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女力士への道  作者: hidekazu
望郷

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102/324

優駿 ①

「瑞希・・・もうびっくりした」


 瞳が誰もいないと思って入った相撲場にマネージャーの瑞希が一人小上がりの縁に座り俯いていたのだ。


 昨日の夜初めて部員達が見た監督の喜び以外の涙。それは女子相撲部においては衝撃的出来事であると同時にあんな弱々しい姿は誰も見たくなかった。


 海藤瑞希は自分が悪意ではないにしても他人のプライベートに立ち入ったことの罪悪感に苛まされていた。


 瑞希は大学に来てすぐにこの相撲場にやってきた。まだ午前中であり誰も来ているわけはない。それでも昨日の出来事のそもそもの発端が自分の軽率な行為が招いた結果。心のどこかに面白半分にと云う感情があったのだ意識はしていなくとも。


「瞳・・・」瑞希の顔は泣きすぎて目が腫れているように見える。

「監督はあの程度で潰れてしまうような人じゃないから心配しないの全く」と云うとバックからハンドタオルを出し顔を拭っていく。


「昨日のことはみんなショックだった。私は当事者だからみんなとは違うかも知れないけど」

「瞳の冷静さは相変わらずだけど・・・監督目当てに西経付属から相撲部入ってって・・・恐わ」

「あのねぇ・・・」

「そんなことよりもこれ。座卓の上に置いてあった」と瑞希は一枚のメモを渡す。


 悪いのだけど今日は休ませてもらう。稽古は通常通りのメニューで・・・。それと代わりの者が来るから特段指示はしないと思うけど私と同じくらい優秀な人だから・・・じゃお願いね。 倉橋


(監督・・・)瞳には真奈美の痛い気持ちはわかるけど・・・。


「代わりの者って誰?」と瑞希

「代わりって云われても?」と瞳


 瞳でさえも咄嗟に想いつかない。監督の代わりになる人何って・・・・。


_________________________________________________________________________


「珍しいわねぇ真奈美から電話してくる何って、まぁそんな時はあなたが深い傷を負ってしまった時とか心が折れそうな時。それでも年に数回だけど・・・どうした?」と中島京子は少し笑いながら


「ちょっと濱田のことで・・・」

「何、再婚断られたとか?」

「それはオーケーしてはくれたんだけど・・・」

「だったら何が問題なのよ?」


 真奈美はさっき大学であったことを包み隠さず話した。


「西経女子相撲部って楽しそうねぇ本当に」

「はぁ~冗談云わないでよ。私は至って真剣だし光さんだって・・・」

「濱田さんってそんな人なんだねぇ・・・なんかあなたにはもったないぐらい」

「・・・・」

「自分の気持ちをすべてさらけ出せる。それも全くの赤の他人である学生達に・・・家の旦那ならとっくに怒って帰るところだけど」

「なにもあそこまでさらけ出すことはなかったのよ適当にあしらっておけば・・・」

「部員達にと云うのは一つの口実で本当はあなたに向かって云ったんでしょ?そのうえで倉橋真奈美への愛の誓い・・・ってとこなんじゃないの?なんか羨ましいと云うか・・・」

「少し馬鹿になったのよ濱田は・・・」

「で用件何?」

「えっあぁもういいわ」

「そう。実は明日椎名さんと日帰りで北海道に行きませんかって云われたんだけどね断ったのよ」

「椎名さん?」

「真奈美も勘が鈍っていると云うか椎名さんって椎名監督に決まってるてしょ大丈夫あなた?」

「今週の日曜日なのよ大会はそんな時に北海道って?」

「私も想ったのだけど明日ご両親の命日でね」

「命日?」


京子は椎名葉月が女子大相撲界に入門ししばらくして自殺をしてしまった件等々を話した。


「そんな話知らなかった」


「高大校の時、昼食を一緒に食べる機会があって本当はあなたとしたかったらしいけどその時にねそんな話されて・・・。本当は大会直前にインタビューでもさせてもらいたいと想って悪いと想ったけど直接電話したらそう云われてねぇ。椎名さんの方から取材を兼ねてもいいですから同行しませんかって云われてね断ったんだけど・・・」


「そう。あんなに輝かしく美しく強かった葉月山が・・・」


「ねぇそんな私に愚痴を云ってくる暇があるのなら代わりに北海道に行かない?椎名さんに聞いてみてオーケーなら行きなよ?」

「何云ってんの?そんな大事な日にそもそも」

「ちょっと弱気と云うか元気ない見たいだし・・・」

「・・・・・」

「ちょっと椎名監督に電話してみるわ」

「京子!そんなことしなくていいからきょ・・・」すでに電話は切られていた。真奈美はため息をつきながら


(何余計なことしてるのよ全く。椎名さんの気持ちとかあるでしょ全くもう)


 しばらくして真奈美のスマホに


(椎名監督・・・)


「すいませんこんな遅く」


「京子がなんか・・・」


「私が京子さんに余計な事云って・・・北海道に私の取材付きで行きませんか何って云ったもんだから」


「だとしても・・・それに葉月さんのご両親の」


「亡くなって49日以来行っていないし今年も行かないつもりでいたんです。ましてや大会直前ですしでもなんか急にどうしても行きたくなって・・・理事長や長谷川さんには代表監督としての自覚がなさすぎるって云われてしまいましたけど・・・・」


「葉月さん・・・」


「ここのところ色々迷いがあって・・・大会の迷いならいいのですがそうじゃなくて・・・毎年行こうと想ったときにふとつまらないことを考えている自分がいて・・・」


「葉月さん・・・」


「真奈美さんに一緒になんて・・・何考えてるんだが・・・すいません。それじゃ金曜日東京で」


「葉月さん。私でよければ一緒に・・・私もちょっと今日色々あって」


「真奈美さん・・・」


「明日何時に?」


「新千歳に8時10分着です」


「それじゃもし行ける便があれば行きます。なかったらごめんなさい」


「無理はしないでください。私の気まぐれなんですから」


「もし取れたらLINEします」


______________________________________________________________________________


「おはよう朝早く御免」

「早すぎないか・・・とか云いながら何となく寝れなくて」

「昨日はなんか光さんに大恥をかかしてしまったようで・・・」

「まぁ俺的には恥かかされた面はあったけど・・・」

「部員達も相当ショックだった見たいでスマホにメッセージが凄いことになっていて・・・でも電源落としてたから」

「瞳や映見からも何度も着信があったみたいだけどめんどくさいし電源落としてた」

「そう・・・」

「なんか元気ないな?」

「今日、あさイチで北海道に行くことになって日帰りだけど」

「北海道?」

「椎名監督とちょっと」

「日曜日に大会あるって云うのにか?」


真奈美はざっくり北海道へ行く理由を光に説明した。


「と云うことなんでちょっと心配なところもあるし」

「わかった。間違っても変な事させるなよ」

「あれだけ厳しい世界で戦っていたのに・・・それと」

「それと?」

「今日、相撲クラブはあるの?」

「今日は休み。昨日は他の人にお願いしてしまったけど」

「だったらうちの相撲部見てくれない?」

「おいおい勘弁してくれよ。昨日見たいな公開処刑は冗談じゃないぜ」

「御免なさい。でもなんか後味悪くなってしまったし彼女達も反省している見たいだし」

「・・・・」

「瞳さんや映見に後々云われるのも嫌でしょ?」

「・・・・」

「あなたの好きなようにやっていいからただ見ていてくれるたげてもいいから他人からの視点から気になる点とか昨日はあんなことになっちゃったから・・・・あなたも一応指導者だし指導してもいいわよ」

「俺にそんなことをさせるのはどうかと思うけど?」

「私のヒモになるんだよねぇ」

「・・・・」


________________________________________________________________________________


 真奈美は早朝、大学の相撲場に行ったあとセントレアから新千歳へ・・・・。


>「ふとつまらなことを考えている自分がいて・・・」


>「女子相撲の世界でしか生きていないのにましてや横綱まで行っておきながら・・・これから女子相撲は世界展開で動こうとしている時に・・・離れたいなら離れればいい。そのかわりもう戻ってこなくてもいいと私は想っています」


椎名葉月にとって女子大相撲は自分の生き方とは違うものだったのかもしれない。だとしても・・・。


 セントレアを午前7時に飛び立ったエアバスA320はまもなく新千歳空港に着陸する。3月下旬の新千歳はまだ冬真っ只中機内のアナウンスでは晴れではあるが気温はマイナス2℃だそうで。真奈美は2番到着口から出るとすでに椎名葉月が待っていてくれた。


「真奈美さん本当にすいません。本当に来ていただけるとは思わなかったので」

「ちよっと逃避行気分です」と真奈美は笑みを浮かべ。

「レンタカー借りたのでそれで」


空港近くの営業所から北海道横断自動車道/道東自動車道 を進み、占冠 へ小型のSUVで運転は葉月、初心者マークを付けて車の外気温度計はマイナス1℃


「引退してからまずは教習所行って取ったんです。事故らないように慎重に行きますんで」

「慎重にねぇ・・・」

「ハイ」


 真奈美にとってあの大横綱と北海道で旅ではないが行動していることには複雑な想いがある。葉月は総じてにこやかな雰囲気で対応してくれている。運転しているその横顔から今回の北海道行きの目的が自殺したご両親の墓参りということは知らなければわからない。


 車は占冠 ICを出ると国道237号を日高方面へ。道はきれいに除雪されていて走りやすい。そこから20分ほど走り目的の日高が丘霊園へ。墓前の前に車を止め二人は車を降りる。


 雪は氷と化しているが葉月が用意した防寒長ぐつを履き墓石の前に、葉月は線香に火をつけ香炉の中の皿へそして手を合わせる。同じく真奈美も手を合わせる。


 寒さはきついが風もなく穏やかな日差しがさしている。春の訪れにはもう少々時間がかかりそうだが・・・。

 


 

 




 

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