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48.七治の決断

 ナナハルがやっと目を覚ました。

 ベッドの上で上体を起こし、隣に座る楓と談笑していた。

 賢人に気づくとナナハルは手を振り、楓はペコリと軽くお辞儀をして出迎えてくれた。

 ガルシア同様、魔王城での出来事は覚えていないという。

 ただ、悪魔から解放されるときだったか、楓を見た気がすると振り返る。

 とにかく楽しい夢だったとナナハルは無邪気に笑った。


「こっちは死に物狂いでやってたってのに、まったく」


 ぼやきながらも賢人はナナハルを思いっきり抱きしめた。

 無意識に体がそう動いてしまったのだ。

 ナナハルが恥ずかしいよと言いながら、照れくさそうに笑った。

 部屋の入口の影で遠慮がちに再会を見守るメロー姫の姿があった。

 そこで賢人はメロー姫に声を掛ける。

 ナナハルと楓の視線が入口の方へ向けられると、メロー姫は隠れてしまった。

 賢人はたまらず隠れたメロー姫の手を引っ張って強引に部屋に連れ込むと、ナナハルのことを献身的に看病していた事を伝えた。

 メロー姫は恥ずかしそうに顔を逸らしながら手を勢いよく振って否定していたが、顔が赤らんでいるのを賢人は見逃さなかった。


「メロー姫、ありがとうございます」


 ナナハルの言葉があまりにも他人行儀で、落胆させたかと心配したが、メロー姫はうれしそうにしていたので、まあよしとしよう。

 とにかく今までの事、先代魔王や天界で楓と出会った時の事なんかを振り返り、最後に現状を伝えた。


「地球に帰る方法はまだ、見つからないんだ」


 それを聞いたナナハルは、悲しむ訳でも喜ぶ訳でも無く「そうなんだ」と独り言のように呟いた。

 部屋は静寂に包まれ、しんみりした空気が流れた。


 一方、魔王の侵略が無いことを知ったノエルメシア王国では、誰もが上機嫌だった。

 勇者ナナハルと天使の加護を持つ少年、楓を称えてお祭り騒ぎだ。

 国王は勇者ナナハルの回復を喜び、宴を催してくれた。

 食堂で食べたようなオートミールやライ麦パンでは無く、牛、羊、鶏の肉や木の実、ジャガイモ、にんじん、タマネギなどを煮込んだシチュー。

 ニシンや鱈、サーモンなどの魚料理。

 他にも粗挽きソーセージの盛り合わせ、チーズを乗せた真っ白な小麦パン、エンドウ豆のスープなど豪勢な料理が並べられた。

 飲み物はビール以外にもフルーツワインやシード、アーモンドのミルクが振る舞われた。

 王族の食事は贅沢の極みだった。

 普段、街の食堂で出されたメニューがいかに質素か再認識させられる。

 この世界の暮らしは決して楽ではない。

 賢人はエールを片手に空を見上げ、ほろ酔い気分で満天の星空をぼんやりと眺めた。


 スノークロックではアルファテストの結果を踏まえて、VR装置の開発を本格的に開始した。

 入力装置の大きさは一気に畳二畳ほどに圧縮され、年度内に稼働させる予定。

 順次サーバーもアップグレードして、全世界で増産していく計画らしい。

 それとマキさんから、トートバッグが見つかった地下室の床下から、魔方陣が見つかったと報告があった。

 ペンキで上塗りされていたらしく、現在慎重に塗料を剥がして分析中とのことだ。

 この魔方陣が起動できれば、異世界へ繋がるゲートが開き、往来できるかもしれないという希望が生まれた。

 一高が光に包まれる直前、ゲートには膨大なエネルギーが必要だと言っていた。

 魔方陣を動かすためのエネルギーを地球で生み出すにはどうすればいいのか。


 異世界へ入り、賢人はナナハル、楓、ガルシアにその事を報告した。


「賢にい、僕たち決めました。

この世界で生きていきます」


 賢人は意外な答えに戸惑った。

 しかしナナハルは笑顔で頷き、楓とガルシアも晴れやかな顔をしていた。


「色々あったけど、これ以上、賢にいに迷惑掛けたくない。

だから一旦、決着を付けよう」


 召喚魔法を理解しても、改変することは難しい。

 もし地球で方法が見つからなければ、諦めよう。

 賢人がいない間、すでに話し合っていたと明かした。

 異世界を経験した時間が長いからこそ、そういう結論でも納得できるという。


「もちろん方法が見つかったらうれしいし、父さん、母さんにも会いたい。

おばあちゃんの墓前にも、でも理由はそれだけじゃ無いんだ」


 三人はお互い、顔を見合わせると軽く頷いて賢人に向き直る。


「異世界で時間の流れが歪められているのは聞きました。この容姿を見れば判ると思います」


 ガルシアがナナハルの事を指さして同意を求められ、賢人は頷いた。


「問題は帰還できても、時間は調整されるのかどうかです」


 賢人は意味が理解出来ず首を傾げる。


「もしこの姿のまま戻ったら、ご両親と再会して、ナナハル君は地球で暮らすことが出来るでしょうか」


 賢人はナナハルが地球に戻ったときのことを想像してみたが、特に不自由になる事は思いつかなかった。


「ナナハル君だけでなく、私と楓君もそうですが、地球では何年も前に失踪したことになっているのに、この見た目は変ですよね」


 ああそうか、ガルシアが言おうとしていることがやっと理解できた。

 ナナハルは十歳。

 失踪して七年は経っているので、光音やヒカリと同じくらいでないとおかしい。

 警察に説明するのが大変だ。

 そうなると戸籍上おかしくなって、別人扱いにされる可能性もある。


「他にも人間関係だったり、認識の違いで今の地球社会に溶け込めないかもしれません。

なんだかんだいっても魔法は便利ですから」


 ガルシアの言葉にナナハルと楓は頷いた。

 賢人は地球に帰還できれば失われた時間が巻き戻り、明るい生活が待っていると思っていた。

 しかしゲーム世界が現実化することで、複雑にさせてしまう事さえあり得る事態に気づかされた。


「でも今後、帰る方法が見つかったらどうする、それでも帰れないか」


「それは」


 賢人の質問にナナハルは唸り、考え込んだが、思い出したかのように手を叩いた。


「その時考えよっか」


 運命に身を任せるのも必要なことだと、妙に自信ありげに諭された。

 いつまでも悲しい顔をしてはいられない。

 そんな決意を既に三人はしていたのだ。

 暫く見ない間に立派に成長していた弟の笑顔に、賢人は涙で直視できなかった。

 いよいよ次話でエンディングになります。が、今回はハッピーエンドとバットエンドを作ってあります。ハッピーエンドが本エピソード、バットエンドはパラレルワールドと思ってご覧下さい。まずはハッピーエンドから投稿します。


■プチっと業務連絡

2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。


▼朗読動画の再生リスト

https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p

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