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君の死顔を12回も見てたら君を信じれなくなった

『"信じろ"』

 そんな言葉が勇者の脳裏に深く刻み込まれてた。

 勇者は深く眠りから目覚めーー身に覚えのある酒場にいた。ここはそう、魔王を倒す二週間前の過去にタイムループしていた。過去に戻った影響なのか、吐き気を催すため一度酒場から出て、近くの木陰でひと休みする。勇者は背負っていた剣を抜くと、何かを確認し始めた。鍔のところを見てみると十一箇所の切り傷が刻まれていた。そして、最後の十二箇所目の切り傷が刻み込まれたあと、切り傷の上に軽く手を乗せた。

 なんとも言えない表情を浮かべながら切り傷を見てると、人影を感じた勇者は、ふと顔を上げる。その子は勢いよく勇者の前でしゃがみ勇者を見つめるひとりの女性。

「元気なさそうだけども、なんか悩み事あるなら聞くよ」

 目の前の女性は太陽のようにオレンジ色の髪に、瞳の色は左右対称のオッドアイという珍しい持ち主。そして、幾つもの勇者の心の支えてくれた彼女の名はスベリスタル・アネ・グレルモワ・モネーーそう彼女こそが勇者を悩ませる種でもあり、十二回目の再会を果たす。

「もうそろそろで魔王と対決だもんね。緊張しないほうがおかしいよね 」

 そう言って揺れる木の葉を見詰めるアネの瞳を見ることが出来ず、無言のままその場から立ち去る。

 だが、急に歩くことさえままならない頭痛に、ふらつく勇者に手を差し伸べたようとしたアネの手を払った。

「ごめんねぇ。もしかしてわたしの手、汚かった……」

 心配そうに見つめるアネのことなど見向きもせず、勇者は無言のまま酒場に戻った。

 その夜、千年に一度の流星群を見るため多くの人々が外に集まり、夜空を眺めていた。期待に胸を躍らせる者で溢れる中、その時はやってくる。一筋の流れ星が夜空を駆け抜けると、それに続くように無数の流れ星が夜空を埋め尽くした。

 皆目を輝かせながら流星具を見惚れている中、勇者は部屋のベッドの上で流星群を見てすぐに、眠りについた。

 それから二週間の月日が流れたのに、相変わらず勇者はアネに対して冷たい態度を見せてるせいで、場の空気が重たいまま旅の終着点でもある魔王の根城が見えるところまでたどり着く。

 この荒れ果てた荒野を突き進めば最終決戦は間近ーー勇者たちは心をひとつにするため気合を入れ直す。だが、勇者だけはうつろな目をしながら荒野を歩き続ける。

 すると、勇者たちの前に突如として現れた魔王に三人は武器を構える。それなのに勇者は武器も構えず、魔王を見るだけ。

「さぁ、武器を構えたまえ。この場で決着をつけよ」

 魔王は背負っていた〈がしゃどろくの剣〉を抜けば、漲るがしゃどろく剣に圧倒されて、勇者を除いた者たちは気を張った。

 己の全てをかけて仲間たちは魔王に挑むのに、勇者はまだ

 立ち尽くすのみ。魔王の圧倒的な力の前に成す術もなく、仲間たちは魔王に駆逐された。それでもまだ勝利することを信じてやまない仲間達は力を振り絞り立ち上がる。

「前菜の時間は終わりだ。次はメインディッシュの時間だ」

 魔王はがしゃどくろの剣を天高く突き上げると、剣に取り付けてあるいくつかの髑髏から、髑髏の形をした幽霊が飛び出てきた。そして、荒れ果てた荒野に住み着く幽霊たちを捕食し始める。

「かつてここは人間どもと争いで、今もなお憎しみを抱いた亡者どもで溢れかえっている。それを食らうことで、私は更なる高みの存在となる」

 がしゃどくろの剣は亡者の魂を捕食したことにより、更なる力を宿し、魔王を盤石なものにした。

 強大な力を見せつけられても仲間達は臆することなく戦うが、すべてを知る勇者には結末が見えていた。最初の頃は愛する者(アネ)を失わぬためーーがむしゃらに戦っては敗北を繰り返し、愛する者の死顔を見届けた。

 いつしか勇者は戦いを放棄し、遠くで見守るだけになった。

 また魔王の手によって愛する者が命を奪われた。

 すると、勇者の中で抱えていたものが一気に弾けた。

「お・・・はなん度もオレを裏ぎり、騙し、嘘をついてきた。どれだけ否定しても、お前の闇の部分だけが頭から離れない。お前を殺したいほど憎い」

 タイムループを始めてから七回目付近で勇者に変化が訪れた。アネの闇の部分を見てから、勇者の心が淀みだし、虫の息のアネを憎しみを込めて刺そうとした。

 しかし、アネの死にゆく顔に我に戻った勇者は自らの腹部に短剣を刺し、再びタイムループを繰り返した。

「これで最後で嬉しいよな、オレ!お前に会えなくて嬉しいよな、オレ!!」

 どれほど自ら問いかけても、所詮は偽りの言葉を並べたにすぎない。

 そして、勇者は涙を流しながら「もっと君のそばに居たい。もっと君の笑顔を見たい。もっとーー」

 そう言いながら勇者は一歩を踏み出すほどに、彼女との過ごした楽しい日々の数を思い出し、最後に流星群の日に交わした彼女とのキスを思い出して、勇者はアネの手を握ろうとした。


 ーーーー


 その頃、勇者の仲間の二人が横たわる勇者とアネを見守っていた。

「おかしいだろ!勇者は世界を救ったんだぞ。魔王を倒して世界も救ったのに、どうして勇者がこんな目に遭わなきゃいけないんだ」

「わたしに言わないで。ぃま勇者は嘘を信じ込まされ、真実が黒く塗りつぶされた世界にいる。途方もない苦痛を12回も繰り返されて、正気を保つのは並大抵のことじゃない」

「いつ戻るんだ。絶対戻るよな?」

「それは誰にも分からない。私たちが出来ることは信じて二人を待つことだけ」

 魔王を倒しても戦場はケガ人で溢れるばかり。こうしちゃいられないと仲間の一人が手助けに向かった。

 もう一人の仲間が人形のように眠る勇者とアネを見てると、春を知らせる南風が長い髪を靡かせた。

 そして青空を見上げる真下で、握られていた手が微かに動くのであった。

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