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45.魔王の秘めた能力

 天界の中を何度も巡り、考えられる場所は徹底的に調べたが、帰り道になるような仕掛けは一向に見つからない。

 噴水のある中央広場に戻ってきた二人は、小休止することにした。

 賢人が水面を覗き込むと、地上で待つフレグランスたちが見えた。

 見たいと思った場所が映り込むらしい。

 すくい上げてもただの透き通った水にしか見えないのに、なんとも不可思議な現象だ。


 あら、そこの君、なにを想像したのかしら?

 決していかがわしい気持ちで覗き込んじゃ駄目だからね。


 賢人はふと考えた。

 俺だけここに来られたのは何でだろう。

 アクセルを含めメンバーたちは地上の大樹の中にいた。


「そういえばここで人間と会ったのは賢人さんがはじめてです」


 楓の言葉に賢人は頷き考えを巡らせたが、答えはでない。

 四大精霊の力で本の封印を解いたから転送されてきたとは思うんだが。

 そんなことを考えながらフレグランスたちを眺めていると、あることに気がついた。

 まったく動いていないのだ。

 楓に聞いてもそんな経験したことがないと困惑していた。

 そんな中、先代魔王がこちらを見上げてウインクしてきたときには驚いた。

 まるで賢人を見透かすように、先代魔王と目が合ったのを感じた。

 その目に吸い込まれるような、襲われるような威圧感と一緒に頭の中に声が流れ込んできた。


「やっと見つけたようですねぇ」


 先代魔王が賢人に向かって念話してきたのだ。


「なんで魔王が、天界が見えてるの?」


「そんなことはありませんけどー、ケンニイさんが僕のことを意識してくれたから、こうやって念話できたのかもしれませんねぇ」


 賢人は先代魔王の脅威を垣間見た気がした。


「それよりぃ、見つかったんですよねぇ」


「あ、ハイ。でも帰る方法が分からなくて」


「天使の精霊は、ケンニイさんと同化してますぅ?」


「あーいや、別人格です。ここにいる弟の友達が持ってました」


「そうですかぁ、他にも転生者が」


 予想が外れたのか、先代魔王は最後に気分が落ち込むような陰湿なため息を漏らした。


「それじゃあ、ケンニイさんみたいに、その方も私を意識してもらっていいですかぁ」


 理由も分からず隣に座っていた楓に、大樹の中にいる先代魔王を意識するよう説明した。


「ええ、僕が魔王の? 大丈夫ですか?」


「意識している間だけ、先代魔王と念話が出来るんだよ。

最初は驚いたけど、根は平和主義みたいだし

もう何度か試してるから、楓くんも平気だと思う」


「本当でしょうか、僕の記憶だと魔王は洗脳する魔法を持っていた気がするんですけど」


「ええ、マジか。じゃあ俺、すでに魔王の虜になってるって事?」


「うーん。そうは見えませんけど、ちょっと怖いですね」


 頭の中を覗かれているようで危機意識は持った方がいいが、これだけ探しても帰る方法が見つからないのが本音だ。

 かるーくほんのちょっとだけ、洗脳されない程度に意識してもらえればとお願いした。


「数秒なら大丈夫ですかね、判りました。やってみます」


 楓は悩みながらも先代魔王に意識を向けてくれた。


「はい意識届きました。楓さんかぁ、よろしく、では参りますー、ハーイ」


 まさに一瞬だった。

 辺りが光に包まれたと思ったら、二人は森の中にいた。


「お疲れ様ぁ、そしてお帰りなさいぃ」


 先代魔王が満面の笑みで出迎えてくれた。

 傍らにはアクセル、それにメンバーたちも揃っている。


「あら、どうしてまた森の中に。精霊たちはどこへ行ったの?」


 フレグランスは周囲を見回し、不思議がっている。

 アクセル、ノイマン、マッチャー、ネコメも状況が把握できないようで、戸惑っているように見える。


「確か、本が浮かんで精霊達が現れて……なんだっけ」


「うーむ、我が輩もそこまでしか記憶がないでござる」


「不思議ねー、いつの間に森に出てきたのかしら」


「分かりません」


 話から察すると、賢人が天界にいる間の記憶が消失しているようだ。


「正確にはぁ時間の流れが止まっていたってことですよー」


 先代魔王が理由をさらりと答える。

 賢人が天界に行っている間、地上での時間が停止していたというのだ。

 更に解除方法が大地の精霊ノーミーを気絶させたと言うから恐ろしいことをしたものだ。

 四大精霊の力で天界へ飛び、均衡が崩れると解除される。

 そんな乱暴なことを平気で実行するあたり、先代魔王のイメージがどんどん悪くなる。


「大丈夫。そんなに強く当ててないしー、数ヶ月経てば元通りよ」


 見た目が幼く落ち着きがないから余計たちが悪い。

 精霊の力を数ヶ月も弱らせる攻撃って一体なにをしたのあんた。

 それに大地の精霊の力が弱ったらこの原生林に住む魔獣が凶暴化してしまうのでは。

 心配していた賢人に魔王は一言、言っておきましたぁと付け加えた。

 魔王の存在はいつまでも魔王でした。

 魔族は魔王に絶対服従、それ鉄則。

 本はアイテムボックスから消えているのでもう天界へは行けない。

 そもそも精霊の力だけでは帰ってこれないってどんな無理ゲーだよ。

 VRじゃなかったら噴水覗き込むとか思いつかないし。


「おまえ新入りか?」


「あら、この坊やは?」


 アクセルが賢人と一緒にいた楓に気がつくと、マッチャーはわざわざ楓に近寄り質問する。

 薄笑いを浮かべて人差し指で唇をなぞると、腰を折って楓の顔をまじまじと覗き込んだ。

 楓はその行動に驚いて、恥ずかしそうに賢人の後ろに隠れると、か細い声で自己紹介をした。


「佐藤、楓です。食べないで下さい、僕なんて美味しくないです」


 ある意味、魔王と対面した時より怖がっている。

 楓は初対面の相手が苦手な、人見知りな性格かもしれない。


「彼は天使の精霊の加護を受けていて、ナナハルのクラスメイトなんだ」


 手短に楓のことをメンバーに紹介する。

 フレグランスは友好的に、ノイマンは豪快に、アクセルは高圧的に、ネコメは控えめにそれぞれ挨拶を交わす。

 すぐには慣れないだろうが、少しずつでも仲良くなって欲しいと願う賢人であった。

 アクセルの村へ戻り首長に報告する。

 首長達は先代魔王を前に、この村でできうる最高のおもてなしを用意してくれていた。

 次々と肉や木の実が運ばれてくる。

 魔人たちは歓迎の舞を先代魔王に披露した。


「なんかぁ、こんなによくしてもらって、ありがとうねぇ」


「はは、もったいなきお言葉、恐縮至極にござりまする」


 首長は先代魔王に何度もひれ伏し、頭を垂れた。

 アクセルは憮然としながら、出てきた料理を両手でつかみ取るとむさぼるように口へ運んだ。

 賢人たちもご相伴にあずかり、豪勢な食事を頂きながら、ひとときの休息を取っていた。

 ノイマンの食いっぷりは、魔王に出された分まで食べやしないかとヒヤヒヤさせられた。

 先代魔王はどこから用意したのか白いナプキンを取り出し、上流貴族のように口元を拭う動作をした。


「では、そろそろぉ、行きましょうかね」


 先代魔王が席を立つと、含み笑いを残して首長の家を出た。

 傍らにはアクセルが幸せそうな顔で眠っていた。

 首長たちは頭を地面に擦りつけて、魔人たちは列をなして魔王たちを見送った。


「魔王様、万歳! 魔王様、万歳!」


 魔人たちの熱烈な声援を浴びながら、賢人たちはいざ決戦の地、魔王城へ向かう。

 原生林にはしばらくの間、魔人たちの万歳コールが木霊していた。

■プチっと業務連絡

2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。


▼朗読動画の再生リスト

https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p

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