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怪編.異世界から会いにいく(バッドエンド)

エンディング(ハッピーエンド)と置き換えて読んでみてください。

 ナナハルはメロー姫と婚姻の儀を行った。ノエルメシア王国の国民は二人を祝い国王も満面の笑みで称えてくれた。パレードを終えたナナハルが笑顔で胸に飛び込んでくる。


 ドスッ。受け止めた瞬間、腹部に大きな衝撃が走った。体感レベル調整がなぜか機能していない。


「なっ」


 賢人は訳が分からず、強ばった体を懸命に動かしナナハルの方に顔を向ける。


 ナナハルはゆっくりと賢人から離れると、賢人の体には宝玉のナイフの柄の部分が突き立てられていた。


 それを認識した途端、体中に激痛が走る。内側から鉄の味が漏れ出し、口から赤い血がしたたる。

 意識が朦朧(もうろう)として、たまらず膝から崩れ落ちる。かすかな土の匂いを感じながら視界は暗闇に落ちていった。




 夕暮れの稲穂が実った陸稲(りくとう)の間を、賢人は力の限り走り続けた。


 重たいランドセルを背負いながら、畦道(あぜみち)を懸命に走る。走って走って家まであと少しと思ったその時、背中を強く押されて体勢を崩し前のめりに倒れた。


 バシャン、そこは地面ではなく沼だった。手足をばたつかせるが体がドンドン沈んでいく。体に泥がまとわりつき自由が奪われていく。


 胸まで沈んでもがき続ける賢人は、賢明に手を伸ばし、路肩に立つ人影に助けを求める。


「賢にい、助けて」


 口から突いて出た叫び声は、ナナハルの声だった。目の前の人影は賢人だった。賢人は呆然と立ち尽くしていた。


 やがてナナハルの頭は沈み、左手だけが、助けを求める。暗い、苦しい、寒い……。


「ナナハル!」


 叫んだ声は既にナナハルには届かない。そしてナナハルの姿は無くなり、ボコっと泡が浮き立つと、静まりかえった沼に蛙の声が鳴り響いていた。




 事件が起きたあの日、賢人はナナハルと下校していた。


 ナナハルは上機嫌で途中の草花や昆虫に興味を持ちながらあっちへふらり、こっちへふらりと寄り道しながら歩いていた。賢人は網に入ったサッカーボールを蹴りながら早く帰りたいのにと、ナナハルの行動に少しいらついていた。普段からナナハルの世話が面倒だと思っていたこともあり、少し早歩きで帰り道を進んでいく。


 賢人との距離に気づいたナナハルは「待ってー賢にいー」と無邪気に後ろをついてくる。


 反抗するつもりは無かったが、賢人はナナハルとの距離を取ろうと脇道にそれて走り出した。


 ナナハルはいつものように無邪気に追いかけてくる。賢人は更に険しい道をわざと通って、ナナハルを振り切ろうと考えた。一心不乱に道なき道を走り続ける。


「待ってー」ナナハルの声は次第に小さくなっていった。


 どれくらい走ったのか、自分でも気づかないほど走り続けた結果、大きく日が傾いていた。周囲を見回しても自分の場所が分からないほど帰り道から大きく外れてしまっていた。


 バシャン、後ろから大きな音がした。ナナハルの声は聞こえない。賢人は水音がする方へ向かって走り出した。


 しばらくすると、大きな沼に出た。その中に激しい水音を立てながら、もがいているナナハルが目に付いた。


 状況は逼迫(ひっぱく)していたが、賢人は硬直(こうちょく)して動けない。自分のせいでナナハルが危険に(さら)されている事に、このままでは親に叱られてしまうという思いが頭に過っていた。


 どうしよう、どうしようとパニック状態に(おちい)った賢人は、みるみる沈んでいくナナハルに向かって叫ぶことしか出来なかった。




 強制ログオフされた賢人は、ゲーム会社の休憩所でプルトップの閉まった缶コーヒーを片手に持ったまま、ぐったりと肩を落とし感傷に浸っていた。


 T研で見た夢はナナハルの記憶の一部が流れ込んできたのかもしれない。


「ナナハル」


 ぽつりと呟き、罪悪感が湧き上がってきた。ナナハルは異世界に召喚された訳では無い。一高に(さら)われた訳では無い。賢人の後を追って、知らない沼に落ちて死んだ。それは今まで、賢人しか知らないはずだった。


 ナナハルの強い怒りが異世界転生という人知を超えた現象を起こしたのかもしれない。このまま、両親に説明したら大変なことになる。恋歌さんに気づかれたら通報されてしまう。


 今までの自分の人生が、ナナハルの存在によって全て失ってしまう。ナナハルが、俺を殺しに来る。

『終わりよければすべてよし』ということわざがある。ナナハルは異世界で姫と婚姻し幸せに暮らしている。ここで家族がしゃしゃり出る必要は無いだろう。このことは両親には伏せておこう。それで全て解決だ。


 そう思っていた。


 光音からこの言葉を聞くまでは。


「ついにゲートを発見しました」


 興奮した声で、賢人のスマホから光音の声が聞こえてくる。入力装置を小型化、量産化に入っていたゲーム会社では、それと並行して一高が発生させたゲートの構造を解析していたのだ。


「え?」


 それは予想外の展開だった。こちらから行かなければ良いと思っていた賢人は、内心動揺していた。しかし、ずっと連れ戻したいという思いで、光音達を巻き込んでいた手前、やっぱり困るという訳にもいかない。そんなことを言ったら、あらぬ勘ぐりをされてしまうに違いない。


「お、おう、ついに見つかったのか、アハハ」


 わざとらしくなっていないかハラハラしたが、光音は祝福してくれた。晴れて七治達が地球に帰還できるのだ。恋歌さん達の頑張りも報われることになる。本当に余計なことをしてくれものだ。


「それで、そのゲートの場所とか、えっと、どうやって七治達を帰還させるのかな?」


 今後の対策を練るため、七治達の行動を知っておかねばなるまい。


「実はその、もう下準備はできてました。橘先輩をビックリさせようと思って、もうすぐこっちへ来る予定なんです」


 バタン。光音の話を聞いた賢人は放心状態になって思わずスマホを落としてしまう。慌てて拾い直し、謝罪する。


「お、お、おおう、そうなんだ。すっげービックリして思わず、スマホ落としちまった、わるい」


「そんなにビックリしてくれるなんて、サプライズ成功です。実は光ちゃんのアイデアなんです。だから皆さんも呼んでおきましたんで」


「え?」


 もうこれ以上無いサプライズだが、一体誰を呼んでいたのか、聞かない訳にはいかなくなった。


「だ、誰を、呼んでるって?」


 光音は含み笑いをしながら、もったい付けながら発表する。


「橘先輩のご両親でーす」


「どはー!」


 両親には黙っていたのに、既に七治の事を光音の方から伝えていたのは、まったく気づかなかった。そうなるともう七治から両親に本当のことがバラされてしまうのは時間の問題だ。賢人は動転しながらも、最小限のダメージで回避する方法を賢明に模索する。


「あのー、橘先輩? ゲーム会社の方へお越し頂けますか?」


「今日?」


「ハイ」


 光音はサプライズすぎるサプライズを実行していた。もう賢人に残された時間は無い。開き直って白を切る作戦に出ることにした。




 ゲーム会社のVR装置が置かれたフロアで、橘家から両親と賢人、源家から君枝さんと光ちゃん、そして薫子と恋歌さんが一堂に会した。


 社長の瑠李さん、社長秘書の新藤秋穂、そして光音が大きな鏡の前で説明を始めた。


「今日は、橘家の皆さんにとって大切な日になるでしょう。うちのバカのせいで本当に今まで辛い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。罪滅ぼしとまではいかないでしょうが、ここに七治君をお呼びいたします」


 瑠李さん達はこちらにむかって深くお辞儀した。そして鏡の脇に移動してその時を待った。


 父は既に男泣きしている。母も目をハンカチで拭い、七治の無事を喜んでいる。賢人は鏡から一番遠い場所に移動した。薫子はその様子を見て、あることに気がついた。


「ケンちゃん、その紙袋、何? プレゼント?」


「あ、いや、これはちょっと、アハハ」


 賢人は曖昧な返事をして、紙袋を後ろ手に隠した。


 しばらくすると、鏡の表面が歪み虹色に変色した。まるで油を垂らした水面のようにグニャリグニャリと色を変え、形を変えて波紋が広がる。


 そのうち、表面が持ち上がり虹色に変化する人型の人形が出てきた。その色は次第に流れ落ち、七年前失踪したままの七治が姿を現した。


「七治!」


 母はその姿を見るなり、叫んで七治に飛びついた。七治は照れくさそうに、母のことを抱きしめ返す。父もその様子を見て、一層涙が溢れて出ていた。薫子も恋歌さんも、君枝さん、光ちゃんまでもが感動の再会にもらい泣きしていた。


「母さん、ただいま」


「ええ、ええ、お帰り」


 母は何度も頷きながら、七治の頭を優しく撫でた。父が近づき、七治の肩に手を乗せる。


「七治、おまえ、全然変わらねぇなぁ」


 笑いながら我が子を迎える。その顔は涙でグシャグシャになっていて泣き笑い状態だった。


「父さんは、……しわが増えたね。あと白髪」


「まあな、でもまだまだ現役だぜ」


 腕の力こぶを見せて、大笑いした。


 七治は母の背中を(さす)って椅子に座らせると、瑠李さんの方を向き深くお辞儀した。


「この度は、僕達を地球に帰還する方法を見つけてくれてありがとうございました」


 七治はここでも真面目に、一人一人と向き合ってお辞儀をした。


 君枝さんには異世界での冒険で一緒に戦ってくれたことを感謝した。


 光ちゃんと恋歌さんには「はじめまして」と自己紹介をした。


 薫子には「異世界とは全然違って、最初何処のお嬢様かと思った」と冗談交じりに会話が弾んだ。


 そして、賢人の前で七治はニッコリ笑って、「ただいま」と言う。


「お帰り」


 (はた)から見れば、本当の再会に感動するところだが、異世界での衝撃を思い出し、一歩退いて身構える。


 両手を後ろ手に回したナナハルは、賢人に少しずつ歩み寄る。


「賢にい」


「七治!」


 七治が手を前に突き出した瞬間、賢人の頭の中で今までの出来事が走馬灯のように蘇る。そして異世界で受けたナイフの柄の映像が今と重なり、咄嗟に手が前に出る。


 ドン。七治を突き飛ばし賢人はそのまま鏡の方へ全力で走った。そして叫びながら鏡の中へ飛び込む。鏡は水面のように波紋を残し賢人の体を飲み込んだ。


「賢人!」


「ケンちゃん!」


「賢人君!」


「橘先輩!」


 口々に賢人の行動に驚き、声を上げる。しかしその声を聞くこと無く賢人は鏡の中へ消えていった。


 突き飛ばされた七治の手には白い木で作られた勾玉が握られていた。賢人が持っていた紙袋からは、果物ナイフが出てきた。


 その真相を知るものはこの世界にはいない。異世界から舞い戻った七治を除いては。

ナナハルが失踪した前提を覆すサスペンス調になってしまいました。あくまでパラレルワールドという形で認識して頂きますようお願いいたします。


以上で『異世界で会いましょう』全話終了となります。最後まで読んでくださり誠にありがとうございました。まだまだ素人感丸出しですが、次回作ありましたらまた宜しくお願いします。


また感想・評価・誤字報告もお待ちしています。お時間あれば一言お願いいたします。

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