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女力士への道  作者: hidekazu
望郷

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105/324

優駿 ④

真奈美と白芝は生まれて一か月もしない当歳馬と母馬を見ていた。


「可愛い。馬もそうだけど着せている服も」

「仔馬用の服は奥様が作るんですよ。まめというか・・・」

「そうなんですか」

「奥様はクロスカントリースキーの選手で日本代表にもなっていた方で旦那さんが一目ぼれして」

「そうなんですか」

「奥様は馬とは何の関係のない方で色々ご苦労されましたけど今は立派に牧場の奥様です」


仔馬は二人に目もくれず母乳に夢中。


「競走馬自体も厳しい世界です。毎年7000頭弱が生まれJRA登録されるのは5000弱。そこから現役として活躍しているのは3000弱その中で半分は引退してしまう。繁殖や乗馬になるのはごくわずかあとはあまり云いたくはありませんが」と白芝は親子の馬を見ながら


「競走馬の宿命と云えばそれまでてすが・・・」と真奈美も親子の馬を見ながら・・・。


「お女王はそんな似たような厳しい世界で戦い抜いてきた。妙義山にスカウトされたと云う事は才能を見込まれてとはいえ血のにじむような努力をしなければ頂点には立てないしその地位を維持するのはもっと大変だ。正直云うとお女王にはもう相撲関係の仕事とは縁を切って日高で暮らしてもらいたい。意には沿わないかもしれないができればうちの牧場で働いてもらえないかと・・・・」


「モンテプルチアータを華麗に乗りこなした椎名さんにはちよっとびっくりしたと云うか」

「私だってびっくりしましたよ。繁殖になったとはいえ最強牝馬ですからね半端な騎乗なんか馬に舐められるだけ真っすぐなんか走らせられない。それをあんな綺麗に乗ってしまうのだからお女王は・・・お女王が孝之と一緒になってくれないかなぁって確かに過去には色々あったかもしれないが・・・トレセンや競馬場に行った時にタイミングが会えば女子大相撲見に行っていた見たいだし・・・偶々テレビ見てたらチラッと映ったの見てしまってね」


「想いがあるんですね」


「孝之にとってお女王は小さい頃から高根の花だったんです。でもあんなことになってしまった。もしなければ・・・お女王は女子大相撲に行くことも無かったろうし大学行って学びたかったことを学んでいただろうし・・・両家では孝之とお女王を結婚させようと考えていて」


「策略結婚?」


「いやそんな話ではないんですよ。お女王のご両親から娘の幸せを考えた上での申し出て゛だったんです。弟さんは病気があって余命宣告の様なことも云われていたせめて娘にはと云う想いだったんです。内々に考えていた時に孝之が先走ってプロポーズしたことがお女王の怒りをかってある意味屈辱的だったんでしょう。孝之は純粋な恋心だったのに・・・今、屋内トラックで何を話しているのか知らないけどちょっとしたわだかまりが溶ければいいが」


 仔馬と母馬は横になり寄り添うように寝てしまった。


「お女王は若くして一人ぼっちになってしまったが新たに家族を作ろうと思えばできる。孝之も学生の時とはまるっきり違うしここの牧場を引っ張っているのは今や孝之なんだから・・・」


「ここに来たと云うのはそんなこともあるんじゃないんですか?私は屋内トラックでの二人の雰囲気からそう感じましたけど」と真奈美は自分の事のように


「お女王」


 葉月が右わきにヘルメットを挟みながら孝之と一緒に厩舎に入ってきた。


「白芝さん。もうそのお女王って云うのはやめてくださいよ」

「いや私にとってはあの無敵の騎乗とそれと女子大相撲の葉月山がどうしても」

「今はもう普通の女性ですから葉月でいいですから」

「はぁ~・・・でもあのモンテプルチアータの騎乗にはびっくりしましたよ」

「あれはモンテプルチアータが頭が良いんです。ちゃんと自分からハミを取ってくれて私はただ乗せられただけです。最強牝馬になるくらいなんだから頭も良くなくちゃ」


 葉月の表情は実に穏やかな。騎乗していた時の様な勝負師の様な厳しい表情ではなく周りを一緒にいると暖かい雰囲気で包み込んでくれるような。


「お女王じゃなかった葉月さん。日高に戻ってきませんか?私が云う話ではないがやっぱり」

「白芝さん」

「はい」

「雪が溶けたらまた日高に来ます。その話はその時に・・・」

「お女王・・・」

「白芝さん」

「あっいゃ・・・」と頭を抱えながら

「倉橋さんと事務所の方に食事の用意がしてあると思うから」葉月と真奈美に孝之が

「わかったわ」と云うと二人は事務所の方に歩いていく。葉月のその後ろ姿には苫小牧で見た怒りに満ちた姿はなかった。やわらかい光に包まれているような・・・。


「孝之」

「はぁ」

「結婚してくれって云ったのか?」


孝之は一呼吸おいて


「プロポーズはした。葉月は今週の大会が終わったら相撲界からは完全引退するってもう係わりは持たないって・・・」


「そうか・・・」


「あの時の様な葉月の顔はもう見たくない。モンテプルチアータに乗っている時の葉月は厳しい表情をしていたけど輝いていた。小学生の時無敵のジョッキーと云われたあの時と何も変わっていなかった」


「そうだなぁ」


「さっきサマーリーフを見せてきた。本当にうれしい顔してた葉月のあんな嬉しいそうな顔したのを見たのは本当に小・中以来だよ高校は函館に行ってしまっていたからねぇ」


「サマーリーフは椎名牧場の顔だったからなぁ。さぞかし想うところもあったろう・・・。孝之、お前が日高の地で葉月さんを幸せにしてやらんと男として・・・。女子大相撲と云うある種奇異な目で見られたものをここまで認知して世界的にも認めさせたのは葉月山こと葉月さんだ。


 その人が女子大相撲から力士としてだけではなく女子大相撲界そのものから身を引くと云うのは女子大相撲関係者からしたら失望を超えて怒りにも感じるだろう。そこまでしなくても女子大相撲界で裏方としてやることはいっぱいあるだろうし相撲界はそれを望んでいたはず。それをあえて裏切るようなことをしてまでも去るのは彼女なりの何かの決心なんだろう」


「・・・・」


「お前、天下の絶対横綱を幸せにできる覚悟はあるのか?」


「覚悟がなきゃ二度目のプロポーズなんかしない」


「そうか・・・」



  葉月と真奈美は厩舎内を歩き事務所を繋ぐ渡り廊下を歩いていく。


「本当にお似合いですねその姿」と真奈美

「ここのところ色々大会の事やら今日の事とか考えていて食事が進まなかったおかげで相当ダイエットになってかろうじて着れました」と葉月は笑いながら


「孝之さんとは・・・」

「雪が溶ける頃に日高に来ると答えました」

「プロポーズ?」

「されましたが返事はしませんでした」

「そうですか?」

「私、自分を高く売りたいんで安売りはしませんから」と笑みを浮かべる葉月

「あっぁぁですよね」

(私安売りはしないから・・・・それって私が濱田に云った言葉じゃない。そうよ女は男に安売りしないんだから・・・そうだ!濱田に馬買ってもらおうできればモンテプルチアータの産駒を・・・うっしし)

「どうしました」

「あっいやなんか葉月さん幸せそうだなぁって」

「でも女子相撲界を裏切るようになってしまうのは少々・・・」

「あぁぁでもそれはもう十分貢献されたんだしやっぱり自分の幸せが大事です」

「理事長はじめ関係者の方にはましてや今度の代表監督は次期理事長への布石だってみんな想っているところが」

「それは女子相撲界の勝手な論理で」

「真奈美さんは理事長との関係ってこれから」

「関係?」

「大阪でのトーナメントの一件です」

「えっ・・何かありましたっけ」

「えっ・・忘れてるんですか?」


>「これから女子相撲がさらに認知され発展できるように協力をお願いします。アマチュア・女子大相撲が対等な立場で切磋琢磨しさらに盛り上げていきたいと思いますのでよろしくお願いします」と紗理奈は真奈美に対して深々と頭を下げた。


「こちらこそ」と真奈美も頭を下げる。続けて紗理奈は東西南北の観客に頭を下げると同じく真奈美も・・・。館内は拍手で・・・そして花道で観戦していた女性力士達も・・・。


「そう云えば・・・・いやでもあれはなんか雰囲気的流れで…」

「流れ・・・」

「流れですよ流れ・・・いやいや私だって再婚するんで!」

「えっ!誰とですか?」

「あぁぁ元夫と・・・」

「そうなんですか・・・おめでとうございます。それで式とかは?」

「式?そんなものはしませんよ冗談じゃない」


真奈美は顔を真っ赤にしてしまった年甲斐もなく・・・。


「私から相撲を取ったら何が残る何って理事長に云われました。随分キツイ云いかたされるなって・・・高校二年ぐらいの時から理事長がよく来ていました。もうあの時から牧場の方は傾きかけていたことはわかっていました。それを知った上でスカウトに来ていたのでしょう・・・。本当は女子大相撲には行きたくなかった」


「葉月さん・・・」


「あの時、女子大相撲に行くか中河部さんに嫁ぐかの二つの選択があったんです。私にとっては後者を選択するべきだったのかもしれません。私とて孝之さんが私に恋心を持っていたのは薄々感じていましたし実際告白もされました。でもあの時の私にはとても耐えられなかった・・・」


「・・・・・」


「女子大相撲に行ったことは間違えではなかった今の私があるのは間違いなく理事長にスカウトされたからでも・・・さっきうちの牧場にいたサマーリーフと云う馬に会ったんです。牝馬ですけどオークス・宝塚記念・安田記念を勝った名馬なんです。もう25歳なんですけど私の事を覚えていてくれて」


「ここに葉月さんが来ることを首を長くして待っていたんですよきっと」


「キリン並みにね」と笑みを浮かべる葉月


 葉月の屈託のない笑顔。それはまるで幼稚園児の子供のように・・・。






 


 


 


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