砂を噛ますその想い ③
ホテルの部屋に戻り映見はソファに座りながらスマホで明日の大会に関連する記事を見ている。女子相撲に関連するSNS上ではすでに十和桜とおぼしき日本人による桃の山に対して「忖度横綱」が発言が話題になっていて賛否両論発言が繰り広げられている。
(明日、桃の山さんは大会に出てこないかもしれない。出てきても戦力にはならないかもしれない・・・。三人でフルに戦うことは必至・・・。さくらだって・・・)
「映見さん!」と映見の前に強い口調で・・・。映見はさくらの顔を見ずスマホの画面を見ている。
「なんであんな云いかたしたんですか!」
「あんな云いかた?」
「桃の山さんが忖度されて横綱になっているのかとか云う云い方ですよ!」
「あの時桃の山関、否定も肯定もしなかったじゃない。それが答えじゃないの?」
「・・・・」
「あの時、絶対にそんなことないって私だったら云ったわ。でも何も云わずいつのまにかいなくなった。それってそう云う事でしょ違う?」
「映見さんは桃の山は忖度で横綱なったって想ってるんですか!」
「想ってない」
「じゃーなんで!」
「私が去年の世界大会前の代表選考会で色々協会や女子大相撲の事を云ったら一部の人から色々云われたの知ってるでしょ?私はそんなの聞く耳をもたなかったし今でも間違っていないと思ってる。でも世界大会で負けてしまって自分でも意気消沈しまった上に私に批判的だった人からは格好の標的にされた。表向きはガン無視だと云っていながら気になって気になってしょうがなくてそのうち相撲もやる気がなくなった。相撲やめて勉強に邁進すればいいって」
「映見さん」
「私はまたこうやって相撲ができてましてや代表選手として選ばれてる棚ぼただけど・・・。でももし相撲をやめていたとしても不思議じゃないしおそらく自分的には悔いは残っても多分普通に学生生活を送っている。でも桃の山関は女子大相撲の横綱なんだよ。十和桜と云う糞見たいな力士にいわれのないレッテル張り付けられているのに否定も肯定もしないで消えていく。少なくとも百合の花関を含めて私達三人はあんな馬鹿女の発言なんか信じていないのに・・・なんだよあの態度は!」
「・・・」さくらは映見の激昂した態度に少し驚いたが・・・
「桃の山関は女子大相撲の横綱何だよさくら。明日出るのかどうだってわからないし出たとしてもいつもの相撲を取れるとは思えない。出たとして桃の山関が勝てなければ日本チームも勝てないそうしたら結局桃の山はやっぱり「忖度横綱」って云われるんだよ世の中なんってそんなもんだよ。でなければよけいだけど・・・明日の大会は実質桃の山関を除いた三人で戦わなきゃならない・・・。その覚悟できてるさくら?」
「何で出ないって決めつけるんですか!桃の山関は横綱何です!こんなことぐらいで・・・」
さくらは映見を睨みつける。自分に対して率先して稽古をつけてくれていた桃の山関を愚弄するような発言はどうしても許せなかった。
「私が西経に出稽古に行くことなったのは瞳さんに頼まれたから・・・そんなことも知らないのに何偉そうに・・・」
「瞳が何よ?」
それは瞳と岐阜で食事したあの時のこと
>瞳は流れる川面を眺めながら大きく息を吸いそして目をつぶり息を吐く。
「正直に云う。映見を復活させてほしい」
「映見さんを復活・・・・?」
さくらには瞳が云っている意味が全く理解できない。
「映見はもう相撲を辞めるかもしれない」
(映見さんが相撲を辞めるって・・・えっ・・・意味が)
「映見の相撲への情熱の火が消えかかっているの・・・正直、私にはどうすればいいかわからないの」
「瞳さん・・・」
「そんなこと知らないくせして偉そうに・・・別に私が映見さんの復活させたとは想っていないでもきっかけを作ることができたと想ってる。だから少しは役にはたてたかなって・・・」
映見はさくらから少し視線をそらしながら
(さくらが一人で出稽古に来たのは私だったのか・・・瞳らしいと云えばらしいけど・・・)
「それに映見さんには倉橋監督がいてそして助けてもらったくせして偉そうに映見さんが標的になったように今度は桃の山さんが標的になってしまったのにそれなのに明日は出ないだとか桃の山じゃ勝てないとか何様なんですか映見さんは!!!」
「さくら・・・」
さくらは声には出さずとも涙は止まらない。
「ごめん・・・さくら」
「みんなで桃の山関を助けてあげなきゃいけないのに・・・」
さくらはもう我慢ができず嗚咽してしまっている。その時部屋の内線電話が鳴る。すぐそばにいた映見が受話器を取る。
「あぁ私だけど」
「監督」
「これからそっちの部屋行っていいか?明日の事とかちょっと」
「えっあぁ・・・」
「なんだ?」
「わかりました」
しばらくして部屋のチャイムが鳴り映見がドアは開ける。
いつもなら何か話しかけてくるさくらが外を見たまま映見もスマホを見たまま何か様子がおかしい。
「何、喧嘩でもしたか?」と真奈美は二人に声をかけるが二人とも反応がない。
>「アマチュア二人の事お願いします。石川さくら相当動揺してしまっているようなので心のケアの方お願います」
葉月の云う通り多分さくらが原因などだろうと(さくらは意外と感情的だから)
「さくらこっちおいで」と真奈美はさくらを自分の体に呼び寄せる。顔にはあきらかに泣いた後が・・・真奈美はさくらを抱き寄せ頭を撫でる。
「さくらは気持ちが優しいから・・・明日の大会は絶対勝たないといけないのよ。泣いている暇はないのよ。桃の山関は今は谷に落とされた若き獅子ここから這い上がれるか上がれないかこれは桃の山関自身がよじ登ってこないとダメなのよ。今、さくらがしなきゃならないことは明日の大会で最高の相撲を桃の山関の前で見せる事。
桃の山関を奮い立たさせる相撲を見せる事それがあなたにできることよ。うちの映見もあなたがいなかったらもう相撲をやめていたと思うわ。あなたは日本チームのムードメーカーであり勝利の女神なんだから・・・葉月さんがあなたをアマチュアの正選手として抜擢したのは相撲もそうだけどそれ以上にあなたがいるだけでチームの雰囲気が変わる。高大校でうちが負けたのはあなたがいるだけでチームがほんわかするのに何かビッシとまとまって力を発揮する。悔しいけどうちにはそ云うムードメーカーがいなかったから。桃の山関は天下の女子大相撲の横綱何だから心配しないのまったく」
映見はスマホを見て見ぬふりをしながらも自分とさくらの様子が気になってしょうがないことに真奈美は内心笑いそうになった。
(あんたも感情的なくせして何を平静を装ってんだがまったく)
「なんか美味しい物でも食いに行こうかさくら何食べたい?」
「えっぇぇ・・・」
「いいわよ何でも別に遠慮することないから食べたいもの云って」
「えっぇぇ・・・肉ですかねぇ」
「肉って・・・もっと云い方あるでしょライオンじゃあるまいし」
「えぇぇ・・・芝桜亭の焼肉・・・で・・」
「芝桜亭の焼肉?随分具体的ねぇ?さくら知ってるの?」
「何でもいいんですよね?」
「何でもいいわよ私がいいと云ってるんだから」
「本当ですか?」
「さくらは疑い深いわねぇ」
さくらは真奈美の後ろにいる映見を何か必死に見ているような・・・。
(うっん?)
ふとさくらの後ろの窓を見た時にタブレットPCを持った映見がぼんやり映っていることに真奈美は気づいたのだ。
「ごちそうになります倉橋監督」とさくらが云ったのは良いのだが。
(芝桜亭の焼肉?ってなんか聞いたことがあるようなないような)と真奈美もグルメではないがそれなりの店には行ってはいる。ただ東京に関しては年に何回かぐらいしか来ないし・・・。
そんなことを考えながらふと窓を見た時映見が左手にタブレットPCを持って右手で小さくガッツポーズしているのだ。
「ちょっと待った!」と云うと真奈美を体を反転させ映見に視線を合わせる。
「映見、今のガッツポーズは何?」
「えっ」
「えっじゃないわよ。今あなた小さくガッツポーズでしょ」と云うと左手に持っていたタブレットを取り上げる
「ちょ・・・」と映見はあっけなく真奈美に取り上げられる。
タブレット画面は「芝桜亭」のHPが・・・。真奈美はじっくりHPを見ていく。
前菜 キムチ3種 ナムル3種
冷製 本日のお刺身 肉スケッタ 白センマイ
鮮菜 本日のサラダ
焼物 塩 ロース 上たん 上ハラミ
焼物 たれ 本日の赤身 ツチノコ
椀 ハチノスのお吸い物
希少部位 シャトーブリアン シルクロース
特選 サーロイン ザブトンのすき焼き
〆 阿波の手延べそうめん
甘味 かき氷
お1人様 15000円
「はぁーん・・・いいわよ。前祝いで御馳走してあげるわよ」
「一応聞いておきますけど・・・よろしいんでしょうか?」とわざとらしく下手に出るような云い方をする映見。
「いいわよ映見。明日あなたには重大な局面で出番回してあげるからよかったわねぇー。日本チーム負けたらあんたが全責任負いなさい」
「えっ・・・」
「それとさくら!」
「えっ・・・私?」
「あなたも映見並みに悪女ねぇ幼いような表情見せながら・・・」
「えっぇぇ・・・誤解です誤解。映見さんがタブレット見せながら云えって」
「まったくもういいかげんにしなさいよ二人とも。まんまと嵌められたわ」
「私は・・・映見さんちゃんと云ってくださいよ!」
「えっ?なにが・・・さくら食べたそうな目をしてアイコンタクト送ってたよね?」
「・・・・・・」無言のさくらであった。




