43.天使の里メルースと水の精霊ウンディーネ
賢人たちは先代魔王の魂が待つ古墳に戻った。
「レドモイタクニ、ホニャララパー」
先代魔王の声が頭の中で鳴り響くと、青い炎の球が肉体に吸い込まれた。
すると氷の塊が溶け始め、立ち上った蒸気で部屋が真っ白になった。
「いやぁ、ありがとうねぇ、やっと賢人の顔が見えた」
徐々に蒸気が薄れていくと、甲高い声と共に、目の前に少年がニコニコしながら現れた。
氷の塊に封印されていた少年、先代魔王だ。
「おや、君のパーティーはべっぴんさんが多いねぇ、やるなぁ色男ぉ」
今、この部屋には先代魔王以外、男が賢人しかいなかった。
そしてニヤニヤしながら賢人の脇腹を肘でつついてきた。
「メンバーは外にもいますし、今日はたまたま都合が悪かっただけですから。
変な想像やめて下さい」
賢人はまくし立てるように弁明したが、先代魔王は何度か頷くと親指を立てた。
大げさにウィンクしながら舌まで出していいねって、絶対勘違いしてるわコイツ。
「あの先代、さっきの登場間際に水の精霊から加護をもらったようなんですが、どういうことです?」
氷の塊から大量の蒸気がでて、一緒にウンディーネが上空に消えるのが見えたのだ。
「ああそれは、僕が封印されてた氷の塊って、精霊だったから。
早く外に出たくて自分で溶かしちゃったけどね、えへ」
遠回りかと思われた先代魔王からのクエストは、がっつりメインストーリーだった。
先代魔王が仲間に加わり、再びノーミーへ会うため、アクセルの住む魔人の村へ舞い戻った。
どうやらこの村に伝わる勾玉がないと大樹にたどり着くことはできないからだ。
「魔王様、こんな辺鄙な村へようこそお越し下さいました。
すぐに宴の支度をいたしますので、どうか癇癪だけはご勘弁下さいませ」
村に到着すると、村人総出で歓迎され、首長が何度も頭を下げながら挨拶してきた。
額からは尋常じゃないほど汗がしたたり落ちている。
魔王様のかけ声が鳴り止まず、えらい人気ぶりで村は大混乱である。
魔人たちの表情は硬く、その必死さが怖いくらいだ。
すぐに魔王と判るのも、魔族ならではの嗅覚を持っているのだろうか。
賢人たちは首長の家に招かれた。
「別にいいよ、ノーミーに会いたいだけだからさ。それに今の魔王はナナハルがやってるから」
「なんと、ナナハル殿が。それは大変喜ばしいことでございます」
賢人は慌ててそれは困ると今回の目的を説明した。
「というわけで私は、ナナハルたちを連れ帰りたいんです。
魔王はこの人に再任してもらう方向でお願いします」
となりでのんびりくつろぐ先代魔王を指差した。
「あんたが魔王様、まだ子供じゃん」
あとからやって来たアクセルは先代魔王の隣に座り、身長を比較するように手を頭の上で水平移動させる。
「よしなさいアクセル。魔王様に向かってそんな、魔王様、我が子が大変ご無礼を、どうかお許し下さい」
慌てて首長がアクセルを引き離すと頭を小突いて叱りつける。
「別にいいよ、僕は気にしてないからさ。みんなもそんなにかしこまらずに、ね」
そう言って立ち上がると、アクセルに歩み寄って片手を差し出した。
握手を求めたのかと思ったら、その手を頭の上にかざして身長差を確かめ、ニヤリと白い歯を見せる。
「よっしゃ、僕の勝ちー」
ガッツポーズをして大げさに喜ぶ先代魔王に、首長はあっけにとられながらも辛うじて拍手を返した。
「大人げねー、やっぱ子供じゃん」
アクセルは頬を膨らませながらツッコミを入れるが、先代魔王は小躍りして喜んでいる。
そんな調子で威厳をひけらかすこと無く応対する先代魔王の姿に緊張感は薄れていった。
周囲の大人たちも戸惑いながら拍手したり、笑い合ったりして楽しい時間が流れた。
アクセルの機嫌が直ったところで大樹を目指し、村を出た。
再び訪れた大樹の入口を入ると前回とは構造が異なり、落とし穴はなかった。
一本道を進み最深部につくと、大地の精霊ノーミーが待っていた。
賢人は竜の神殿で手に入れた封印された本を取り出し、ノーミーに差し出す。
ノーミーは本を受け取り微笑みを返した。
「それは天界への道しるべ。貴方は選ばれた。天界へ向かいますか?」
ノーミーの問いに一瞬戸惑ったが、ハイと答えた。
すると本が宙に浮かび、本を囲むように風の精霊ジン、火の妖精サラマンダー、水の精霊ウンディーネが姿を現した。
精霊たちのオーラが本に集まり、本が爆発的に光を放った。
眩しさから視力が回復してくると、そこはもう大樹の中ではないと気づいた。
雲一つない晴れ渡る青い空、ただ雲は賢人の足元に広がっていた。
綿菓子のようなフワフワした弾力のある地面。
天界と言っていたが、いわゆる天使と言われる種族たちの街があった。
街は段々畑のように斜面に作られており、頂上には宮殿のような建物がみえる。
賢人は一人だった。
ボイスチャットも通じない。
仕方がない、行こう。
行き交う天使たちは会話をしていなかった。
笑い声があちらこちらから聞こえてくる。
いや、どうだろう。
笑っているように聞こえているが、以心伝心しているのかも。
目線が合っても笑い合うだけだった。
敵意がないのは助かった。
階段を登り、宮殿へ向かう。
中央に清らかな水が湧き出る大きな噴水があった。
天使たちは水面を覗き込んでいる。
賢人も近づき覗いてみると、高い場所から見下ろしたような地上の景色が透けて見えた。
時には街が、時には城が、時にはメンバーが水面に映った。
ふとナナハルの攻略ノートに書かれた一編を思い出した。
『天使の精霊は天界に住み、地上の様子を傍観している』
この場所に天使の精霊がいる。
賢人は更に奥へと進んだ。
教会のような天井の高い建物の中に入った。
金髪のパーマで白い布を羽織り、頭の上に浮いた光の輪、そして小さな羽が背中から生えた人たち。
そんな格好をしている人たちばかりが住む街に、見慣れた風貌をした少年を発見した。
黒髪の少年は物陰で、隠れるようにうずくまっていた。
しばらく観察していたが、じっとして動かない。
賢人はゆっくり近づきそっと声を掛けた。
「あの、こんにちは。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
少年は顔を上げると、賢人を見た途端、怯えるように顔を歪ませ逃げ出した。
「あの、ちょっと君、待ってくれ」
賢人はとにかく少年を追いかけた。
目の色が黒く、光の輪も羽もついていなかった。
きっと彼は転生者だ。
学校帰りにナナハルと一緒に遊んでいた少年だと。
顔を見たとき賢人は思った。
ここで見失ったら二度と会えなくなると感じた賢人は追いつけない少年に向かって大声で叫んだ。
「君は何も悪くない。
どんなことがあっても君の助けになりたい。
だから話を聞いてくれ」
賢人の声が届いたのか少年の足が止まった。
そしてゆっくりと振り返る。
「君は佐藤楓君、だよね。
俺、ナナハルの兄で賢人って言います。
君も一緒に地球に帰りたくないか」
賢人の声かけに少年は目を見開いた。
とても驚いているようだ。
少年は賢人に向き直ると、なにか言いかけたが下を向いてしまった。
両方の腕を伸ばし、手を強く握りしめているのが遠くからもわかる。
しばらく沈黙が続いたが、ようやく顔を上げると、懇願するように叫んだ。
「帰れるなら、帰りたい!」
よく見ると、少年の目からは大粒の涙が溢れていた。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p




