絶対横綱の称号
動画サイトで見た新相撲がきっかけで色々検索していくと歴史的に意味深いことが多いことを知り何気に興味をもったうちになんだか勢いで書いています。相撲の描写などはほとんど相撲は知らないのに等しいのでおかしな部分があることは重々承知の上で書いていますのでご了承を・・・・
女性力士である葉月山は東の正横綱であり無敵の絶対横綱だ。しかし、今土俵の上では大苦戦。体じゅうから汗が噴き出ている。葉月山をここまで苦しめているのは、西の横綱百合の花だった。その実力は、もはや言うまでもない。
内心、歯ぎしりしながら、それでも葉月山は冷静に対処する。
「ふん!」
と力任せに投げる。百合の花は投げ飛ばされながらも、相手の隙を見定めて、素早く体勢を整えた。
「…………」
「…………?」
二人とも無言のまま睨み合う。次の瞬間、二人は同時に動き出した。右四つで組み合ったまま、激しく腰を落とす。そして激しい押し合いが始まった。観客たちは息をするのも忘れて見入っている。やがて、二人の体は土俵際へと近づいていった。
「……っ」
「……んっ」一瞬たりとも気が抜けない。少しでも気を抜いたら、一気に持っていかれるだろう。
じりじりと均衡が崩れるかと思われは時
「はい、そこまで!」
行司の声がかかった。水入りである。勝負の行方はまだ分からないものの、この場は引き分けとなったのだ。「ふう……」
ようやく緊張から解かれたように、二人が力を抜く。だが、これで終わりではない。
ここからは勝ち負けを決める真剣勝負が始まるのだ。
葉月山と百合の花が向き合って礼をし、仕切り線に立つ。それから両者は再び組み合った。
まずは小手調べといった感じで、ゆっくりと取り組みが進む。両者一歩も譲らない展開になった。そして中盤に差し掛かった頃、百合の花の体がふわりと浮いたかと思うと、あっという間に土俵の外へと転げ落ちた。
勝ったのは葉月山だ。観衆の間からどよめきが起こる。観客たちの間では口々に感想を言い合っていた。――凄かったなあ。
――やっぱり横綱は強いわねえ。
――でも、惜しかったね。もう少しだったのに。
――あんな美人なのにさ。ちょっと勿体なかったかな。
――でも、いいじゃないの。あれだけのお相撲さんなら。あたしなんかじゃとても相手にならないもの。
そして、場内アナウンスが流れた。
――ただいまを持ちまして、本日の取組は全て終了致しました。来場所もまたどうぞご来場くださいませ。こうして、千秋楽の大一番は終了した。
支度部屋に戻った葉月山は完全に消耗しきってしまった。三週間後には世界女子相撲選手権で海外遠征に出なければならない。
それまでには体力を回復させなくてはならないのだが……。果たしてうまくいくだろうか?
その頃、百合の花は宿舎に戻ってシャワーを浴びると、すぐにベッドに入った。
「……」
彼女は天井を見つめながら考えていた。
(私は一体何のために戦っているのかしら?)
「……」
しばらく考えた後、百合の花は再び眠りについた。
一週間後の会場で朝早くから入りした葉月山の稽古ぶりはとても厳しいものだった。
「もっと腰を入れて踏み込むんだ!」
「はい!」「はいだけで返事をするんじゃない!」
「すみません」
「声が小さい!」
「申し訳ありません!」
「腹の底から出せ!」
「うおおぉ!」
「よし」
「ありがとうございます」
「次は突き押しの練習だ」
「お願いします」――このように、まるで軍隊のような訓練が続く。見ているだけでも疲れてしまうようなハードさだ。しかし、葉月山は弱音を吐くどころか、むしろ生き生きとしているように見えた。
一方の百合の花の方はというと、こちらは対照的に静かでおとなしい印象を受ける。ただし、その表情からは、闘志がみなぎっていた。
そして迎えた日本代表壮行試合――。
いよいよその幕が上がった。この日は十両力士同士の対戦が組まれており、注目度も高い。
まずは幕内上位陣の取組が始まった。横綱である葉月山はもちろんのこと、小結や前頭筆頭といった下位の者まで、誰もが代表の座を狙っているだけに気迫が違う。
だが、そんな中にあっても百合の花の気合いは群を抜いていた。
そして、運命の三番勝負の一戦目が始まった。
両者が土俵中央で睨み合う。どちらも譲らず、激しい力比べが続いたが、最後は百合の花が上回ったようだ。そのまま一気に押し出して勝利した。
続いて二戦目が行われる。百合の花と葉月山は土俵上で向かい合ったまま動かない。二人の目つきは真剣そのものといった感じだ。
そして、勝負が動いたのは、取組が始まってから一分近く経った頃だった。先に仕掛けたのは百合の花だった。彼女は低い姿勢から突っ込んでいったが、これはフェイントだったらしい。相手の足下を払うように見せかけてから素早く立ち上がって脇へ回り込みつつ、まわしを取った。
すかさず、もう一方の手で葉月山の腕を取って捻り上げる。
だが、そう簡単にはいかない。葉月山は体を入れ替えるようにして、逆に百合の花を吊り上げてしまった。
両者は激しく揉み合ってから、ようやく離れた。
それから、再び組み合った。今度は葉月山の方がやや優勢なようだったが、それでもまだ互角に近い状態が続いている。
やがて、勝負の行方は行司軍配に委ねられた。――勝負あり! 葉月山の勝利であった。だが、これで終わりではない。このあとに三番勝負の最終戦が組まれている。そこでも勝利すれば、葉月山の優勝が決まるのだ。
土俵上では二人が礼をして、それぞれの持ち場へと戻っていくところであった。
――さあ、いよいよ大詰めです!
――最後まで目が離せません! 場内では興奮した観衆の声援に包まれていた。そして、ついに最後の取組が始まる。
百合の花は土俵の中央に進み出ると、静かに目を閉じた。
――それではこれより日本代表壮行試合優勝決定戦を行います。両雄とも準備はよろしいか? 場内アナウンスが流れると、観衆たちが一斉に拍手をした。――それでは……始めえぇー!! 歓声の中、二人は同時に飛び上がった。
両者ともに攻めの姿勢を見せる中、最初に隙を見せたのはやはり葉月山よりも年若い百合の花の方だった。彼女は攻める方向を見誤ってしまったらしく、一瞬のうちに葉月山に懐に入られてしまい、あっという間に両腕を抱え込まれてしまう。
――しまった!?
――まだまだ甘いいわねぇ、小娘めがぁ! 葉月山はそのまま体を沈めると、両足で踏ん張った。そして、全身の力を込めて投げを打つ体勢に入る。
そこには仰向けに倒れて動かなくなった百合の花の姿が見えた。
宿舎に戻った葉月山は風呂に浸かりながら世界大会のことを考えていた。史上初の5連覇に挑む絶対横綱。
「負けられない。日本横綱の意地にかけても」
葉月山は湯船の中で拳を強く握り締めると、大きく息を吐き出した。
一方その頃、百合の花は自宅の庭先にある物干し台の上で空を見上げていた。彼女も世界大会に葉月山と一緒に遠征する。
「今は世界大会に集中しなきゃ絶対横綱の称号がかかっているんだから」