46.魔王の実力
「それで、作戦はあるの?」
作戦の全容が掴めない賢人は、魔王城に向かう道中で先代魔王に質問した。
先代魔王は遠足にでも向かうように、大きく手を振り行進しながら「大丈夫ぅ」と陽気に答えた。
「魔王を倒す方法は?」
「その質問、魔王に聞いちゃいますぅ?」
「だって、他になんて聞けばいいのさ」
「弟くん救出の要は彼です。
その時になったら合図しますから。
もーお兄さん、心配性なんだからー」
矢継ぎ早の質問にも、先代魔王は相変わらずの口調で答える。
まったく緊張感がなく、心配と不安しかない。
とりあえずナナハルの正気を取り戻すには、楓の力が必要だということはわかった。
それを聞いていた楓は顔を強ばらせ、更に足取りが重くなった。
――魔王城。
暗雲は消えても、中央の塔から漏れ出る邪悪なオーラが魔王城全体を覆っていた。
メンバーは円陣を組んで気合いを入れ直す。
まずは四天王との戦いに備える。
フレグランスが賢人、マッチャー、ノイマンに防御力強化の魔法を付与する。
前回はナナハルとガルシアがいたので簡単に討伐できたが今回は違う。
それに加えてアラキ、オリジンもいないので大幅に戦力が落ちていた。
先代魔王と楓の、いや、先代魔王の戦力に期待するしかない。
賢人とマッチャーとノイマンが前衛、フレグランスが魔法で援護、ネコメは魔獣を召喚して後方から参戦する。
楓はそのさらに後方から参戦、というより身構えて震えている。
いきなり実践で、しかも悪魔幹部相手では無理もないか。
いざ出陣とノイマンが扉に手を掛ける。
きしみ音を立てゆっくりと扉が開き、部屋の真ん中でガミジンが賢人たちを睨んでいた。
そこへ先代魔王が前に飛び出し、左手を突き出し手のひらを返して言い放った。
「お手!」
ガミジンは叫び声を上げながら、苦しそうに首をもたげて、その巨体を前屈させ、ひれ伏した格好になった。
体全体が見えない力で押しつぶされているように、ガミジンの巨体が小刻みに震えている。
絶対服従はどんな悪魔にも容赦なく発動するのか。
魔王の特殊スキル、半端ない。
呪縛に堪えられなくなったのか、ガミジンは奇声を上げながら最後は黒い霧となって消滅した。
圧倒的勝利。
続くヴァッサゴ、アガレス、バエルでさえ魔王への絶対服従には太刀打ち出来なかった。
扉の封印が破られ、ナナハルとガルシアが待つ魔王の間へ向かう。
この圧倒ぶり、賢人はいけると確信した。
「懐かしいですぅ、このジメジメとした空気。
ただいま、魔王城」
数百年ぶりの住処へ戻ってきた先代魔王は、感慨深く周囲を見渡す。
そして玉座に座るナナハルを見据え、感心したように頷いた。
「彼が弟くんですかぁ、何とも凜々しいですぅ、魔王の貫禄十分ですねぇ」
賢人にとってはうれしくない褒め言葉だったが、先代魔王はご機嫌だ。
ナナハルとガルシアはすぐに戦闘態勢に移行した。
ガルシアはあのときのように呪文を唱え、サタンを召喚。
呼び出すなり別の呪文を詠唱し、巨大な火球で先代魔王に先制攻撃。
その火球をひらりと回避した先代魔王はサタンの前に躍り出た。
ネコメが召喚したゴーレムが前進。
フレグランスは土壁の魔法で目の前に分厚い防御壁を展開。
ゴーレムは火球を抱え込んだが、勢いに負けて粉砕。
防御壁も貫通し、魔王の間には衝撃音が響いた。
ゴーレムと防御壁でできたわずかな時間で、賢人たちは楓と一緒に入口から離れていた。
サタンは叫び声を上げ威嚇するが、その場を動けないでいた。
目の前に小さな、しかし圧倒的な力を放つ先代魔王が対峙していたからだ。
髪の毛は逆立ち、般若のような形相。
サタンに加え、ガルシアとナナハルにも、先代魔王しか見えていないようだ。
みんなの視線が先代魔王、一点に注がれる。
ナナハルは竜の大剣を抜刀すると、切っ先を先代魔王に向けた。
ネコメと楓はゆっくりと、気づかれないようにナナハルの方へ歩み寄る。
ガルシアが風の魔法を展開、無数の竜巻が魔王の間を駆け巡る。
その魔法を避けながら賢人、マッチャー、ノイマンは距離を詰める。
賢人のマジックショットガンには炎の魔法が封印された弾が装填されている。
ガルシアから一定の距離を保ちながら回り込むように移動すると、タイミングを合わせて弾丸を発射する。
ガルシアは先代魔王を警戒しながら自身の周りに滝のような水の壁を展開。
炎の弾丸は音を立てて蒸発すると、ガルシアは跳躍して賢人に火球攻撃を開始。
賢人は反転して先代魔王の方へ駆け出した。
マッチャーは魔獣の剣を振りかぶってガルシアへ突進。
ノイマンもハルバードを両手で高々と持ち上げ、飛びかかった。
フレグランスが放った氷の槍の攻撃でガルシアの動きを一瞬封じると、マッチャーとノイマンの同時攻撃が炸裂。
賢人は後退する二人の動きにタイミングを合わせて、ガルシアに炎の弾丸を打ち込んだ。
一方サタンはついに攻撃を仕掛けたが、先代魔王にはダメージを与えられなかった。
「いいパンチだ。面白いですよぉ、さーて、次はコッチの番ですかねぇ」
先代魔王は左拳を二回突き出すと、続けて右の拳を繰り出した。
振り抜いた腕から巻き上がった竜巻が生き物のようにうねり、サタンの脇腹に炸裂。
轟音と共にサタンは大きな巨体をくの字に曲げて、うめき声を上げる。
「先代の時代は、もう終わったのです、何故、このような仕打ちを、されるのですか」
サタンは顔をゆがめながら、先代魔王に問いかけた。
「僕はただ自由に生きたいだけです。
今はたまたま貴方がたが敵に回っただけのこと。
理由なんて、ありはしませんよ」
先代魔王はそう言って、サタンに何度も攻撃を浴びせた。
腕を交差させ防御姿勢を取ったサタンは、打たれるがまま、反撃することができない。
ナナハルが先代魔王の横から一閃を放つ。
先代魔王はいともあっさりと真っ二つに切断された。
その刹那、断面から黒い炎が湧き上がり、体の傷が消え、元に戻った。
「勇者の力を持つ魔王とは、なかなか骨があってよろしい」
先代魔王はナナハルをその場に置き去りにして、瞬間移動したかのようにガルシアの前に現れると、ボディーブローを加えた。
ガルシアは直撃を受けて弾き飛ばされ、塔の壁に埋もれて意識を失った。
ガルシアに召喚されていたサタンが消失。
「楓さーん、出番ですよー。
天使を呼び出して、弟くんに突撃させて下さい」
「は、え、天使、えー」
突然呼ばれた楓は動転していた。
ナナハルが楓の方を向く。
その時ナナハルに変化が起きた。
大剣から手を離し、無防備に立ち尽くしたのだ。
「か、か、かえ、で」
ナナハルは意識が戻ったのか、言葉を発した。
「楓さん、天使を!早く」
先代魔王は叫び、楓は慌てて転倒しながらナナハルの前に出る。
そして体を強ばらせながら起き上がり、使命を全うするように、目をつぶって思いっきり叫んだ。
「ミカエル、お願い!」
天から光が降り注ぎ、鐘の音を響かせながら天使ミカエルが降臨した。
ナナハルは楓を見つめ、立ち尽くしたまま動かない。
ミカエルが舞い降りると、ナナハルとガルシアから抜け出るように黒い炎が現れた。
魔王は懐刀に手を掛け姿勢を落とすと、その力を解放するように一気に跳躍して黒い炎に刃を向けた。
黒い炎は切り裂かれ、金切り声を上げながら消滅した。
ナナハルはその場で倒れ込んだ。
賢人はナナハルの元に駆け寄った。
ミカエルは黒い炎を追うように光の粒子となって消えた。
賢人はナナハルを抱き起こすと、かすかに寝息を立てていた。
先代魔王を見ると、腰に手を当て右手で親指を立ててからウインクしてきた。
これでナナハルとガルシアは悪魔から解放されたのだろう。
みんなで喜び、笑いあったが、楓はその場でへたり込んでいた。
ノイマンはガルシアを担いで、賢人はナナハルをおぶって一行は魔王城を後にした。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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