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女力士への道  作者: hidekazu
力士の娘

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人は人我は我 ②

「女子相撲プロ・アマ団体世界選手権一回戦、優勝候補のロシアは盤石の相撲でイギリスを先鋒・次鋒で勝ち上がり二回戦へ、その他の国ではモンゴル・ルーマニア・タイ・チェコ・ポーランドと強豪国が順当に勝ち上がっています。そして一回戦最終組である日本vsウクライナがまもなく始まります。放送席解説は元女子大相撲横綱三神櫻の遠藤美香さんです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「さてここまでの流れとこの後の日本チームについて一言いただければ」


「ロシアは余裕の相撲と云うか軽い肩慣らしと云うところでしょうか多分先鋒のアマチュア力士でも三人抜けもできたでしょうがそこは無理をせずと云ったところで優勝候補筆頭は揺るがないと云った感じでしょうか?」


「日本については?」


「初戦から強豪ウクライナと云うのもさることながらアマチュア二人・百合の花で戦わなければいけないハンデは計り知れませんたとえ一回戦で勝てたとしてもそのあとも物凄く厳しい戦いになる。まずはこの最初の壁を崩せるのかもなかなか大変だと想います」


「それは桃の山がいないと云う事が最大の要因?」


「色々なことがあったにせよ今この土俵下にいないと云うのは戦いを放棄していることには替わりがない。だからと云ってそれを負けの最大の原因だと日本の選手や監督・コーチ陣が想っているようならそれはもっと最悪です。ここからどういう戦いをするのか?ましてや監督があの元葉月山ですから彼女が何を考えどうしようとしているかのほうが興味がありますね。彼女ほど勝負に執念燃やしていた力士はいなかったのだから・・・桃の山がいないなりの戦い方をするでしょうけど決勝まで行くのは至難の業かもしれません。桃の山がこのまま来ないようなら彼女は引退してもらうのが責任の取りかたでしょ普通に考えて」


「ただどうなんでしょうかそもそもの原因は十和桜なんですから桃の山の引退は・・・」


「横綱たるものあのぐらいの事で動揺してましてや大事な国際大会を怪我でも病気でもなくして放棄しているなどやってることは十和桜と大差ないと・・・もうその辺でいいんじゃないでしょうか?」と美香は多少語気を強め。


「わかりましたそれでは試合に集中しましょう。ではウクライナ戦のポイントはどこでしょうか?」


「先鋒・中堅のアマチュア二人がきっちり二人を勝ち取ると云うのが日本チームにとって最低条件でしょう石川さくらも稲倉映見も国際大会は経験していますしそのあたりは心配していませんが変に勝つことを意識していないかその辺が多少心配しています。


 百合の花は幾多の修羅場を潜ってきた力士ですから最後はしとめてくれるでしょうがいくら女子大相撲の横綱とは云え重量級の海外選手相手に連戦で何人も相手にするのは厳しいでしょうからアマチュア二人には確実に二人をしとめると云う事それができなくてもどれだけ相手を疲弊させて百合の花に渡せるかがポイントです。アマチュア二人にとってはいきなりのプレッシャーになりますがうまく凌いでほしいです」


「アマチュア二人がポイントと云う事ですね?」


「えぇ、石川さくら・稲倉映見が日本チームの命運を握っている。特に稲倉映見には注目しています色々女子大相撲の関係者には云う人もいますが私はアマチュアの世界では日本で一番強いし世界でも十分に渡り合っている。直近では色々不調だったようですが・・・それにいい顔してます。ちょっと葉月山を彷彿させるような雰囲気で・・・・」


「監督である葉月山さんですか・・・わかりました。では試合に戻りましょう」


すでに土俵下には両国が陣取っている。東には日本が西にはウクライナが準備万端。


 場内の観客も日本の取り組みが始まることで盛り上がっている。でもその観客の中からは聞きたくなくても聞こえてくるものが・・・。


「桃の山欠場かよ」

「十和桜の一件は結構辛辣だし・・・・」

「忖度横綱・・・」

「出てこないと云う事はやっぱり・・・・」

「日本の選手からしたらいい迷惑だよな無責任と云うか・・・・」


 土俵下で座っているさくらの体が震える。場内から心無い桃の山に対する中傷はどうしても看過できない。拳をつくり今にでも声に出して立ち上がろうとしている表情。それを隣で見ていた映見はその握り拳に映見は手のひらで包み込むように・・・。そして囁くような声で


「さくらの気持ちは私も百合の花さんもいっしょだよ、悔しいのはわかるけどここは自分の相撲だけに徹しないと桃の山さんが来た時に私達が終わっていたら何の意味もない。気持ちを抑えろと云うのは無理かもしれないけど今は・・・」


「映見さん・・・」


 さくらの本当に悔しいそうな顔はとても見ていられない。映見とて観客に声をあげて反論したいでもそれは大阪でのトーナメントで自分がある意味相撲を壊してしまった・・・あの二の舞は避けなければ映見はあくまでも冷静を装ってはいるがさくらと気持ちは一緒であることは変わりがない。


 映見の隣の百合の花は真っすぐ土俵の仕切り線を見ている。心中は決して穏やかではないはず。ましてやプロ力士は自分一人。自分が負ければそこで終わり。状況によっては相手の三人の選手を一人で倒さなければならない局面も十分にあるのだ。アマチュア二人にとっては酷な取り組みをだがそれ以上に百合の花にとっては大相撲以上に厳しいトーナメントになる。


 単純に決勝まで二人と対戦したとして六人、うまくいって四人としても状況いかんでは決勝を含めると十人以上も考えないといけない。けして万全ではない百合の花がもし桃の山が来なければ最後まで戦えるのか・・・日本はある意味最初から追い込まれてしまっているのだ。


(桃の山さん早く来て・・・・)さくらの心中はただそれだけ


(桃の山さん一回戦・二回戦は凌げても三回戦以降は・・・少なくとも私が二人しとめる覚悟でやらないと百合の花関に二人との戦いをさせるわけにはいかないんだ)映見の使命はできれば回さない。二人の戦いをさせるにしてもできるだけ消耗させて百合の花にし止めてもらう。自分がなんとか百合の花には最低限の負担で渡さなければ・・・


 映見はの想いはただそれだけ桃の山関がこないことはないとしても・・・。


(さくらと映見のことだからなんとか自分達がと云う想いかもしれないが変に意識しすぎると足元すくわれるぞ!私はもう覚悟は決めているんだ。たとえ自分の相撲を捨てでも勝ちに行く外野から色々云われようがこの身が尽きて相撲人生が終わっても百合の花は花が萎びて終わり、散ったり落ちたりしない私は百合の花のように相撲人生が終わったとしても勝って終わる、それが私の花道)


頬を両手で叩く百合の花。ある意味での女子相撲世界決定戦は現時点での女子相撲の序列を決めるものと云うのが女子相撲関係者の一致した意見。


 世界の認識はロシア及びかつての東欧と呼ばれた国の下に日本と云うのがある意味での認識なのだ。ましてや今度の大会はロシアからの提案なのだあきらかに世界に女子相撲強国はロシアであるということを決定的にするために・・・・。日本もアマチュア及びプロでも各大会で優勝し入賞の常連であるけども女子相撲人口からしたら桁が一桁違うくらい違う。


 それでも日本も女子相撲が認知され女子相撲人口は増えてはいるが・・・それを飛躍させるためにそして東南アジア諸国でも日本が中心になって指導している女子大相撲のパッケージングとしてのビジネス当然それは世界共通としてのだからこそどうしてもこの大会は優勝したいのだ。


 ロシアからある意味売られた喧嘩。この大会もそして桃の山の事も・・・・。


「さくら・映見。私達のできる最高の相撲を見て貰おう。桃の山は必ず来る桃の山は私達を裏切るようなことは絶対にしない。そうだよな」


 百合の花は真っすぐ仕切り線を見ながら二人に聞こえるように・・・。


「百合の花さんの想いは私もさくらも一緒です。昨日の桃の山さんの態度には個人的には不満がありますが横綱になられてる方です。この最高の舞台をあんな些細な事で自分をダメにしてしまう事はないと想います」


「さくら」と百合の花はさくらに視線を合わせる

 

「はい・・・」


「さくらは桃の山をリスペクトしているからな桃の山もさくらの事は気にしていると思う。桃の山来るまで踏ん張れるか」


「はい」と云いながらさくら大きく頷く。


「よし。さくら・映見勝ちに行くことは当然だけど強引な相撲はするなそんな時は足元をすくわれる。必ず私が最後はしとめるからとにかく自分の相撲に徹しろ。相撲に迷いがあったらとにかく自分のスタイルで相撲をしろ。奇策が効くほどこの大会は甘くないから・・・」と百合の花はアマチュア二人にそれと自分に問うように・・・。


 まずは先鋒・さくらが土俵に上がる。


 一回戦の相手ウクライナはロシアと並ぶ相撲強国。日本にとってはいきなりの大ピンチと云ってもいい。さくらが極度に緊張しているのは映見も百合の花も痛いほどわかる。


 東からウクライナのKaryna Kolesnikがそして西から石川さくらが土俵に上がっていく。館内が大きく沸く。


 一回戦、ウクライナvs日本の対戦が始まる。


 



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