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女力士への道  作者: hidekazu
蟠りの中で

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一人の女性として一人の女として ④

 ダイニングで光と真奈美は朝食を20年ぶりに・・・。小松菜のお浸し・焼き鮭・卵焼き・きんぴら・豆腐とわかめの赤だし。


「なんか懐かしいと云うか・・・」

「調子いいこと云って懐かしいって味なんか覚えてないでしょ?」

「夫婦生活していた時こんなにのんびりっと朝食食べたことって数えるぐらいしかなかった」

「あの時は起業したてで朝から晩まで必死だったし一緒に住んでいながらゆっくり話せる時間はほとんどなかった。覚悟はしていたはずなのに・・・」

「辛かったか?」

「・・・・・・」真奈美の目が潤む。

「大会終わったら少し時間作れるか一週間ぐらい?」

「あぁなんとか時間作るけど」

「海外でも行かないか?」

「海外かここ十年ぐらいプライベートでは行っていないなぁ相撲の大会では何回かあるけど」

「なんでも相撲が絡むな」と光は笑いながら

「しょうがないでしょ海外の大会多いんだから」


 そんな話をしながら光はフレンチプレスでコーヒーを淹れる。


「ペーパードリップよりコーヒー本来の味が楽しめるしねぇ」


 真奈美はその珈琲を一口啜る。


「アンデスマウンテンかな酸味が勝っているように感じるけどその中に甘みが隠れていると云うかでもこのフレーバー感もいいよね。和食に合うわ」

「真奈美どうした?」

「何が?」

「ズバリ何だけど・・・」

「あなたに色々鍛えられたから・・・別れてからも色々な引き出しを増やしていったの・・・きっかけはあなたが作ってくれたからその事は今の私にとってはかけがえのない財産なのよ。拘ることの意味が最近やっと理解できたのよ」

「凄いな真奈美は・・・。起業した時財務全般を見てもらっていた霧島覚えているか?」

「霧島君か私より二つ年下だけど有能で色々教えてもらったなぁ」

「今は財務の方の執行役員なんかやっていやがって真奈美と再婚するかもしれないと云ったら説教されたよ」

「説教?」

「あんなに優秀な人で努力家の人と離婚したのは俺が引かなかったからって・・・霧島如きに」

「そんな事云える立場じゃないでしょ?」

「なんで?」

「社外取締役にしてもらっていながら霧島如き何って」

「あぁ・・・そうでした。霧島様は神様でしたねぇ・・・ムカつくけど」


 話は尽きない。


「真奈美、「powerplay manager Women's sumo」って云うオンラインゲーム知ってるか?」

「えっ・・・あぁうちの部員でもやっている子がいるかなそれぐらいしか・・」(そのオンラインゲームのデザイン全体考えているのは私なんだけど)

「すごいよくできてる。感心するんだがシビア過ぎるんだよな異常に・・・ものすごく相撲に精通しているんだろうが・・・なにもあそこまでガチである必要性があるのか?」

「あぁ・・・私もちょろっとやっただけど多少シビアな方がやりがいと云うかあるんじゃないの?」

「違うな」

「違う?」

「女子相撲と云うカテゴリーは世界的には人気があるとしてもスポーツとしてはマイナーなわけだがそれゆえに好きな奴ははまり込む。そしてオンラインゲームビジネスとしての根幹は課金だよ」

「課金・・・」

「俺も時間あるからちょとやっていたのが嵌ってしまって課金の罠に嵌ってしまって」

「罠って・・・」

「一年やって1000ユーロ近く使ってしまって・・・」

「1000ユーロ!」

「あのゲームの開発者は凄いと思うよ。やっていくうちにどうしても課金したくなるように作っている。ビジネス的センスと云うか個人的には感心しないがそこまで考える才能は大したもんだよ。真奈美なんか嵌るじゃないか?真奈美だったら課金しまくりそうだけど」と笑いだす光


(光よ。うちの学生とさして変わらないじゃん何やってるのよ全く。でも一応評価されているってことねぇ)


「今日、光さんは何かあるの?」

「これから矢場町にある財務ソフト開発会社に行く。新たに出資してねぇそこで少し手伝ってる。真奈美は大学か?」

「午後講義してそのあと相撲部って感じ」

「迎えに行こうか?」

「迎え?どこへ?」

「大学に決まってるでしょ」

「ちょとやめてよ。部員達に何云われるかましてや映見に何云われるかそれに瞳だって」

「映見は本当に俺達の関係知らないのか?」

「瞳が喋らない限り・・・意外とそう云う事疎いから映見は」

「ちょっと見てみたいんだよなお前の監督の姿」

「あのねぇー」

「真奈美だって相撲クラブに来たんだから・・・見学者でいいだろう相撲関係者として」

「ちょっと恥ずかしいし・・・」

「恥ずかしい?あのさぁー・・・歳幾つなんだよ」

「永遠の二十二歳」

「あぁよくもさらっと云いのけるねぇ真顔で・・・どうしてもいやだって云うのなら行かないけど」

「余計な事は一切云わない表情に出さないって約束してくれれば・・・」

「わかりました。約束します。で何時に行けば?」

「それじゃ四時半ぐらいに正門に来て私が迎えに行くから」

「わかった」


 真奈美は光の顔をしげしげと・・・。


「絶対余計なことはしないでよ。まかり間違っても元夫とか云わないでよ」

「そんなに俺達の関係ってまずいのかよ?」

「私のイメージもあるからイメージ壊されると色々やりにくいし」

「イメージって」と苦笑する光

「一応、孤高の女子相撲部監督って事になってるんだから」

「自分で孤高とか云うか普通」

「とにかくそ云う事だから。じゃ私マンションに戻るから」

「送ろうか」

「いいわよ地下鉄で帰るから」

「じゃ四時時半に正門で」


 真奈美は濱田のマンションを出で舞鶴線の丸の内へ。真奈美にしてみれば全く考えた事もないことになってしまった。光が西経女子相撲部に来ることなんかあり得ない話。


(とりあえず濱田との関係を知っているのは瞳だけだから映見はクラブの先生が見学に来たということ以外不審なところはないわけで)


 相撲部監督としての自分を見て貰う事は気恥ずかしい反面今の自分を見て欲しい想いもあった。相撲部の監督としての自分を見て欲しい。客員教授の自分では間違いなく濱田から鋭い指摘がばんばん飛んでくるのは目に見えるから・・・。


時刻は午後四時。


 濱田は矢場町にあるソフトウェア開発会社近くの店できしめんで腹越しらえをして西経大学へ。


 レンガ塀伝いに辿っていくと正門にはすでに黒の上下ジャージを身に纏い待っていた。


「どうも。来ちゃいました。さすが似合ってるなその恰好」

「一応確認しておくけどあくまでも映見との関係で来ましたってことにしてくださいねぇ。余計なことは云わない」

「帰ろうか?」

「一応私がオーケーしたんだから良いわよ後でなんか云われるのもしゃくだし」

「じゃお邪魔します」


 緑に囲まれた構内の敷地はそうは広くないが街の喧騒とは隔離されているような印象だ。


「光さんって西経来たことありましたっけ?」

「構内のネット構築の改善依頼ででもそれだけだと思うそれも一回か二回だろう20年近く前の話だし」

「そうねぇ。私が監督やりたいって云っていた時期ねぇ」

「・・・・」

「御免。またその話になっちゃって」

「監督になってから今まで常にアマチュア女子相撲指導者のトップランナーだから真奈美は」

「それは尊敬していると捉えていいのかしら?」

「それはもちろん」


 構内に入り女子相撲部の相撲場へすでに部員達は基本稽古の真っ最中。


「主将・映見ちよっと」と真奈美が声をかけると二人とも倉橋のもとへ。


「今日は映見のクラブの先生か゛見学したいと云うので連れてきた」

「久しぶり映見」

「濱田先生が来られる何ってあまりにも意外で」

「映見がいなかったらここへ来ることなんかなかっただろうけどちょっと話す機会が会って伺いたいっていったら許可いただいたんで・・・」

「そうですか」

「それとこっちがうちの主将の吉瀬瞳」

「吉瀬瞳です」

「濱田光です」

「じゃ濱田さん。そこの小上がりの座敷に上がって見学してください」

「わかりました」


 濱田は小上がりに上がり稽古の様子を見る。気合の入った稽古はピーンと張り詰めた緊張感。聞こえるのは体のぶつかり合う音と選手の息遣い。時たま真奈美の怒号も飛ぶがそれは本当に最小限の事でしかない。


「失礼します」とマネージャーの海藤瑞希が小上がりに


「マネージャーの海藤瑞希と云います。紅茶と菓子ををお持ちしましたので」

「あぁお構いなく」


 海藤はフレンチプレスに入っている紅茶と真奈美お気に入りのモンブランを座卓に置く


「モンブランか・・・」

「倉橋のお気に入りのものです」

「ほぉー」と云いながらフレンチプレスの茶葉が底に沈んだところでプレスしカップに入れたのだが何か気になる。視線!海藤の視線がどうしても気になるのだ。


「なにか?」

「あっ・・いや・・・その・・・」

「何か聞きたいことでも?」

「ちょっと聞きにくいことなんですが」

「聞きにくいこと?なんか怖いなぁ・・・いいですよ何です?」


瑞希は軽く深呼吸をして


「この前の日曜日なんですが日間賀島に行きました?」

「日間賀島?あぁ行きましたよ・・・でもなんで」

「海洋亭から女性の方とチェックアウトしたとこ見てしまって・・・」

「あぁ・・・明星の島尾さんねぇ・・・参ったな」と光は苦笑い

「やっぱり・・・すいませんプライベートな事なのに・・・」

「いや。あれは私が軽率だった今考えると・・・」

「それと・・・」

「まだあるの・・・なんか勘弁してほしいよな」と苦笑する光

「瞳との関係何ですが」

「瞳?」


光は土俵の方に目をやる。主将である瞳と目が合った。


「主将!なに呆けっとしている!」真奈美の怒号が飛ぶ


 真奈美は光と視線が合うと光の方に歩いてくる。


(目が怒っている?)


「海藤」

「あっはい」

「接客しろとは云ったが接待しろとは云っていないからな。濱田さんは一指導者として見学に来てるんだ。お前が話し込む必要はないんだよ。マネージャとしての仕事やれよ。ライブの動画のデーター解析ソフトで即解析かけろ全く」

「す、すいませんすぐ」


 瑞希はすぐにパソコンが置いてある場所へ。


 真奈美は光の隣に・・・・。


「真奈美。もしかして島尾さんとのことって彼女から・・・」

「光さん御免。全く忘れてた・・・」

「勘弁してくれよ・・・瞳とはどんな関係ですかなんって聞いてきたけど」

「・・・・ゴメン・・・あぁ」

「俺どうすればいいんだよ」


 真奈美はいきなり両頬を叩くと主将を呼んだ


「私達の関係もう隠しきれない」と真奈美

「まさか?」

「瞳、なんで云ってくれなかったのよ」

「えっ私のせいですか?」

「もう覚悟決めた」

「覚悟?」

「三人の関係稽古終わったら部員達に公にする。光さん。被弾するでしょうけどよろしくねぇ」


「あぁぁってなんで俺が被弾ってどいう意味だよ?」


「宜しくお願い致します。光さん」と頭を下げる真奈美


「宜しくお願い致します。お父さん」と頭を下げる瞳


 光には二人の考えていることが全く想いつかないし「被弾」って何?






 


 


 




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