娘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/324

人は人我は我 ③

 黒のアルファードは京葉市川ICから首都高7号線を都心方面へ。車内のキャプテンシートには桃の山と十和桜がすでに一回戦は終了している時間。十和桜がスマホを取り出した時桃の山が・・・。


「大会の結果は見ないで」

「えっ」

「もし日本が負けていたら私は会場に行かないかもしれないから」

「桃の山さん・・・」

「私が行けば日本は勝てる何って想っている私が滑稽よねそれは今戦っている選手を馬鹿にしている・・・自分は逃げようとしていたくせに・・・」

「それは私のせいで・・・」


 車は荒川を渡り切ったあたりから渋滞に嵌りノロノロ運転の状態。


「日本が勝ち進んでいたら私は・・・」


「桃の山さんが行かなかったらプロは百合の花さんだけなんですよ!石川さくらや稲倉映見が強いのは認めます。でもこんなプレッシャーのかかる大会ではちょっとしたことでましてやアマチュアなんですよ。外国のプロ力士はアマチュアとは違う。百合の花さんは安定的に強いそれは誰もが認めます。でもそれでもあまりにも酷です」


「・・・・・」


 桃の山は十和桜の問いには答えなかった。車窓から見えるスカイツリー、手前には総武線が・・・。


「私、稽古とはいえ稲倉映見に三番勝負して完敗するなんって想ってもいなかった。私は稲倉映見に無意識に負い目を感じていたのかもしれません。ただそれを差し引いても稲倉は強かった悔しいけど」


「稲倉は相撲の技術もさることながら気持ちが強いのよ。大阪でのトーナメントの時も普通あんなことしない。でも彼女と話してみると普通の女子大生なのに相撲になるとまるで別人のようにそれは百合の花さんも同じ・・・・・・私に足りないのはそう云うところなのよ自分でもわかってるの・・・」


「稲倉映見・・・彼女は女子大相撲には来ないようですね?」


「彼女は医師を目指しているそうだしそれをやめて女子大相撲と云うのはまぁないでしょう普通に力士になるより医師になることの方が意味がある。医師なんかなりたくても簡単になれるものじゃないし・・・」


「何か力士になることは意味がないように聞こえますけど」


「十和桜はなんで力士に?」


「小学生の時から相撲やっていましたしやっぱり母の影響が一番ですかね」


「私はもちろん母の影響もあるんだけどやっぱり葉月山さんかな今でも憧れであり力士としてもそうだけど女性として・・・」


「葉月山さんは天才であり努力の人・・・」と十和桜はポツリと


「昨日、ぶつかり稽古をせられてね」と桃の山


「ぶつかり稽古?」


「ボロボロにさせられて「お前なんかに絶対横綱の称号なんか絶対に呼ばせない」って云われてね」


「桃の山さん・・・」


 車は錦糸町で降りて一般道へ。


 昨日の葉月とのぶつかり稽古と称するリンチの後、桃の山は葉月のベットで就寝することなったが結局熟睡はできなかった。夢の中で葉月山と本場所で何回も取り組みをしても一回も勝てず最後は土俵下まで投げ飛ばされて・・・土俵の上から仁王立ちした葉月山が自分を見てしばらくしたらそっと手を・・・・そこで目が覚めた。ほのかに体は火照りうっすらっと汗をかいていた。夢の中でも葉月山から屈辱の相撲をされまったく歯が立たなかったのだ。


「葉月山さんが桃の山さんにされたことは最後の伝言のようなものではないんでしょうか?」

「伝言?」


「葉月山さんは現役当時もそうですが相撲に対しては厳しかった。どんな相手であろうとも手は抜かない。ただ晩年はそのあたりが変わってきて桃の山さんや百合の花さんのクラスの力士は違うかも知れませんが私なんか意図的に隙を作ってくれたり弱点を突いてきてそこでやられるのかと想ったらわざわざ待ったりして・・・それは実戦での講習会みたいな」


「講習会?」


「葉月山さんはけして手取り足取り教えてはくれない。ただ力量の差が明らかな力士には実戦で色々試させる隙を作ってくれていたんです。それでも最後はやられちゃうんですけどね」と十和桜は笑いながら


「そう云うことだっのか・・・」


 晩年の葉月山の相撲は特に前半戦の下位力士との取り組みに時間がかかることが多かった。どちらかと云うと葉月山は番数をこなすごとに調子を上げていくタイプではあったがそれでも一分近くの相撲も多々あった。当時は葉月山の衰えが下位力士での苦戦の原因とか云われてはいたがそうではなかったのだ。事実、三役相手には三十秒以内でケリをつけていたことを考えると十和桜の云っている意味がよくわかる。


 葉月山さんの最後の場所、14日目の怪我さえなかったら桃の山は千秋楽でやれるはずだったのに・・・あの時は勝っていれば怪我をおしてでも・・・。桃の山にはそのことが一生悔いが残る場所になってしまったのだ。


 車は大会会場の地下駐車場へリアゲートを開け十和桜が桃の山の明け荷を持ち会場入り口へそこには十人近くの記者・カメラマンが一斉にフラッシュを焚かれる。記者達が一応に驚いたのは今度の当事者である十和桜と一緒に下りてきたこと。

 記者達は二人に群がると一斉に質問攻めにあうが桃の山は一切答えず十和桜も同じ。そこを警備員達がガードして会場内に入ると関脇の伊吹桜が腕組みをし仁王立ちで二人を待ち構えていた。


「遅くなりまして・・・・」と桃の山が云った瞬間伊吹桜の張り手が二人に飛んだ。関脇が格上の横綱である桃の山に張り手を飛ばすなど言語道断無礼にもほどがある。しかし、女子大相撲の一力士として許せなかったのだ。


「横綱でありながら・・・貴様!」


「伊吹桜関の想っていることはその通りだと想います。横綱でありながら大事な大会をすっぽかすつもりでいたんですから」と桃の山はあくまでも冷静に別に開き直るような態度を取るわけではなくあくまでも平常心で・・・。


 桃の山の後ろには隠れるように桃の山の明け荷を持った十和桜が・・・。


「十和桜!よくこの会場に来れたもんだな今戦っている石川・稲倉・百合の花関がどんな想いで戦っているかそんなところにのこのことよくも・・・」


「十和桜の事は大会が終わるまで不問にしていただきたいと想っています。大会が終わってから私も含めて責任を問われる場所を作っていただいて・・・それまでは」


「今回の事は単に横綱と十和桜だけの問題じゃない!女子大相撲全体の問題が問われてるんだよ!」と伊吹桜はいっそう声を荒げる。


「女子大相撲の地位を大いに失墜させたのは事実です。十和桜の責任は重大ですそれと同時に私も今回の行動は横綱としてあるまじき行為です。ただそれも含めて大会後に協会として私達の処分を決定して頂きたい。そもそも私がこの大会への出場を監督が許してくれるかどうかは別ですが」


 桃の山はあくまでも冷静に後ろに隠れている十和桜は若干俯き加減に目は怯えているような・・・。伊吹桜は二人を睨みつけるも・・・。


「支度部屋に案内する」と伊吹桜は云うとそそくさと歩き出した。そのあとに桃の山、明け荷を持った十和桜が続く。


______________________________________________________________________________



土俵上では一回戦最終組の日本vsウクライナ戦が始まろとしている。先鋒は女子高校生横綱 石川さくら。ウクライナは国内大学チャンピオンのKaryna Kolesnik体格的にはさくらを若干上回る。


 土俵下で待つ石川さくらの隣には倉橋が寄り添う。


「さくら、一回戦はウォームアップのつもりでいいから変に勝ち急いだりしないでじっくりね。体と心を会場の雰囲気に慣らすつもりで」


「倉橋コーチ、ここは絶対勝って相手の出鼻を挫きますから」とさくらは語気を強めて云うが


(さくら!そんなに意識したら駄目よ・・・この子異常に緊張しているし気合が入り過ぎている)


普通ならもう一声かけてあげるのがセオリーなのかもしれないが・・・


「絶対に負けられない」とさくら


 さくらの持ち味はどんな状況でも何か「ほぉわぁ」と云うどこか力の抜けた雰囲気なのだが今のさくらはまるで戦闘態勢のように・・・。別にそれが悪いわけではないしいやが上にも気合が入るのは当たり前。ただそのことがさくらの体も心も金縛りのようになっているのだとしたらそれは全くの逆効果。


 館内は日本の登場で湧き上がる。まして単なる個人戦ではなく団体戦それもプロ・アマ混合と云うことそれは女子相撲強国を決める大会。そんな大会男子の大相撲だってやったことがない。ましてやロシアは女子相撲最強国は自分達だと云う事を見せつけ今後の女子相撲の在りかたはロシア主導で決めると云う意図が丸出しなのだそしてそのことを日本で見せつけることに意味があると・・・。


 さくらにとって初めてのプロ力士との稽古は新鮮且つ相撲の奥深さを知ったし桃の山との稽古はますます自分の知らなかった相撲の魅力を教えてくれた。でも今ここに桃の山はいない。だからこそ桃の山が来るまで負けることは許されないと・・・・。


「両者土俵へ!」と男性の行司が促す


いきなりの強敵ウクライナ戦が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ