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女力士への道  作者: hidekazu
相撲との出会い

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奉納相撲と校内横綱②

「くっ・・追いつけない・・・」

さくらは浩平を追って走っているがなかなか追いつけないでいた。いつも日課として走っているこのコースで同学年の男子とは言えそれは屈辱だった。平坦なコースならいざ知らずこの尾根のコースは木々の根がむき出しの特殊なコース。ちょっとでも油断すれば根に足を引っ掛けて転倒するのは必至。脚力は無論だか゛敏捷性・バランスそして集中力がなければこの尾根のコースを全力では走れない。

「なんで!なんで!追いつけないのよ」

今までこんな速いペースで走ったことがなかったせいで一気にさくらの体力が消耗してしまう。それによってフォームの乱れによって走りが不安定になる。さくらの目に木々の間から先をいく浩平が見えるが・・・・

「ホームコースで負けられない」さくらはさらに走力を速めた瞬間。

「えぇ・・あぁぁぁ」

根に右足のつま先に足を引っ掛けてしまった。さくらの体は前からつんのめると左側の藪に突っ込んでしまった。しかも左側は斜面になっているので藪とはいえそれをなぎ倒し10メーター下まで落ちてしまったのだ。


 浩平はそうとは知らず快調に走っている。しかし今まで聞こえていた。さくらの足音が聞こえなくなったことが多少気にはなっていた。

「追ってくるのをやめたのか?」

浩平はそのまま走り続け下山。降りたところにある百川神社の境内にある手水舎で柄杓で水を汲み口に入れ口内を清める。そのあと参拝すると浩平はベンチに座る。浩平の目には小さいながらも本格的な土俵が鎮座しているかのように・・・。

 浩平は今まで奉納相撲には出たことはなかった。色々な人から出場したらと云われたが学校の大会は授業の一環だから出るが奉納相撲は大勢の地区の人が観客として見てるし・・・ということもあるのだが本音は女子に負けてしまうかもと考えると出る気がしない。ましてや同学年のさくらは4年・5年と横綱の称号を維持して6年で勝ったら前人未到の三連覇。とても気乗りなんかするはずがない。

 でもこの前の春の大会でのさくらとの取り組みは一瞬勝てるところまでいったのは浩平自身が手ごたえをつかんだ大会だった。他人から見ればさくらが完勝のように見えているかもしれないが一番わかっているのは相撲をしている当人同士。確かに相撲センスではさくらの方か上かもしれないが単純な力勝負なら自分の方が上だと・・・。


 いつもの浩平なら神社を参拝した後はしばらく休憩して息が整ったら今度は山に沿って続いているアスファルトの道を戻るように走り出すのだがどうしてもさくらのことが気になる。

さくらが神社の近くに住んでいると云うことは友人から聞いていたので尾根伝いのコースで偶然鉢合わせになったのには驚いたが冷静に考えればあの尾根をトレーニングコースにしていることはある意味当然な選択だ。


「あいつ歩いて戻ってるのかな」下山して30分ぐらいたつのだが下りてくる気配もない。


7月の上旬とはいえ夕方になると温度も下がる。日没まではまだ一時間あるが・・・。


「再度尾根伝いに戻って家に帰ってもいいんだけど」やっぱり気になる。浩平は再度山へ上がり尾根伝いのコースを走る。日没まで時間があるとはいえ山の中へ降り注ぐ陽の明かりは往路とは違う。浩平は慎重に走っていく。そしていつのまにかさくらと遭遇した場所まできてしまった。

「なんであいつがいない?・・・道に迷った?そんな馬鹿な・・・それとも向こうに下りたのか?」

 この尾根には四方八方から地図にも載らないけもの道ようなものがあるが常識的に云ってさくらが迷うようなことは考えられない。腕時計で時間を確認。

「午後6時かよ・・・」

日没まで30分弱。このまま向こうの下山口まで行くべきかもう一度百川神社まで戻るべきか・・・

その時、トレーニングウェアーのボトムのポケットに入っている携帯がなった。相手は浩平の母。

「もしもし」

「あぁあんた遅いからなんかあったんかと思ってもう6時よどこにいるの?」一瞬まがあったが

「百川神社。友達と会ってもう帰るから」

「もう時間が時間だから裏山の尾根とか通っちゃだめよ。最近イノシシとか出るようになってこの前も人に向かって突進してきて怪我したそうだから」

「わかった。帰りは学校の前の一本道で帰ってるから・・・・それじゃ」と云うと電話を切る。


 浩平は百川神社方向に戻ることにした。なんとか夕日の明かりで地面が見えるので軽く走りながら・・・。


 途中に馬頭観音がありそこから先は藪の中を突っ切るような道になっている。だいぶ暗くなってしまったが慎重にその中を走り抜ける。

「うん?・・・・」

上がってきたときは気が付かなかったが左の籔林の藪が斜面側に倒れこんでいる。浩平は上から覗き込むように下を見ると・・・。誰かがいるような・・・。

「さくら?」グリーンのウェアーを着た誰かが倒れている。

浩平は慎重に下に下りる。

「大丈夫かおい!」

浩平はさくらの体を起こす。

「あぁぁん」と急にさくらは泣き出してしまった。

「大丈夫だよもう。さくら怪我は?」

「大丈夫だけどちよっと右足首が痛い」

「ねん挫したかな?」

浩平は斜面に這いつくばって馬のようになると

「さくら背中に乗れよ。ちょっと」

さくらは戸惑っていたが・・・

「自分で上に上がれないんだからしょうがないだろ」とちょっと語気を強めて

さくらは這いずるよな動きで浩平の背中に乗る。浩平はゆっくり這いずるように上がっていく。幸いにも手には薄いグローブをしていたので手をついて大丈夫だかがグローブは藪やら枝でボロボロになっていくがそなことには構ってられない。


 やっとの思いで尾根まで上がるとそのままさくらをおんぶして百川神社の方に歩いていく。さくらは何か云いたかったが黙って浩平の背中に身を委ねた。

「さくらの家って神社の近くなんだよなぁ」

「・・・・・・」

「さくら・・」

 さくらはホッとした安堵感から吐息をたてながら寝てしまったようだ。さくらとは相撲大会以外接触することのなかった浩平にとっては今のこの状態は考えてもいなかった。

 山を下りてさくらを背負いながら神社の境内へそして土俵の近くのベンチにさくらをおろす。

さくらは一瞬立とうしたが右足に激痛とは云わないが痛みを感じる。立てないわけではないのだがベンチに腰を下ろすと・・・。

「ありがとう・・・・多分浩平君に見つけられてなかったらあそこで夜を明かさなきゃならなかった本当に・・・」うつむき加減で涙声のさくら

「さくらが急に追ってこなくなった時気づけばよかったんだけどまさかあんなことになっている何って想像もしなかったし」

さくらは首を振ると

「でも捜しに来てくれた。ほんとうにありがとう」

「なんか気になっちゃってねぇ」

さくらは目の前の土俵を見ながらぽつりと

「今年の奉納相撲はどうしても優勝したい」

「奉納相撲・・・・」

「浩平君って奉納相撲出たことないよね?」

「あぁー」

「出たらいいのに・・・・」

さくらは浩平の顔を見ながら


 実は、浩平は今年は出るつもりなのだ。学校の春の大会でのさくらの対戦で勝てるかもと云う自信が湧いてきていたのだ。

 クラスの男子からも浩平なら秋の大会ならさくらを撃破できるんじゃねぇと云う話が密かに盛り上がっていた。本人もその気でいる。

「浩平、秋の前哨戦として奉納相撲出たらいいじゃ!お前出たことないじゃん」

「奉納相撲・・・」

「そうだよ。さくらがいるから男子なんかみんな出なくなっちゃって地区の人から男子はだらしないよねぇとか嫌味云われる始末だもんなー」

「浩平。ここは男子代表として出てくれよ」とクラスメートの男子から

「奉納相撲って俺出るきないし」と断ったものの結局でることを約束させられた。と云いながらも本音は勝てるかもしれないという気持ちがあったことも事実。


 尾根伝いのトレーニングは野球のためにやっていたのであってけして相撲のためにやっているわけではなかった。それでもトレーニングのために百川神社まで来ると嫌でも土俵が目に入る。


 奉納相撲には各クラスの個人戦と各小学校ごとの小学生が組んで勝負すると云うのもあって大いに盛り上がる。いかにも地域の夏祭りという感じである。そうなってくると俄然さくらと好勝負した浩平をとなるのは至極当然の話だし学区域の大人達からも・・・・。


「浩平くんと対戦したい奉納相撲でそれと団体戦も一緒に出ようよ」とさくらが

「奉納相撲ねぇ・・・」

「ねぇ出ようよいっしょに」さっきまで落ち込んでいたのに急に元気になるさくら。

考えておくと云いながら浩平はさくらをおんぶするから肩につかまれと云うと素直にさくらは素直応じると自分の頬を浩平の頬に寄せる。

「さっさくらさん??」浩平は一瞬びっくりしてしまった。

「ちょっと・・・なんでさんづけ?」

「えっ・・・何が」浩平は何を云っているのか自分でもよくわからない

さくらは意味ありげな喋り方で

「呼び捨てでいいよ・・・」と浩平の頬にキスをした。

「・・・・・えっぇぇぇっと・・・おまえんちどっち???」

「神社鳥居を出て用水を渡ったら右」

「OK・オッケーォオ・・・」


もう完全に陽が暮れてしまった境内には水銀灯の明かりだけが照らしている。


 浩平はさくらをおんぶしながら境内を歩く。さくらとの接点小学校の相撲大会だけ相撲大会がなければ会うこともなかった。相撲大会でも今まで相撲相手としては意識したけど・・・その程度だった。


 さくらも浩平もお互い話しかけない。鳥居をくぐり用水の小さな橋を渡り右へ・・・夜空には大きな月が二人を照らしてくれる。月の周りにはたくさんの星がまるでプラネタリウムように・・・。


 



 


 









 


 



 




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