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41.魔人帝国と荒くれ者

 勇者になると宣言したものの、賢人はいまだ勇者になれていなかった。

 レベルが上がれば、勇者という職業が選べると思っていたのだが、ほかにも必要な要素があるらしい。

 プレイ歴が長いマッチャーでも、勇者になれる条件についての情報は持っていなかった。

 それならば、水の精霊の話を進めようと、海底都市へ向かった。

 海底都市ミューズでは、デーネ王女の采配で、新たな船を造船していた。

 あれから原生林の環境は安定を取り戻し、魔人の村との交流が更に発展したようだ。


「水の精霊はどこにいるかじゃと? 知らんわい」


 海底都市の玉座にはヘンジットが座っていた。

 デーネ王女たっての希望により、王は再び海底都市に戻っていたのだ。

 自由を謳歌していたヘンジットとしては、王女に地上の楽園を奪われて機嫌が悪いようだ。

 冷たくあしらわれてしまった。

 そもそも、水の恩恵を受けているからといって、単純に精霊に会えるものではないと釘を刺された。

 賢人は八方ふさがりの状況に肩を落とし、大きくため息をついた。

 それを不憫に感じたのか、代わりに興味深い情報を教えてくれた。


「魔王城から北の果てに小高い丘がある。

そこには旧魔王軍の幹部が幽閉されている牢獄があるらしい。

強力な力を持つが、性格が悪く、魔王でさえ手が付けられん問題児らしいがの。

もしかしたら精霊について、話くらいは聞けるかもしれんのお」


 そう言ってヘンジットは豪快に笑った。

 魔王が手を焼くほどの問題児と話をするって?

 精霊について本当になにか知ってるのか?

 いやいや、それでも魔王討伐をかかげた人族に話すわけないじゃん。

 これはきっとヘンジットの嫌がらせだ。

 適当に話を合わせよう。


「分かりました。貴重な話をありがとうございました」


 賢人は愛想笑いを浮かべ、感謝の意を表し、その場を後にした。

 メンバーに合流し、今後どうするか話し合った。


「ハル君とガルシアさんの実力を考えると、今のままでは勝てる気がしないわ」


 フレグランスの意見に同意するメンバー達。


「そう、そーなんだよなー」


 賢人もそれはわかっていたが、勇者になることも叶わず、行き詰まっていた。


「その幹部さん、なにしたんですかね?」


 ネコメはヘンジットから聞いた話を気にしていた。


「うんー、幹部だったのに幽閉って事は上司、つまりは先代魔王の逆鱗にふれたんだろうなぁ」


「そうとう性格は悪いとみた」


「悪魔社会もそうとう疲弊してるのかしら」


「精神的にやばい奴かも」


「あー、たまにそういう人いるよね。近づきたくない人。

怖い怖い、あーそういえばこの前、電車に乗ってたとき・・・」


 そう言って話はどんどん脱線していき、仕舞いには井戸端会議がはじまってしまった。

 そしてマッチャーがオリジンに対して不満を口にしたあと、天然なネコメが関係ない点を指摘した。


「ところで先代魔王ってどこにいるんでしょう。王の間には誰もいなかったですよね」


「そうそうそう、それは僕も気になった。誰もいない王の間を四天王が守ってる訳ないよね」


 すかさずオリジンが相の手を入れ、話を完全に差し替える事に成功。


「そーねー、勝手に王の間を離れるとも考えにくいわね。

それに、魔王が復活したからナナハル君を召喚したって話でしょ。

矛盾してるわ」


「魔王とナナハル殿が鉢合わせしたらどうなるでござる」


「この世界が終わりそう」


「想像したくないな」


 一瞬、場が静まりかえり、生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

 結局、賢人たちは魔王城の北にあるという牢獄へ向かうことにした。

 ゲス男に会うかどうかは別として、他にいいアイデアがでなかったからだ。

 魔王城から北に向かう道は、レンガ造りの街道が整備されていた。

 頻繁に往来があったのだろうか。

 今は魔物すらいない、寂しい光景が広がっていた。

 ただひたすらに歩き続けると、街道沿いに街があった。

 宿屋や居酒屋、露天といった商売の店が並んでいるが、人影は無く静まりかえっている。

 アクセルがいた魔人の村と比べても、かなり立派な造りで、冒険者や旅人がいればさぞ賑わっていただろう。

 寄り道してみようと街道から外れ、奥へ進んでみると、そこは居住エリアのようだった。

 庭付きの一戸建てが団地のように区分けされ、立ち並んでいる。

 しかし造りは簡素で、表通りの華やかさとは対照的だ。

 その中でも、一際大きな建物があったので、興味本位で入ってみた。

 広い応接間があって、内装も装飾が施されていたりと、おもてなしの心が随所に感じられた。

 暖炉の上には魔人の村で見た、ノームの置物が飾られていたので、首長の家かも知れない。

 原生林から移り住んできた魔人なのかもしれないが、建物の造りがなんというか、現代的だった。


 街をあとにして更に北上すると、目の前に現れたのは城壁で覆われた要塞だった。

 ここも無人で、城門は開放されている。

 おじゃましますと一礼して中に入ると、ここでも多くの人が暮らしていたであろう痕跡が、至る所に残されていた。

 住人たちは一体、何処へ消えてしまったのか。

 城下町を連想するような、古い町並み。

 提灯や暖簾、瓦屋根の木造建築、とても異世界とは思えない。

 まるで時代劇の撮影所に迷い込んだようで、懐かしい修学旅行気分を味わった。

 更に先へと進んでいくと建物は無くなり、やがて茂みになり、そして森になった。

 森といっても原生林とは違い、荷馬車がすれ違えるほど幅の広い道が続いている。

 そしてついに目的地、入口に鉄格子が備え付けられた古墳のような小高い丘が見えた。

 何重にも巻かれた鎖がさび付いて、赤茶けている。

 長い年月封印されているようだが、入口の周囲は草が刈られ、放置されているようには見えない。

 鉄格子の先は地下へと階段が伸びているが、かなり深いようで、暗くて奥まで見通せない。


「さてどうします」


「そんなの行くしかないっしょ」


「同意する」


「ここまできたんだし、ねぇ」


「みなさん、怖くないんですか」


 多数決の結果、ネコメ以外は賛成し、ゲス男の顔を拝むことになった。

 ノイマンの魔法で南京錠を難なく解錠し、幽閉されたであろう地下へと足を踏み入れる。

 日光が当たらなくなると、アラキのライト魔法で周辺を照らすが、大きな石で囲われた階段は、緩やかに左へカーブしながら、まだ地下へと続いていた。

 壁面や天井には色彩豊かな壁画が装飾されていた。

 最深部へたどり着くと、やや開けた空間に出た。

 唯一あったのは細長い隙間。

 更に奥に部屋があるようで、弱い風が吹き込んでくる。

 小柄なネコメと賢人は楽勝、女性陣マッチャー、フレグランスも胸が苦しそうだがなんとか通れた。

 成人のオリジン、アラキは力業で無理矢理通った。

 ノイマンだけがどうやっても通れず、石壁に顔を挟まれながらもがき苦しんでいた。

 中はとても広い空間だった。

 側面には壁画が描かれ、副葬品と思われる品々が所狭しと並んでいる。

 そして中央には大きな石棺が圧倒的な存在を放ち鎮座している。

 ヒエログリフのような象形文字がびっしりと掘られており、それはまさに墓標のようだった。


「もう、亡くなっていたのか」


 この部屋からすると、ゲス男はこの地で一生を終えたのだと思った。

 問題児でも元は幹部だったわけだし、最期は盛大に送り出したんだな。


「どーれ、魔王も手を焼くほどの問題児の顔を拝んでみましょうか」


 アラキが手をすり合わせながら石棺へと近づき、罰当たりなことを言い出した。


「私も手伝うわあ」


 アラキに続いてマッチャーもやる気満々だ。慌ててオリジンが止めようとするが、ハエを払うように邪険にされている。


「もうー、みんな懲りないわね」


 フレグランスが呆れた声で呟いた。

 竜の神殿で大変な思いをした記憶が思い出される。

 賢人は諦めて石棺へと近づいた。

 フレグランスとネコメは一歩下がって傍観する。

 アラキは蓋の切れ目に剣を差し込んでこじ開けようとしたが、びくともしなかった。

 マッチャーとオリジンは反対側から蓋に風魔法をかけるが効果が無い。


「なによーこの蓋、どんだけ重いのよ」


 三人はしばらくあーだこーだと文句をいいながらも力を尽くしたが開けることはできなかった。

 賢人は三人の様子を見て考え、ネコメに力が強い召喚獣がいないか聞いてみた。


「ゴンちゃん、この石棺を開けて」

 はい、と言って可愛いネーミングで呼ばれて出てきたのは小さなゴーレムだった。

 唸りを上げながら石棺に近づくと、振りかぶって右ストレートを繰り出した。

 ゴガン、バカーン。

 地響き、轟音と共に石棺にパンチを浴びせたゴーレムは、役目を終えて満足げに土に還った。

 石棺はというと、見事に開いた、というか粉砕した。


「おいおい、ストレートだねぇ」


 アラキは手で降参のポーズをしながら失笑した。


「ひいー、ゴメンナサイィィ」


 ネコメはゴーレムの大胆な行動に気が動転し、手を口元であわあわしている。


「おーい、どうしたー、大丈夫でござるか?」


 隙間の向こうからノイマンの叫び声が聞こえる。


「大丈夫、何でも無いわ」


 マッチャーはネコメを優しく抱きしめ、頭を撫でた。


「ゴメン、俺のせーだ」


 賢人は安易な考えで召喚させてしまったことを謝罪した。

 気を利かせて小さめに召喚してもらったというのに。

 ゴーレムにロボットアームのような作業をさせるのは、そもそも無理な話だったのだ。


「ゴべンバサイ、ゴべンバザイ」


 マッチャーにしがみつき、しきりに謝るネコメ。

 落ち着くまでマッチャーに対応を任せた。

 賢人は石棺の破片を払いのけ、中を確認したが、遺体は見つからなかった。

 手分けして砕けた破片を集めても、骨片さえ見つからない。


「どうゆうこと?」


「いや、分からん」


「お留守かしら」


「玉砕した?」


「ひーん」


 なんとも締まらない会話をしていると、砕けた石の中から青白く光る球が現れた。

 それはサッカーボールくらいの大きさで、火の玉のようにメラメラと燃えていた。


「うるさいなぁ、誰ですかこんな時間にぃ」


 賢人の耳元で、少年のような声が聞こえた。

 アラキとオリジンが、誰だ、と振り返って問いかける。

 少年のような声はみんなも聞こえたらしく、一気に緊張が走った。


「あのだからぁ、どなたです? 僕を起こしたのはぁ」


 今まで寝ていたようで、なんともだるそうに間延びした声が聞こえる。


「あいや、夜分遅くにスイマセン。私はケンニイと言いまして、冒険者やってます」


 青白く光る球に向かって話しかけてみた。


「もしもーし、聞こえないのぉ? 

ありゃ、そうかぁ。

念話ってわかるかなぁ。

僕に意識を集中してですね、頭の中で話したいことを思い浮かべてみてくれますかー」


 そう言われて今度は青い球をじっと見つめながら念じてみた。


「お、そうそう。わかりますー、ケンニイさんこんばんはぁ。

ってか僕は魂だけだから声も光も感じないんだったぁ。

今が夜かどうかもわかんないやぁ、てへへ」


 ヘンジットが言っていたゲス男の魂ってことか。

 ずいぶん想像と違った緩い声に驚いたが、性格がアレなので怒らせないように丁寧に質問してみる。


「うーむ、魔王すらというか、魔王だったと言うべきかなぁ。

転生して魔王として活動していたんだよぉ。

懐かしいなぁ、てへへ」


 ゲス男の正体は、先代魔王だった。

 しかも転生者だといっている。

 どうして肉体が消え、魂となったのか念話で質問してみる。


「それは、まあ転生者ってことで連中と色々折り合いがつかなくてねぇ。

破天荒って奴ぅ? 勇者と戦えとかどうのこうの言ってたからさー、そんな面倒なこと嫌だって、家出したのさー」


 転生した先で、今日からあんた魔王ねと言われても納得出来ないのはまあわかる。

 でも家出なんて、魔王軍は混乱するだろ普通。


「それでここまで来たんだけどぉ、森に住んでた魔人が共感してくれてさぁ。

ちょっとした街を造ってみたってところかなぁ。

前世の記憶を思い出して家を建てたりしてさぁ。

結構楽しかったよ、てへへ」


 国王は魔王を倒すべしと勇者を召喚させ、魔王軍も勇者を倒すべしと魔王を召喚させる。

 皮肉なことに戦いの歴史とは三百年という長い時間を掛け、互いに異世界召喚を繰り返していたということか。


「だけどそれを気に食わないと思う連中がいてさぁ。

僕の体を封印しに来たもんだから、あれは焦ったねー。

あ、僕ってば魔王だからさぁ、倒すために特殊な武器が必要なんだけどぉ、まあその話はいっかぁ。

一応、城壁造ったりして抵抗してみたりしてたんだけどさぁ。

争いが激しくなって魔族同士が戦ってる姿を見てたらさぁ。

何やってんだって思っちゃってさ」


 大陸の西側エリアは古くから魔王の領域として、あまり冒険者が来ないとヘンジットから聞いている。

 人族の知らないところで、魔王と魔王軍がいがみ合っていたことに衝撃を受けた。


「それでほらぁ、今では魂だけになったわけさ」


 それを知らない賢人たちが、石棺を壊して目覚めさせてしまったという訳か。

 いやまさか。ヘンジットはこうなることを予見して言ったのか?


「でも最近の冒険者って凄いねぇ。

ここの封印、結構バッチリ決まってたからぁ、解除するのは苦労したと思うけどぉ」


 それは違う。ネコメのゴーレムがやっただけだし。

 そう思ったところで、一度は落ち着いたネコメがマッチャーにしがみついて再び泣き始めた。


「へぇ、ケンニイさんだけじゃないんだねぇ。


 いやぁ、久しぶりに念話したら復活したくなっちゃったなぁ」


 青い球は呼応するようにより輝き、炎の勢いも増し始めた。

「どうかなぁ。

僕の体を解放してくれたらぁ、僕も君たちに協力しよう。

どうせ魔王が復活して息巻いたりしてるんでしょう。

それでこの僕の絶対的な力が必要となったとかさぁ、違う?」


 半分は当たっていた。

 でも今の魔王は弟だから、討伐されたら非常に困るんだ。

 そんなことを考えてしまい、先代魔王が応答した。


「今の魔王は君の弟さんなのぉ? そりゃ複雑だねぇ。

でも僕なら力になれると思うけどなぁ、復活させてくれればその願い、解決できるかもしれないけどなぁ」


 念話していないのにどうして。

 もしかして思ったことが筒抜けなのか。

 その前に、本当にこの状況、見えてないのか。

 賢人はあわてて意識を無心にしようとしたが、先代魔王は見透かすように言い放った。


「いいのかなぁ、この石棺高かったんだよぉ。

このままじゃ弁償してもらわなくちゃならないなぁ。

なんたってゴガン、バカーンてな感じだもんねぇ」


「ゴベンナザイィィ」


 ネコメはもう涙と鼻水で大変なことになっている。

 こいつ、性格が悪いのは間違いない。

 そして話は先代魔王の願い通り転がっていく。


「ところでさあ」


 最後の最後、先代魔王は意味深に間を開けてから、ねっとりとした口調でこう言った。


「ゲス男って誰のこと?」


 賢人たちは背筋が凍る思いをした。

■プチっと業務連絡

2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。


▼朗読動画の再生リスト

https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p

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