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女力士への道  作者: hidekazu
力士の娘

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心理戦 ③

桃の山は母は元横綱・妙義山。父は大相撲の大関まさしくサラブレット。アマチュアの経験は一切なくかなり稀有な存在。瞬発力・パワー・そしてセンスは葉月山の再来であると云ってもいい。ロシア女子相撲ににとって新たなる脅威になることは間違いない。ただ国際大会などでの出場は二回だけしかなく日本国内では無敵の様相を呈しているが外国人相手には未知数のところもありその対戦が小結時代の話であればなおさらである。


 大阪で行われた女子大相撲は桃の山の相撲の強さを印象付けた試合ではあったがいくつか弱点の様なものも露呈した。決勝での十和桜との一戦においての立ち合い不成立それも横綱側からと云うのは異例と云うか桃の山は横綱であるのにもかかわらず自分で流れを作ることができず相手のペースにのせられたと云うのは少なくとも横綱百合の花や元絶対横綱葉月山では見たことがない。


 アマチュア女子で世界的にも評価されている稲倉映見が一時試合の進行を止めてしまったと云うハプニングもどうも立ち合い不成立に関することで十和桜にブーイングのような行動に出たことは一つの注目点だ。その事に関して三人とも喋ることは今に至ってもないが間違えないことはあの土俵上で何かしら云われたか態度をしめしたかしか考えられない。


 ロシアはベストメンバーで今度の大会に臨むが日本チーム攻略の鍵は若き横綱桃の山であることは間違いない。百合の花があの死闘と表される葉月山との相撲を思い起こせば今の百合の花は恐れる必要は全くなく。アマチュア最強と云われている稲倉映見も昨年の世界大会で表彰台を逃して以降の相撲では高校生ジュニアにも敗れた事を考えればロシアの優位は揺るがない。女子相撲の世界においてロシアが主導権を握っていくことは間違いない。


   女子相撲=日本と云う図式は今度のプロ・アマ団体世界選手権で女子相撲=ロシアになる


 女子相撲ジャーナリスト ダヴィドコ オルガ


  東京より


 ロシア相撲雑誌に寄稿


______________________________________________________________________


「オルガの見立て通りだとすると今の日本チームは恐れるに足らんと思うが」

「何か?」


ロシア女子相撲代表監督 ニキティア アナスタシアはオルガと二人だけで銀座の一角にロシア料理店で食事をしていた。


「選手としての評価はそうだろうが気になるのは今回のチームにはアマチュア側にいる倉橋の存在」

「日本側記者会見終了後彼女にジャブを打ってみましたがすんなり交わされたと云うか・・・」

「会ったのか?」

「少し挑発的な不意の質問にも流暢なロシア語で返されて全く動じずと云う感じでした」

「日本チームの真の司令塔は葉月山じゃなく倉橋だよ」

「確かロシア相撲協会が指導者として打診をしたことが?」

「最後の最後で断られたけどな」


 グレイグース マティーニをアナスタシアを一気に飲み干すと顔をしかめた。


「彼女はアマチュアの国際大会に頻繁に来るが代表監督として来ることは殆どない。あくまでもアドバイザー的立ち位置で」

「倉橋にコーチを打診したのは葉月山らしいですからね。最初は協会幹部から反対されたそうですが・・・」

「協会はいざ知らず選手・力士にとっては憧れの人らしい・・・けして優しいからとか人当たりが良いわけではないが絶対的な信頼がある。その意味でロシアは欲しかったらしいが・・・・」

「でもロシアに来てどうでしたかねぇ」

「まぁ私はここには居ないだろうな」と監督は苦笑いをしながら


 テーブルには日本側四人のプロフィールファイルが置かれている。


「石川さくら・桃の山・百合の花。メインの中にあのアマチュア世界女王の稲倉が居ないのを素直に受け止めていいのか?」


「昨年の世界大会での負けは精神的にもショックが大きかったことが尾を引いていると想います。ジュニアの石川さくらにでさえも最後は力負けするような状態ですしそれに今日の記者会見の緊張感のなさなんか少なくとも私は国際大会で見たことないですし」


「自分のところの選手を予備か・・・らしくないなぁ」

「昨年の世界大会で優勝した神崎が怪我と云う事ですから止むを得ずと素直に見るべきです」


「ならいいが・・・」


「とにかく桃の山はまだ精神的に未熟なところもあります。彼女が崩れれば終わりでしょ。ましてやトーナメント表では一回戦ウクライナ・二回戦以降は順当ならポーランド・準決勝はブラジルと殆ど無差別級の選手で揃えてきていますしなかなか厳しいと想います。ベストな状態でも楽な試合展開にはならない。対して我が国は一回戦英国・二回戦以降は順当ならモンゴル・準決勝はオランダでしょう。そして決勝では多分日本は相当疲弊しています。それにプロに替えはいませんからねぇ」


ロシアの絶対横綱アレクサンドロワ アンナ

若手筆頭の横綱コヴァルベラ

アマチュア無差別クラスのロシア女王ダヴィ・オルガ

同じく無差別クラス世界女王経験者のオルガ・ヤナ・コザノワ 


 この四人がロシア代表選手すべて身長175㎝以上で体重は130~170㎏級の超大型力士達。体格的には日本を圧倒するのだがそれでも世界大会ではプロ・アマ問わず拮抗していることが多い。その事がロシアにとっては実に面白くない。近々予定されている世界ツアーの主導権を握るためにもどうしてもこの大会は勝ちたいのだ。


 相撲に関してのツアーイベントの主導を握れれば開催地やスポンサー収入・ルールなどロシアに都合のいいようにできるし日本の女子相撲も世界統一基準にさせそれは閉鎖的な日本女子相撲界の門戸をぶち壊すこともできる。そのためにはどうしても女子相撲最強国を決定的なものにしたい。


「日本女子がここで勝つようなことになれば主導権は日本が握るそれは絶対避けたい。日本はここへきて女子相撲が市民権を得て興行も男子並みと云わずともうまくいっている。アジアにもその波を広げて東南アジアなどではそれなりに動きだして興行のノウハウなど伝授し近いうちにアジア統一協会なるものも立ち上げるらしい。そこには倉橋の西経出身者が日本の女子相撲協会を母体に動いている。倉橋自身は一切口出しさえもしていないようだがな」アナスタシア監督はウォッカをロックで一口。


「とにかく明後日の大会にむけて私もSNSなとで少し揺さぶりを掛けますよ桃の花を中心に」とオルガ


「あまり露骨な真似はしないでくれよ。逆にロシアのイメージが悪くなるのも」


「十和桜をけしかけて見ますから」とオルガ


「十和桜?」


「桃の山を挑発して負けて合同稽古でアマチュアの稲倉に完敗・・・。内心はらわたは煮えくり返っているでしょう・・・実は接触しまして」


「接触?」


「私のInstagramに招待させて色々喋らします。それも日本語で」


「・・・・」


「十和桜はなぜか私のインスタをフォローしていて試しにダイレクトメッセージを出したら反応がありましてね」


「・・・・」


「明日の午前Instagramライブ配信を二人でする予定です。ドタキャン食らうかも知れませんがもし出てもらえれば彼女の性格からしたら想っている事喋るでしょうね。十和桜には女子相撲に詳しい日本人で顔に細工して匿名でと云う事で・・・それでも普通はそんな誘いに出演しないでしょうがよっぽど怒りが収まらないのかそれとも単なるバカか・・・」とオルガは笑みを浮かべながら


「大丈夫なのか?」


「十和桜から出たいと云ったんです。出たくなければ返事を返してこないでしょうし承知の上で対談に応じるのですからあとは拡散してくれればいいだけです。」


「オルガ・・・・」


「もしばれれば十和桜が協会から処分されるかもしれませんが相撲協会の裏も見えてくるような話になれば下手に処分もできません。そこでロシアが今度の大会で優勝すれば日本は終わりです」


「あの葉月山も協会には残らないようですし日本から女子相撲の変革のようなものは起こりそうもありませんし次の世代になるような後継者も見当たりません。まずは桃の山を潰すことに集中しましょう。理事長の元妙義山も心中穏やかではいられないでしょうし・・・」


「わかった。そっちの方はオルガに任す」


「わかりました」


「それじゃロシア女子相撲の前祝いとして」とオルガとアナスタシアはウォッカマティーニの入ったグラスをお互い右手で軽く上げながら・・・。


ロシアにとって相撲はスポーツの一つ。そしてスポーツは政治的アピールの道具に過ぎない。帝政ロシア・ソビエト連邦・そしてロシア。勝利至上主義やスポーツの政治利用は100年経っても何も変わらないどころか「国ぐるみのドーピング」とますます負のイメージが染まっていくことが国内的にはナショナリズムは染まれば染まるほど高まっていく。


 そんななかにおいて日本の若き横綱である桃の山はプレッシャーに押しつぶされそうになっていた・・・「勝たなければいけない。負けは許されない」それは日本として以上に元絶対横綱妙義山の娘として・・・。正面にスカイツリーが見えるホテルの一室で部屋の灯りをすべて消して。窓に映る自分の不安げな顔。妙義山の娘と云う事をこんなにも意識したことはなかった。十和桜に「忖度横綱」と云われた時怒りよりも動揺している自分を落ち着かせることだけで精一杯なんとか勝つには勝った。「わぁぁぁぁ!!!」と大声を上げあれだけ感情をあらわにしたことに自分でも驚いた。


 そんな気持ちの中でヘッドボードに置いてあったスマホが鳴る。


 


 



 


 

 

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