42.極寒の島
賢人たちは、先代魔王の封印された肉体を取り戻す手伝いをすることになった。
場所はこの街から北に位置する小さな島にあるという。
今回のクエストは賢人、フレグランス、マッチャー、ノイマンの四人で向かっている。
ネコメは精神的なショックが回復しておらず辞退。
アラキはトップギルドからの呼び出し、オリジンも抜けられない仕事が入り不参加となった。
「何も聞こえなかったでござる」
前回の一件、外で待っていたノイマンに先代魔王の声は聞こえなかったそうだ。
隙間から中の様子はうかがい知ることができず、断末魔のような音と大きな地響き。
衝撃とともに土煙、散らばった破片。
静かになってからはネコメが泣きながら謝る声だけが聞こえていたので、相当心配だったという。
道すがら、ノイマンにネコメの泣いていた理由や先代魔王の事、念話といった話をした。
「なるほど、それで謝罪していたでござるか。
それにしてもそのゴンちゃん殿とやらが、どれほどの強者か一度手合わせしてみたいでござるな」
そう言って豪快に笑いながら、長い顎髭をなで回した。
ノイマンは先代魔王の事よりネコメが呼び出した召喚獣、ゴンちゃんの方が気になっているようだ。
街の北、大陸の最北端に着いた。
海の向こうに雲行きが怪しいエリアが見える。
きっとあそこが極寒島だろう。
賢人は腰にぶら下げた巾着袋から、四角い木箱を取り出して地面に置いた。
メンバーが離れたことを確認してから、蓋を開けて中央の赤いボタンを押しこんだ。
賢人が急いで待避すると、木箱からは一発、けたたましい音が鳴り響いた。
数分後には木箱が膨張してカラクリ仕掛けのように展開すると、あれよあれよという間に桟橋になった。
そこに荒波をも乗り越えて、一隻の船がやってきた。
「お待たせいたしました」
船を運転していたのはプカルだった。
船はクルーザーのような形をした流線型で、帆を使わず魔力を後方に吹き出しながら走れるというデーネ王女が新しく作ったものだ。
桟橋に変化した木箱もデーネ王女が発案したもので、今後は世界中に展開予定とのこと。
その第一号は賢人に託され、今回早速使わせて貰ったというわけだ。
ちなみに通常は運賃が発生するそうで、距離に応じて加算されるタクシーのような商売を考えているという。
ここまでくると、デーネ王女も転生者ではないかと思えてくる。
「準備はいいですか、では参りましょう」
全員が船に乗り込むと、プカルはそういって手慣れた手つきで船を操縦する。
「すごく上手だね、随分練習したの?」
「はい、この船ができてから、楽しくてずっと乗ってたらこうなりました」
海底都市でもプカルの技量はお墨付きらしい。
趣味が仕事になるってこういう人なのかも知れない。
でもプカルは王女の娘なわけだし、まさかこのまま続けるわけないよな。
「今日は初めてお客様を乗せての運行なので、ちょっと緊張しますけど、安心して下さいね」
髪を靡かせながら、はじける笑顔がとてもきらめいて見えた。
デーネ王女には最高だったと報告しておこう。
賢人は思った。
船が島に近づくほど寒さが厳しくなってきた。
吐く息は白くなり、鼻水をすする回数は増えていった。
VRでログインしている賢人は、ステータスから体感レベルを最小に変更した。
島は極寒と名がつくとおりの凍てついた大地だった。
プカルは見事に着岸させることに成功。
流氷がある中、よく到着できたとプカルに最大級の感謝の言葉を贈った。
メンバーが上陸し、プカルが出港すると、船はすぐに見えなくなった。
辺り一面銀世界、というより、先が見通せないほど吹雪いている。
当然立っているだけでも体力が奪われていく。
回復させるためハイリンゴのシードルをがぶ飲みするが、次第にお腹が痛くなってきた気がする。
寒さ耐性がついた装備をつければ、体力が減らないことをだいぶ歩いてから知らされた。
賢人はモコモコの帽子、防寒着、蛮族のすね当てを装備して、体力が減らないことを確認。
うれしさのあまり、ガッツポーズと一緒に鼻水が出た。
バカね、とフレグランスに冷たくあしらわれて、心が凍り付いた。
先が見通せないなか、先代魔王の魂が眠っていた墓地から持ってきた八神魔鏡を頼りに前へ進む。
八角形の石版に魔方陣のような模様が彫刻され、中心に円形の小さな鏡がついている代物だ。
これで居場所が分かるそうだが、正直使い方がよくわかっていない。
とにかく、ただひたすら前進した。
どっちの方角に歩いているのかさえ分からなくなった頃。
「あそこになにか見えるでござる」
先頭を歩いていたノイマンが目の前を指差した。
賢人にはなにも見えなかった。
半信半疑のまま、ノイマンのあとを追う。
そこには小さな祠が建っていた。
たぶん鳥居が無ければノイマンさえ気づかなかったと思う。
石でできているようだが、雪で半分景色と同化していた。
祠の台座には八神魔鏡と同じ形状のくぼみがあった。
賢人は石版をそのくぼみにはめ込んだ。
すると石版の鏡に光が反射して、祠の一点に光が集まった。
地響きと共に台座が後方にずりさがり、その下から隠し階段が現れた。
四人は感嘆の声を上げ、大いに喜んだ。
先代魔王の肉体はこの奥に封印されているに違いない。
ノイマンを先頭に、賢人、フレグランス、マッチャーと慎重に階段を降りていった。
そこはまさに地下ダンジョン。
湿気が多く苔が所々に繁殖し、足も滑りやすい。
ライト魔法で辺りを照らすと、道は奥に続いていた。
途中で二回、十字路に当たった。
T字路も二回、そして頑丈そうな扉が一つ。
「ここが怪しいわね」
マッチャーはずば抜けた判断力で、迷うこと無くこの扉を見つけてしまった。
実に頼もしい限りだが、本当に大丈夫か。
ノイマンは難なく扉を解錠し、重量感のある鉄の扉に手を掛けた。
扉はきしみ音を立てながらゆっくりと開放していく。
隙間からライトを照らし、中の様子をうかがうが、敵が潜んでいるわけではないようだ。
中に入ると一つの広い空間になっており、中央には宝箱が一つ置いてあった。
「宝箱、この中に先代魔王の肉体が封印されているのか?」
「このダンジョンの入口が封印されてたわけだし、罠の可能性は低いと思うわ」
「同意いたす」
賢人は二人の安直さに首を横に振った。
「甘い、そんな簡単なわけないじゃん。それにほら、小さすぎるよ」
宝箱はゲームでよく見る装飾が施された形のもので、棺桶ではない。
「開けてみればわかることでしょ。ノイマン、開けなさい」
ミミックが現れた。
宝箱の形をした、冒険者をだます魔物だ。
ノイマンが宝箱に近づいたとき、正体を現した。
目の前にメッセージとともに、戦闘コマンドが表示される。
「うわぁ、ゲームっぽい」
はじめて出たコマンドに驚いた賢人は、思わず顔がにやけている。
ノイマンは10のダメージを受けた。
フレグランスはマッチャーに強化魔法を唱えた。
マッチャーの闘志に火が付いた。
マッチャーの攻撃、ミミックに大打撃を与えた。
1053のダメージを与えた。
最後はマッチャーとノイマンの容赦ない攻撃の嵐で、ミミックは先制攻撃した甲斐も無く倒された。
フレグランスの回復魔法で一息ついた後、部屋の中を調べたがなにも見つからなかった。
賢人たちは来た道を戻り、ほかのルートを探すことにした。
最後に行き着いた場所は袋小路になっていた。
ダンジョンの構造はシンプルで、マップはすぐに埋まった。
「一体どこにあるのかしら」
マッチャーは独り言のように呟いた。
突然ノイマンが武器をとると、壁に向かってハルバードを思い切り振り下ろした。
ズガン、バカーン。
軽快な笛の音と共に、崩れた壁の向こうから地下に降りる階段が現れた。
「隠してあるなんて、ヒントも無しにひどいじゃない」
フレグランスのぼやきに賢人は思った。
ゲームとか映画とか必ずヒントが隠されてるけど、普通はコレが現実だよね。
「結果的に見つかってよかったでござる」
ノイマンは驚きもせず、さっさと先に行ってしまった。
賢人たちはノイマンを追いかけるように、地下へ続く階段を降りていった。
長く続く階段を降りた先には闘技場のような遺跡があった。
舞台上には人型の石像が二体、向かい合わせに立っていた。
左は勇者のような鎧を着け、右は魔王のようなマントを羽織っている。
両者、拳を前に突き出して、まるで殴り合いのケンカをしているようだ。
その周りを囲むように魔物たちの石像がびっしりと置かれている。
どの石像も舞台上を見つめ、腕を振り上げたり飛び跳ねたり今にも動き出しそうな臨場感がある。
問題はその舞台の目の前に置かれたもの。
どう見ても格闘ゲーム機のアレである。
アーケードコントローラーが設置されている。
この違和感、半端ない。
「ここは私の出番のようね」
フレグランスはコントローラーの前に座り、スティックとボタンの感触を確かめる。
忘れている人もいると思うので補足すると、フレグランスはプロゲーマーである。
そのジャンルは格ゲー。
まさにとってつけたような人選なのだ。
フレグランスは意気揚々と肩を回し、指を鳴らすと硬貨を投入した。
しかしすぐに下の穴から転がり出てきた。
会場も静まりかえり、なんの変化もない。
「百ルーク入れてみたらどうかしら」
マッチャーが腕組みしながら提案する。
この世界の硬貨は日本と同じと考えればよい。
単位はルーク。
つまり百ルークは日本円の百円に相当する額だ。
「何よコレ、全然動かないじゃない。
壊れてるわ。ちょっと賢ちゃん、店員さん呼んできて」
「ここゲームセンターじゃねぇよ」
フレグランスが百ルークを投入しても反応しないどころか、下の穴からも硬貨が出てこなくなった。
仕舞いにはやけを起こしたように百ルークを筐体の上に積み上げると、ひとつまみして器用に連続投入し始める。
硬貨は音を立て筐体に吸い込まれていく、すると石像の目が光り、ついに動き出した。
ゴゴゴ、ゴン、バタン、ズズズ。
右の石像が左へ動き、右パンチを繰り出すと、左の石像が後ろへ倒れ、中央に戻った。
どうやら一発勝負のようだ。
「なによ、今のなんなのよ、もう」
筐体を思いっきり叩いて苛立ちを隠せないフレグランス。
ノイマンは腕を組んだまま動かない。
マッチャーは不敵な笑みを浮かべて、次は私の番よと名乗りを上げた。
「もう一回、いまのは練習よ。ちょっともう一回だけ」
二人は競うように何度も挑んだ。
コントローラーと石像の動きにタイムラグがあるようで、攻撃を避けられずに一発KOが続いていた。
まさに無理ゲーである。
硬貨は一体どこに消えて、誰のものになるのだろう。
もう既に一万ルークは使ったのではと思った。
異世界のこんなへんぴな場所に、廃課金要素をいれようなどと考える犯人は一体。
一高か、一高なのか。
「なんで思い通りに動かないのよ、もう」
フレグランスはプロ根性で奮起しているが、賢人にはボタンを連打しているようにしか見えない。
マッチャーは敗戦の連続で飽きてしまったようで、横に寝そべり、気の抜けた声援を送っていた。
ずっと動じなかったノイマンはおもむろに石像の方へ歩きだした。
石像の目が光り、音を立て両石像が動き出したその瞬間。
ズシャン、バカーン。
右の石像の腕をノイマンのハルバードで一閃、粉砕する。
そこに左の石像が右パンチを浴びせ、右側の石像が後ろに倒れた。
勝利を祝うようなファンファーレが鳴り響いた。
「最初からこうすれば良かったでござる」
「言えてる」
ノイマンの言葉にメンバーは首を縦に振り、賛同した。
そのあと、轟音と共に舞台が左右に割れ、少年が閉じ込められた一塊の氷がせり上がってきた。
これが先代魔王の肉体、まるで牛若丸のような、弁天小僧のような華奢な体つきの日本男児だった。
しかも、絶対ふざけてなったであろう格好で凍結されていた。
さてどうやって持ち出そうか考えていたら、アイテムボックスにすんなり収まった。
「アイテム扱いかよ!」
賢人は叫ばずにはいられなかった。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
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