砂を噛ますその想い ①
「インスタ見てるって何?」
「ちょっとこのインスタライブ違和感があるのよ」
ロシアの女子相撲ジャーナリスト ダヴィドコ オルガのインスタは今度の大会でのロシアの宿敵日本チームの分析と表して相撲通と称する日本人女性とオルガが対談形式で・・・。瞳は何に違和感を感じたのかと云えばなぜ日本語でそれもこのロシア人日本語喋れるの?。このインスタを見ているのは普通に考えてロシア人もしくはいわゆる旧東欧諸国と云われている国の人達が殆どなはずなのに?
ライブは相撲通の日本人女性がヒートアップしてライブであることを忘れているかのように饒舌にそして話は日本チームの弱点に・・・。
「日本チームを攻めるのにキーになるのは誰?」とオルガ
「それはジュニアの石川さくらと桃の山でしょ」と覆面で答える相撲通と云う日本人女性
「理由は?」
「石川さくらはいくら超高校級で国際大会で優勝しているとはいえシニアのアマチュアとはレベルが違う合同稽古の動きを見ると少し精彩を欠いているように見えるし何であんなのが正選手なのか?」
「桃の山はどう?」
「桃の山は精神的に脆いのは致命的でしょ。あんな忖度横綱。女子力士の間では公然の秘密でしょ親が理事長だし興行的にはその方が注目は浴びるし」
「忖度?」
「理事長の娘ってことの意味を女子大相撲の力士は推し量れってことですよ。大阪のトーナメントで忖度横綱って云ってやったら激しく動揺して立ち合いも合わせられなかった。でも邪魔が入って」
「稲倉ってこと?」
「桃の山はあの女に助けられた間違いなく。稲倉だってアマチュア界の重鎮何たが知らないが倉橋の下でやっているわけで代表だって決まっていたのにごり押しで入れたんじゃないですか」と日本人女性
「合同稽古で十和桜は稲倉相手に三連敗していたけど」とオルガはニヤニヤしながら
「ちよっとその云いかたはどうなのよ」
「あなたが熱くなる話じゃないでしょ?十和桜のファンなの?それとも本人だったりして・・・覆面さん」
「・・・・・」
瞳と瑞希はパソコンの画面を見ながらお互い顔を見合わせる。
「忖度横綱って云ってやったらってまるで本人みたいじゃない・・・あの時十和桜以外で何を云ったのか理解できたのは映見と桃の山関だけのはず。実際マスコミもあの件は取り上げたけど事の真相はわからなかった。映見は一切喋らないし桃の山だって一言も・・・それなのにこの女・・・」と瑞希
「間違いないこいつ十和桜本人。このオルガって昨日の日本チームの記者会見の時桃の山に質問してたよね確か」と瞳
「いやいやそんなことある?仮にこの女が十和桜としてなりすましかも知れないでしょ?もし本人だったら女子相撲協会追放どころじゃないんじゃないの?」
「たしかに瑞希の云う通りだけど・・・」
「ただトーナメントの話だけは本人と桃の山以外は・・・」
「テレビで見てたからよくわからないけどあれだけ激昂した映見は見たことなかったから本当に十和桜が忖度横綱って云ったのなら映見の態度も納得いく」と瞳
「桃の山なんか本当はあそこで激昂してもよかったんじゃないの?それがなんか動揺して立ち合いなんか自分から不成立になって逆の見方したら桃の山は忖度横綱って想われてしまうよこれが拡散したら」
「桃の山関の中にその意識はあるのかもしれない。絶対そんな事はないのはわかっていても・・・桃の山関の相撲の上手さそして強さは誰もが認めてる。でも少し波があることが多い。それを考えると百合の花関は優勝こそここの所遠ざかっているけど確実な十三勝以上している。それは国際大会でも桃の山は国際大会の経験は少ないけど日本のイメージからすると意外とコロッと負けたりが多々ある」
「瞳は桃の山は忖度されて横綱になれたって想っているの?」
「それは絶対ないと思う。葉月山や百合の花が絶対許さない。ただ桃の山関にはそのことがどうしても付きまとう本人は意識していなくても無意識に初代絶対横綱の妙義山の娘と云うだけで周りの見る目は変わる。それは事実だからしょうがないのだけど・・・タイミングが悪すぎるなんで今なの」
インスタライブが終わりyoutubeにもアップされた。それは日本語表記でタイトルは「女子相撲プロ・アマ団体混合世界大会チーム考察 日本編」と題がついている。コメントも付き始めている。意外にも賛否両論。特に桃の山に対しての忖度横綱の件のコメントは「ありそうな話・・・」と云うコメントがまあまああるのだ。
「露骨な日本チームの士気を落とすプロパガンダね」と瞳
「どの道もう拡散は免れないし大会は明日だし」と瑞希
瞳はスマホを取り出し倉橋に電話を入れるが呼び出し音がなるが出ないとおもった瞬間
「はい」
「監督。ちょっとまずいことに」
「あっ瞳か里香だけど悪い今監督映見とさくらを指導してるところで」
「伊吹桜関・・・」
「あぁなんだちょっとまずいことってどうしてもと云うのなら代るけど?」
瞳は一瞬迷ったが
「絶対な確信は持てませんが十和桜関がネットで桃の山と理事長の事を誹謗中傷しているような動画が・・・」
「・・・・」
「里香さん?」
「あっ御免。youtubeかなんか?」
「はい・・・。もうコメントも付きだしてて・・・」
「タイトルは?」
「女子相撲プロ・アマ団体混合世界大会チーム考察 日本編です。ロシアの相撲ジャーナリストとの対談形式で・・・」
「わかった。後でまた電話する」
伊吹桜にはこうなるような予感は前々からあった。十和桜の母は元女性力士十和田富士で世代的には妙義山と同じ。体格的にも娘である十和桜とさして変わらなかった。最高位は関脇で大関には上がれなかった。最後は幕下当時からの膝の怪我などで負け越しが続き協会から引退勧告を受けることに・・・。幕下時代は妙義山と十和田富士が次世代の旗手として注目されたが幕内昇格後の二人は大きく明暗が分かれたのだ。そしてまるで何かの因縁のように今度は娘同士が・・・。
相撲場の端にあるちょとした部屋がある。そこにはデスクトップのパソコンが三台。置かれ協会のデーターベースと繋がっていて過去の全試合や個々の力士の成績や取り口また女子相撲に関する記事などのが細かくデーター化され誰でも見れるようになっている。
伊吹桜は瞳から聞いたyoutubeのタイトルから検索し視聴していた。
「伊吹桜サボりか」と声が後ろを振り向くと
「長谷川さん」
「動画見ているってなんなんだよ・・・何見てるんだよお前倉橋さんの電話取って急にいなくなるから」
「これ見てください。ちよっとまずいことに・・・」
「まずいこと?」
伊吹桜は動画の説明をしながら
「十和桜が桃の山を意識していたのは薄々感じてました。でもいくらなんでも!」
「母子鷹・・・」と長谷川璃子
「えっ?」
「妙義山と十和田富士の話って聞いたことあるか?」
「遠藤さんから少し・・・」
幕下時代の評価においては十和田富士が妙義山を圧倒していた。恵まれた体格からのパワー・瞬発力では妙義山は劣勢に立たされていた。しかし両者幕内に上がったあたりから差が縮まり徐々に成績も明暗を分けることに・・・。
十和田富士は妙義山との対戦で膝に大怪我をしてその怪我が慢性化していたことが致命傷になったと云われている。ただある意味の早熟だったのだ。対して妙義山は遅咲きとでも云うか元々の相撲の上手さに体がついてくようになっていたのだ。お互い結婚して娘が生まれ十和田富士は娘を女性力士にすることに邁進していた。対して妙義山はそれを拒んでいたのに・・・。
「十和桜にとっては桃の山は宿敵なんだよ親子二代の」と璃子
「宿敵って・・・」
「桃の山からして見れば入門してからだってそんな意識は全くなかったと思う。ただ十和桜が三役に上がったころから母である十和田富士関のことを云い出したあたりから桃の山も意識しだしたんだ。別に母のライバルだった娘とか関係ないのにいつしか苦手意識を持ってしまったと云うかそんなの関係ないのに・・・。」
「だから十和桜にはいつも苦戦している気持ち的な問題で・・・」と璃子
それでも十和桜と桃の山の地力の差は歴然でそれは妙義山と十和田富士と同じように・・・。
「璃子さん。もう明日大会何ですこのままほっとくわけには」
「今更、削除要請したところですでに拡散してる」
「ほっとくんですかこのまま!」声を荒げる伊吹桜
璃子はスマホから十和桜に電話を入れるが出ない。発信音の後に留守電に切り替わる。璃子はメッセージを入れて電話を切った。
「稽古終わったらこの動画を桃の山含めてここにいる皆に見て貰う」
「えっ」
「遅かれ早かれみんなが知ることになるんだ。その前に」
「璃子さん・・・」
「明日のスポーツ新聞やネット記事には書かれるだろうな」
「でも・・・」
相撲場では百合の花と桃の山がぶつかり稽古をしているのが部屋越しに見える。桃の山の気迫のこもった真剣な表情。
「宿命なんだよ桃の山には関係なくても」と璃子
「宿命って・・・」
「桃の山は純粋に相撲をやりたい勝負の勝ち負けにそれほどこだわりはないんだ。横綱の意味も多分他の力士とはまったく違う意識なんだ力士としてはあるまじきだけど・・・」
「璃子さん・・・」
横綱・桃の山。まるで相撲をするために生まれてきたのにそれを封印してきた母であり初代絶対横綱・妙義山。十和田富士の娘が相撲をしていたのは知っていたし女子大相撲に入門するであろうは想っていた。そのことも自分の娘には相撲をさせたくなかった一つの要因だったが桃の山はそんな事はほとんど頭の中にはなかった。
「この事を乗り切れたら妙義山はおろか葉月山以上の力士になる。でも乗り切れなかったら・・・」
「乗り切れなかったら・・・」
「引退だ。そして永遠に心の傷がふさがらないまま」
「璃子さん・・・」
長谷川璃子は百合の花と桃の山のぶつかり稽古を見ながら
(桃の山。相撲が好きだけじゃ女子大相撲の力士は務まらないんだ。こういう事を乗り越えて本物の力士になるんだ。妙義山も葉月山もそして百合の花も・・・)




